フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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クライムウィッチーズ-罪人と異世界人-
第一話『騒がしい日』


 かつて、英雄となりかけた部隊があった。

 幾度も人類の敵、『ネウロイ』の侵入を阻み、そして打ち砕いた空の魔女の飛行隊。

『統合戦闘飛行隊』と違い、堅苦しい部隊番号と名前しか無かった小さな部隊。

 ブリタニアから世界へ羽ばたき戦い続けた少女たちは、だが、ある日を境に壊れた。

 

 かつて、英雄となりかけた部隊があった。その部隊長が、味方であるブリタニア人に射殺されるまでは確かに英雄だった。

 その少女は今、銃殺刑をただ待つために営倉に入れられている。

 いつ実行されるのか。戦果を上げていたウィッチである彼女を処刑するのは惜しい、せめて懲罰部隊行きへ、と反対や死刑回避の声も挙がっていた。だがどれだけ戦果を上げたところで、上官を射殺して許されてはいけない。命令不服従など些事に思える、遥かに超越した所業だ。

 しかし、そうであるならばなぜ少女はその場にいた他の隊員から攻撃を受けなかったのか。即刻銃殺刑執行とならなかったのか。

 それを調べる人間は、恐らくもう居ないだろう。もはや彼女は犯罪者でしかない。

 

 □

 

「今日は騒がしい」

 

 モンキーハウス、と大国は言う。見世物小屋のような格子の箱の中で、ブロンドヘアの少女は呟いた。

 少女の名はイヴリン。イヴリン・カルヴァート。特別な力を持った、ウィッチと呼ばれる人間……つまりは魔女であり、本来はネウロイという災いを退けるため前線に出なければならない人間。

 ブリタニア空軍所属、もはや存在しない飛行隊のしがない元副隊長。頭に元がつくが、階級は少尉。

 それでも、銃殺刑を先延ばしにされるくらいの戦果は上げていた。囚われる前には取材も幾つかあった。それくらいのウィッチではあった。

 

 並べられた格子の牢。ちょうどイヴリンのいる牢左手側は無人だった。

 右手側の人間とは会話もしない。隊長を撃ち殺した狂気の魔女と話すことなどない、と彼女が入ってすぐに釘を刺された。

 それから彼女はずっと独りで牢に背中を預けていたが、今日は騒がしい。

 

「離して! 話を聞いてくださいよ!」

「黙れっ! 今すぐ射殺してもいいんだぞ、スパイめが!」

「だから、知らないって!」

 

 男の兵士に引き摺られる少女。営倉の中から、イヴリンもその姿を見ていた。

 少女は左手側、無人の営倉に放り入れられるとすぐに閉じ込められる。

 

「何をしたんだ、君は」

 

 イヴリンには手慣れたものだ。軍の問題児たちに軽く語りかけるのも、それを諭すのも。

 叫ぶ少女へ、彼女は語りかける。柵を揺らして外へ出せと必死に叫ぶ少女へと。

 少女はイヴリンへ向き直ると、必死に手を伸ばした。

 

「あのっ! 貴方も軍人さんなんじゃないですか!? 出してくれるように説得してくれませんか?」

「そりゃ無理だよ。君はなにか犯罪を犯してここに来たんだろ。何処の部隊だ?」

「知りませんよ!」

 

 はて? イヴリンが首をかしげる。

 自分の部隊を知らないと返してきた者は流石に初めてだった。そんな筈あるものか。先ほどは軍人たちにスパイと罵られていたし、脱走兵かもしれない。

 

「わかった。じゃあ質問を変えよう」

 

 もしかすると、部隊の名誉を守るために語らないのかもしれない。ならば、一番身近なものから訊ねていこう。

 

「君、名前と階級は?」

「階級!? なんですかそれ!」

 

 困った。イヴリンの眉間にしわが寄る。自分で自覚できる程度に、だ。

 頭を抱えつつ、錯乱しているのかも知れない少女へなおも問う。

 

「じゃあ名前、名前だ。名前は?」

「堀内明里です!」

 

 驚いた。イヴリンも思わず目を丸くする。

 確かに同じブリタニア人の特徴ではなかったとはいえ、名前からして扶桑人なのだろう。

 それではスパイと疑われても仕方ない。服装も見慣れないものだ。扶桑の軍は新しい制服でも採用したのか? イヴリンの脳裏を疑問が掠める。

 

「じゃあアカリ。扶桑人の君がなぜ、ブリタニアに?」

「扶桑? ブリタニア? なんですか、それ」

「んぅ……」

 

 イヴリンに頭痛が走る。錯乱にも程がある。

 頭を抱えるイヴリン。明里と名乗った少女はなおも喋りかける。

 

「私、本当に何も知らないです! 英語みたいですけど、イギリスって戦争してないですよね? なんかのドッキリですか?」

(んん?)

 

 イギリスとは何ぞや。イヴリンが更に深く考え込む。

 今は絶賛ネウロイとの戦争中で、一般人ですら周知。それに、イギリスとは何なのか。

 

(困ったね、全く)

 

 もしかすると明日からいなくなるかもしれない自分の横に来たのは不運か、それともまともに話に付き合っている自分の横で幸運か。

 

「ええと、スマホ……無い! そうだった、取られたんだった!」

「はぁ……」

 

 スマホ? なんだそれは。イヴリンも十七年、この世界で生きてきた。いくら軍人だって世界を渡り歩いて、その文化に少なからず触れた。

 つまるところ、世間知らずでは無いつもり。

 それが何だ。明里が入ってきた今、この時になって知らないもの、名前がぞろぞろと出てくる。いつ銃殺刑が決まるとも分からない身には惜しいくらい、知的好奇心は刺激された。

 

「ここに来たら、手持ちは没収されるさ。集めてある場所は知ってるが」

「じゃあ取り返してください! 大事なデータだとか入ってるんです!」

「……機密か?」

「機密!? SNSのデータだとか、電話帳だとか──」

「待て待て待て! もういい、理解を越えてる」

 

 思わずイヴリンも抱えた両ひざに顔を埋める。盛大なため息と共に。

 関わらなくていいんじゃないのか。構いたがりなイヴリンですらそう思った。しかし明里に目をくれると、彼女は格子の向こうから真剣に助けを求めているのだ。

 

(ハァ……無視なんてムリだよ。私には)

 

 イヴリンは世話焼きだった。その甲斐あってか、彼女の下では部下がよく育った。精神的にも彼女が副官を務めた部隊は安定していた。

 よく話を聞き、問い、答えを導かせる。彼女がやみくもに怒鳴ることなど、恐らくほぼ無かった。

 だから、明里の目を見ては放ってはおけないと思う。

 

「少し落ち着け。本当に潔白なら、その内出してもらえる」

「出してもらえるのに何日掛かります?」

「流石に分かりかねる。私もいつ死ぬか分からない身だ」

「え!?」

 

 悲鳴にすら聞こえる声が上がった。

 しまった。イヴリンが手で目を覆い隠した。ただでさえ錯乱しているのに、生死に関わる話題を出しては余計混乱するに決まっている。

 しかし、もう明里にはそれしかない。とにかく落ち着かせなくては。

 

「君が潔白なら、何もない。騒ぐと本当に殺されるかもしれない、ブリタニア軍じゃないなら尚更だ」

「ブリタニア……? いやいや、あなたは死んじゃうんですか!? 年なんて私と同じくらいじゃないですか!?」

「判断に困っている間はいい。やるならいっそやってくれ、といった感じだけど」

「そんな……なんで死ぬんですか!?」

「銃殺刑だよ。私は、仲間を──自分の隊長を撃った」

 

 語るイヴリン。明里の目が驚きに見開かれるのを彼女は見た。

 

「隊長さんは、悪い人だったんですか」

「いや、彼女ほど素晴らしいウィッチは居ないだろう。彼女の下で、副官として働けたのは素晴らしい経験だった」

「じゃあ、どうして!?」

 

 格子がうるさいほどに揺すられていた。

 明里には理解しがたい倫理観だった。気に入らないわけでもない、むしろその逆だった人間を殺した? 有り得ない。

 いや、それよりも彼女にはイヴリンの見せる投げやりな視線が気になった。諦めていて、全てに投げやりなその目が。

 

「君に話すことじゃない」

 

 イヴリンは拒絶した。明里がこれ以上、自身に踏み込んでくるのを。

 知的好奇心はくすぐられたが、それとこれは話が違う。

 

「少し休んだ方がいい。ここで叫び散らして、それこそ死んでしまいたいなら別だが」

 

 イヴリンはそれだけ言い残して背中を格子に預ける。

 明里は一先ず落ち着き、説明する手段を考えるべく休憩する。ちらりとイヴリンを見遣り、見よう見まねで格子に背中を預けた。

 鉄が食い込んで背中が痛かった。だが、彼女にはここしか無かった。

 

 □

 

「イヴリン……撃って。足手まといにはなりたくない」

 

 砂浜に打ち上がった少女。左腕は千切れ飛んで、血が止めどなく溢れていた。

 脚部の魔装脚──ストライカーユニットも、魔法力切れで少女からは外れて砂浜に転がってしまっている。

 

「……出来ない」

 

 拳銃を構えはするが、イヴリンは銃口を向けられない。

 

「撃鉄を起こして……私を撃つの」

「出来るわけがないッ!」

 

 イヴリンが叫ぶ。喉がひりひりと渇くのが彼女にもよく分かった。

 

「そうです、隊長!」

「まだ助けが来ないと決まったわけでは……」

 

 降り立った少女たちは口々に満身創痍の少女を励ますが、もう満身創痍の彼女は諦めていた。

 敵に不覚を取り、武器を振るう腕を失い、力の源である魔法力さえ残されていない。自分は足手まといになる。はっきり、そう理解していた。

 

「隊長命令よ、私を撃ちなさい」

「従えないッ! 従ってなるものかッ!」

「臆病者……ッ!」

 

 満身創痍の少女は残された右腕を伸ばし、イヴリンを引き寄せる。親指で撃鉄を押し起こしてやると、銃身を握って自身の頭部へ向けた。

 

「隊長が撃墜されたのよ。指揮系統を、あなたが引き継ぐの。大丈夫……こんな辺鄙な土地よ、軍部に見つかりはしない。ああ……私の刀は持っていってね」

 

 少女はゆるりと手を離し、今度は真っ直ぐにイヴリンの手を握るようにしつつ、拳銃の引き金に親指の腹を置いて微笑んで見せる。

 

「やめてくれ……」

「イヴリン、みんな。私の分を──」

「止せェッ!」

 

 世界が黒に染まる。何も聴こえなくなる。

 

「はぁっ! 夢か……くそッ」

 

 イヴリンが飛び起きた頃、外は夜闇に染まっていた。サーチライトが時おり眩しく営倉を照らす。

 ひどい脂汗だった。毎夜毎夜見ているが、慣れない夢だ。

 

「ずっとうなされてましたよ、あなた」

「アカリか……。私の忠告は聞き入れてもらえたみたいだ」

「『出来ない』って、ひょっとして隊長さんの夢ですか?」

「……」

 

 少し眠ってしまった間に、明里は随分と冷静になったようだった。

 それから自分の寝言を聴かれてしまったらしい。汗でぐっしょりと濡れた髪を不快そうに掻き乱すイヴリン。

 

「……もしかして、撃ちたくて撃ったんじゃないんですか?」

「気に入った相手を撃ち殺す理由なんて、ありはしない。あれが彼女の望みだったのさ」

 

 檻に身を横たえ、明里の牢を見上げるようにしてイヴリンは語った。明里とは頭を突き合わせるような形になる。

 

「私、深い事情なんて分からないけど……それ、どうして話さないんですか」

「君にか? それとも、ブリタニア軍に?」

「軍にです。仕方なく撃った、望まれたって言えば……」

「通らないよ。そんなものがまかり通っては、戦場は味方の死体だらけになるだろうね」

 

 力無い笑い声がイヴリンの口から漏れた。

 

「だが、私だってタダで死んでやるつもりはなかった。手紙をくくりつけた使い魔を、捕まる直前に放ったよ」

「使い魔……。魔女らしくなってきましたね」

「まあ、おおかた上手く行かなかったんだろうさ。かれこれ三ヶ月、ここで上官殺しのウィッチとして見世物さ」

 

 明里はうっすらと理解する。だからイヴリンは何もかも諦めているような素振りなのか、と。

 手は講じていた。でも上手く行かなかった。それほどに、その使い魔が頼みの綱だったのだろうと。

 

「君の話を聞きたいな。聞きなれない、イギリス? だとか、どうしてここに来たかとか」

 

 これ以上、明里に軍部の事情を話してはいけない。イヴリンは察知し、話題を切り替える。そういえば訊いていなかった、と。

 

「私、イギリスに留学に行く途中だったんです。ただ、途中で飛行機が……」

「軍用機?」

「まさか。そんなもの、日本じゃ乗れません。旅客機ですよ」

「本当に、君は……」

 

 つくづく知的好奇心をくすぐるな。そういった言葉を、イヴリンは途中で封印した。

 旅客機、なんて言うものを彼女は聞いたことがない。いつネウロイが現れるか分からない空を飛ぶのは、大きくても貨物機だとかその辺りだ。あとは船か。

 

「……今って、何年ですか」

「1942年だ」

「……あっははは。これ、夢なのかな。あのね、軍人さん。私──」

 

 明里は夜の闇に解けるような声で、イヴリンへ囁いた。

 

「──私は2020年に、故郷の日本を出発したんですよ」

「はぁ?」

 

 間の抜けたイヴリンの声が響いた。

 だが、見張りももはや気にしない。ここにいるのは所詮ならず者どもかスパイかだ。

 それより、2020年などイヴリンには想像が出来なかった。約80年後の世界など分かるものか。

 しかし、衣服が珍妙──というより扶桑人らしくない洋服なのも、妙な単語が出てくるのも、無理矢理にでもこじつければ納得は出来た。

 

「じゃあ、ネウロイは? 1942年、ネウロイはどうなっていた?」

「ネウロイなんて居ませんよ。確か1942年は太平洋戦争です」

「待って。ネウロイがいない戦場って、まさか……」

「私だって戦時を体験した訳じゃないですけど、間違ってないです。人間同士の、国同士の戦争です」

 

 明里の告げる話は、イヴリンの中にどうも重くのし掛かる。

 人類は団結していなかった。明里の見ていた世界というのは、むしろ人類同士の争いの上に成り立っているようだった。

 ネウロイがいないなら、確かに明里がウィッチを知らないように振る舞うのもある意味納得が行く。

 

「すまない、思ったより深刻だったね」

「いえ。今はそんな戦争起きてませんし……ここが本当に1942年だとして、どうしてここに居るとかは後にして、人類は戦争してないんですよね?」

「うん。人類の相手はネウロイだ、他の国じゃない。ただ──もし仮にネウロイを駆逐できてしまったら、どうなるんだろうね」

 

 イヴリンはそんな事を考えたこともなかった。ネウロイを倒して、倒して。その先に何が待っているかなど、考えもしなかった。

 いつも何処が陥落寸前か頭に入れ、前線に出張っていたから、終わりなんて考えたことはない。明里という存在に出逢って、初めてそんな事を考えた。

 

「君は、本当に面白いね」

「な、なんですか? 急に……」

「いや。名乗ってなかったな。私はイヴリン、イヴリン・カルヴァート」

 

 横になると、牢の向こうに星空が見えた。

 たまにこうして見るのもありじゃないか。イヴリンはそう思う。

 

「イヴリンさん……」

「イヴリンでも、イヴでもいいさ。私が君をアカリと呼ぶんだ、そっちも気軽に呼んでくれ」

「は、はい。イヴリン……?」

「今はそれでいいよ。まだ夜は明けない、休むぞ。すまない、私のせいで」

「いえ……おやすみなさい」

 

 おやすみ。イヴリンは答え、明里の牢を見上げる。寝入る訳ではないようだが、体力は温存するように動いているのは間違いない。

 イヴリンは星空を見上げ、そこにいない自分を憂いだ。




 なんとスト魔女二次。
 君、何作書くの? 何作でも気が向くままに書きます。
 イヴリンですが、パイロットのモデルは居ません。不名誉になりかねないためです。

 ビューリングさんへの愛情が爆発しているうちに気付いたら書いてました。
 まあ、むかしスト魔女二次書いてたんですけど。F-5Cが活躍するやつ。かなりガチめに設定組んでましたが、今回はそういったガチガチよりは、モチモチ……じゃないゆっくり見られるような感じで。

 銃殺刑についてもかなり調べたんですが、イギリスがどうしていたか個人では調べがつかず、取り敢えずフィクション式にしました。
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