フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第十三話『グツェンホーフェンへ』

 ベルギカ上空。まもなくグツェンホーフェンに差し掛かるといったところで、イヴリン率いる部隊のインカムに通信が飛ばされた。

 

〈聴こえるか。こちらブランケンベルヘ指揮所、サマンサだ。返事は良いから聞いてくれ〉

 

 飛び立った街、そこにいたウィッチからの通信だった。全員が飛行を続けつつ、サマンサの話に耳を傾ける。

 

〈最近人型ネウロイ……いわゆる『ウィッチもどき』の目撃情報があるのを伝え忘れていた。スオムスの義勇部隊が撃破したものと近いが、また動きが違うようだ〉

 

 深刻そうに語るサマンサ。ネウロイには様々な形状、性質を持つ個体がいる。しかし、人型となると話は違ってくる。

 ウィッチを学習し、ウィッチを倒すためネウロイが放つ精鋭とでも言うべきか。しかし、人間側の連携に為す術はなかったとも言われる。

 

〈既にベルギカで数名、航空ウィッチは落とされたらしい。生存者の話によれば……えっと〉

 

 通信機ごしに、紙をめくるような音が聴こえた。

 

〈失礼した。シールドを張るだけでなく、剣のようなもので斬りつけられたという報告があるな。気をつけてくれよ、新たに侵入してきた貴君らにネウロイも気付いた筈だ〉

 

 通信終わり。サマンサが言うと、通信機は無音となった。

 人型ネウロイの存在は、このベルギカにあるようだ。当面はここで飛ぶことになるのは間違いなく、遭遇の可能性も高い。

 サマンサの話の信憑性はともかく、通常以上に気を引き締めて掛かることに変わりはない。

 

 そうして空を飛ぶうち、独立飛行隊の眼下に広大な飛行場が見えてきた。グツェンホーフェン基地、その敷地だ。

 

〈隊長、大丈夫ですか?〉

 

 ベルティーナは傍らを飛びながら、イヴリンへ視線を向けた。

 既に基地からは所属を示すよう通信が飛んでいる。イヴリンの名前を出せば、撃墜される可能性もあった。

 だが、彼女は地上管制を信じた。

 

「こちらブリタニア空軍少尉、イヴリン・カルヴァート。ブリタニアにて応援要請を聞いて来た、着陸許可を願いたい」

 

 地上と上空の空気は一気に張り詰めた。対空機銃が部隊へその銃口を向けている。

 撃たれれば作戦は失敗だ。明里を危険に晒すし、ベルギカでの活躍の場を失うことになる。次はサマンサたちも受け入れられないだろう。

 そうなれば、マルレーヌたちの作戦もまた一からだ。

 

〈こちらグツェンホーフェン基地、地上管制。着陸を許可する、良く来てくれた〉

 

 その言葉と共に、対空機銃の銃口も外される。

 部隊全員から安堵のため息が漏れた。イヴリンを先頭に、着陸体勢に入っていく。

 滑らかなタッチダウンは明里も不快感さえ抱かなかった。柔らかく、かつ確実に地上へ降り立つ。

 次々降りてくる味方たちも問題なく、そのまま格納庫へと案内された。

 

「なんとかここまでは入れたが……」

 

 用意された発進機に戻り、ストライカーを外すイヴリンが呟いた。傍らには不安そうな明里がいる。

 特に服装からして常識から外れている明里へ注がれる奇異の視線は、彼女を萎縮させるには充分だった。

 

「よく来てくれた。ブリタニアの通信は本当だったようで、嬉しく思う」

 

 格納庫に現れたのはブリタニア空軍の制服に身を包む茶髪のウィッチだった。

 

「シーラ・デ・ブラバンデル。ブリタニア空軍少佐だ。生まれはこの国だけどね」

 

 ブリタニア空軍。そう聞いて、イヴリンたち独立飛行隊の空気が凍る。まずい相手だ。

 間違いなく、イヴリンを知っている人物の筈だと。

 しかし、応えない訳にもいかない。イヴリンは敬礼しつつ、口を開いた。

 

「イヴリン・カルヴァート、ブリタニア空軍少尉です。要請に従い、援護へ──」

 

「もういい、カルヴァート少尉」

 

 誤魔化すつもりだった。しかし、遮ったのは他ならぬシーラだ。

 気付けば彼女の右手には拳銃が握られている。

 

「脱走したそうだな、カルヴァート少尉。……君には期待していたのに」

 

「……返す言葉もありません」

 

 反論は無い。射殺することも、シーラになら可能かもしれない。ベルティーナたちはホルスターに手を掛けているが、佐官相手となっては安易に銃口を向ける訳にはいかなかった。

 

「……私はね、少尉。君の処刑には反対していたんだ。もし覆らないなら、ベルギカへ無理矢理連れてくる気だった」

 

「え……」

 

 気の抜けたような声を漏らすイヴリンの前で、シーラは静かに拳銃を戻し微笑んだ。

 

「大丈夫だ、君たちの到来を通報したりはしない。だが、その分キッチリと働いてもらう」

 

「勿論です、少佐。感謝します」

 

 イヴリンの敬礼と共にマルレーヌ、ベルティーナと次々に敬礼していく。明里も慌てたように見よう見まねの敬礼を見せた。

 

「よし。では、早速宿舎を案内……と行きたいが、そこの奇妙な服の子は? ウィッチなのか?」

 

 シーラの鋭い視線が明里を貫いた。思わず萎縮する。

 

「彼女はウィッチではありません、少佐。訳あって我々と行動を共にしています」

 

「話せる理由なのか?」

 

「いえ、私でさえ未だに信じがたい話です。失礼ですが、理解しきれないものと」

 

 そうか。シーラが腰に手を当て、やれやれとため息を吐いた。

 

「まあ、新しく現れたウィッチもどきのように、こちら側へ害為す存在でなければいい。君、何か特技は?」

 

 シーラはイヴリンの後ろに隠れるようにしていた明里へ、問いを投げ掛けた。

 しばししどろもどろして、小さな声で答える。

 

「えっと……料理を少し……」

 

「よし、上々だな。君にも色々手伝ってもらえそうだ。中で改めて顔合わせしよう、来てくれ」

 

 シーラに引き連れられ、格納庫を出る一行。周囲はネウロイに対する厳戒体制が敷かれており、空気も張り詰めていた。

 空は気付けば分厚い雲が一帯を覆っていて、冷たい風が飛行場を吹き抜けていく。

 

 □

 

 宿舎はやはりかなりの手入れが入っていた。男性兵士とウィッチを分けるなど、通常通りの配慮も為されていた。

 最初にイヴリンたちが通されたのは、ブリーフィングルーム。広い会議室のような空間に、シーラ含めた他のウィッチたちも集められていた。シーラ側の航空隊も六人程度は人数が揃えられている。

 

「グツェンホーフェン航空隊の面々だ。自己紹介は後でゆっくりしてくれ。それから、義勇兵としてリベリオンから一人来ているが……謹慎中で、空襲以外で会うことはないから気にしなくていい」

 

 シーラが漏らしたのは、間違いなくグリゼルの語ったウィッチだろうとイヴリンは考える。まだ会う時ではないだろうか、言い出してみるか迷う。

 

「……少佐、宜しいですか」

 

 イヴリンは訪ねる事に決めた。グリゼルから聞いた話では、隊長についていけず銃を向けたとされていたが。

 

「この部隊の指揮はブラバンデル少佐が?」

 

「勿論だが、何の関係が?」

 

「いえ、そのリベリオンウィッチは隊長へ銃を向けたと聞いています。あなたがそうかと」

 

 ああ、そうか。シーラは頷いた。「確かにそうだよ」と彼女は軽い調子で言ってのける。

 

「カウガールを気取っているらしい。映画の観すぎだ。……だが、実力はある」

 

 悩ましげにシーラは語る。評判はやはりグリゼルが語ったのと差異無く、ウィッチとしての実力はあるものとイヴリンは疑念を確信に変えた。

 

「人を変えるのは難しい。しかし私としては、あまり閉じ込めたままにはしたくないんだけどな……」

 

 だが仕方がない。シーラはあくまでも、軍規に則って行動すると言っているようだった。

 

「会うことは?」

 

「許可できない。まあ、じきに会えるだろう。ここも最前線だ」

 

 イヴリンが面会の申し出をしたが、シーラはそれを拒否した。当然だろう、相手は謹慎中なのだ。分かってはいた。

 リベリオンウィッチのことはひとまず置いておくにしても、グツェンホーフェンにはたどり着くことが出来た。ウィッチもどきなど不安はあるものの、マルレーヌたちの考える作戦はようやく第一段階へと足を踏み入れた。




もう口調が入り乱れてるよう……(
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