フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第十四話『あなただからできること』

「共に戦えるようで光栄です、ガン・ブルー。あ、いえ……あまりこの名前を言わない方が良かったですか」

 

 ブリーフィングルームに残ったイヴリンたち一行に話し掛ける存在があった。

 ブリタニア空軍制服を着ている辺り、シーラの部下なのだろう。発覚しないよう釘を刺されたのか、イヴリンを過去のあだ名で呼ぶのを避けるようだった。

 しかし、ブリタニア空軍の少女ははっとしたように敬礼する。

 

「いえ、失礼しました! ブリタニア空軍、シェリル・アスキス曹長です! ……やっちゃったー……!」

 

 上官にあたるイヴリンたちに名乗るのが遅れたことが相当ショックだったのか、シェリルは敬礼を解くと、その場で頭を抱えてしまった。

 

「いや、別に気にしなくていい。アスキス曹長か。暫く宜しく頼む」

 

 イヴリンも隊を代表し、シェリルへ手を差し出す。手を交わし、互いに敬礼。

 

「ガン・ブルーの知名度もここまで来ると、改めて実感させられるね」

 

 ベルティーナがしみじみと語った。

 ウィッチや各国軍人に知れ渡るあだ名だ。中途半端なものではないが、基地を出てから出会ったウィッチは皆イヴリンを『ガン・ブルー』と呼んだ。

 

「紀子がいたら、もっと凄かったかも。言わないようにしていたけど」

 

 八重が目を細めて語る。イヴリンだけで有名なのだ、その隊長であった紀子が有名でない訳がない。

 だが、いない人間について“たられば”で語っていてはしようがない。紀子は死に、彼女たちは犯罪者を擁した脱走兵。今残された事実は、これだけだ。

 

「本当にスゴい人なんですね……イヴリン。なんだか私、居ていいのか分からなくなりました」

 

「何言ってるのさアカリ、隊長が自分でキミを運んだんだ。ボクたちも反対する気はないし、隊長もそうだよ」

 

 然り気無く明里の肩に手を回して、ベルティーナが語る。すぐにマルレーヌがその手を払い落とし、あたかも猛獣から大事なものを庇うかのように明里を抱き寄せた。

 

「全く、油断も隙もありゃしないんだから」

 

 ベルティーナの毒牙に掛けてたまるか。強く明里を抱き締め、マルレーヌは唸っている。

 肩をすくめ呆れたように頭を振るベルティーナ。フェオドラが困っていると、不意に明里の上着に入れたスマートフォンが通知を告げた。

 来る筈の無い通知。これで二度目になる。

 放っておいてもいい。だが、不思議と明里には無視できなかった。手は勝手にポケットをまさぐり、スマートフォンを取り出している。

 

「『空を見て』……って、どういうこと?」

 

「またその板からか……。一体なんなんだろうね」

 

 ベルティーナは勿論、皆が疑問に思う。気味は悪いが、何故か不思議と恐怖は感じなかった。

 肝心の内容はただ一言だった。名の無いユーザーから、ただ一言。ブリーフィングルームには窓があったから、明里は試しに従ってみた。

 勿論暗殺者が狙っている可能性もあったが、ならばスマートフォンなど使えないだろう。

 

「……なにも無いけど──」

 

 窓から曇り空を見上げる。何もない筈の空に、不意にネウロイ出現のサイレンが鳴り響いた。

 

「独立飛行隊、行くぞ! アカリ、絶対に建物から出ちゃダメだよ」

 

「気を付けて、イヴリン」

 

 明里の言葉に、イヴリンは確かに頷いた。

 流石軍基地として利用しているだけあり、準備は早い。ブリーフィングルームに残された明里は、曇天の空へ次々に上がっていくウィッチたちを窓の向こうから見送っていた。

 

「……どうしよう。勝手に歩き回る訳にいかないだろうし」

 

 ここは立派な軍事基地だ。一般人の立ち入りなど本来あってはならない。結局、明里はブリーフィングルームの椅子に腰掛けてイヴリンたちの無事を祈る。

 大丈夫だ、彼女たちは無傷で戻ってくる。今度は他のウィッチも一緒なのだから、尚更だろう。

 だが、明里が耳に嵌めていたインカムから聴こえてきた交信が事態を一変させた。

 

〈ウィッチもどきか……! まさかこんなところで!〉

 

 シーラも出撃しているようだ、彼女の驚愕に満ちた声が響き渡る。

 イヴリンたちの部隊も苦戦しているのか、いつもの軽口さえ飛び交わない。通信を開けて聴こえるのは銃声、エンジン音と風切り音だけ。

 席を立ち、窓から空を見ようとして再び通知が鳴った。

 

『外に出て』

 

 メッセージは明里へそう指示をしているようだった。しかし、イヴリンは絶対に建物を出るなと釘を刺している。明里はメッセージを無視しようとした。

 すると、更に更新される。

 

『このままだとイヴリンは死ぬ。貴方の力が必要なの』

 

 イヴリンが死ぬ。何の証明もない、ただの妄言だ。しかし明里の脳裏を、ネウロイの光線に撃ち抜かれたイヴリンの姿がよぎってしまった。

 戦場になっているのはまさに上空、頭の上である。対空砲も絶えず唸りを上げ、サイレンは未だ鳴り止まない。そんな状況の下へふらふらと出ていけば、イヴリンが気にする。ネウロイの攻撃に巻き込まれるかもしれない。

 分かっている。しかしそんな思いとは裏腹に、足は勝手に宿舎の外へと向かっていた。

 

「おい、どけ! ノロマッ!」

 

 不意に明里を誰かが突き飛ばした。振り返ると、軍人らしい軍服に身を包んだ少女が苛立ちもあらわに走り去るところだった。

 去っていったものを追っている余裕は無い。明里は出入り口から、騒がしい基地へ出ていった。

 ネウロイの攻撃は幸いにしてウィッチによって防がれている。対空陣地が破られることはなく、だがネウロイを倒す決め手にはなっていなかった。

 響く銃声、部下を叱咤する声。次々に運ばれてくる機材。そんな中、また一人ウィッチが空へ上がった。

 

「イヴリン……」

 

 にび色の空に、その姿を捜す。刀を片手に戦うその少女はすぐに見つかった。

 黒い影のような、人型の何かと剣を打ち合う。赤い輝きを放つ剣を振るう人型に、イヴリンは苦戦していた。

 その動きはあまりに早く、ウィッチを翻弄しシーラの率いていた部隊のウィッチを一人、剣で切り捨てるとその場で宙返りし、イヴリンへ再び向かっていく。

 

「くっ……私狙いか──!?」

 

 イヴリンの視野は広い。地上を視界に入れると、本来居てはならない人間がいるのが見えた。

 

「どうしてそこにいる!? アカリ──うわッ!?」

 

 気の逸れた瞬間、人型の放つ一閃がイヴリンの持つ刀を叩き折り、その手から離させた。

 人型──いわゆる『ウィッチもどき』の狙いは、すぐさまイヴリンから地上で棒立ちしていた明里へ切り替わったようだった。

 

「まずい、明里のところへ行く」

 

 八重が矢を射るが、ウィッチもどきは複雑に曲がりくねる矢をかわし、銃撃、対空砲火をすらかわし、明里へ機関銃らしきものを向けた。

 明里はそのウィッチもどきへ手を伸ばす。否、その後ろから落ちてきていた刀へ手を伸ばしていた。

 

「……!」

 

 ウィッチもどきの攻撃より早く、イヴリンが手放してしまった扶桑刀は明里の手に握られた。

 刹那、眩い青い光が基地を覆った。輝きの中で折れた刀は再生し、顕現する筈の無い使い魔の特徴が身体に現れる。

 

「まさか……」

 

 ウィッチもどきと共に襲ってきていたネウロイは消滅する。上空で明里を見下ろしていたイヴリンたちは目を丸くした。

 明里の頭に伸びた翼はハヤブサのもの。青白い光は魔法力のものだが、それよりも驚くことがあった。

 

「隊長、ハヤブサに扶桑刀って……キコだよね」

 

 機関銃の再装填を終え、ベルティーナが問う。

 

「ああ……有り得ない。そもそもアカリは、ウィッチですら無いじゃないか」

 

 イヴリンも現実を呑み込めずにいた。異世界からやってきた一般人、かと思えば魔法力の覚醒。

 まるで意味がわからない。一体何が起こったのか。

 

 □

 

『ありがとう、明里』

 

 何かが明里に感謝を伝えてきた。暖かく、そして覚えのある雰囲気だった。

 ずっと一緒にいて、でもそれとは少し違う雰囲気。だがハッキリそれとわかった。

 

「おばあちゃん……?」

 

 堀内紀子。その存在を、明里はどこかに感じていた。

 身体は軽く、今ならば思う通りに身体が動きそうだった。

 

『イヴリンを……皆を死なせない。手伝ってくれる? 明里』

 

「……まだ、あの人たちとは出会って数日だけど──」

 

 ウィッチもどきが動いた。振るわれた剣を明里は弾き、勢いよく地面を蹴る。

 

「でも、分かるよ。おばあちゃんが──紀子さんが、皆を守りたいっていう気持ち」

 

『あなたが(ふみ)を受け入れてくれてよかった。無視されたら、私にはどうしようもなかった』

 

 恐らく紀子は、メッセージのことを言っているのだろう。

 激しい刀と剣の打ち合いを、何の訓練も無い明里に切り抜けるのはやはり難しい。

 距離を取っても、魔装脚らしきものを着けたウィッチもどきには一瞬で詰められてしまう。

 

「……もっと走り込んでおけばよかった」

 

 肩で息をしながら、明里は迫るウィッチもどきネウロイを睨み付ける。

 刀が重い。しかしあれだけ振り回せたのだ、まだ行けるはず。刀を構え、攻撃に備える。

 

「邪魔だッ!」

 

 明里の背後から、激しいエンジン音が轟いた。背中を引っ張られ、明里はその場を離れる。振り返ると、引っ張ったのはイヴリンだと分かった。

 すぐに入れ替わりで、最後に上がったウィッチが水平二連散弾銃を片手にウィッチもどきへ突撃していく。その加速力はすさまじく、まるで剣で突きに行くように銃口を突き出し、発砲する。

 反対にウィッチもどきは赤いシールドで攻撃を防ぐと、散弾銃を切り捨てようと右手の剣を振るう。

 

「あめェんだよ!」

 

 まるでダンスを踊るようにターンして剣を避けると、ウィッチは青白い輝きを得た散弾銃を再びウィッチもどきへと向けた。

 雷鳴がとどろくような銃声が響いて、だが気付けばネウロイの姿はなかった。上空を見上げると、ウィッチもどきがグツェンホーフェン基地領空から飛び去っていくのが見えた。

 

「チッ、逃がしたか」

 

 ウィッチは悔しげな舌打ちと共に散弾銃を器用にスピンさせると、腰の革製ホルスターに滑り込ませた。

 異例なまでの低空戦だ、ほぼ地上戦といっても変わりはない。基地内部での戦いを一先ず制したのは、グツェンホーフェン基地側だった。

 

 明里の魔法力覚醒という、数多の謎を残した勝利だ。

 格納庫へ向かったウィッチたちは、すぐに明里を取り囲んで彼女へ問いを投げる用意を始めていた。

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