フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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ちょっと回想が入ります。


第十八話『1939年、扶桑より』

 1939年という年も、まもなく終わる頃。この年は様々あった。いや、悪化の一途を辿る今では、この先にこそ様々なものが待ち構えているかもしれないが。

 北欧スオムスでは義勇独立飛行中隊が活躍し、各国ウィッチの寄せ集めだった同隊は目覚ましい活躍を見せた。

 そういったこともあり、扶桑皇国陸軍所属である堀内紀子中尉はキ34輸送機に揺られながらブリタニアへ向かっていた。手には一通の手紙。送り主の名には穴拭智子とあった。

 当たり障りの無い文面に、元気にやっているという内容。紀子はそんな手紙を見て、北欧で戦う戦友を思う。扶桑では幾度か背中を預けたこともあるウィッチだ。活躍できている事を、自分の事のように思う。

 しかし、彼女は大戦地カールスラントへ送られる事はなかった。紀子の指揮能力を鑑みて、陸軍は一度ブリタニアで各国統合飛行隊の試験運用を試みる事に決め、カールスラント行きを遅らせたのである。

 成功すれば各国に向けて、強力なウィッチ部隊を派遣できる。スオムスで証明された手段の更なる拡大が可能になると考えられていた。

 

「間も無くブリタニアに入ります、中尉」

 

 輸送機クルーが敬礼と共に紀子へ報告した。

 何度か安全な飛行場に着陸し、給油を繰り返した長旅もようやく終わる。普通こういう長旅は船を使うものだが、時間が何より掛かる。

 陸軍も必死で輸送機の手配をして、漸く実現した手段だ。

 

 紀子は乗室を見回す。固定された自身の魔装脚、キ27こと九七式戦闘脚を眺める。まだまだ戦闘証明の少ない新型ではあるが、この機体に不安は無い。

 彼女にはどんな機体も選り好みする気は無かった。

 もうすぐ、知らないウィッチに会える。躍る心をなんとか抑えるために目をつむり、精神統一。十秒ほどして、機体が異常なほどバンクした。

 

「一体なに……!?」

 

 揺れる機内で掴まるものを探しつつ、紀子は機内にいる人間に問う。

 

「ネウロイです……! 予測地点を避けきれませんでした!」

 

 機内クルーが青ざめた顔で語る。まずい、ネウロイに攻撃されれば足の遅い輸送機など即時に撃墜されてしまう。

 もうすぐブリタニアだというのに。紀子は舌打ちと共に、拳を握る。もう目的地は目前なのだ、乗員を守る為にも墜ちる訳には行かない。護衛機を用意しなければ。だが、どうすればいい。自身がそうなれば良い話だ。

 

「出撃する! ストライカーの固定を外してっ!」

 

「危険です、中尉! ネウロイの真っ只中に輸送機から出撃なんて……!」

 

 本来は発進器を用いて、ウィッチの離陸は補助されるものだ。それにエンジンを機内で回すことは出来ない。いくら腕に抱えて持ち運べる程度とはいえ、その出力は本物の戦闘機と変わらないのだ。

 第一、ネウロイに囲まれている。それでは良い的が増えるだけだろう。

 クルーはそれらを鑑みて紀子を止めようとした。

 

「あなた、名前は?」

 

「加藤技術二等兵です!」

 

「加藤二等兵、ストライカーの固定を外しなさい。命令よ」

 

 職権乱用。だが、階級の使い方などこの程度なのかもしれない。少なくとも紀子は、普段の生活に際して上下関係を厳しくする事はなく、こういった非常時に渋る兵卒を動かすために上官命令を使った。

 加藤は敬礼もそこそこに九七式戦闘脚の固定を外すと、紀子へ受け渡す。

 

「昇降口を開けて、そこから飛ぶわ。二等兵、私を抱えて外へ放ってもらえる?」

 

 紀子の提案に、加藤は目を丸くした。そんなこと出来る筈がない。何のためにウィッチと男性兵士を分けていると思っているのだ。何より、上官を戦場へ放り投げるなど有り得ない。

 

「自分には……で、出来ません!」

 

「いいからやるのッ! じゃなきゃ皆死ぬッ!」

 

 戦闘脚を装着したが、紀子はまだエンジンを始動しない。始動に必要な魔法力は送っていない。

 戦闘脚を装着しての自立は形状の問題で難しく、精密な機械であることも相まって実質不可能である。乗室に座る紀子は、加藤を怒鳴った。

 

「あなたが規律を守るならそれでいい。でも、規律に縛られて死ぬのは違うッ! 早く!」

 

 五秒ほど、加藤が黙る。それから昇降扉を開け放つ。

 

「失礼します、中尉!」

 

 紀子を抱え上げ高所の強風吹き荒れる昇降口に立った。

 ネウロイの姿は輸送機上からでもかなりの数が確認できた。銀色の小型ばかりだが、脅威に変わりない。

 

「御武運を、中尉」

 

「ええ、ありがとう」

 

 二人はそのようなやり取りを交わし、離れた。青い空へ、紀子の身体が放たれる。ネウロイ達はすかさず、幾つかを落ちていくだけのウィッチへ分散させた。

 離れていく輸送機は雲をたなびかせ、紀子の視界からみるみる内に離れていく。

 

「やりましょう」

 

 共に携えた柏太刀を太陽へ掲げ鯉口を切り、魔装脚のエンジンを始動する。プロペラが回転を始めると、紀子は背中から地面に向かっていた体勢を後方宙返りで反転。

 急上昇と共に太刀を引き抜き、襲い来るネウロイをその刃で切り伏せていった。まだ輸送機は遠い。もっと速く、もっと高く。紀子は内で魔法力が強まっていくのが分かった。

 彼女の一種の固有魔法というべきか。切れば切るほどに、彼女は雷のように速く、炎のように強くなる。扶桑海事変にも参戦した彼女だが、特に目立たなかったのが不思議なほど、堀内紀子は強かった。

 

「キリがないッ!」

 

 歯を食い縛り、ネウロイの攻撃を魔法力を込めた刀で弾きながら倒し続ける。

 なおもネウロイは輸送機を狙っている。すでに数発被弾していたが、小型なのが幸いだ。エンジンに攻撃を受けていないようで、なんとか飛んでいる。しかし、それもいつまで持つか。

 

「……使うしかない」

 

 紀子が更に上昇し、空の真ん中で目を瞑る。

 魔法力の輝きと共に、激しい風に服が靡いた。

 

「こっちへ来なさい」

 

 巨大な魔方陣が、空を包んだ。それは輸送機人員でさえ確認した。

 青い魔方陣は赤く変わり、ネウロイはまるで何かを察知したかのように輸送機への攻撃をぱったりと止めて、全てが紀子へと向かった。

 

「ブリタニアには無事でたどり着きたかったわね……」

 

 諦めたような笑みを紀子は一瞬浮かべ、すぐに仇敵の姿を睨み付ける。

 視界一杯に迫る、ネウロイの渦。そこへ紀子も真っ直ぐに突っ込み、太刀を振るった。

 上段袈裟斬りから機動力を利用した回転斬り、上下反転斬りなど、陸では披露出来ないような三次元機動を利用した刀の扱いが、空での紀子の強みだった。刃の軌跡は複雑に絡み合い、ネウロイを次々に撃破していく。

 だが、物量が違いすぎる。紀子も攻撃を捌ききれなくなっていた。ネウロイを斬り倒し、斬り倒し、更にひたすら斬り倒す。

 

「輸送機はブリタニアへ離脱したわね。……私も一緒に行きたかったけど」

 

 まだまだネウロイは紀子を狙う。彼女は太刀を一度払い、鞘へ戻すと空中で静止。

 居合いの構えを取り、高まった魔力に集中力を最大限に合わせる。身体は何より、魔装脚への魔法力配分さえ最大化する。エンジンを壊そうが関係ない。

 彼女は散る気だった。輸送機は逃がしたのだ、ブリタニアと扶桑皇国での話は出来る。

 

「今ッ!」

 

 魔装脚が瞬く間に排気管から火を噴いた、まるで火の鳥の翼のように。目を見開いた彼女は驚異的なスピードでネウロイの中を飛び回り、瞬時に十数機を撃墜する。

 気付けば空からネウロイを追い払った後だった。しかし、魔法力も魔装脚も限界だ。エンジンは停止寸前で、飛ぶのもやっと。

 しかし、まだネウロイはやってきた。そう簡単にウィッチを逃がしてたまるかとでも言いたげに。

 

「冗談……」

 

 このまま戦い続ければ、受勲も一気に近付く。だが、紀子にもはやそんなことを考える気力は無く、無慈悲に迫るネウロイを睨む以外無かった。

 

「何をモタモタやっている」

 

 不意に、空を魔装脚のエンジン音と冷たい女の声が覆った。

 ネウロイが銃声と共に砕け散る。紀子が見たのは青い自動拳銃を手に、冷たく彼女を見下ろす金髪のウィッチの姿だった。

 

「モタモタ? ソイツらは増援よ、『ガン・ブルー』さん」

 

 彼女はブリタニアで有名なウィッチだった。冷徹だが確実に敵を落とす、『青い銃の彼女(ガン・ブルー)』が二つ名だ。扶桑にもその名は轟いている。もっとも、その冷たい性格から二つ名の前に、氷がつく。『氷のガン・ブルー』だ。

 名はイヴリン・カルヴァートといった。階級は少尉。

 

「そうなのか? まあどうだっていい、へばっている暇があるなら輸送機へ続け。ここからはブリタニア空軍が引き受ける、お前はジャマだ」

 

「噂に違わぬ素っ気なさなのね。ちょっとは愛想良くしたらどう?」

 

「知らん。これが私だ」

 

 とっとと行け。イヴリンは紀子を手で払うと、残ったネウロイへ先陣を切った。他にもウィッチは上がってきている。

 ならば不愉快だが、下がらせてもらおう。紀子はブリタニアの飛行場へ向け、飛行を開始した。既にエンジンは黒煙を上げているがまだ飛ばせる。

 

 そうして無事に飛行場へ着陸した紀子を、扶桑皇国軍の人員達は拍手と共に出迎えた。自分達を、身を呈して救ってくれたウィッチが無事に帰ってきたと。

 その後ろから、イヴリンたちもやってくる。一瞥も無く扶桑人たちの馴れ合いの横をすり抜け、ブリタニア空軍飛行隊は自身の格納庫へ真っ直ぐに向かった。

 

 そんな最悪の出会いが、二人の出会いだった。




1939年末、ほぼ1940年です。
紀子も扶桑海事変に参戦していた設定ですが、あまりにも周りが化け物過ぎて目立たなかったんですね……。
だからもっちゃんも知ってる。
イヴリンはまだ14歳。反抗したいお年頃。
次回もまた回想回になりますが、ちょっとお付き合いくださいませ。
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