フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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フリーダムウィッチーズ-自由への航跡-
第二十一話『始まりの地』


 ブリタニア。イヴリンにとって見慣れた景色を眼下に見るまで、行きほど手間はかからなかった。

 ネウロイも軍の追手もなく、恐ろしいほど静かなブリタニア空軍基地。イヴリンたちが最初にいた、その基地へ独立飛行隊改め『フリーダムウィッチーズ』のメンバーは着陸していく。

 

「おっと……」

 

 着陸時、意外にもバランスを崩したのは戦闘経験の豊富な筈のシーラだった。ハンデは片腕を失い、片目が見えないだけ。しかし、それだけが想像以上に人間から視野だけでなく遠近感などの感覚を奪う。バランスも知らぬうちに狂わせていく。

 

「大丈夫ですか? 少佐」

 

 素早い反応で着陸を遅らせ、後方へ回ったのはベルティーナ。よろめいたシーラへ手をさしのべ、差し出された右手を取る。

 

「ん、すまない」

 

「いいえ、お気になさらず。これは僕が好きでやってますから」

 

 着陸を終えていたマルレーヌからの視線はどこか冷ややかだった。

 

「アイツ、ほんっとに命知らずね」

 

「……次は少佐狙いなのかな?」

 

「彼女、こういうことはとことんまで無謀だから」

 

 フェオドラ、八重からの評価もさんざん。イヴリンと明里はただ苦笑するしかない。

 

「何にもねぇな。本当に基地か、こりゃあ」

 

 着陸するなり、ジェイスは無人の基地を見てぼやく。航空用魔装脚はホバリングが出来ることを利用して、まるでスケートコースでも回るかのように、彼女は周辺を散策していた。

 

「部隊を下げるために空けた可能性があるんだ。勿論油断は出来ない、私たちはブリタニアから逃げてきたからな」

 

「またしばらく、気を張る生活だね」

 

 でも、仕方ない。明里は少しだけ前を見つめていた。自身は今、慣れないながら魔女たちと同じ場所に立っている。受け継いだ武器を持ち、自身が知りもしなかった力を持ってそこにいる。最初の守られてばかりで仕方ないと言われた頃とは違っている。

 悪夢のことは気がかりだったが、夢ならば恐れることはないとすら思えた。

 

「しかし、流石に長旅の直後だ。消耗もある、少し休まないといけないね」

 

 全員が格納庫に魔装脚を置いたのを確認し、その姿を確認してイヴリンは言う。

 ウィッチは通常の二倍、力を使う。体力と魔法力だ。回復には人よりよく休み、よく栄養を取るしかない。だからウィッチのカロリー管理には気を配る。

 ウィッチは戦えなくなれば、ただの非力な少女と変わらなくなる事もあるのだ。元から武力や戦闘経験があり、戦えるなら地上からでもネウロイを落とす強者はいるが、そんな凄腕はごくごく稀にしかいない。

 皆、表情には出していないが疲弊はあった。特に重傷のシーラは身体の感覚も慣れていないし、塞いだばかりの傷を気にしている。

 

「少佐。左腕は既に止血、縫合してますね?」

 

「え? えぇ、勿論。基地内の術式だから、姑息な手段だけれどね」

 

 ふむ。イヴリンが息を吐く。

 行けるかと彼女は呟いて、シーラの失われた腕へ手を差し出す。

 

「……治癒魔法? カルヴァート少尉の固有魔法?」

 

 暖かな魔法力の輝きを見て、シーラは少々驚いていた。だが、イヴリンは「そんなものじゃありません」とかぶりを振った。

 

「私に固有魔法らしい力はありません。ただ、魔法は意志と知識を伴った無限の可能性を持った力です。多少身体の構造が分かれば、再生を促すくらいは出来ます。身体強化も同じです」

 

「……万能ね、少尉」

 

「私の特徴は、銃が青いだけですよ。少佐」

 

 だから、あなたを完全には救えなかった。イヴリンは悔しげに呟く。

 もっと強力な治癒魔法であれば、せめて右目だけでもとは思うが、それは最早遅い話だ。

 

「卑下するな、素晴らしい才能だ。アディソン大尉が君を守った理由が、少し分かった」

 

「え?」

 

「いや、こちらの話だ。気にするな」

 

 サマンサがイヴリンたちを庇い自害したという話は、時が来るまで封印する。シーラはそう決めていた。

 危うく口を滑らせる所だったが、上手くかわせたらしい。追及は無かった。

 

「バイクがあるな。ブリタニア製か」

 

 ジェイスは格納庫にひっそりと置かれたままのトライアンフ3HWに目をつけたらしく、興味深そうにしげしげと眺めている。

 

「いいマシンだよ。綺麗に走ってくれる」

 

 シートの埃を落としつつ、ベルティーナは語った。基地で見つけ、最初にバイクへ乗ったのは彼女だった。

 

「近くに街はねぇのか? 買い出しに行ってきてやるぜ? コイツを預けてくれるならな」

 

「ロンドンが比較的近いかな。ただ、今は隊長指示を優先すべきだよ。分かるだろう?」

 

「はぁ……仕方ねぇ」

 

 ベルティーナが制止すると、ジェイスは心底つまらなさそうに髪を掻き乱す。

 同時に、シーラに施されていた治癒も、抜糸含め終わっていた。念のため、右目の傷も出来る限り塞いだ。不意に傷が開くことは、余程の事がない限りは無いだろう。

 

「まず全員で休憩する! その後、買い出し人員を決めよう。私たちはそろそろ逃亡兵として、情報が行っているかもしれない。慎重に行くぞ」

 

 イヴリンの声は格納庫に反響し、フリーダムウィッチーズ各員の耳に届いた。皆が自由にやっているようで、しかし声がかかればしっかりと了解の声が揃って上がる。

 新たなメンバーも迎えたが、今のところ目立った問題は無いようだった。

 

 □

 

「なんか、ここに来て最初の夜を思い出すかな」

 

 再び皆で円になり、缶詰で腹を満たす。明里にも懐かしい状況と言えた。

 ベルギカでは腹一杯に食べられたが、今回ばかりは仕方がない。缶詰も切れてしまって、買い出しが急務になっていた。

 

「次はどこへ行くの? いっそ遠くまで行った方がいい気もするけれど」

 

 シーラは目的地の不安も持っていた。

 次の目的地。これも決めなくては。

 

「これは私個人の意見だが、明里の謎を解きたい。紀子は扶桑に墓を建てられたと聞いたからな。そこにいけば、答えがある気がするんだ」

 

 イヴリンが口を開いた。ブリタニアから扶桑など、一回で行ける距離ではない。それこそ各基地、戦地を転々としながらになる。

 そんなところへ行こうと言うのだから、相応の理由があるのか。フリーダムウィッチーズ各員からの視線が突き刺さる。

 

「明里の謎も、紀子の謎も、扶桑にある気がする。だからいずれにせよ、いつかは立ち寄るつもりだったんだ」

 

 遅かれ早かれ立ち寄る気だった。イヴリンが言うと、部隊内からは少々無謀だとする声が上がった。

 

「ガリア、ベルギカ、カールスラントをかわすにはバルトランド、スオムスを抜けて遥か広大なオラーシャを抜けるのが安全な最短ルートね。スオムスのカウハバに寄ることが出来れば、上手いこと補給出来るかもしれないけど」

 

 あまりおすすめは出来ない。マルレーヌは経路を考えながらも、そのルートには多数の問題があると指摘する。

 

「まず北欧、東欧から途端に気候は変わる。きちんと連携を取らないと、途中で吹雪に巻かれて墜落しかねないわ」

 

 マルレーヌ自身、否定的というわけではない。途中、スオムスのカウハバには義勇独立飛行中隊の基地もある。何事もなく立ち寄ることが出来れば、顔を売るチャンスでもあった。

 

「それで、隊長。途中のスオムス、カウハバに寄れれば……」

 

「分かってる。ビューリングが元居た部隊だろう? 事情は隠すにせよ、上手くいけばオラーシャは一回か二回のストップでいける」

 

 そこから扶桑に北から進入する。イヴリンが言うと、八重の表情が少々驚いたように変わった。

 

「北海道に寄れるの?」

 

 八重は北海道のアイヌ民族だ。久しぶりに集落に顔を見せる事も不可能とはいえない。

 いくら狩人として大人ぶっても、彼女もまた親が恋しい少女なのだ。

 

「ああ。八重が望むなら、少し顔を見せる時間を作れるかもしれないよ」

 

 イヴリンの言葉を聞いて、表情に乏しかった八重がぱっと明るい笑みを浮かべた。

 やはり年相応だ。仲間たちからは優しく見守るような笑みを向けられていた。

 

「それは良いけどよ。買い出し、急がねーと時間無くなるぜ」

 

 和みの空気を破り、ジェイスが声をあげる。

 たしかにロンドンまで比較的近いとはいえ、すぐに着けるというわけではない。

 イヴリンも気持ちを切り替え、必要品のメモを記し始めた。主に食料だ、嗜好品などは後回し。まずは生き残るのに必要なものから。

 支度をする間、ジェイスはバイクを引っ張り出して各部の点検を行う。調子は悪くないようで、彼女も満足げに頷く。

 颯爽とシートに跨がり、エンジンを掛けてやると、3HWは久々のツーリングを待ち望んでいたかのように歓喜の音を上げる。

 

「よし、ジェイス。メモの通りに買ってきてくれ。余分な物を買う金はないからな」

 

「あいよ、隊長」

 

 軽く手を振り上げ、ジェイスはバイクのスロットルを捻る。砂ぼこりを上げ、基地を出ていく後ろ姿を見送り、ウィッチたちは再び基地内へと戻っていった。

 ウィッチであることを街でバレる訳にはいかない。そこはジェイスに懸けるしかなかった。

 

「よし、私は少し通信室へ行く。カウハバに連絡がつくか試してみるよ」

 

「手伝うわ」

 

「助かります、少佐」

 

 イヴリン、シーラは通信室へ。残された隊員は、皆宿舎へと戻っていった。

 フェオドラはシーラ、ジェイスの部屋を用意するために場を離れる。

 部隊がそれぞれの持ち場について、時間はゆっくりと進んでいっていた。




基地へ戻ってきて、今度はなんと扶桑を目指す……!
果たしてフリーダムウィッチーズの運命や如何に?
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