フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第二十二話『あなたの影』

 通信室。以前はグツェンホーフェンとの連絡に使用したが、今回は様々な周波数を慎重に確かめ、スオムスはカウハバ基地へと繋ぐ。

 

「流石に無謀か……」

 

 あらゆる周波数に合わせ、とにかく相手の応答を待っては通信を切った。

 シーラは残った右手で、使用した周波数に斜線を引いていく。そうして残されたのは、もはや片手で数えられる程度になっていた。

 

『こちらスオムス空軍、カウハバ基地。そちらは?』

 

 雪のように冷たい女性の声がした。だが、繋がった先は間違っていなかった。イヴリンとシーラは互いに顔を見合わせ、頷く。

 

「こちら自由独立飛行隊フリーダムウィッチーズ。一週間後、そちらで補給を受けたい」

 

『フリーダムウィッチーズ……? 聞かない名前ですね。確認を取るので、お待ちを』

 

 失敗したか。交信先に注意しながら、イヴリンとシーラは顔を見合わせた。

 もし失敗なら、カウハバ基地に寄る作戦自体がふいになる。そうなれば、別なスオムスの基地を利用することも視野に入れなければ。

 なるべく全力で抜けるのはオラーシャからにしたい。そう思う。何しろ国土が半端ではないのだ、天候もあって長居が出来る土地ではない。

 

『聴こえますか?』

 

 応答だ。イヴリンが思考を切り替え、シーラも息を潜める。潜める必要はないのだが、不思議と息さえ止めてしまうような緊張感があった。

 

「こちらフリーダムウィッチーズ、聴こえています」

 

『……一週間後でしたか? 天候が変わりやすいため、足止めを食らう可能性は考慮してください』

 

「……確認は──」

 

 確認は取れたのか。イヴリンが訊ねようとして、シーラがその肩を叩いた。そんなことを自分から訊いてどうするのだと。自滅行為だ。

 向こうが「良い」というのだから良い。今はそれで通すしかないのだ。

 

『では一週間後。近くへ来たら、改めて交信をするように。こちらで手の空いたウィッチをエスコートに回します』

 

「……感謝します」

 

 ぶつんと音を立て、交信が切られた。

 見破られるような雰囲気はあったが、なんとかカウハバ基地行きの話をつけることに成功した二人。ほっと胸を撫で下ろし、一先ずの吉報として情報を記録すると、すかさず地図へ向かう。

 ルート設定は大事だ。扶桑を目指し、三国を抜けることになる。ブリタニアから海を渡り、バルトランドへ。そこで補給を速やかに済ませたら、バルトランドの大陸を真っ直ぐ切り抜けるようにしてまた海を抜け、カウハバ基地に到着する。

 順調に行けばその後オラーシャに入り、一回もしくは二回ほどの休息と補給を行い、扶桑は北海道方面へと抜ける。

 

「見れば見るほど強行軍ね」

 

 通信室のブラックボードに大雑把なルートを記したシーラだったが、やはりそれを見れば無謀という言葉しか出てこなかった。

 

「確かにそうだが、マルレーヌの作戦にも乗れる。それに、明里の謎も扶桑でわかる気がする」

 

「……その謎って? 根拠はあるの?」

 

「無い。だが、紀子が間違いなく絡んでる。扶桑に行って明里が帰れる保証はないが、彼女についての事案は先に進む筈だ」

 

 イヴリンの言葉に、シーラはため息交じりに頭を振った。しかし、動かずにいるよりは余程いい。

 カールスラントに行くには戦力的に不足があるし、エデルガルトの件もある。ウィッチとして数えられるようになった明里を連れていくには、危険が大きすぎた。

 

「よし。そうと決まったなら、私も今の身体に慣れなければいけないわね」

 

「少佐?」

 

「シーラでいい。暇な人員を集めて、宿舎前へ呼んでくれる? ちょっと戦闘訓練がてら、身体の運動をするわ」

 

 あまりに無謀ではないか。イヴリンは言いかけて、言葉を呑み込んだ。シーラが重傷を負ってから、一日も経っていない。いくら魔法で傷を塞いだと言っても、あまりに無茶苦茶だった。

 

「……無理しないでくださいね」

 

「勿論よ」

 

 □

 

 心配が杞憂だったと気付くのは、訓練開始からすぐだった。

 訓練に参加したのはベルティーナ、マルレーヌ、それからフェオドラだ。八重は基地の見回りをするために断った。明里とイヴリンは共に見学だ。シーラからは「手出し無用」とだけ言われた。

 

「おわぁっ!?」

 

 まずベルティーナが情けない悲鳴と共に宙を舞った。

 

「次」

 

 汗一つ垂らすことなく、シーラは次の相手となるであろうマルレーヌへ鋭い視線を向けた。

 身体の動きを見るとあって、ウィッチでは有り得ない近距離戦闘での訓練だった。訓練用にか、刃を無くしたナイフをたまたま見つけ、全員がそれを使っている。

 正対する二人。ナイフを構え、シーラはマルレーヌをじっと見つめる。だからといって、マルレーヌもむやみに仕掛けたりはしない。

 だが、今回の相手は一人ではなかった。

 銃声が響く。しかし、シーラはそれより僅かに早く、左足を地面に擦りつつ素早く半身立ちになる。

 

「きゃっ!? ちょっと、フェオドラ!? どっち狙ってんの!?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 狙撃手として、フェオドラが張っているのだ。だが、彼女が扱うペイント弾仕様のPTRS1941はシーラを外し、あろうことか味方のマルレーヌにペンキを付けてしまった。本来ならば弾丸のエネルギーで真っ二つになっているところだろう。

 フェオドラはたまたま外したと思った。一度場を離れ、場所を変える。

 

「そこっ!」

 

 マルレーヌがすかさず切りかかる。それさえシーラはまるで初めから分かっていたかのように往なし、右手一本でナイフを逆手に持ち変えて背後へ回り、背中を柄で叩く。

 

「意外と動くな。まだ左側の感覚、右目の死角には慣れないが……」

 

 まだまだ戦える。シーラはそう考えつつ、左へ身体を動かす。すぐに銃声と共に、ペイント弾が近くを通過していった。

 照準器から目を離すフェオドラは、疑念を確信に変えた。

 

「避けられてる……。でも、魔法じゃない? どうして……?」

 

 明らかに銃弾を避けている。だが理由が定かでない。なにせシーラはフェオドラには見向きもしていないのだ。

 隙があるから撃っている。なのに何故当たらないのか。

 

「……誘導されてる」

 

 隙があるから撃っている。フェオドラは分かっている。撃てるから撃つ、待つべきところは待つ。それがスナイパーだ。

 闇雲に撃つのは彼女ではない。照準に重なったシーラに『当たる』と判断したから引き金を引いた。状況は様々だが、基本的には横方向への照準移動はしない。未来位置予測などを用いるなら別だが、極力は直線を結ぶ位置に重なってから撃つ。

 では、それを意図的に生み出されたら? 横方向にも動かず、敵と戦っている最中に察知され、判断を誘導されたらどうなるか。

 

「……紀子隊長だ」

 

 その動き方は、紀子もしていた。彼女はそれを『先の先』、『対の先』、『後の先』と大まかに三つのタイミングに分けて呼称していた。

 シーラの思考誘導は紀子の判断を使うのなら、後の先に近いものだ。相手に攻撃をさせ、引き付けて往なすもの。それが紀子いわく『後の先』というらしかった。

 

「……なら!」

 

 狙撃を諦めるしかない。フェオドラが狙撃すると読まれている以上、シーラの意識を逸らせなければ弾丸は当たらない。

 PTRS1941をその場に残し、ホルスターからTT-33を引き抜いた。遠距離だと信じているなら、不意を突く。近距離戦闘の心得がない訳ではない。

 マルレーヌとナイフで戦っているその背中へ、フェオドラは一息に駆けた。離れては当たらない。ギリギリまで近付いて撃つ。

 

「すまない、コセンコ」

 

「えっ」

 

 シーラが再び銃口の中心から身体を逸らし、フェオドラが伸ばした拳銃に手を掛ける。

 身体の内側に右手首を捻られ、驚く間も然程無いままにフェオドラは堪らず拳銃から手を滑らせた。

 

「戦術を変えたのは良い判断だ。少々焦ったわ」

 

 シーラの手にはフェオドラのTT-33が握られている。ナイフでは太刀打ち出来ず、フェオドラはすかさず撃たれるような距離にいる。

 

「本当に隻眼、隻腕なのか……」

 

 少し離れて訓練を眺めていたイヴリンも驚かざるを得なかった。真っ先にダウンしたベルティーナはどうもウィッチ同士の『絡み合い』に意味を見出だしたらしく、訓練を放棄して眺めていた。

 

「いやはや、まさか全く知らないベルギカ人にもキコ隊長を見るとはね」

 

「扶桑の武術は魅力的だからな。佐官になる前は、色々取り寄せて訓練に使っていたわ」

 

 ネウロイ戦にもそれなりに役立つし。シーラはそう締め括った。

 もしブラバンデル式でウィッチの飛行学校生徒が戦闘術を学んでいたら、もしかするとネウロイからしても大変な脅威だったかもしれない。

 

「ただ、私も完璧じゃない。実を言うとね、ホリウチ中尉の訓練は見たことがあるの。一回だけね」

 

 ベルギカに出入りしていた頃だ、イヴリンもいた頃だろうか。明里が彼女を見遣るが、イヴリンは首を縦には振らなかった。

 

「私がブリタニアに行った時……1939年のほぼ終わり頃ね。彼女の戦いは素晴らしかった」

 

 対人だったとはいえ、攻撃、防御、誘導と場を支配する戦いだったとシーラは語った。

 

「ネウロイ戦にも彼女は使っていたと思う。ネウロイにも……どこか、意思のような物を感じることがあるから」

 

 その意思を読み取れば、先を取ることは出来る。シーラはそう語った。

 そんな簡単に行く筈はないが、もしかすると紀子のレベルなら出来たのかもしれない。

 

「……協力に感謝する。まだまだ私は戦えそうね」

 

 TT-33をフェオドラへ返し、シーラは長い髪を振り払った。

 

 暫くして、バイクの音が基地内に侵入する。倉庫の屋根を伝い、斥候をした八重の報告ではジェイスが帰還したと通信があった。

 

「ふぅ。買った買った、流石にコイツじゃキツいかと思ったぜ」

 

 3HWはリアタイヤの両サイドに取り付けたサイドバッグに、荷台には木箱一杯の食品や飲料が積まれている。

 一週間は余裕を見ても問題ない量だった。

 

「ありがとうジェイス。よし、火を起こして食事にしよう。もう日も沈んだからな」

 

 時間はかなり遅くなっていた。早く休まなくては、身体に影響が出てしまう。

 イヴリンたちは荷下ろしの後、すぐに明里、フェオドラの二人による簡単な料理で腹を満たしていた。




ここにも、紀子の意思は生きていました。
本当に彼女は死んだのでしょうか。それは、それを受け止める側次第なのかもしれません。

次はカウハバへ向かいます。
そう、原作側キャラクターとの絡みがあります。
個人的にもすごく楽しみなシナリオになります……!
夜は危険が危ないぞ!
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