フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第二十七話『寒空の一時』

「コホン……色々あったけど、彼女がジュゼッピーナ・チュインニ准尉よ。これで全員……全くもう」

 

 フリーダムウィッチーズの面々へ、新たに輪へ加わった少女の話をする智子は、ひどく疲れた顔をしていた。

 時おり腕にすりつくチュインニとハルカを引き剥がしていて、なおのこと体力を失っていっているようだ。

 

「チュインニ准尉って、ロマーニャ空軍急降下爆撃の第一人者だよ……! 僕らロマーニャ軍人なら、一度は絶対に名前を聴く。そうか……スオムスに行った話、僕は信じてなかったけど」

 

 名前を聞いて慌てたのはベルティーナだった。

 

「あら、あなたもロマーニャ人? そうよね、その軍服はロマーニャ空軍のだもの」

 

 よろしくね。にこやかにチュインニがベルティーナへ手を差し出した。

 

「よろしくお願いします、チュインニ准尉。自分はベルティーナ・アッビアーティ。最近少尉になりました」

 

「あぁ、噂に聞いたロマーニャ空軍のナンパ師ね! 永遠の愛を捧げられる人は見つけた? 私は見つけたわ、智子よ!」

 

「はい、ちょっと黙って。──続けて、少尉」

 

 暴走し始めたチュインニを黙らせるために口を塞ごうとした智子だったが、逆効果になると判断したのだろう。紀子よろしく、手を叩いて場を収める。

 

「あ、いや……。知られているのなら、僕から言うことはもう──」

 

「そう? じゃあ、各自で自己紹介お願い。ちょっとコーヒー入れてくるから」

 

「私もお供します! お姉様!」

 

「うるさい、近寄るな、あっち行け!」

 

「あぁっ! 今日もお姉様欲張り三点セットです……! しかも最後がちょっと強い!」

 

 チュインニですら暴走すると止まらなかった。恐らくハルカはもっと止まらなかったのだろう。

 あとから合流したチュインニへ自己紹介する傍ら、イヴリンたちはハルカを手で払う智子を少々憐れんでいた。

 

「状況が状況だったんで訊けなかったんだが、レイヴォネン中尉? 穴拭中尉はずっとこんな調子ですか」

 

 いよいよイヴリンも知的好奇心が限界だった。思えば、明里との繋がりも自身の好奇心だった。

 懐かしく思いつつ彼女が問うと、エルマは迷うことなく肯定した。

 

「私たちの共通認識でした。正直、今更感すら感じるくらいで……」

 

「どエラい日常だったんだな。同情するぜ、中隊長さん」

 

 相変わらず気だるそうに壁に寄りかかるジェイス。仮にも上官への態度ではないが、エルマは特に気にしていない。少々疲れが見えるようだったが、同時に全てを悟ったような表情でもあった。

 

「あ、そうだ。チュインニさん、地上はどうでしたか?」

 

 危うい雰囲気だったものをなんとか思い出したような雰囲気だが、エルマがチュインニへ地上偵察および哨戒の確認を取る。

 

「相変わらずね。もう一人、頭のネジが飛んじゃったような戦い方をする陸戦ウィッチが増えてたくらい」

 

「なんだかとんでもない人ばかり増えてませんか……? 負けたり傷ついたりするより、ずっとマシですけど……」

 

 複雑そうにエルマは頭を悩ませる。

 

「何かあるんですか?」

 

 反応を示したマルレーヌ。こくりとエルマは頷いた。

 

「最近、地上型ネウロイの動きが活発なんです。大きなものは確認されてないんですけど、その分数が多くて……」

 

「爆撃をしようにも、効果的な爆撃が難しいから様子を見に行ってるの。でもあの陸戦ウィッチがいれば、終わる気もするわ」

 

 出撃する意味も無さそうだ、と言いたげにチュインニはやれやれとかぶりを振った。

 そこまで言われては気になるのは、ウィッチだからという訳ではないだろう。

 

「なんだ、そんなに腕の立つウィッチが居るのか?」

 

 同類を見つけたような目をしつつ、ジェイスは腰を使って壁から跳ね起きながらチュインニへ視線を向けた。

 

「ストライカーを使わないで戦うような陸戦ウィッチがいる場所だもの、よく探せばたまにいるわ」

 

「ストライカーを使わないってなんだそりゃ……? バケモノじゃなきゃ新手のネウロイか?」

 

 ジェイスがそう語った刹那、微かに空気が張り詰めた。当人は全く気付いていないが、オーロラ部隊の隊員たちは冷や汗を見せていた。

 

「まぁとにかく、暫く動けないのは確かのようだ。あのウィッチもどきの対処に関しても、手はある方がいいな」

 

 ジェイスと同様、壁に背中を預けていたシーラはクールだった。ここカウハバで、事態があまりにも動きすぎている。

 幸い智子たちも「訳のわからないネウロイを呼んだなら、倒してから行け」といった雰囲気で、早急に出立させようとは考えていないようだった。

 

「じゃあ、皆さんのお部屋を用意しなきゃいけませんね。少し空きを確認してきます」

 

 エルマはそう言うと、騒がしい談話室からぱたぱたと出ていった。

 その姿を見送ってから、イヴリンは少々物思いに耽る。

 

「扶桑に行くのは少し遅れるか」

 

「別に気にしなくていいのに……」

 

 イヴリンの横に座った明里がそう語るが、彼女は「違うんだ」と首を振った。

 

「私が気になるんだ。恐らく一番手っ取り早いのが、扶桑に行ってしまうことだしね。それにバルシュミーデからも一度距離を置かないと」

 

 イヴリンの脳裏を、ベルギカで遭遇したエデルガルトの姿が過る。憎々しげに見つめる視線、ほとばしる殺意。

 何より彼女は容赦無く闇討ちをしてくる。『いざ覚悟』などと声をかける、扶桑の侍めいた戦いなどはしないだろう。

 だがカールスラント軍は他国軍より厳しく、規律を重んじる傾向が強い。そういった背景を考慮すると、原隊を離脱し、はるばる北欧まで来るのは難しいと考えられた。

 そういった意味では、距離を取ることには成功しているとも言えた。

 

「バルシュミーデさん……か。話し合いは出来ないかな」

 

 両手の指を絡めつつ、明里はぽつりと呟いた。

 イヴリンにも気持ちがわからないでもない。だが、元々とはいえ志を共にした人間へ銃を向け、あろうことか他人を傷つけたのだ。話が通じる状態でないのは明らかだった。

 

「難しいだろうね。そもそも、そんな話も生まれなさそうだ」

 

 イヴリンにはそう返す以外無かった。一つ手段があるとするならば、明里の内に眠った紀子の記憶に出てきてもらうくらいしかない。

 だが、それも一時しのぎだ。紀子が死んだ事実が変わる訳でもなく、そんな手段を取ってバルシュミーデが仮に逆上しては元も子もない。

 

「今は逃げるしかないと思うよ、アカリちゃん」

 

 暫く口をつぐんでいたフェオドラが、気付けば二人の対面に座っていた。

 気性穏やかな彼女でさえそう言うしかないのだ、今は解決よりも手札を作る方が先決だ。

 

「戻りました。部屋の空き、なんとか見つかりましたよ」

 

 再び空気が重くなろうとしていたところに、エルマが戻ってきた。

 一時的とはいえ、数日はカウハバで過ごすことになる。決して多くはない空き部屋のため、二人一部屋で利用する旨がエルマから説明される。

 

「隊長、覚えてるよね?」

 

 二人一部屋。そう聞いてから、ベルティーナはじっとりとした視線をイヴリンへ向けつつ訊ねた。

 

「……分かってる。明里と同じ部屋だろ?」

 

「おっ、覚えててくれた。さっすが隊長」

 

 ブリタニアの基地で部屋決めをした際、ベルティーナが駄々をこねた部屋割り。それをイヴリンは忘れておらず、渋々といった雰囲気ではあるものの明里へ視線を向ける。

 

「どう? 明里はそれでいい?」

 

「うん。私は大丈夫だけど……」

 

 なぜそうなるのが嫌そうな雰囲気なのか。明里は首をかしげる。

 

「何かされそうになったらちゃんと声上げるのよ? 遠慮してたらウィッチでいられなくなるわよ」

 

 腰に手を当て、マルレーヌが忠告する。その忠告には深く、そして重たい何かが含まれていそうだ。

 

「全く、僕はそんな野獣じゃないってば」

 

 ため息交じりに頭を振る。ベルティーナの視線は、智子にまとわりつくハルカに向けられた。

 

「どちらかといえば、今回は守る方さ」

 

 腰に差したリボルバー。そのグリップの感触を確かめつつ、ベルティーナは誰にも聞こえないように静かに呟いた。




最近体調をくずしたり、免許取りに学校いったりで忙しく、気付いたらほんの3000文字書くのに一ヶ月近く掛かりました。
いや、いけないね。

チュインニもいよいよ登場。
スオムスでの戦いはまだ続きます。
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