フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第二十八話『スオムスの大地にて』

 スオムス空軍カウハバ基地は変わらず。だが、少し離れて市街に出るとスオムス軍とネウロイがにらみ合いだ。ネウロイが睨むかどうかはともかく、互いが互いに攻めきれない。

 ネウロイは珍しく、人類に対して二の足を踏んでいた。

 

 一瞬の予断さえ許されない状況の中、一人のスオムス陸軍ウィッチが立ち上がる。ホルスターに挿したピストルを抜き取り、弾倉の弾を数えてグリップに押し戻す。

 淡いブルーが特徴のスオムス軍服のウィッチ。更に後ろに、同様の軍服に身を包んだウィッチたちが更に十名ほど控えている。

 

「全員、武器の弾倉は持ち帰ること」

 

 ピストルを手にしたウィッチは振り返ると、控えるウィッチたちへ告げた。

 

「特に、我々は諸外国から融通してもらった武器を利用している。弾倉を失くせば、その武器が使えなくなるぞ。忘れるな!」

 

 声を張り上げる先導のウィッチ。控えのウィッチたちは声高らかに賛同した。

 

「ランタサルミ、出るぞ」

 

 先導していたウィッチがピストルのスライドを引いて宣言する。ランタサルミの背後ではウィッチたちの戦闘脚が唸りを上げる。ところが、ランタサルミは戦闘脚を着けていない。自らのその足で、睨みを利かせるスオムス軍のその更に前へと躍り出る。

 

「少尉はまたストライカー無しなの?」

 

 ウィッチの一人が誰に宛てたわけでもなく呟く。

 

「ユーティライネン中尉の実質弟子みたいなものらしいしね。いつか私たちも、そんな部隊にいたって語り継がれたりして」

 

 また別なウィッチが愉快そうに反応を返した。

 ランタサルミというウィッチは戦闘脚も使わず、そして圧倒的な力でネウロイをねじ伏せる。そういうウィッチだった。しかし、既にそこにはユーティライネンという前例がいた。ランタサルミはユーティライネンと共に一時戦い、そしてその背中を見て戦い方を学んだ魔女なのだ。

 

「来たぞ、構えろ」

 

 極めてクール。部隊に聞こえる程度にしか、ランタサルミは声を張り上げない。

 戦闘に立つ彼女も味方に預けていたヘルウェティア製S-18対物ライフルを受けとると、自身より巨大なそれを軽々と掲げる。

 

「向こうもお待ちかねだったらしい。建物を使え、地の利は我々にあるぞ。向こうを驚かせてやろうじゃないか」

 

 散開。ランタサルミは部隊に散るよう指示を出す。本来ならば自滅行為にすら等しいが、彼女の部隊はネウロイに対し奇襲を行うことで戦果を挙げていた。

 ランタサルミ自身も部隊から離れ、裏道をいくつも駆け抜ける。50kgはあろう巨大な対物ライフルを手にしても、彼女は息を乱すことはない。

 

「おっと」

 

 ランタサルミの眼前をネウロイが塞ぐ。それを確認し、彼女はスライディング姿勢へ切り替え、足を滑らせながらライフルを構えた。

 刹那、雷鳴のような銃声が響き渡った。20mmという巨大なライフル弾は比較的小型だったネウロイの装甲を容易く貫き、撃破する。

 

「フゥッ。一体撃破だ、他から撃破報告が挙がってないな?」

 

 ライフルを肩に担ぎ、ランタサルミはインカムの向こうにいる隊員たちを煽り立てた。

 銃声は絶えず聴こえている。鳴り止まない内はいいが、それが無くなった時が一番不安になる。

 

「援護に行くか。いくぞ、着いてこい」

 

 ランタサルミに着いてきた二名ほどのウィッチに合図を出すと、彼女は一息で裏路地から飛び出した。

 迫るネウロイの脚をライフルで吹き飛ばし、続けざまに装甲もろとも打ち砕く。彼女に続いたウィッチもまた、機関銃でネウロイを討ち払っていく。

 

「私は上から行く」

 

 部隊を振り返り、ランタサルミはそう語ると軽い足取りで建物へジャンプ。そのまま屋根を伝い、苦戦する味方の別分隊を狙っていたネウロイを真上から撃ち抜いて着地する。

 

「大丈夫か?」

 

 少々交戦部隊に疲れが見られた。しかし彼女たちは問題ないと、調子を訊ねたランタサルミに返答した。

 

『少尉! ネウロイの一団が近くにっ!』

 

 インカム越しに、銃声と共に味方の援護要請を受けとる。S-18対物ライフルを背中に背負うと、ランタサルミは柄付き手榴弾を手にネウロイの進行直線上を駆け抜ける。

 手榴弾を投げ、オストマルク製VIS35ピストルをホルスターから引き抜く。ネウロイのただ中に落ちる手榴弾を狙うと、視界はスローモーションに変わった。

 照準器に手榴弾が重なると、彼女は引き金を引く。9mm魔法弾は真っ直ぐに手榴弾を射抜き、ネウロイの真ん中で爆発。比較的小型のネウロイは耐えきれずに消失する。

 

「援護頼む」

 

 駆け出し、ランタサルミはピストルと共に残った中型に狙いをつけた。

 走りながら立て続けにトリガーを引き、中型の多脚型ネウロイの下部に滑り込んで通過すると、残った手榴弾を肩越しに後ろへ放り投げて止めを刺す。

 爆風に激しく髪がなびく。ネウロイは跡形もなく消えていた。近くにネウロイの姿もない。

 

「よし、一旦引き上げるぞ。またにらみ合いだ」

 

 ランタサルミは部隊へ指示を出しながら、空を見上げる。航空ウィッチが彼女を気にするように旋回していた。

 援護は無いが、気付けば空の目はいつもランタサルミたちを見ていた。制空権も取れている。

 

 まあ気にするものでもない。ランタサルミは特に気にしてはいない。陸と空の戦いは違うものだ、援護を強要するつもりは無かった。

 スオムスの情勢は急激に悪化している。謎の人型ネウロイといい、イレギュラーが増えているのだ。

 それに、カウハバ基地に見たこともないウィッチが駐在しているとも聞いている。

 何かが起きている。ランタサルミは重苦しい空を眺め、漠然とした考えを抱く。何かとてつもない事が起きていると。




少々短いですが、次回への繋ぎに。
ランタサルミという新たなウィッチが登場しました。
アウロラさんの下位互換です(

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