フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第四話『しんじていたからできること』

 森の中に作られたキャンプ地。とても急造とは思えないほど、しっかりと各スペースが分けられていた。

 焚き火をするメインエリア、休息用に簡素ながら布を敷いた仮眠エリア、それに調理エリア。

 

「一人でやった訳じゃないだろ? トゥシャール」

「勿論。あなたが捕まったあと、二ヶ月かけて解散した部隊の仲間をかき集めましたから」

 

 得意気にマルレーヌは語る。腰に手をあて、無い胸を張って。

 

「ああ、でも今は見回りに出てます。ここ、単なる森ですし」

 

 キャンプ地はまるで神隠しにでもあったかのように人が居ない。荷物や火はそのままだが、始末をしないまま出てしまったのか。

 静かに吹き抜けるはずの風も、木々を揺らしていくせいで妙にやかましい。

 少し休もう。イヴリンが明里に提案しようとした時だった。

 不意に彼女は明里の眼前で拳を握る。その手に握られていたのは、矢だ。正確に明里の眉間目掛けて飛んできていたのを、イヴリンが掴んで止めていた。

 

「もしかしなくても、歓迎されてませんよね……」

 

 ほんの数センチ先に鋭い矢じりを見つめながら、明里が小声で呟く。

 軍人に捕まり、牢に入れられ、挙げ句に銃撃戦を潜り抜けたのだ。一般人であっても明里はもう驚かない。今の一射は流石に死んだ、と思ったが。

 なんにせよ、あの一射を向けられてしまうと軍人の小銃射撃のほうが単純に思えた。弓矢なら音もない、次の一射をイヴリンが止める保証もない。

 

「ヤエか!? 彼女は味方だ、弓をしまってくれ!」

 

 イヴリンが何処かへと叫ぶと、生い茂る草が不自然に揺れた。

 

「ごめん。扶桑の顔立ちをみたら、つい」

 

 葉を掻き分けて現れたのは、少々不思議な出で立ちの少女だった。

 直線を織り混ぜた刺繍の入った青いバンダナのような布を頭に巻き、扶桑皇国陸軍の和装にも同じ柄の青い刺繍がある。もっとも、それが改造軍装と明里が知る由は無い。

 薄褐色の肌、目元や腕には直線を基調にしたような入れ墨が入っている。

 和弓を携えた腕は下ろされていたが、鋭い目は敵を見るように明里を射抜いていた。

 

「火の始末がなかったのは、君が見ていたからか」

 

 イヴリンが少女へ問うと、静かに頷く。

 

「私は基地施設からの追っ手を見張っていたから」

 

「来てたかい?」

 

 否定。かぶりを振った、ヤエと呼ばれた少女の耳飾りが揺れる。追っ手は居ないらしい。

 

「もうすぐみんな戻ってくる。……それから」

 

 ヤエの視線が再び明里を貫く。

 

「この扶桑人は?」

 

 イヴリンから止められた矢を受け取りつつ、ヤエが問う。

 

「私の恩人。つい最近、覚えの無い罪で営倉に来たところ仲良くなってね」

「お、お邪魔します……」

 

 イヴリンの紹介を受けつつ、明里が小さく頭を下げた。

 ヤエの後ろで焚き火が揺れる。火に照らされた彼女の影が、少々不穏に揺れた。

 

「イヴリンが言うなら信じる。好きにして」

 

 敵意というべきか。ヤエから感じたプレッシャーが、急に失われた。彼女の言葉通り、明里を信じたのだろう。

 少々落ち着かないが、明里は焚き火の傍に腰を下ろし、隣に座ったイヴリンへ訊ねる。

 

「あの……あの子は? 雰囲気がちょっと一段違うというか」

 

 休憩に入ったのか、焚き火を挟んだ向かいに腰を下ろしたヤエを見つめる明里。彼女に感じたのは、世俗的でない感覚。

 改めて見れば、イヴリンもマルレーヌもボトムスを履いていないなどの違和感はある。だが、ヤエに感じた違和感はそういったものとは違っていた。

 答えはすぐに返ってきた。

 

「昔の部隊の仲間だよ。茨戸八重……が扶桑の名前って、紀子が言ってたかな。扶桑からオラーシャの方にかけて居る、アイヌという民族の人間らしい」

「アイヌ民族……。その文化は変わらないんだ」

「知ってるのか?」

「はい……ただ、こっちではもう語り継ぐくらいのものになってて、博物館が出来るくらいです」

 

 アイヌ民族。明里にもようやく耳にした単語が聴こえた。本物に会うことなど、アイヌの子孫の話を訊かなければ彼女の時代では難しいが。

 

「なるほど……。そっちの世界は、本当にどんな風になっているんだろうね」

「期待しても、楽しいのは最初だけですよ」

 

 焚き火に手をかざし、冷えた体を暖めながら明里は小さく笑む。それは少しだけ、困ったような笑みだった。

 

『おっ、副隊長のお帰りだぞ!』

『ほんとだ』

 

 不意に明里には聞き慣れない声が更に二つ。いずれも女の声だった。

 

「おやまぁ、副隊長。しばらく見ない間に彼女ですか? ボクも負けてられない」

「ベルティーナ。相変わらず──本当に、その妙な一人称含めて相変わらずだな」

 

 気さくそうなショートカットの少女とイヴリンはハイタッチで再会の喜びを分かち合ったようだった。

 

「仕方ないでしょ。こうでもしないといけなかったんだから」

 

 ベルティーナと呼ばれたショートカットの少女は随分と陽気で気さくなようだった。

 明里の横に腰掛けると、彼女へ手を差し出す。

 

「よろしく、お嬢さん。ボクはベルティーナ・アッビアーティ、元准尉」

「あ、はい……ベルティーナさん」

 

 その距離の近さに驚く明里。身体的にも、精神的にも近い。

 

「ベルとか好きに呼んでよ。他人行儀なのはキライだからさ。これ、ロマーニャ人の()()だね」

「ろ、ロマーニャ……」

 

 知らない名詞がまた出てくる。ベルティーナという名の響きから推測すると、イタリアに当たる国だろうか。国名が違いすぎて、明里も考え付くまで少し時間がかかった。

 

「にしても、変わった格好してるよね。扶桑人?」

「いえ、あの……」

 

 矢継ぎ早、といった具合か。爪先から頭のてっぺんまでベルティーナは眺めて訊ねてくる。八十年後の洋服だ、よほど気になるのか、時々明里の上着に手をかけては物珍しそうに眺める。

 

「あまり困らせないでくれ。一般人なんだから」

「あはは! それは申し訳ない。珍しくて、ついついボクもね」

 

 明朗に笑うベルティーナ。しかし、その右手ではリボルバーが鈍い輝きを放つ。

 銃はイヴリンも持っていた。だが、彼女は出したまま。それが必要なほど気を張る巡回だったのか、思わず思考する明里。

 

「銃が気になる?」

「あ、ごめんなさい。見慣れなくて……」

「そうなんだ? この時世だし、いろんなところで見ると思ったけど」

 

 まだベルティーナたちは明里の話を知らない。イヴリンも一通り紹介が終わるまで話す気はないのか、ベルティーナへ銃はしまうよう指示を出して、それだけだった。

 

「次はわたし。いいですか?」

「ごめんよ。前もそうだったね、キミの話よく食っちゃったっけ」

「気にしてません」

 

 色白の少女は赤い瞳を明里へ真っ直ぐに向けた。赤いほうき星のようなマークが右胸に記されている。軍服だろう。

 彼女もまた、イヴリンが紹介した部隊では八重の袴についで珍しくスカートらしいものを履いている。丈はかなり短かったが。

 

「フェオドラ・コセンコ。オラーシャ空軍。イヴリンを連れてきてくれて、ありがとう」

 

 フェオドラと名乗った少女は小さく頭を下げる。

 

「い、いえいえ! 私はむしろ助けてもらった側で……」

「ううん。きっとイヴリンは諦めていたから。彼女の使い魔は、最初にわたしのところに来たの」

「フェオドラさんのところへ……」

「そう。でもわたし、部隊解散後は一度国へ戻っていて……」

 

 そう簡単には行かなかった。フェオドラはそう締めた。

 そして、イヴリンの使い魔であるイヌワシは、世界を飛び回ってネウロイと戦っていた元部隊員である、マルレーヌの存在をフェオドラから聞いたのだとも。

 

「消耗しきったその子を見て、私だってただ事じゃないと思った。けど私にも立場があったし、何より副隊長──カルヴァート少尉を迎える用意が必要だったのよ」

「犯罪者である私を迎えるために、こうした訳か」

「ええ。突貫だったけど、ビューリング少尉の手伝いもあって、脱出は上手く行った。──ただ、間近であの事件を見た数名は未だに見つかってないわ。少尉が殺したと思ってる筈」

 

 誤解、曲解、そして理解。様々な解釈が入り交じっている。明里にもそう感じた。

 では、紀子の判断は果たして合っていたのか。ネウロイとは何なのか、まだ明里には分からない。だがもし彼女たちに付いていくのだとすれば、恐らくその内出会うことになるのだろう。

 彼女の知る正史を書き換えた未曾有の敵である、そのネウロイに。

 しかし、その戦いで負傷した自分を足手まといと切り捨てさせた紀子の判断は正しかったのか? 

 

(結果としてイヴリンは捕まったし、まだ仲間は誤解してる。それにイヴリン自身も。紀子さんは、ちょっとだけ甘かったのかも)

 

 その場に居合わせた訳ではない。だから分かりはしない。だがもし、いくら見つからないとしても誤解したままの仲間から密告されたら? 

 もしかしたら、別な軍隊が何処からか見ていたかもしれない。

 イヴリンが即刻銃殺されないとも限らなかった筈だ。

 

(分かんないなぁ。頭が回らないのもあるけど、紀子さんはどういう心境だったんだろ)

 

 分かるわけがない。飛行機事故に巻き込まれたといっても、重傷を負って浜に転がった訳でもない。

 瀕死の重傷を負って、それでまともな判断が出来たのか。出来るわけが無いと断じる思考と、紀子が心の底から“軍人”であったと庇う思考が入り交じった。

 

「アカリ……? 大丈夫?」

「えっ──あっ!」

 

 イヴリンが心配そうに顔を覗き込んでいるのを理解して、明里は自身が深く考え込んでいたことに気付かされた。

 慌てて手を振る。

 

「な、なんでもないよ! ちょっと疲れたのかもしれないけど、大丈夫!」

「本当か? ウィッチじゃないんだ、ムリはするなよ?」

「うん。そうだ、私が挨拶まだだったよね? 私は堀内明里です。本当に、なんでここにいるかよくわからなくて……」

「ホリウチ……? 驚いたね。副隊長、キコ隊長と同じファミリーネームの一般人と営倉で知り合うなんて」

「へ……?」

 

 ベルティーナの言葉に、明里が固まった。傍らでイヴリンは申し訳なさげに頭をかいている。

 

「ゴメン。ファミリーネームで呼ぶ癖が抜けていてな。堀内紀子……それが、私の親友で、部隊の隊長の名前だよ」

「イヴリン、待って。偶然?」

 

 明里は何かに驚愕したようだった。様子がおかしい。いやにそわそわと忙しない様子だった。

 

「何かあったの? 勿体ぶらないでよ」

 

 マルレーヌが苛立ち始める。八重はその傍らで、弓の調整をしつつ視線は明里へ向けていた。フェオドラもだ。

 

「おばあちゃんの名前と同じなんです。あの、えっと……日本じゃなくて──扶桑? の文字で書ける方は?」

「書ける。私は、紀子とよく話していたから。集落(コタン)にもよく来ていた」

 

 八重は立ち上がると木の棒を拾い上げ、明里に寄り添って地面に文字を刻んでいく。

『堀内紀子』と、少々不恰好な文字が明里の前に現れた。

 

「こう」

「……文字も同じだ。偶然だと思うけど」

「そんなに珍しい名前じゃないと思ってた」

「そうですね。多分、偶然」

 

 偶然だ。あるわけがない。明里はそう断じた。飛行機事故で八十年前に行く事自体が信じがたい事象だったし、この程度の偶然はいくらでも転がっていると思えた。

 

「……でもそっか。アカリは紀子と同じファミリーネームなんだな。──彼女が巡り逢わせてくれたのかな」

 

 空を見上げ、イヴリンは感慨深そうに呟く。

 

「副隊長、今更気取っても遅いですよ。星を見上げるのは、ボクの得意技なんだから」

 

 ベルティーナがからかうと、イヴリンは笑う。

 いよいよ本題だった。ここからが問題だ。

 

「そうだな。見てもらう方が早いか。トゥシャールは見たな?」

「ええ。あの不思議な板でしょ? 確かに、この時代には無い物だわ」

 

 イヴリンは論より証拠で行くようだ。明里はすぐに、それがスマートフォンの端末だと気がついた。

 

「スマホですよね。どうぞ」

 

 ポケットから取り出し、サイドボタンを押す。暗い森の中、焚き火の柔らかな光に液晶の灯りが混じった。

 その灯りを不思議そうに眺めるイヴリンの部隊員たちはさながら光に群がる蝶か。

 

「これ、新型のライトかい?」

 

 不思議そうに灯りを眺めながらベルティーナ。

 

「実用的じゃない。狩りに使えない」

 

 八重は至極単純な断定を行う。

 

「でも、暗いところは……あ、消えちゃった……」

 

 自動消灯した液晶を、フェオドラは寂しげに眺めている。

 

「それがね、音楽も流れるのよ。レコードなんて入るスペース無いのに」

(本当にタイムスリップ物ドラマみたいな反応されてる……。仕方ないよね……これ、多分現実だし)

 

 脱出に居合わせたマルレーヌは分かっていたが、他のメンバーは単なるライト程度にしか思っていない。

 電話は使えないし、当然ネットワーク回線も拾えない。Wi-Fiなんて飛んでいる筈もなく、メールにソーシャルネットも使えない。となれば、他に使える機能といえば限られてくる。

 

「あの、皆さん焚き火を背に集まってもらえませんか?」

「何よ。不意討ちでもするの? 悪いけど、魔法力の無い一般人じゃ私たちウィッチには勝てないわよ」

 

 唐突な申し出だ。マルレーヌが警戒するが、イヴリンがそれを制した。

 

「アカリはそんなことしないよ。もし私たちを殺したければ、チャンスはあった。全員、集合」

 

 イヴリンの指示に合わせ、ぞろぞろと集まるウィッチたち。

 

「えと、集合写真みたいになりませんか? もっと横に広く……そうです」

 

 明里の指示で横に広く並ぶウィッチ。アプリケーションを立ち上げて、彼女はスマートフォンを横に構える。

 

「仕込み銃じゃないよね、まさか」

「ベルティーナもか……。まあ不安にはなるけど、銃ならそれこそ私をすぐに殺せた筈なんだ」

「……不安になるのは痛いほどわかりますけど、一瞬でいいので笑ってもらえませんか皆さん……」

 

 困惑する明里。仕方なしに、固い笑顔を見せたウィッチたちへ向けたスマートフォンの画面を、彼女はタップする。

 一瞬の眩い灯りと共にシャッター音が鳴り響いた。

 

「……兵隊さん、来ませんよね」

 

 やってしまった、と気付くには遅かった。しかし、基地からはだいぶ離れているようで、問題無さそうに皆は反応する。

 

「これ、どうぞ」

 

 集まったウィッチたちへ画面を差し出し、見せる。

 明里が使ったのはカメラ機能だ。1942年、フルカラーのカメラなど存在しない。しかし、ウィッチたちへ向けられていたのは間違いなく彼女たちを撮した姿だ。

 

「蓄音機どころか、カメラ? これ」

「本当は電話なんですけど、この時代には無い物なので使えないんです……」

「電話? これがか?」

 

 本来の使い途を聞いて、イヴリンですら驚いた。

 行き過ぎたテクノロジーは魔法と変わらない、とよく明里の時代のフィクションでは語られたものだが、まさか本職の魔女たちを驚かせることになるとは彼女も思わなかった。

 

「わたしたちの無線に周波数とかを合わせれば使えない?」

「無理だと思います。無線機とは違うので」

「なるほど。それはボクらのと同じだ。ホテルの電話で通信は出来ないだろ? 多分、それとコレは差が無いんだね」

 

 ベルティーナの順応力が比較的高いのが救いか。解説するにしても上手い言葉が出てこない明里には、非常にありがたい存在だった。

 なにより、電話自体はすでにある程度普及した時代だ。携帯電話が手離せなくなる時代はまだまだ先だが、認識としてはズレが少ない。

 

「で、結局これでイヴリンは何を説明したかったの?」

 

 八重がイヴリンへ問う。本題を忘れていた。イヴリンが額を掻きつつ、また申し訳なさそうに笑った。

 

「ゴメンよ、逸れた。いわく、明里は2020年から来たらしいということ。その謎の機械が、その証明ということだ」

「八十年後……? タイムスリップしたの?」

 

 フェオドラが問う。明里は否定した。

 

「厳密に言うと、私の知っている世界と皆さんの知っている世界の認識はズレているんです」

「営倉でコソコソ訊いたが、私の国はイギリスという名になっている。扶桑はニホンというらしい」

 

 イヴリンの記憶に間違いはない。明里は頷いた。

 

「つまり、また別なところから来たのがアンタってワケ? あーもう、なんなのよ……」

「まあまあ、マルレーヌ。混乱するのはお互い様だろ? ボクだって混乱してるんだからね」

 

 混乱する。それはどちらの立場に立っても同じだ。明里も認識のズレには少々頭を悩ませるところがある。

 

「それでどうだろう? 彼女がもし別な世界から事故で来てしまったなら、帰す必要もある。それに、フェオドラの言う通り私は紀子の言葉を忘れて死ぬ気で居た。生きてみたいと思わせてくれたのは、大なり小なりアカリなんだ」

 

 だから、とイヴリンは繋ぐ。

 

「だから、私はアカリを捨て置けない。集まってくれてありがとう。でも、恐らく解散した方がいい。皆まで軍に追われることになる」

 

 イヴリンが明里の傍らに並び、部下たちへ告げる。

 明里も忘れていた。自分たちは兵士を攻撃して逃げたのだ。イヴリンに同行した彼女も、次見つかればその場で撃ち殺されるに違いない。

 イヴリンはその危険を皆にまで背負わせられないと判断していた。

 

「やだなぁ、副隊長……いや、カルヴァート少尉。そんなこと知ってますよ」

 

 ベルティーナがそれを聞いてもなお、笑っていた。

 

「私が従うのは軍じゃない。紀子だった。今私が従うとすれば、それはここに来た仲間たち」

 

 八重も迷いなく告げる。

 

「だから言ったでしょ? 準備して脱け出させたのよ。今日は交替で仮眠をして、明日明朝に監視の目を避けるために低空で離脱。近くに廃棄された基地を見つけたから、そこへ一時的に退避する。そこから、あとはネウロイを潰しまくって名誉を回復するの」

 

 イヴリンは上官を撃ち殺したのだ。回復される名誉など無い。だがマルレーヌは、ブリタニア軍内部でさえ、イヴリンの処遇に対して意見が割れている事も調査済みだった。

 

「カルヴァート少尉を処分すれば後悔する。ネウロイとの戦争が続き、あなたが魔法力を失ったその後も。イヴリン・カルヴァートというウィッチが不可欠であることを、あえて見せるのよ。最初は話がわかりそうなウィッチの出来るだけ前へ──それからは徐々に、規模の大きい前線へ出向く」

 

 ただ、とマルレーヌはその視線を明里へ向ける。

 

「ただ、一般人がいる。それは想定外だったわ。だから、そこはあとで考えていく。もしくは、覚悟があるなら──アンタは今から一人で森を抜けて。ビューリング少尉のジープが走っていった道を慎重に行けば、森は抜けられるわ」

 

 マルレーヌは明里へ選択を迫る。ネウロイという彼女にとって未知の脅威との戦争、その渦中にイヴリンと共に飛び込むか。もしくはそれを避け、一人で抜け出し帰る術を捜すか。

 抜け出しても責める者などいない。手配はされているかもしれないが、軍は捜すとすればイヴリンを優先する、とマルレーヌは踏んでいた。

 

 明里の答えは、イヴリンの手を牢で取った時に決まっていた。

 

「行きます。連れていってください。雑用でもなんでも、役に立てることならします。私、一人でいても何も出来ないから……だから、手伝わせてください。助けられたのは私だから、イヴリンをもう一度祖国に帰れるようにする──そうしないと、私は帰れません」

「いいのね? 戦争よ。いくら別世界から来たと仮定しても、戦争が無かったワケじゃないわよね? 少尉をそこまでするのに、一ヶ月や二ヶ月じゃ済まないかもしれない。もしかしたら、失敗するかも。それでも、私たちと来るのね?」

 

 マルレーヌの問いに、明里は迷いなく頷いた。

 イヴリンが一人一人、アイコンタクトをしていく。異議のある視線は誰一人返さなかった。皆、現在犯罪者のイヴリン・カルヴァートというウィッチを信じていた。

 

「分かった。異議も出ないし、連れていくわアカリ。まずは一般人であるアンタと少尉が優先して休んで。少尉、基地へ下がってからの指揮は任せます」

「いいんだね? ものすごくリスクがある」

「くどいよ、少尉。基地についたら、隊長って呼ばなきゃいけないんだし、今のうちに副隊長呼びは止めておかなきゃね」

 

 リスクは承知。マルレーヌは先までそれなりのリスク、期間も承知した上で決行したようだ。ここに集まったウィッチたちは、少なくともそれに同意したことになるのだろう。

 来なかった仲間は、イヴリンに従えないと判断したに過ぎない。意識が変わるかはこの先の話だ。

 

「ありがとう。私のストライカーユニットは?」

「スピットファイヤMk.Ⅰbを用意してあります。別なユニットではありますが」

「ありがとう、トゥシャール。じゃあ、先に少し休むよ。アカリ、明朝はどんな恐ろしい思いをしても私を信じてくれるかい?」

 

 イヴリンが明里を見つめる。何をする気かは明里には分からないが、小銃を持った兵隊がうろつく基地を抜け出す事に比べたら、些細だろうと思えた。

 

「うん。何でもするって、言ったから」

「よし。ならなおさら、アカリは休むように。寝てしまって構わない。皆も、交替をするなら私だけ起こしてくれ」

 

 イヴリンに対し、それぞれが了解の旨を伝える。

 夜も深まり、明里にとって檻から出て初めての夜。時間は深夜だろうか、スマートフォンの時計は役に立たない。

 簡素な寝床も、檻の中より何億倍もましに思えた。明朝には大移動になるのだろう。新たな体験は不安だ、戦争など知らない時代に生まれた明里には尚更。

 だけど、寝返りを打つと見えるイヴリンの顔を見ると不思議と安心できた。信頼できた。何故かは分からないが、心の底で彼女についていけば大丈夫だとする思いがあったのは間違いない。




うわ、ひたすら書いてたら今度はまあまあ長くなりましたね……。
長らく1940年代には触れていなかったので、時代と物の普及や形態を調べるのが大変な話になりました。
もしかすると「42年には無いよ」とするものもあるかもしれません。一応充分調べながら書いています。

あとはキャラクターの武器や国による言葉遣いを考えるのも大変です。
字を知っている、知らないで明里の名前をカタカナに変えたりとか、階級を付けて呼んだりしなかったりとか。
ウィッチ組と明里との認識のズレを表現するのも大変です。
「え、こんな順応出来るか?」と思いながら書いてますが、そりゃ異世界転移なんて出来ないしそこはもうしょうがないよね、って。

次は恐らくガーリー・エアフォースの二次を更新するので、気長にお待ちいただけたらと思います。


最後に、アイヌウィッチ概念を教えてくれたフォロワーの方々に感謝を。
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