フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと- 作:鞍月しめじ
「ここはハズレだね」
燃料、車両捜索組であるベルティーナ。空っぽの車庫を眺め、彼女は両腕を頭の後ろに組んだ。
「燃料は……ダメね。放置されてかなり経ってるかもしれないわ」
ガソリン缶の中身を覗き、同じ班のマルレーヌもかぶりを振る。
不純物だらけで、仮に車があったとしても燃料として機能するとは思えなかった。
「んー、ボクもロンドンには出たいしな。車と燃料はあったほうがいいね」
「どうせナンパしたいだけじゃないの? アンタ」
「イヤイヤ。ボクとしては、部隊も皆魅力的だから。ただまぁ、買い出しついでにはね」
呆れたこと。ベルティーナの言葉に、マルレーヌがため息を吐く。こんなやり取りも初めてではない。ベルティーナはどこかナンパな雰囲気を漂わせて部隊にやってきた。
プレイボーイならぬ、プレイガール。マルレーヌがあしらったって、ベルティーナはあの手この手で食い下がった。
「買い出しはいいけど、アカリにまで手出さないでしょうね? 少尉のお客さんよ?」
曇天に変わった基地の中、別な車庫を捜して二人は歩く。
マルレーヌが問うと、ベルティーナは図星だったのかあからさまに視線を逸らした。
「まあ、アカリだってネウロイと戦わないだけさ。他の仕事を任せるんだ、立派な仲間だろ?」
「手、出す気だったのね」
「嫌がられてないしね」
「多分彼女、私たちにはイヤって言わないわよ……」
「それは……面白くない。断ることの大事さも教えてあげないと」
もう何も言うまい。マルレーヌから何か言葉を発することはなかった。
探索を続行、相変わらず重苦しい雰囲気を纏う曇り空の下を、ベルティーナとマルレーヌは目的の物を求めて歩く。
「ん……」
ふと、ベルティーナが何かを察知し足を止めた。建物の陰からこちらへ向けて、何かが来る。
「ベル? いったい──」
「黙って」
万が一もある。左手でマルレーヌを庇いつつベルティーナはホルスターからリボルバーを引き抜き、感じるままに建物の陰から飛び出した。
「──ッ!」
リボルバーを構えると、相手も弓を構える。弓だ、小銃などではなかった。
独特な改造扶桑陸軍軍装は八重のそれだった。他には恐らく存在しない。するかもしれないが、今この場に例外が居る筈はなく。
「なんだ、ヤエか。ビックリしたよ」
「射るところだった。次は気をつけて」
「はぁ……。こんな調子で大丈夫かしら」
頭を抱えるマルレーヌの傍ら、ベルティーナは華麗なガンスピンと共にリボルバーをホルスターへ収める。
「燃料はあった?」
「今のところは全部ハズレさ。車も何もありゃしないよ」
「そう。この先、文字が掠れてたけど多分六番? 倉庫で燃料の匂いがした。行ってみたら?」
思いがけない情報提供だった。見回りの八重から、思ってもいない情報がもたらされた。
「ありがとう、ヤエ。今度なにかご馳走させてよ」
「要らない」
「空振りかぁ……。ボクも腕、落ちたかな」
きっぱりと八重にデートの約束を断られたベルティーナは、マルレーヌを引き連れて六番倉庫とやらへ向かう。
その途中だった。
「ん、バイクの車輪かな」
放置されたままなのか、バイク用とおぼしきホイールの錆び付いた細い車輪が転がっている。都合良く、六番倉庫のちょうど前だ。
扉は固く閉ざされていた。期待が出来そうだ、とベルティーナが意気込んで手を掛けた。両手で必死に、全身を使ってスライドさせようと試みる。
「ふっ……! くゥッ! 開かない──!」
だが巨大な鉄扉だ、開く筈がない。どれだけベルティーナが歯を食いしばっても、扉は侵入者を拒み続ける。
「魔法使えば?」
「そうしようか」
あっさりだった。ただ、魔法力も無限ではない。むやみに使わないというベルティーナの判断が間違っていた訳ではない。
失念していたのは事実だが。
とにかく、魔力顕現の証拠として狼の耳と尻尾を見せたベルティーナ。非常にゆっくりだが、重厚な扉が鈍い音を立ててスライドしていく。だが、すぐに限界が見えた。
「む──ムリッ! 手伝ってくれないかな……っ!? マルレーヌ!」
いくら筋力も幾分か人間より優れているウィッチといえど、限度はある。無理をすれば身体を痛めかねない。
「ハァッ……。ホントに、それじゃ落ちる女の子もいないわね」
呆れ半分に髪を手で払うと、使い魔として従わせるライオンを顕現させ、魔法力を解放するマルレーヌ。
ベルティーナが扉を引き、マルレーヌが空いた隙間から押す。ウィッチ一人加わると、それは意外にもあっさりと開いた。
「はぁ……開いた。助かったよ、マルレーヌ」
「全く、汗びっしょりで言われても何もときめきゃしないわよ?」
「手厳しいね……。よし、調べようか」
体力を消費はしたが、ベルティーナも軍人である。この程度で這いつくばるほど軟弱ではない。
反対にマルレーヌは何事もなかったように涼しい顔をしているが、これは彼女の魔法に筋力強化が少し強く掛かっている為。ライオンを従わせる彼女の力は伊達ではなかった。
中に入った二人は懐中電灯で辺りを照らす。非常用として装備品に入れていたものだ。
扉も完全には開いておらず、内部は薄暗い。
「確かに燃料の匂いがするね」
「そうね。ちょっと隊長に連絡するわ、ベルは捜索を」
「了解、お嬢さん」
誰がお嬢さんだ。ベルティーナへ舌を出して反論しつつ、振り返ってインカムを押し込む。
「隊長、燃料は多分全滅です。不純物だらけで……」
〈あるにはあるのか?〉
「ええ。今、新しい捜索範囲を探っていますし。その前にもガソリン缶を幾つか」
マルレーヌの報告に対し、イヴリンが無線越しに唸る。よく耳を澄ませると、明里が慌てるような声を上げているのが聴こえてきた。
〈フィルターを捜そう。ろ過すれば、一時的には動かせるかもしれない〉
「何でろ過を?」
〈使えそうなものは使う。コーヒーフィルターでも行けるかもしれない、こっちで探してみよう〉
「うわっ! マルレーヌ、スゴいものがあったよ!」
交信途中に割り込んだベルティーナ。その声はイヴリンにもよく聴こえていた。
〈何があった? 報告してくれ〉
困惑を見せるイヴリンの声。ベルティーナは慌てたようにインカムを手で触れる。
「最新式のブリタニア製バイクですよ! トライアンフ3HW……少し埃かぶってるけど、状態は悪くない」
〈動かす燃料は? 無いんじゃないのか?〉
「それを探すんですよ。車両は引き上げてるか、破壊されてますね。コイツだけ置いてかれたんだ。なんにせよ、ロンドンへの簡単な買い出しくらいになら使えますよ」
なるほど。イヴリンが答えた。
〈わかった。こっちでコーヒーフィルターか何か捜してみる。ベルティーナ、マルレーヌの両名は、八重が行う基地警戒に協力すること。見つけた燃料をかき集めてからでいい〉
イヴリンの指示に了承の意を返す。燃料をかき集めて、この六番倉庫に保管しよう。マルレーヌが動こうとすると、彼女の後ろでけたたましい音が響いた。
「掛かっちゃった、エンジン」
ベルティーナは埃の被ったバイクに手を掛け、鼓動を打つように振動する車体のエンジンを吹かす。
低い唸りのようなエンジン音は重たく、それでいて力強い。回転数を上げようとすればそれは尚更顕著になった。
「……ガソリン集めにいくから、エンジン切って。あとバイクのエンジンはなんとかなったって、ベルから伝えてね」
もう何も言うまい。本当に言うまい。マルレーヌはバイクに夢中なベルティーナへ釘を刺すと、倉庫を後にした。
あとは明里が何か困っていなければいいが。出会って数日にも満たないというのに、マルレーヌは何処か彼女を気にせずいられなかった。
今回は欧州組です。プレイガールなベルティーナと、それを制するマルレーヌの組み合わせ。
結構お気に入りなコンビだったりします。
今回ではトライアンフ3HWというバイクが登場しています。
なかなかカッコいい軍用バイクですので、気になったら調べてみてくださいね!
次回は明里、イヴリン、フェオドラ組になります。お楽しみに。