フリーダムウィッチーズ-あなたがいたからできたこと-   作:鞍月しめじ

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第八話『そして怪異は目前に迫る』

「成果を発表しようか」

 

 六番倉庫。イヴリンは部隊のメンバーを集合させ、それぞれの成果を調べることにした。

 車両、燃料組であるマルレーヌ、ベルティーナの一番の成果であるバイクは静かに倉庫の真ん中に鎮座しているが、他にもまだ、ありったけ集めたガソリン缶があった。

 

「車両は全部破壊されたか、ブリタニア軍が引き上げたんでしょうね。残ってたのはコイツと──」

 

 ベルティーナが見つけたバイク、3HWのシートに右手を載せて語る。

 それから視線はガソリン缶へ。

 

「──不純物だらけのガソリン缶ならありました。これ以外は何も」

 

 それ以外には何も無かった。ベルティーナは申し訳なさそうに首を振る。

 

「いや、気にしなくていい。ひとまず走れるバイクを見つけてくれたお陰で助かった」

 

「本当にありがとうございました」

 

 実際に助けられた明里が深々と頭を下げる。

 ベルティーナがバイクを走らせなければ、明里もスタミナを切らしていたに違いない。

 

「気にしなくていいよ、アカリ。ボクが勝手にやっただけだからね。力仕事は大変だし、折角の綺麗な肌も汚れるだろう?」

 

「ベル、一言多いわよ」

 

 また少々ナンパな一言を加え入れるベルティーナを、マルレーヌがじっとりとした視線で睨めつける。

 

「マル、嫉妬かい? そうだね……じゃあマル、後で一緒にドライブでもしよう──」

 

 言いかけて、頭にマルレーヌのげんこつが落ちた。

 

「いっ──たぁ……」

 

 ぶたれた頭を抱えて屈み込んだベルティーナ。あまりに痛かったのか、涼しげだった表情は失せて涙目になっていた。

 

「少しは節操を持ちなさい! クルピンスキーさんじゃないんだから……」

 

「彼女にはボクなんかじゃ敵わなかったさ!」

 

「そうじゃないっての……!」

 

 口論も最高潮に達しようとした時、明里が手を叩いて場を纏めた。イヴリンでも誰でもなく、明里が場を制した。

 驚いたのはイヴリンだけではない。八重ですら、彼女の行動には驚いた。

 

「……不思議だ。紀子にもよくそうやって、手を叩いて口論を止めるクセがあったんだ」

 

「へ!? あ、ごめんなさい! 思わずクセで……」

 

 出過ぎた真似をしたと、申し訳なさそうに縮こまる明里。慌ててフォローするイヴリンも大変だ。しかし、何せ明里以外は皆軍人。彼女には遠い人間なのだ。ましてや、魔女となれば尚更だった。

 

「続きを話すべきじゃ?」

 

 会話の間、じっと物珍しそうにバイクを眺めていた八重だったが、話が脱線し始めたのを察知して声を上げる。

 

「じゃあ、次は私たちかな」

 

 イヴリンはそう話して、回収してきた銃火器を改めて床に整然と並べていく。

 大半はエンフィールド小銃と、その弾薬だ。それからブリタニア軍の制式ピストルであるウェブリーピストル。

 それ以外はカールスラントのMG34、リベリオンのM2重機関銃、ガリアのブレンガンなどウィッチ向けとおぼしきカスタムモデルだけだ。弾薬は少なく、試射をする余裕もない。

 

「エンフィールドもウェブリーも、状態がよくない。だが、MG34やM2といった比較的新型の武装があったのは奇跡だな」

 

「本当に……。どれもウィッチ専用ですね、ここはウィッチの基地だったのかな」

 

 MG34を持ち上げたベルティーナが不思議そうに呟く。ウィッチが配属されていなければ、当然こんな手の込んだカスタム銃など存在する意味がない。他の場所に配備すべきだ。つまり、彼女たちがたどり着いたこの基地は少なからずウィッチに関係のある基地だったのだろう。

 ネウロイ制圧下のガリア、ベルギカ共に近い。ブリタニアからウィッチを送り出すにはピッタリの場所でもあった。

 

「問題は、誰がこれらを使うかだ」

 

 イヴリンはベルティーナから機関銃を受け取り、改めて皆へ訊ねた。歩兵用の通常武器はともかく、ウィッチカスタムの機関銃類は強い味方になるだろう。イヴリン自身、多少揉めるのは想定していたが。

 

「隊長じゃ……ないんですか?」

 

「流石にボクたちは武器、あるしね」

 

「カタナに拳銃じゃ、ちょっと火力不足よね」

 

 フェオドラ、ベルティーナ、マルレーヌの意見はイヴリンが武器を増やすべきというもので一致していた。端から見れば扶桑刀一振りに、愛用してきたとはいえピストル一挺では不安も覚える。

 この先の戦いは激化すると予想できたし、イヴリンが火力増強を行うことに関しては誰も反対しなかった。

 

「MG34ならまだ歩兵向けですし、多少弾もあるんでしょう? なら、隊長はそれを使えばいい」

 

 ベルティーナは手に持ったままだったMG34を軽く放り上げて銃身を掴み取り、イヴリンへ差し出した。

 

「……いいのか?」

 

 やはり反論は無い。八重も特に興味はなさそうだった。

 ならば言葉に甘えよう。イヴリンはMG34を受け取り、天井へ銃を向けて照準器を覗く。感触は悪くない。ブリタニア製のボルトアクションでネウロイとの空中戦を繰り広げるよりは、よほど増しと言えた。

 

「監視報告、いい?」

 

 MG34の様子を眺めていたイヴリンへ、八重が踏み込んだ。彼女も重要な役割を担っている。

 イヴリンが報告を頼むと、八重は基地を見て回った感触を説明し始める。

 

「基地は放置されて、恐らく数ヵ月以上経過している。危険はない。肝心の通信設備は、一部の機器に不具合がありそうだけど、ちょっとした修理で直る」

 

 それから、と八重が続けた。

 

「それから、作戦指令室らしき部屋に地図があった。ベルギカ、グツェンホーフェン基地に向けて派兵の予定があったみたい。もしかすると、助けを求めているかも」

 

 長い横髪を手で軽く払いつつ、八重が報告を終える。

 ベルギカ、グツェンホーフェン。ガリアとどちらにしてもネウロイと戦う前線だ。ウィッチが居たであろう基地の者が、グツェンホーフェンへ兵を送ろうとしていたのなら、そちらへ向かってみるのも良いかもしれない。報告を聞いたイヴリンは顎に手を当て、最終決断を行うために思考を回す。

 

「よし、通信機器の修復を行いながらグツェンホーフェンへ向かう予定を立てよう。通信復旧次第、あちらの様子をうかがって再度目的地を考える」

 

「了解!」

 

 ベルティーナが敬礼と共に声をあげる。それから靴音と軍服の擦れる音が倉庫に反響するほどに力強く、綺麗な敬礼が全員からイヴリンへ向けられた。

 

「よし。そうだ、フェオドラ? コーヒーフィルターはあったかい?」

 

 すっかり失念していた。イヴリンは忘れていたことを誤魔化すように額を掻きつつ、フェオドラへコーヒーフィルターの有無を訊ねた。

 

「あるにはありましたけど、本当に少しだけでした……。燃料の量と釣り合うかどうか……」

 

 ブリタニアは紅茶の国と言っても過言ではない。モーニングティーにランチティー、ナイトティー。細分化すればこれだけでは済まない。そういった国の基地だから、むしろ少しでもコーヒーフィルターが見つかったのは奇跡と言える。

 ほんの少しのフィルターではあるが、燃料を濾す事が目的だ、気にはならない。

 

「上々だ、フェオドラ。ありがとう。よし、コーヒーフィルターは預かるとして、ここから暫く出撃を繰り返すことになる。いつブリタニア軍がこの基地へ帰ってくるか分からないが、巡回は定時のみとする。飛行訓練は暫く無し、各々イメージトレーニングだけは忘れないように」

 

 了解、とウィッチたち。イヴリンはそれから明里の方へ向きを変え、彼女へ別な指示を下した。

 

「アカリには料理だとか、身の回りの手伝いをしてもらう。それから、私が最低限のスタミナを付けられるように運動させるから、そのつもりで」

 

「隊長、アカリには色々やってもらうんだし、いざって言うときはボクたちで守れば……」

 

 ベルティーナが出した反論は、次の瞬間マルレーヌによって切り捨てられた。

 

「バカね。私たちは航空ウィッチよ? 空を飛べないアカリを、いちいち見てなきゃいけないの? それより、ネウロイの攻撃に晒された時が一番恐いわ」

 

 マルレーヌの語る通り、ここにいるウィッチは全て航空ウィッチだ。戦闘になれば全員が空へ上がるし、明里には酷だがいちいち護衛を付ける訳にもいかない。戦力を割く余裕は現時点では全く無い。

 ネウロイの攻撃に明里が晒されたなら、彼女には逃げる以外の術は無く、避難できる場所が近いとも限らない。そんな時に『もう走れない』などと泣き言を言う前に、ネウロイは明里を殺すだろう。

 軍人ほどの訓練は必要無いにせよ、明里にもいざというときのスタミナは必要だった。

 

「マルレーヌが言った通りだ。アカリ、君は一般人だからそれなりに手心は加えるつもりだけど、やれるかい?」

 

 イヴリンが問う。明里は生唾を呑み込んで不安でいっぱいになり始めた思考を振り払うように頭を振り乱す。

 大丈夫、心配ない。明里もここまで付いてきたのだ、むしろ望むところだと思うようにする。

 

「大丈夫。やれます!」

 

「いいね。凛々しい顔のアカリも綺麗だよ。オフが出来たら、ボクとデートしよう」

 

 明里へ歩み寄ろうとしたベルティーナの上着の襟が掴まれ、彼女はマルレーヌの元へ引き戻される。

 

「アンタは黙ってなさいってのッ!」

 

 そして二度目のげんこつがベルティーナに落ち、再び彼女がうずくまった。

 笑いに包まれる倉庫。しかし、気付けば分厚い曇り空の隙間から夕焼けの光が漏れている。

 

「よし、夜まで休憩にしよう。八重、指令室に案内してくれ。私は通信機器を見てみる」

 

「わかった」

 

 イヴリン、八重の二人は倉庫を後にして指令室へ向かう。残されたウィッチと未来の異世界から来た一般人、明里。

 彼女たちもフェオドラの提案で、宿舎へ向かうことにした。

 目的地は恐らくベルギカ。明里にはベルギカという国も分からない。認識がやはりズレている。しかし、この世界の敵であるネウロイとの戦闘は、もう間も無くだと考えていた。




目的地はベルギカ、グツェンホーフェン基地になりました。
今回は少し短いですが、個人的にはオーケーラインなので許してください。

ベルギカ、グツェンホーフェン。これも昔書いていたSW二次で出した基地になります。
早くネウロイと戦え()
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