「は、はじめまして!特型駆逐艦、電です。ど、どうかよろしくお願いします」
がらんとした執務室に上ずった声が響く。自分でも緊張しているのが伝わってくる声だ。
「はわわ…第一印象が大事なのに心臓がバクバクして落ち着かないのです…」
真っ赤になった顔を手で抑えながら深く深呼吸をする。
突如海から現れた謎の存在、深海棲艦。
人類と深海棲艦との戦いが始まって1年と少しが経過した頃、私は鹿児島県にある鹿屋基地の初期艦として配属が決まった。4大鎮守府でも無く、大本営のある中央からも遠い。そういった事情で配属先としてはあまりいい部類ではないらしい。でも仕方ない、戦いは得意ではないし事実適性テストの成績も悪かったのだ、文句は言えない。
それでも艦娘としてできることをしなければ。まずは司令官にちゃんと挨拶を、と思い練習をしているが、やればやるほどドツボにハマっているようだ。
「はぁ…こんな時叢雲ちゃんなら堂々としているのになぁ…」
いつも堂々としていた同期の顔を思い浮かべ自然とため息が出てしまう。
これではいけないと頭を左右に振り、部屋をぐるりと見て改めて不思議に思う。
「やっぱり司令官さんの荷物これだけですよね?」
昨日宅配で司令官さんの荷物が送られてきたが、部屋の片隅には段ボールが片手で数えるほどしかない。その代わりキッチンには様々な荷物や器具が届いていた。
そんな事を考えていた時だった。
「あっ!来ちゃったのです…!」
窓の外、基地の入り口からこちらに向かって歩いてくる男性を見つけた。白い制服を着ている。間違いない、あれが新しい司令官さんだ。
「と、とにかくお出迎えと挨拶なのです!」
急いで部屋を出て玄関へ向かう。心拍数が跳ね上がり、胸がギュッと苦しくなる。口の中が乾いてすぐに水が欲しいくらいだ。
「と、とにかく挨拶だけでもちゃんとして、後のことは成り行きに任せるのです!」
半ばヤケになりながら玄関に到着した時には、司令官さんはすぐそこまで来ていた。
「…っ」
しかしいざ正面に立つと声が出ない。緊張し過ぎで何も言えず、司令官さんの顔も見られない。視線を逸らし俯いてしまったその時、
「あなたが電さん?」
と穏やかな声が聞こえてきた。
ハッと顔を上げると優しく微笑んだ男性がそこにいた。
「はじめまして、本日鹿屋基地に着任しました佐藤 和洋(かずひろ)と申します。どうぞよろしくお願い致します。」
被った帽子を取りながら、深々とお辞儀をする姿に呆気にとられてしまった。こういう場合は敬礼をする筈なのでは?と考えていると、
「あっ!!!ご、ごめんなさい!着帽時は敬礼するんでしたよね。すみません、まだ軍属になって日が浅いものですから…」
慌てて帽子を被り直し、恥ずかしそうに敬礼する司令官さん。その姿がなんだかおかしくて自然と肩の力が抜けていた。そんな司令官さんの顔を見ていたら、私は大きな声で挨拶をすることが出来た。
「はじめまして、司令官さん。電です、どうかよろしくお願いします!」