甘党提督と響ちゃん   作:パティ

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期間限定海域

「期間限定海域?」

 

鎮守府周辺海域の制海権を取り戻した頃、大本営から艦隊に指令が届いた。それを聞いた司令官が怪訝そうな面持ちをしている。

 

「はい。深海棲艦は周期的に集まり、大規模な侵攻を仕掛けてきます。それを察知し、防衛・反攻作戦を実行するのが期間限定海域です。通常の海域と異なり、補給線を保つ事が困難なので作戦期間を過ぎると、行けなくなるのが特徴です」

 

「そんな作戦が…」

 

大淀さんの説明を聞いて司令官はポツリと漏らす。ケーキの仕上げ作業に使っていたパレットナイフを置いて司令官は改めて大淀さんに問いかける。

 

「そんな話がここに来るって事はうちにもその作戦に参加しろ、ってことなのかな?」

 

「いえ、それが少し妙な事がありまして…」

 

大淀さんが少し困ったような顔で2枚の紙を差し出す。

 

「1枚目は大本営からのいつもの指令書です。こちらには必ず参戦せよ、とあります。しかし2枚目は横須賀の中将からプライベートな回線で送られてきました。そこには本作戦には参加しなくてよい、と書かれていました。…提督なにかご存じないでしょうか?」

 

「横須賀の中将…」

 

司令官は少し考え込んだ後、

 

「おそらくこちらの事を心配しているんだと思います。横須賀の中将殿は私の提督着任の経緯も知っています。指揮経験の少ない者が限定海域に行くことに反対しているんだと思います。でも…」

 

司令官は申し訳なさそうに続ける。

 

「大本営からの指令を無視する訳にはいきません。中将殿のご厚意はありがたいですが、限定海域には出撃しないといけないでしょう。大淀さん、早速今回の作戦の情報をまとめてください」

 

「了解しました。すぐに取り掛かります」

 

指示を受けた大淀さんが足早にキッチンから出ていく。

 

「響」

 

その姿を見送ってすぐ、そばにいた私に声をかける。

 

「あの人がこんなメッセージを伝えて来るくらいだ、この限定海域ってのはヤバいのかもしれない」

 

「え?それってどういう…?」

 

「いや、思い過ごしならいいんだけど。…軍の内部でなにかあるのかもしれない」

 

いつも穏やかな司令官の面影は無く、強張った顔で遠くを見ていた。初めて見たその表情に一瞬たじろいでしまう。それに上官の事をあの人なんて、普段の司令官は言わないはず。

 

そんな司令官の顔を見て、私は司令官の事をまだまだ知らないんだ、と思ってしまう。

司令官の事をもっと知りたいと思ってしまう。

 

司令官は今何を考えているのだろう、それを聞こうとした瞬間、

 

「あーーー!!!生クリーム溶けちゃう!せっかく今日は自信作のイチゴムースのショートケーキなのにーーー!」

 

さっきまでの表情はどこへ行ったのか。司令官は大騒ぎでケーキを持って冷蔵庫へ向かう。

 

問いかける機会を失って私は言いかけた言葉を飲み込む。これからいろいろ知る時間も、聞く時間もあるだろう。そのタイミングでも遅くない。私は冷蔵庫の前で軽く凹んでいる司令官を励ますために、足を踏み出した。

 

こうして艦隊は初めて期間限定海域に挑むことになる。

 

作戦名は【AL作戦/MI作戦】




遅くなりましたが今回も読んでいただいてありがとうございます!

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