「なんだ…この戦力は…」
期間限定海域、北方AL海域の資料を見て、司令官が絶句する。無理もない、今まで私たちが戦っていた深海棲艦とは戦力が段違いだ。
司令官が限定海域に参戦を表明してすぐに、大本営から作戦概要と予想される深海棲艦の戦力データが送られてきた。しかしそこに書かれていたのは、強大な敵戦力だった。
さらに不可解だったのは、こちら側の作戦手順だった。
まず、鹿屋やそれと同時期に立ち上げた艦隊が先陣を切り、その後有力な艦隊が続くというものだった。先鋒を任されたと言えば聞こえはいいが、これは…
「人柱になってこい、ってことなのかな」
司令官が険しい顔をして呟く。考えたくは無かったがその考えはおそらく当たっていると私も思う。
軍属である以上、上の命令は絶対。戦争には犠牲が付き物なのも理解している。しかし司令官は私たちが傷つくのを極端に嫌がる節がある。本当に優しい人だ、司令官に向かないほどに。
「司令官…」
なんと声をかければいいか分からず、呼びかけるだけになってしまう。そこへ、
「提督、通信です。その…横須賀の中将からです」
大淀さんが声をかける。
「・・・」
司令官は無言のまま画面を向き、中将の通信に備える。
「やあ、久しぶりだね」
ほどなくして画面に穏やかなそうな老男性の姿が映し出され、司令官に声をかける。
「はい、着任前にお会いして以来ですね」
穏やかな中将とは正反対に、司令官は強張った顔を崩さない。緊張しているのかと思ったがどうやら違うようだ。
「そんな顔をしないでくれ。あいつのことは…」
「中将殿、お話は何でしょうか?わざわざ通信をされるくらいですから、なにか御有りなのでしょう?」
中将の言葉を遮るように司令官が言葉を投げる。その姿はいつもの司令官とはかけ離れていた。
「ふむ…。そうだな。用件とは今回の限定海域の事だ。指令書は確認したのだろう?」
「はい、たった今作戦会議の最中でした」
「ならちょうどよかった。指令書にあるように今回の作戦は難易度が高い。新設の艦隊には荷が重いだろう。それに君も気付いただろう?」
「・・・」
「北方AL海域の深海棲艦は強大だ。しかしその奥の海域には強力な敵は確認されていない。そこで、ある者が新設の艦隊や艦娘を犠牲に、AL海域の突破を狙う作戦の立案をした。反対意見もあったのだが、大本営もその作戦に最終的に賛成してな」
にわかには信じられない言葉に執務室がざわつきだす。
軍の一部とはいえ、そんな考えがあるとは。司令官は黙ったまま拳をギュッと握りしめている。
「中将殿。その作戦の立案をしたのは、どなたですか?」
司令官の低い声が部屋に響き渡る。
中将はしばらく黙っていたが、観念したように
「呉の提督だよ。君もよく知っている彼だ」
「あいつが…!」
「言っておくが直接抗議しようと思わないでくれよ。これは極秘事項だ。君たちもこの事は他言しないように。」
中将が私たち艦娘に口止めをする。その言葉に私たちは互いに顔を見合わせ頷く。
「重ねて言うがこの海域から手を引きなさい。艦娘の轟沈は君の本意ではないだろう。大本営には私が手を回しておく。優秀な提督は引き際を間違えないものだよ。なにかあればまた連絡してくれ」
「・・・分かりました。ご配慮感謝いたします。失礼します」
通信が終わり司令官は大きく息を吐く。疲れた顔でこちらを振り向き、
「みんな、聞いた通りだ。うちは今回の限定海域の攻略から手を引くよ。各自ひとまずは待機していてくれ」
と、力なく私たちに告げた。
それを聞いたみんなが各々執務室から出ていく。ちらりと司令官の様子を伺うと、怒りと悔しさとが混ざったような顔をしている。
呉の提督との関係。横須賀の中将の言いかけたこと。司令官の様子。分からない事だらけで胸の中がモヤモヤする。
「これからどうなるんだろう」
窓の外を眺めながら呟く。
こうして鹿屋基地最初の限定海域攻略は出撃なしという結果に終わった。順調に艦隊を運営していた司令官が、初めて立ち止まった瞬間だった。
梅雨イベントに集中していた為、長らく更新が止まってしまいました。すみません。また続きを書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!