東方戒龍伝   作:血塗れ剣王

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何度でも言います、語彙力が足りません!


序章
プロローグ


 桜のシーズンも終わった少し冷え込む満月の夜。街灯に照らされ薄暗くなった住宅地を、一人の青年はゆっくりとした足取りで歩いていた。

 

 そんな青年の名前は、アルト・ドラグレッド。

 

 優しそうな印象を受ける顔立ち。烏を連想させる真っ黒に染まった髪に、透き通るような黒い瞳はまるでガラス玉のよう。

 

 だが、服装は薄青色のジーンズに黒の長袖Tシャツ、その上にチャック式の黒のパーカーと容姿に見合わない地味な見た目だ。

 

 

 そんな彼、アルトは先程仕事を終え、家へ帰っている途中だった。

 

 しかし、その家は実家や自宅という類いのものではなく、赤の他人である六〇歳過ぎの夫婦が住んでいる家だ。

 

 これには勿論ちゃんとした理由がある。

 それは、今から約四年前に遡る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ある日の夜、夫婦が買い物から帰る途中、公園を通りかかった時だった。

 

 先程まで仲良く会話をしていたハズの二人の表情は一変した。

 それもそうだろう。公園の中央に、青年が仰向けで倒れているのだから。

 

 二人は直ぐに青年へと近寄り声をかけた。

 二度ほど声をかけると、青年はうっすらと目を開け始め夫婦は一先ず安堵した。もし目を覚まさなかった場合、最悪救急車を呼ばなければいけなかったからだ。

 

 目を覚ませばもう安心だ。そう思うや否や夫婦は青年の身体を起こし、疑問を投げ掛ける。何故こんな場所で倒れていたのかが気になったからだ。

 

 だが、青年はその問いかけに返事をしなかった。

 ──否、出来なかった。

 次第に青年の顔は青ざめていき、いきなり頭を抱え出したかと思えば震え声で短い言葉を発した。

 

 

「わから、ない……。思い出せない……!」

 

 

 最初、夫婦がこの言葉を聞いたときは、酒にでも酔って記憶が欠落しているのだろうと、そう軽く捉えていた。

 

 ──しかし、後に夫婦は青年のこの言葉が表す意味の重さを思い知った。

 

 夫婦は、取り敢えず青年が目を覚ましたことを確認できた為、このまま一人で帰れるのかを尋ねた。もし帰れないのであれば、近くの交番に行って後は任せよう、そう考えていた。

 

 だが、青年は頭を抱えたまま、短く、そしてハッキリとした答えを返した。

 

 

「──帰る場所が……分からない……」

 

 

 そこで夫婦は、思わず「えっ?」と言葉を発せずにはいられなかった。あり得ないからだ。

 

 たとえ酔いが残っていたとしても、人というのは帰る場所はほぼ必ずと言ってもいいほど覚えているものだ。

 

 何より青年には酔いが残っている様子は窺えない。つまり、帰る場所が分からないなど絶対にあり得ないのだ。

 

 夫婦は理解が出来なかった。

 だが、次第に一つの可能性が浮かび上がる。

 

 ──記憶喪失。

 

 それを思い浮かべた瞬間、夫婦は青年の言葉の意味を理解した。

 何故、何も思い出せないのか。何故、帰る場所を思い出せないのか。

 

 酔っているから? とんでない。そんな、軽いものなどではない。それよりももっと、もっと重いものだ。

 

 だが、それはあくまでも可能性に過ぎない。夫婦は更なる確証を得るために、青年に質問を投げ掛けた。

 

 しかし、夫婦の思い浮かべた可能性は見事に的中してしまい──辛うじて覚えていたのは、アルト・ドラグレッドという名前だけだった。

 

 

 そして、この出会いから四年。アルトの記憶が戻るまでの間、夫婦は彼を居候させている。

 

 アルトとしては、とてもありがたい限りだ。記憶の無いまま放置されていれば、どのような危険な目にあっていたか想像することも恐ろしい。

 

 だからこそアルトは考えた。ただ居候させてもらうだけで良いのか、と。

 

 答えは否だ。記憶がいつ戻るか分からないのに、その間夫婦に苦労ばかりかけるのは恩を仇で返すようなもの。

 

 ならば、自分には何が出来るのだろうか。

 アルトは考えながら、とにかく自分に出来ることをやることにした。

 

 買い出しの代役から始まり、掃除、洗濯、炊事と、徐々に出来ることを増やしていった。

 

 最初の頃は、記憶喪失のため右も左も分からなかった。

 しかし、今となっては全てをそつなくこなし、その殆どを請け負っている。(もちろん、記憶が戻りこの家を去ったあと、夫婦がアルト無しでも生活出来る程度にだが)

 

 そんな中でも最も長けていたのが炊事、つまり料理だった。

 アルトは一度教えてもらうだけで全てを吸収。それどころか、味を昇華させ、アレンジを加えるなど破格の才能を見せた。

 

 その才能を味わうや否や、夫婦の夫は友人が経営しているという料理店で働くことを薦めた。

 

 断る理由も無いのでアルトは快く承諾。今日この日まで働き続けてきた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 アルトは仕事の疲れを感じ軽くため息をつく。

 だが、それと同時にやりがいも感じていた。料理は好きだし、何よりお客が自分の作ったものを美味しそうに食べているのが堪らなく嬉しいからだ。

 

 

(けど、今日はやけに混んだからなぁ……。流石に疲れた……)

 

 

 苦笑い混じりにそう思い、短く背伸びをする。

 家にはもうすぐで着く。帰ったら一番に風呂でも入ろうか。

 そう考えながら十字路の角に差し掛かった、その時だ。

 ドンッ。という音とともに衝撃がアルトを襲う。

 思わず体勢を崩すが、なんとか持ちこたえ衝撃が襲ってきた方を見る。

 

 そこには、同じくなんとか衝撃から持ちこたえていた女性がいた。

 

 金色に輝くロングヘアーに希少な紫目を持ち、数多の男達を惹き付けていきそうな整った顔立ち、それに見合ったグラマーな容姿が更に彼女の美しさを引き立てている。

 

 服装は紫のオールインワン、手には純白のロンググローブを付けており、頭には赤いリボンを飾ったナイトキャップのような白の帽子を被っている。

 

 とにかく女性の美しさ足るや、たった一言だけでは表すことが難しい程の美貌に満ち溢れていた。

 

 そんな女性と街角でぶつかったのだ、どんな男性でも頭の中で例のラブソングが流れ始めることだろう。

 

 しかし、アルトの脳内にはラブソングが流れなかった。

 それどころか、女性の美しさに対しトキメキを感じることもなく、沸き上がったのは──何故か嫌悪感だった。

 

 もう一つ、謎の懐かしさも感じているのだが、嫌悪感がそれより勝っている。

 

 アルト自身、何故こんなにも嫌悪感が沸き上がるのかわからない。懐かしさも感じているから、過去に──記憶が消える前に何かがあったのだろうか。

 

 

「ご、ごめんなさい。前を見ていなくて」

 

 

 そんなことを考えていると、女性は謝罪をしてきた。

 やはりと言うべきか。女性の声は容姿に見合った美しい声だ。

 だが、アルトはトキメキを感じることは無い。

 それどころか、声を聞いて更に嫌悪感が高まっていた。

 ここまで来るともう訳がわからない。

 増幅する嫌悪感、そして謎の懐かしさ。

 この二つから考えると、この女性とは記憶が消える以前から面識があり、声と容姿だけで嫌悪感を抱く程のことがあったのは確実だろう。

 

 しかし、それを思い出そうとするのだが、何も思い出せない。

 そんな中、女性はアルトの顔を見た瞬間、目を見開き口を開けてしまうほど驚愕した表情を見せると、

 

 

「ア……アルト……!」

 

 

 ──アルトの名前を口にした。

 やはりな、アルトはそう思った。

 こちらがなんとなくではあるが認知してるというのに、女性側がこちらを認知していないのはおかしいのだ。

 

 とは言うものの、女性がただそっくりなだけならば話は変わっていたのだが、その確率はかなり低かっただろう。

 

 とりあえず、そう考えたアルトは女性に質問を投げかける。

 この女性が自分の記憶に関係しているのなら、ここで記憶を少しだけでも取り戻しておいた方が後々都合がいいだろう。

 

 

「どうして俺の名前をご存知なんですか?」

「えっ……!? わ、私が誰か分からないの!? 私よ、私!」

「なんですか、新手のワタシワタシ詐欺ですか? というか、分からないから聞いているんです。貴女、何者なんですか?」

「嘘……一体どういうこと……?」

 

 

 すると、女性は何かボソボソと呟きながら思案し始めた。

 どうやら、女性側は何か予想外のことが起こっているようだ。

 そして、そんな光景を眺め続け数十秒後、女性は再びアルトと視線を合わせる。

 

 

「とりあえず、そうね……。貴方、本当に私のことが分からないの?」

「えぇ、さっき言った通り、俺は貴女のような女性は知りません。正直、初対面の人に名前を当てられてるんで、今すごく怖いですが」

「そ、そう」

 

 

 そう言うと、女性はまた思案し始める。

 対しアルトは女性の顔を見つめ続けていた。

 この女性は絶対に自分の記憶の中に居るはずなのに、何故か未だに思い出せない。どれだけ思い出そうとしても、何か強いものに邪魔をされている、そんなイメージだ。

 

 そのとき、突然女性の表情が笑みに変わった。それも、不気味なほどの満面の笑みだ。

 

 アルトはその笑みを見た瞬間、背中にムカデが這い上がってくるような悪寒を感じた。

 

 そして、なんとなく感じ取る。この女性は今、何かを企んでいることを。

 

 

「コホン。突然お名前をお呼びして、大変失礼いたしましたわ」

(なんでいきなりお嬢様口調になったんだ……)

「恐らく貴方もお分かりになられているでしょうが、私は貴方のことを知っていますの」

(違和感しか感じねぇ……)

「そ、そうですか。……あの、それで貴女は一体……?」

「申し遅れましたわ。私の名前は──八雲 紫(やくも ゆかり)と申します」

 

 

 その瞬間、アルトの頭に激痛が走った。

 それは、今まで感じたことも無かった痛み。

 例えるならば、頭を思い切り鈍器で殴られ、一番痛いと感じる瞬間が永遠に続いているような。

 

 アルトは思わず膝から崩れ落ち、痛む頭を抱え込む。

 

 

(なん……だ……これ……ッ!? あ、頭が割れ……る……!)

 

 

 何故、突然こんな痛みが襲ってきたのだろうか。アルトには最早そんなことを考えられるほどの余裕は微塵も無かった。

 

 今はただ、呻き声を上げ、痛み続ける頭を抱え込むことしか出来ない。

 

 そんなアルトを見て、女性は笑みを浮かべたまましゃがみこむアルトの耳元で囁き始めた。

 

 

「アルト・ドラグレッド、思い出しなさい……。八雲紫という人物を……。

 慈悲の心に満ち溢れ、母の如し包容力を有し、いかなる状況をも己の思うがままに出来る策士であり、世のどんな女性よりも秀でる永遠の美を持ち合わせた、八雲紫という人物を思い出すのです」

 

 

 その囁きはまるで、神の導きを代弁する聖職者のよう。

 だが、囁いている内容としては全くの正反対。己がどういう人物なのかを過剰なまでに誇張しているようにも聞こえた。

 

 女性は、してやったりと言いたげな笑みを浮かべ、傍から見れば最早ただの悪女だ。

 しかし、アルトの反応は予想に反するもので。

 

 

(……痛みが……引いたな……)

 

 

 女性の囁きを聞くにつれ、先程までの激痛が嘘のように引いたのだ。

 

 何故引いたのかは不明だが、いつまでもあの痛みを感じていたらおかしくなりそうだったため、アルトは深くは考えなかった。

 

 しかし、激痛のなかで八雲紫という人物が過去の記憶に関係していることはハッキリした(結果的に何も思い出せてはいないのだが)。

 

 

「……あ、あれ?」

 

 

 すると、女性はアルトの反応の変化に気づく。

 アルトが顔を上げると、女性は予想外と言いたげなひきつった笑顔を浮かべていた。

 

 

「も、もう頭は大丈夫なのかしら?」

「えぇ。貴女の意味不明な囁きのおかげで痛みは完全に引きましたけど」

「あ、あれぇ……?」

「貴女、一体何がしたかったんですか……。まさか、俺の記憶の改竄をしようとしてたんじゃ……」

「ままま、まさか! そんな訳ないじゃないの!? 私はただ貴方の記憶を戻そうとね!?」

 

 

 戻すためにあそこまでの強調は要らないだろうと、アルトは呆れを感じざるを得ない。

 

 だが、アルトは冷静に場の状況を整理し、女性が知っていそうな情報を得ようと質問を投げ掛けた。

 

 

「……まあともかく、貴方は本当に何者なんですか? 俺の記憶に関係してますよね? 何か知ってたりするんでしょうか?」

「……そう、ね。貴方の記憶は出来る限り早く戻さないといけないものね。……(記憶の改竄も失敗しちゃったし)……」

(おっとぉ、今完全に聞き逃しちゃいけねぇセリフが聞こえたぞおい)

「だから、全てを語りましょう。貴方の失った記憶の全貌を。貴方は何者で、私は誰なのか。その真実をすべて。

 ──だけど、話すと長くなっちゃうから直接見た方が早いわよね」

「ハッ?」

 

 

 その瞬間、アルトの足元が裂け無数の目玉が広がる気味の悪い空間が現れた。

 

 

「ちょっおいふざけんなぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──」

 

 

 そして、アルトは重力に従って空間へと落ちていき、それに対する怒号すら飲み込み裂け目は閉じられた。

 

 その場に一人残された女性は、何処から取り出したのか日傘をさし、扇子で上品に口許を隠す。

 

 

「……漸く見つけたわよ、アルト・ドラグレッド」

 

 

 女性は先程までアルトが立っていた場所を見つめ、暫くして天を仰いだ。

 

 

「……短いようで、長い時間だったわね」

 

 

 その声色には、明らかな達成感を感じられた。

 まるで、長旅の末に自分の求めていたモノを見つけられたような。そんな達成感が。

 

 

「……さぁてと、アルトは帰還させたし、私も帰りましょうか。

 

 

 ──幻想郷へ」

 

 

 そう呟いた女性は、もうその場から姿を消していた。

 そんな出来事が起こった今宵の月は、夜の暗黒を眩しく照らす満月だった。

 

 




うん、紫さんの扱いが酷い(笑)

次の投稿は何時になりますかね…。頑張ります!
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