僕のヒーローはハードスーツを着ている   作:壁のほこりバスター

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先生は忙しい

“個性”が蔓延し、通常の人間の身体能力を競うだけのオリンピックは衰退し消えた。

現代日本では、雄英体育祭はオリンピックに変わって日本国民を熱狂させている。

諸外国も似たようなイベントで国威発揚をし、蔓延るヴィランの潜在的脅威を忘れて一時の平和を享受するのだ。

 

雄英体育祭は、日本国民全員が注目すると言っても過言ではない。

政治家、官僚、文系、理系、無“個性”、偉い人、下っ端、ブルーカラー、ホワイトカラー、老若男女、ヒーロー、ヴィラン、問わず皆が一度は見る。

ヒーローは未来のサイドキック(相棒)や弟子の発掘、ヴィランは未来の大敵のデータ集めの名目でより熱心に見る。

当然、雄英高校関係者以外も見に来る。

他校の教員も来る。

 

何十夜ものデスゲームを潜り抜けたあの男も、出張の名目で来るのは当然のことだった。

今では士傑高校の教師なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育祭本番当日…朝早く。

雄英高校のヒーロー科1年A組、芦戸(あしど)三奈(みな)は桃紫色の肌と昆虫を思わせる角を持った異形系の少女だ。

所謂、悪魔少女的な見た目をしているが、秀才鬼才天才揃いでおまけに美女揃いの雄英高校に相応しく美少女である。

そして、この年頃の少女らしく恋バナが大好物で、しかも恋関連の観察眼や()()()を嗅ぎつける能力が凄まじい。

もうじき体育祭の幕が開く。1年A組の少女二人が軽い偵察の為、会場に前乗りしていた。

 

「あれ?」

 

その芦戸三奈が、担任ではないものの色々と縁深い教員、ミッドナイトこと香山睡を見て違和感を感じた。

 

「どうしたの?三奈ちゃん」

 

カエルっぽい、これまた美少女と呼んで差し支えのない蛙吹梅雨(あすい つゆ)が素っ頓狂な声をだした友人を首を傾げながら見る。

 

「梅雨ちゃん、見て。ミッドナイト…香山先生さ、ちょっと雰囲気違くない?」

 

「…ケロ」

 

プレゼント・マイクやイレイザーヘッド、校長も交えて話し込んでいるミッドナイトを、蛙吹はジッと観察する。

 

「…確かに、いつもと化粧が違うわね」

 

「だよね?……あれって…ひょっとして…」

 

芦戸三奈がククク…と笑う。

 

「雄英体育祭は全国放送の人気番組だから、化粧を変えたんじゃない?」

 

「違う!違うよ梅雨ちゃん!いつもの香山先生より、ほら!薄化粧じゃない!?リップの色もナチュラル系!」

 

「…ケロ」

 

蛙吹梅雨も年頃の少女。人並みに化粧にも興味があるが、芦戸三奈ほど詳しくはない。

だが観察眼はある。

 

「確かにそうね」

 

「ほらそうでしょ!?キタこれーー!!」

 

「なにが?」

 

「香山先生だよ!?ミッドナイトだよ!?18禁ヒーローだよ!?いつも学校でさえバッチシメイクで色気振りまいてるのに、全国放送の体育祭であんな抑えめメイクに変える!?」

 

「うーん、カエルかも…?ケロ」

 

「変えないよ!先生の性格上絶対変えない!これは恋の予感だよ!!」

 

「…三奈ちゃんはすぐに恋バナに結びつけるのね」

 

「薄化粧好みの彼氏が見に来るんだよ!香山先生、すっごい美人なのに男の噂聞かないのは、きっと遠恋の一途な恋愛してるんだよ!」

 

関係ない話しも恋バナに結びつけたいという芦戸三奈の信念が、とんでも推理を完成させていた。

蛙吹梅雨も、無表情と思われがちな愛嬌ある顔を少し困らせて首をまた傾げた。

 

「おーい、お前らもうじき時間だぞー控え室行くぞー」

 

勝手口の方で、手を振りながら電気少年・上鳴が呼ぶ。

 

「はいはーい、今行くよ~」

 

芦戸と蛙吹はとてとてと歩きながら、「ね…、これは秘かに香山先生チェックだよ、梅雨ちゃん!」「そうなのかしら」他愛も無い会話を継続させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年の1年主審はミッドナイト。

念入りに打ち合わせをし、そして会場を盛り上げながらも大事故も無く無難に会を進行させていった。

だが、ミッドナイトは秘かに、しかし割と必死に数千人以上を収容できる会場の客席…とくに他校からの来賓席を素早くチェックし続けていた。

 

「さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど~~~~~…!!」

(…あっちの来賓席にもいないの!?あいつ…ほんとに来てんでしょうね!?今朝のLIMEも既読スルーして!!)

 

司会進行しつつ、目当ての人物が見つからない憤慨も募らせる。

 

「あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします!それじゃ、これより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!!」

 

基本的ルールを説明し、15分のチーム決めタイムを取り、そしてミッドナイト自身もその時間を有効利用する。

目を皿のようにし、他校教員のゲスト席を片っ端からチェック。

チェック、チェック、チェック…。

 

「…ぬ、ぬ、ぬ」

(あいつ…まさか、ステルスで隠れて見てるとか)

 

壇上で、爪をかじってイラつくミッドナイト。

 

「……15分経ったわ…………それじゃあ、いよいよ始めるわよ……」

 

時間が来てしまい、何やらテンションが下がっている雰囲気のミッドナイトに生徒達も あれ? という顔。

 

「なんかミッドナイト、不機嫌?」

 

麗日お茶子がコソッと緑谷出久に耳打ちすると、背後の峰田が「生r――」何かを言いかけて蛙吹梅雨のベロ攻撃で頬を強打されていた。

 

「…いひっ。ねっ、ねねっ、梅雨ちゃん…」

 

コソッと芦戸三奈が梅雨の隣に来て耳打ち。

もうじき敵味方に別れて点数の奪い合いをするというのに…一体どんな重要事だ、と蛙吹は芦戸に耳を貸す。

 

「やっぱミッドナイトの様子変だよ~!きっと彼氏見つからないんだって!」

 

「…またそれ?三奈ちゃん、ちょっといい加減にしておきましょう。今はそれどころじゃないし」

 

「ちぇー…はーい」

 

友人の忠告を受け入れ素直に引き下がる。

ここはこれで終わり、流れていったのだが…。

盛り上がりを見せた騎馬戦も終わり、午後のトーナメント戦に向けて昼の休憩に入った時、ミッドナイトは午後の部の進行の再確認を運営委員達と行い、自分も昼飯にしようと控室に向かおうとする。

すると通路に、背の高いスーツ姿の男が立っていた。

髪は七三、メガネを掛けた男。

 

「…あっ!?」

 

「なんや、デカイ声だして」

 

変装(そっち)で来てたの!?あー、しまった…その線を考えて無かったわ…」

 

「変装やない。正装や」

 

教員というのは出張し他校に赴くときはスーツ。これは基本である。

だがミッドナイトにも言い分はある。それももっともらしい言い分だ。

 

「教員と言えどもヒーロー!ヒーローの正装はヒーロースーツ!これは常識よ!」

 

「…別にヒーローのピンポンマンとして来たわけちゃうしなぁ」

 

「それ、ヒーローとしての気の緩みなんじゃないの?

ヒーローなら常にヒーローらしくなさいな」

 

つかつかヒールの音高らかに岡八郎へ寄ると、ピシリと整っていたネクタイを掴んで長身の彼を引き寄せてミッドナイトは蠱惑的に微笑んだ。

 

「ほら。油断してるからこんな簡単にあなたの首根っこ、捕まえられる」

 

「おいおい。人目を気にしぃや。ここはお前の学校(職場)やろが。

こんな際どい光景、学校に広まったら…停職で済めば御の字やな」

 

「あら?私は18禁ヒーローよ?この程度日常茶飯事なのよ」

 

ミッドナイトがネクタイを引っ張る力を更に強めた所で、岡八郎はようやく抵抗した。

あっという間にミッドナイトの腕を捻って逆に己の胸へ引き寄せる。

 

「きゃっ、あ、あら…なんだ。やっぱりその下にヒーロースーツは着てたの?」

 

「アホ。この程度ガンツスーツ無しでも出来る。ほら、まだ仕事中だ。さっさと行ってこい」

 

岡がミッドナイトの背を押して仕事へ向かうよう後押しすれば、

ミッドナイトは口を尖らせてぶーたれつつも歩を進めるのだった。

だがすぐに振り返って彼を見る。

 

「すぐ帰らないでよ!終わったら飲み行くわよ!」

 

「…日帰りで副校長に報告せなアカン」

 

「んなもん電話でいいでしょ!久しぶりに会えた私と仕事、どっちが大事!?」

 

「わかったわかった。わかったから行ってきぃや」

 

「ん。それでよろしい♪」

 

うんうんと満足気に頷きながらミッドナイトは廊下の向こうへと消えていく。

岡八郎も決して嫌なわけではないし、彼女との交流が面倒なわけでもない。

面倒ならばわざわざ運営サイドが通るこの廊下で彼女を待ちはしない。

岡八郎の目的の一つは、間違いなくミッドナイト…香山睡だった。

普段からポーカーフェイスの岡八郎で、さらに今はスーツにメガネであるから感情の変化が読み取り難いが、岡八郎にとっても彼女との短い交流は楽しいものだった。

微かに笑い、去っていくミッドナイトの背を見送る。

 

 

 

 

 

そしてその光景を陰から覗く三対の目。

芦戸三奈、蛙吹梅雨。と、今度はその二人に麗日お茶子までが加わっていた。

どこか目を輝かせ、そして頬を薄っすら染めている顔が串団子のように縦に連なって壁の陰から飛び出している。

 

「お、大人の恋の駆け引き…!?」

 

「ケロ…まさか三奈ちゃんの妄言が…当たってた?」

 

「う、うわぁ…さっきのネクタイくいってやるの…ドラマとか映画でしか見たことない…」

 

そんな風にキャッキャと小声で騒いでいる。

勿論、やり手のヒーローであるミッドナイトも、ピンポンマンこと岡八郎も彼女らに気づいてはいた。

だが、ミッドナイトも言った通り、別にこのレベルまでなら見られようが全く問題ないのだ。

雄英高校ではミッドナイトの過激さは有名で、この程度今更…といった感がある。

〝行為〟にまで至っていなければセーフ。

そういう風潮が彼女には出来上がっているし、またプロヒーロー・ミッドナイトの仮面を外し、香山睡の顔になれば彼女は貞操観念もしっかりした出来た人間だ。

過激なセクシーを売りにする18禁ヒーローとメディアにも騒がれるものの、ミッドナイトのスクープとしてそういう不純異性交遊がスッパヌカれた事はない。

それを芦戸三奈は何やら納得した顔で考察していた。

 

「ほーら、やっぱり香山先生は決めた人がいたんだ!だから18禁ヒーローの割に浮いた話一個もないんだよ!」

 

その言葉に、今度は特に否定も疑念も抱かない蛙吹。

麗日お茶子も同意の意を込めて何度も首を縦に振っていた。

 

 

 

 

 

―――

 

――

 

 

 

 

 

 

早いもので、もうじきプロヒーロー仮免試験である。

今年度の参加者は、2年生学級委員長の毛原長昌、肉倉精児、現見ケミィ…そして、1年の夜嵐イナサ。

特に、ヒーロー科の教員として、岡は1年の夜嵐に期待してしまう。

西の士傑、東の雄英と謳われるヒーロー育成機関としての双璧…夜嵐イナサはその東の雄英の推薦1位合格を蹴って、この士傑高校に入学してきた傑物であった。

教員達の満場一致の推薦もあって、特例で夜嵐イナサは受験を認められたのだ。

 

「夜嵐イナサ」

 

「あっ!岡先生!こんちわッス!」

 

「お前、今度の仮免試験に出るか?」

 

「え!?出ていいんスか!」

 

「1学期の成績見るに、イケるやろ。まー、落ちてもともとや。腕試しがてら出たいなら出てえーぞ」

 

「出るっス!出るっス!!」

 

「なら、これに目ェ通しとけ」

 

「ウス!!」

 

毬栗頭の巨漢が(190cm)ぴょいこらぴょいこら跳ねるものだから廊下の天井にぶつかりそうだ。

興奮してる為か“個性”の〝旋風〟でジャンプにブーストがかかっているから尚更だ。

吹き上がる風に岡は目を細める。

 

「おい、イナサ。風引っ込めーや」

 

「え!?出ちゃってるっスか!?」

 

二人の後ろで女生徒がスカートを押さえて「キャー!イナサくんのエッチ!」と叫んでいる。

 

「うわぁ!?すんません!!女子になんてハレンチな真似をっ!!どうも!大変!失礼致しましたァ!!」

 

廊下の床に頭突きをするぐらいにダイナミックに頭を下げて謝るイナサ。

床に毬栗頭をごりごり押し付けているイナサを尻目に、岡は他の受験予定生3人を探す。

階を昇り、2年生エリアを彷徨えば目当ての生徒はすぐ見つかる。

 

「…毛原」

 

「岡先生。何用でしょうか」

 

毛むくじゃらの、これまたガタイの良い男…毛原長昌。

〝伸毛〟の“個性”のために、王道的な雪男の容姿…或いは、某有名銀河戦争SFフォース映画に出てくるウーキ○族的な見た目で、表情は窺いづらいが実直で誠実な男だ。

教員の指名で学級委員長を任せられる事からも、その真面目さが窺える。

 

「ほれ、来週の仮免試験の資料や。軽くでえーから目ェ通しておきや」

 

「ありがとうございます。…フム、なるほど。例年通りまずは雄英潰しから…やはり」

 

「まっ、それは伝統やな。何かと目立つからな…あそこは。…後は肉倉と現見やな……あいつら学食か?」

 

「肉倉は学食です。現見は…隣のクラスで弁当だっと記憶しています」

 

「さすがやな、委員長。助かる」

 

腕時計を見れば、昼休みも既に半分。

さっさと渡さないと自分の食事時間が無くなってしまう。岡はやや足早に残り二人の探索を開始した。

まずは近場の隣のクラス…現見ケミィだ。

 

「入るで」

 

ガラッと開ければ、そこには姦しい女子達が大小様々なグループで昼ご飯に興じている。

 

「あっ♪岡せんせー。やっほー」

 

「岡やー、なー岡、一緒に食べよ」

 

「珍しいやん~、センセっ、こっち空いてるで」

 

雄英に比べイマイチぱっとしない士傑高校ヒーロー科の教員達の中で、岡八郎は群を抜く。

一人だけ、長身でワイルドな風貌の男前であり、そして全国レベル、世界レベルのヒーロー。

当然、男女共に生徒から絶大な人気がある。

しかも士傑高校は、ヒーロー科、普通科拘らず、生徒の不純異性交遊を全面禁止…自然と〝先生に相談したい事がある〟とか称して女生徒は虎視眈々と岡を狙っているのだ。

岡を視界に収めると、あからさまに短めのスカートで足組みを頻繁に組み替えたりして挑発する。

男子生徒がそのおこぼれをこっそりと狙うのは、思春期なら当たり前だった。

 

「アホ。ウチは厳しい校風なんや。シャキッとしーや。…で、現見は?おるか?」

 

「えー?ケミィ狙いですかーセンセー。ケミィなら飲みもん忘れた~って売店行ったで」

 

「うちの方がおっぱい大きいでー、先生~」

 

「あははっ、あんたオッパイだけやなくて腹もデカイやん。むんずと掴める横っ腹~」

 

「うっさいわボケ~!摘むな!」

 

ほどほどにしとき、と呟き岡は教室から出る。厳しい校風とは何だったのか、と思わされる景色だ。

だがまぁ常に気を張り詰めていては弓の弦も切れる。あの子らも、今はあの調子だがいざ授業が始まると別人かのようにビシッとなるのだから面白い。

「あー岡~行かんといて~」などとフザケた声を捨て置いて、岡は売店に向かうも、やはりそこにも現見ケミィはいなかった。引き続きふらふらと歩き回る。

しかし、とうとう現見を発見する前に食堂から戻ってきた肉倉を発見してしまった。

取り敢えずは肉倉にも資料を渡す。

岡は考えた。

 

(…もうじき予鈴なるな………おかしい。現見はアホやが、意外と突拍子もない動きはせん。普段と違う事が起きるのは……何かある)

 

“個性”〝ガンツ〟でレーダー機を転送。

生徒や他の職員のプライベートの侵害に繋がるとして、校長からも使用は控えるようにとお達しが出されているレーダーだが、岡はいざとなれば簡単にルールを破る。それだけの肝は座っている男だ。

 

(…赤い点おるやないか。敵意持った奴…おるな)

 

敵意を持つ者、或いは敵として設定した者を電子マップ上に表示するレーダー。これ一つで“個性”として成り立ちそうな程に便利で強力な能力だ。

岡はこういう便利過ぎる装備を幾つも持つのだ。後輩ヒーロー、ファットガムが「チートや!」と文句を垂れるのが分かるというものだ。

直様、岡は非常ベルを…鳴らすことはしない。

そうすれば敵意を持った者が「侵入がバレた」と気付いてしまう。

いつものように、気怠げに職員室へ。そして、居合わせた職員達に伝達。

 

「校舎裏に…敵意反応ですか。しかも現見が見当たらない…分かりました。直ぐに動ける教員を周囲に配置します」

 

「お願いします。直接は俺が仕掛けるんで」

 

「ご存分にどうぞ、岡先生。周りは固めます…逃しませんよ」

 

教員達の動きは迅速で淀みない。

雄英高校もだが、士傑高校も西の雄として並み以上の施設、人員がいる。

だが、その施設内に警備の目を盗んで入ってきている時点で侵入者は只者ではないのだ。

予め決められていた緊急時の校内放送…「副校長先生、ポストに青い荷物が届いております」というメッセージを流せば教職員達は直ちに動く。

生徒にすら気取られぬよう、校舎裏付近に職員らが集まりだしていた。

そして…。

 

(…現見が倒れとる。…生命反応有り。…最悪の状況やない。そして、あいつの顔…おいおい、指名手配犯の渡我被身子やないか?)

 

屋上から、ハードスーツの10の目で校舎裏を眼下に見る岡。

勿論、姿はステルスで不可視としているし、長年の戦闘経験で身につけた高度な気配消しの技術まで使っているものだから、余程の達人でも気付けない。

この光学迷彩機能すら、単一の“個性”として成り立つ程の強力な性能がある。

 

ゆら…と落ちるように、音も無く岡は落下した。

ひゅうぅ、と風を切る音で、現見ケミィの首元へ口を伸ばそうとしていた渡我被身子は、咄嗟に空を見た。

 

――ドゥッ

 

落下と同時に、渡我被身子の足を豪腕で叩き潰していた。

 

「っ!あ…!ぐ…っ!」

 

まずは機動力を削ぐ。

岡八郎はヒーローだ。

だが、手足の一本ぐらい別にえーやろ…そういうヒーローであった。

その姿勢には賛否両論、付きまとう。

「ピンポンマンはオールマイトの後継者成り得ない」「エンデヴァーよりもある意味で苛烈」…ピンポンマンには、常にそういう評価が纏わり付く。

 

――バチッ、バチバチ…

 

火花が散るような音を立てて、完全な透明から磨りガラス越しの透明に、そして完全な実体へ。

異形とも思える豪腕を持った巨漢が、渡我被身子を見下ろして現れた。

 

「先に謝っとくで。うちの生徒を襲ったんや無かったらスマンな。足一本、堪忍しろや」

 

「っ…あはっ♪知ってますよぉ、ピンポンマンだ。そんなでっかいのに気付かれないなんて…凄いですねぇ」

 

潰れて血だらけになった己の足を見て、見下ろしてくる黒い大男を見て、そしてトガは頬を紅く染めて恍惚然とした声で岡へ言う。

 

「…うちの現見に手ェ出したな?」

 

「ん~?出してませ――っ!?がっ!!」

 

ハードスーツの後頭部から生える無数の機械触手。その一本が高速でトガの腹にめり込んでいた。

 

「別にえーんや。お前は喋らんでもな。…状況証拠で充分やからなァ。続きは、タルタロスででも喋れや」

 

「が、は……ひゅー、ひゅー……お、じ…さん……素敵、です、ね……あは…よーしゃ、ないんだ……」

 

「こー見えてもなー、優しくなった方や。昔は、捕獲なんて考えた事も無かったからな」

 

触手がまた二本。倒れるトガの両腕に高速で叩きつけられると、ゴシャリッ、と嫌な音がしてトガの両腕が潰れた。

 

「っ!あ…!あっ!…っ!」

 

無力化完了。岡の合図で、周囲の教員が一斉に飛び出す。

連絡を受けていた警察も、直に来るだろう。

 

「お、岡先生…!ちょっとやりすぎでは!?」

 

トガを取り押さえる教員の一人が声を荒げるが、岡は意に介さない。

心で(アホ…)と思うのみだ。

 

「そーですかね。でも、そいつ…全国指名手配犯の渡我被身子ですよ?」

 

「え!?そ、そうなんですか!?」

 

「そいつの心配よりうちの生徒の心配でしょう、普通は。先生、現見のこと頼んます。俺は警察に出向しなきゃでしょうから」

 

保健の先生へと現見を託し、岡八郎はスーツを解除していくと、そこにはいつものボサボサ頭のジャージ男が現れる。

「あっちでタバコ吸ってます」と呟いて、警察が来るまで岡はずっとくつろいでいるのだった。

翌日の紙面を、ピンポンマンの活躍と渡我被身子逮捕のニュースが飾る。

 

『やりすぎ!?ピンポンマン!美少女の足をもぐ!』

『お手柄!ピンポンマン!やはり関西の雄は強かった!』

『連続通り魔美少女渡我被身子、ピンポンマンにお手上げ!』

 

文屋は今日もセンセーショナルな文字を羅列させ、好き勝手に騒ぐ。

岡八郎の日々は常に事も無い。

彼にとってはこの程度ですら平和の範疇だった。

 

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