僕のヒーローはハードスーツを着ている   作:壁のほこりバスター

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退屈

岡八郎はプロヒーローである。

だが、それは彼の上っ面でしかない。

彼の本質は、恋人の香山睡(ミッドナイト)も、旧友の相澤消太(イレイザーヘッド)山田ひざし(プレゼント・マイク)も、後輩の豊満太志郎(ファットガム)も知らない。

いや、薄っすらとその上澄みの香り程度は感じ取っているかもしれないが、彼の獣の如き危険でタフな精神性を甘く見ている。

彼の本質は、命を命とも思わない極めて冷酷冷徹なもので、命のやり取りを行っている時にこそ脳内の快楽物質の解放を感じ取り、己の生の充足を味わう。

そういう男だった。

 

 

岡八郎は教師である。

しかしそれは彼の心に芯から適う職業ではない。天職ではない。

彼はかつて…一度死ぬ前、銀行員だった事もある。

彼は頭が良いから、そうやって表向き、社会的信用を得る事の出来るオカタイ職に付くことを選ぶ。

彼は誰よりも猫かぶりが上手い。

彼は、ぱっと見、誰の目から見ても人付き合いも無難に行い、生徒の話にも耳を傾け、生徒の世話もきちんと熟す。

教員としての岡八郎を知る者は誰もが彼をこう評するだろう。

「彼は生徒思いの、素晴らしい教師です」と。

士傑高校の誰も、岡八郎の本質を知りはしない。

彼の本質は、己の勝利の為なら誰でも彼でも生贄に捧げる事を躊躇わないものだ。

未知の脅威の敵と相対した時、彼は友人知人が危険にさらされようが助けないだろう。

たとえ生徒や一般人がヴィランとの戦いに巻き込まれ命を落とそうとも、それで敵の手の内が明かされて自分の勝利につながるならば、ジッといつまでも敵を観察できる…。

そういう男だった。

 

 

岡八郎は快楽殺人者ではない。頭もキレる。

だから己が絶対的に破滅するような無謀なゲームには挑まない。

結局の所、彼が求めるのは極限の死線を潜り抜けて最後には己が勝てる…そういうスレスレの快感であり、自分が死んでも良いとは思っていない。

戦っているのだ。いつかはその戦いの中で死ぬことはあるだろうが、岡八郎は死にたがりではない。

だから、かつてソロプレイに徹し、それ故にぬらりひょんに敗北した事から、今の世では協力者を作るよう心掛けてもいる。

報奨が出るから計算ずくで市民を守り、救助する。

彼は計算ずくで弱き者のヒーローであり、計算ずくで法的正義側に付き、計算ずくで合法的に敵を殺す。

観衆や警察等の味方がいる時は控えるが、ヴィランを煽るだけ煽り追い詰め、がむしゃら状態にして正当防衛を適応し、殺す。

プロヒーローとてヴィラン殺しは重大な問題行為だが、時と場合においては正当防衛が認められる。

しかしそんなものでは足りない。制限がありすぎるのだ。

岡八郎はいつだって飢えている。

どうしようもなく飢えている。

 

美しい恋人を抱こうが満たされない。

ヴィランの手足をもごうが満たされない。

この飢餓感は、『〝敵〟の命』というトロフィーを得ねば決して満たされないと岡は知っている。

 

岡八郎はデスゲームを望む。

それも自分が勝てるデスゲームだ。

所詮この世界は、デスゲームの後の延長戦だ。彼はそう思っている。

ゲームのおまけステージ。エクストラステージ。ボーナスステージ。

岡八郎は、せっかく拾ったこの人生でもまたデスゲームがしたい。

それも、ヴィラン等というお尋ね者にならずに、だ。

 

「それが出来る世の中や。なんたって…この世界には“個性”なんちゅーバカげたもんが溢れとる。

そして人間は…そんなバカげた力を持ったら、ジッとなんて出来ん…簡単に悪の道に走る」

 

岡八郎は、工夫次第で合法的なデスゲームが出来る今の世が嫌いではない。

だから岡八郎はヴィランからこの世界を守るのだ。

 

空調の音が静かに響く暗い部屋。

ルーティンたるトレーニングメニューを熟した汗で、岡の足元には水溜りが出来ていた。

荒い息のまま、冷蔵庫から毟るように安いビール缶を取り出し、プルタブを指で弾けばプシュリッと軽快な音が鳴る。

音声を消したTVの中で、見るだけで騒がしいコメンテーターを眺めながら岡八郎は独り笑い、そしてアルコールで喉を潤す。

 

「…平和の象徴の終わり、か。嵐が来るなァ…それもとびきりの嵐や」

 

あの日、神野区テロから結構な時も経ったというのに世のニュースは今もオールマイトの引退で賑わう。

バカの一つ覚えのように、壊れたラジオのように、同じ事を繰り返すメディア。

答えの出ない議論を延々続け、視聴者を煽るマスメディアをせせら笑いつつも、岡はヴィラン達がどんな暴れっぷりをみせてくれるのかに思いを馳せる。

彼らが無軌道に暴れれば暴れるほど、プロヒーローは鎮圧の為、市民を守る為、()()()()()殺害してしまう場合も充分ある。

岡は口角の片側を鋭く持ち上げてもう一度笑った。

ヒーローとは対極に位置する精神を持ちつつも、彼はプロヒーローであり続ける。

ステインが最も嫌う、唾棄すべき打算的プロヒーロー…いや、それ以下のヒーローとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローを志望する生徒達の仮免試験の前。

つまり渡我被身子逮捕の更に前。

この夏、神野区で日本中を騒がす大事件が起きた事は、日本人ならば園児でも知っている。

日本だけでなく、そのニュースは世界でもその日のゴールデンタイムのトップを飾った。

日本No.1ヒーローであり、世界にも通用するワールド級ヒーロー・オールマイトの引退と、生ける伝説的犯罪者オール・フォー・ワンの撃破と逮捕。

その事件には多数の上位ランカーヒーローが投入されたものの、そこにはピンポンマンの姿は無かった。

その時は、岡八郎は〝勝ち気なバニー〟兎山ルミ(ミルコ)や〝シールドヒーロー〟クラストと共に別の案件に対処していたからだ。

その事件も中々の規模のもので、神野区テロの報道がなければ大々的に取り上げられていただろうが、

さすがにオールマイトの引退やベストジーニストの負傷と活動休止、根強い人気があるプッシーキャッツの一人ラグドールまでが活動休止となれば誰もピンポンマンとミルコとクラストの事件等知りもしない。

 

駆けつけられなかったプロヒーロー達のほぼ全ては嘆いている。

「オールマイトの最後の戦いに共に在りたかった」とか「私がいればひょっとしたらオールマイトは引退せずに…」とか言う者もいて、名声欲か名誉欲か、或いは純粋にオールマイトを慕うが故だろう。

しかし岡は今更名声は欲しくはない。既に充分ある。

寧ろ、己が神野区に駆けつけられなかったお陰で、世の潜在的ヴィラン達への強烈な抑止力であった巨星が敵の手で墜ちたのだから岡にとっては好都合だ。

それに世間の注目が神野区に参戦したヒーローに向いている今、岡の日々は平穏が守られているのも良い気分だ。

岡八郎の日常はいつも通り。

ちょっとした事件は警察や公安委員会からの要請で協力し、本業は教師。

そして今、岡はその本業で頭を悩ませている。

 

「しかし肉倉と現見だけじゃなく、夜嵐まで追試組か…」

 

仕事を熟す義務感はある岡八郎だ。

だからこうして上っ面とはいえ教師として悩む時はある。

参加した士傑高校生の内、期待の四天王だった4人中、3人までが最終選考で落選。

合格者は毛浦のみという体たらく。

これはなかなかヒーロー科の主任教諭としては頭が痛い。

最終試験での落第者は、後日の追試で仮免が与えられるチャンスがあるのは不幸中の幸いだった。

 

「…まぁあの3人なら追試は大丈夫やろ。…でも補習の日程は組まんとアカンな」

 

公安委員会から貰った評価一覧の資料をデスクの上に投げ出して、岡は楽観的に呟いた。

チラリと時計を見れば時刻は20:00に近い。

後少しで深夜警備に切り替わる…消灯時間前には教員達も校舎を出なくては。岡はそう思って帰宅準備に入る。

生徒達の個人情報に繋がる幾つかの資料はそのまま引き出しに仕舞い施錠。

机上を軽く片付け、ジャージからワイシャツ姿へと着替え、校門の守衛に挨拶をし、出る。

 

最寄り駅と学園の中間という好立地の自宅マンションまでは徒歩だ。

この時間、人も疎らになる。

 

――ジ、ジジ

 

その音は街路灯に群がる虫が焼けたか、或いは電球の劣化か。

 

岡の足が止まった。

 

「…」

 

夏の、暑い夜。

蝉の音は聞こえない。

 

「出てこんかィ」

 

岡は路地の向こうの暗がりに一人声を発した。

 

――ジジ、ジ、ジ

 

街路灯の音が静かに聞こえる。

それ以外に応える音はない。

 

「臭うんや。隠れるのヘッタやな、お前」

 

もう一度、岡は暗がりにそう言った。

今度は手にXガンを構え、突きつけながら。

 

「…チッ、なんで分かりやがった?」

 

暗がりから出てきたソイツ…一目で異形系と分かるトカゲ男がようやく応える。

 

「こういうのに敏感なんや、俺は」

 

「さすがはピンポンマンだな…褒めてやる!

申し遅れたが、俺はスピナー!ステインの夢を紡ぐ者!

ピンポンマン…てめぇの存在はステインのご意思に背く!!

俺達の仲間を…トガヒミコを滅茶苦茶にして捕縛する…それはヒーローの所業じゃねぇ…!」

 

「…」

(お礼参り、か)

 

岡はその言葉だけである程度、ソイツの正体を推測できた。

トガヒミコの関係者で、つまりはヴィラン連合だろう。

岡はファットガムと共に地元警察ともよく活動する。警察の機密もちょいちょい目にし、耳にする。

未成年のヴィラン、トガヒミコの顔と名前も知っていたのはそういうわけで、そしてそのように情報通だからヴィラン連合の顔と名前もある程度しっていた。

 

(なんやったかな……あ~、スピナー…伊口秀一だったか…)

 

そしてこいつは己に復讐にきたのだ。

無謀なのか、それとも相当に腕に覚えがあるツワモノか。

Xガンのスコープが、眼前のトカゲ男…スピナーの内部構造まで暴き出し、徐ろに岡はトリガーに指をかける。

 

(…骨格は通常の人体に準拠…特に不明な器官、骨はない…

筋肉、骨の発達…共に通常の人間よりやや強固…

それに手には刃渡りの長い得物。なるほどな…オーソドックスな近距離スタイルや)

 

解析しつつ、岡の指が第1トリガーを引いた。

これで対象はロックオンされる。もはや逃れられない。

躱せられるのなら躱してみろ。躱して、そして自分と薄氷を踏み合う殺し合いを演じてみせろ。

岡の口の端が、ほんの僅か持ち上がっていた。

 

「ピンポンマン!なんでトガヒミコの足を…腕を潰した!

トガヒミコはまだ若い女の子なんだぞ!

手足を潰すなんて…トガヒミコの今後の人生を考えてもみろ!どこまで俺達爪弾き者の未来を奪う!

プロヒーローのどこにそんな権利がある!

やはりステインの仰った事は正しい!プロヒーローは腐っている!

だからこそ俺達ヴィラン連合は―――」

 

スピナーは尚も怒りを漲らせ演説を垂れ流しているが、岡という男がそんなものに悠長に付き合うと思ったら、それは間違いだ。

容赦無く、直様中指の第2トリガーを引く。

Xガンが不可視の破壊的エネルギーを吐き出した。

 

――ギョーン

 

「――あ?」

 

少し間抜けな音がオモチャのようなSF的拳銃から聞こえて、思わずスピナーも間の抜けた声を出した。

次の瞬間。

 

パァンッという音と共に勢いよくトカゲの上半身が弾け飛んだ。

内部から炸裂し、肉片が四方に飛び散る。

 

「…これは…肉が溶けた…?」

 

岡はすぐに異変に気付く。四散したスピナーの肉片がドロドロと溶けて消えていくのだ。

 

「…粘体変化系か?液体人間…いや、そうか。後ろに同じ呼吸の癖の奴がもう一人…増加系やな」

 

呟き、岡は振り返る。

そこには気配を殺しつつ背後から勢いよく迫るもう一人のスピナー。

岡がXガンをもう一度構えてやれば、

 

「っ!やっ、やばい!!」

 

スピナーは慌てて横へ飛んで住宅の陰へ逃れ、止まらず走り続けた。

 

――ギョーン、ギョーン、ギョーン

 

夜の街に響く間抜けな音。直後に破裂音。

次々に住宅街の道路が弾け飛び、コンクリートの塀が炸裂する。

走り続けるスピナーだが、その間抜けな恐怖の音は一向に自分から離れてくれない。

 

「あ、あいつ…さっきも(コピー)に容赦無く撃ちやがった…!今も住宅街で飛び道具を連射しやがって!

つーか何だあの銃!当たったら爆発するし見えねぇし!!おっかねぇ!!

本当にプロヒーローかよ!あいつ!腐りすぎだろう!!」

 

スピナーの鱗の肌を嫌な汗が伝う。

心臓がうるさいくらいになっていた。

多分、この鼓動は全力で走っているからだけではない。

 

「おい!」

 

「おわ!?!?」

 

スピナーが叫びながら声の方に剣を向ければ、そこには全身タイツ姿の男が刃物を向けられギョッとしていた。

 

「お、俺だよ!トゥワイスだって!斬るな!さぁ一思いに斬りやがれ!」

 

思わず一瞬足を止めてしまったが、言い合いながら両者共にまた走り出す。

明らかにヤバそうな敵を前にして足を止めるのは愚策だ。

 

「バカヤロウ!いきなり後ろから声かけるな!

そ、そうだトゥワイス、早くもう一度俺を増やしてくれ!」

 

「おい見てたぞ…!あいつはヤバい!ヤバくはないけどな!

プロヒーローなら住宅街で戦えばもっと動き制限できると思ったが…他のヒーローと様子が違ぇ!」

 

「見りゃ分かるよ!

こりゃ話以上にヤバいぞ…死柄木弔にも、ヤバいと思ったらすぐ逃げるって条件でお礼参りに行かせて貰ったんだ…

とにかく、お前の〝倍化〟で時間稼いで黒霧のダンナに迎えに来てもらおう」

 

「おい!?一太刀も浴びせずに逃げるのか!?あり得ねぇ!逃げようぜ!けどトガちゃんの仇なんだぞ!あいつは!!」

 

「俺だって悔しいけど…ありゃ無理だよ!」

 

住宅の陰から陰へ。

隠れつつ走り、言い合いをするスピナーとトゥワイス。

走る2人の前方から、ドンッという音が聞こえる。

2人は思った。

おかしい。

ずっと自分達は走って逃げていた。

ピンポンマンから離れるように逃げていたのに、何故前から音がする。増援だろうか。

スピナーとトゥワイスの足が止まり、暗がりの向こうを凝視する。

 

――キュイィィィィィィ…

 

妙な機械音が耳に飛び込んでくる。何かを引き絞るかのような、そういう機械の音。

小さな、薄く青い光が幾つか瞬き、2人のヴィランの目に映った次の瞬間。

 

「っ!?」

 

「なぁ!!?」

 

風を切るような速度。

録画映像の、まるで早回しだ。

そんな速度で黒いタイトな全身スーツ姿へと変わっていたピンポンマンがアスファルトを抉りながら走り寄る。

腕を大上段に構える先には黒い日本刀のような得物。

 

「や、やるっきゃねぇぞ…ッ、トゥワイスっ!」

 

「やりたくねぇ!任せろ!」

 

スピナーが相方に視線も寄越さずそう言えば、トゥワイスの“個性”〝倍化〟がスピナーを増殖させる。

コピースピナーが肉壁になるように真正面から突進。

オリジナルスピナーとトゥワイスが左右に別れ、翔ぶ。

 

(これで…!)

 

(3方向からの挟撃!誰か一人は奴に食らわせる!

食らわせたらまた逃げる…!ちょい当てして逃げてを繰り返して…黒霧にTEL入れて…!逃げてやらぁ!)

 

前。左真上。右ナナメ上。

それぞれに視線を飛ばさず視界で捉える岡は、真一文字に結んでいた口をやや開け、溜めた息を吐くと同時に刀を振る。

高速で煌めく黒い刀身。

 

――チュィィィィ

 

また耳をつんざくような機械音が聞こえてくる。

今度は岡の黒い刀から響く。そして伸びる。伸びる。伸びる。

 

「っなぁ!?」

 

「んだってぇぇぇ!!?」

 

巨人でもぶった切れそうな程に伸びた黒刀が、猛烈な速度で横薙ぎに振り抜かれ、

返す刃で斬り上げる。

まるで佐々木小次郎の燕返しだ。

風を切る音だけがやたら静かに2人のヴィランの耳に届く。

同時に、ズルリ、とヴィラン達の足が切断されて闇夜を舞う。

吹き上がる血が霧雨のように注ぎ、その鮮血の赤は美しい。

 

「あっ、ああああっ!ぐああああっ!!!」

 

本物のスピナーが両足の切断面からおびただしい量の血を撒き散らして落下。

 

「お、おおおっ俺のっ!足っ!?足が増えちまったァァァァ!!蕩ける程痛ェェェェェ!!」

 

トゥワイスもまた無くなった両足を見て喚き、ゴロゴロと血溜まりの中を転げた。

こんな有様でもどこまでも剽軽な空気を持つ男だ。

コピースピナーはすでに崩れて消え失せている。

 

「…なんや、この程度躱せや。ヴィラン連合…噂程やないんか…」

 

フゥー、と岡の口からため息が漏れた。

 

(もう少し手強い連中かと思っとったら…拍子抜けやな。おもろないわ)

 

岡は、かつてGANTZと死のゲームに興じていた頃から徹底して大物食いのゲームスタイルだ。

だから、ヴィラン連合にそういうデスゲーム時代の高得点レベルを期待していたのだが、これには岡も消沈してしまう。

赤と青の光が夜を照らし近づいてくる。

これだけの騒動を起こしていれば、このご時世、直様通報されるのは当たり前だ。

 

「お前ら運、良いなァ。警察に感謝せなアカンで」

 

岡の言葉は本当にそういう意味だ。彼らは感謝せねばならない。

なにせ、岡は警察が間に合わねばこのまま彼らを殺すつもりだったのだから。

喚き泣き叫ぶスピナーの横で、トゥワイスが突っ伏しながらも顔を持ち上げると血走った眼でピンポンマンを睨みつけて叫ぶ。

 

「て、てめぇは!てめぇは…ぜっっっったい許してやらねぇ!!でも思い切りの良さはグッド!!

トガちゃんも可愛がってくれちゃって、俺と…スピナーまで…両足素敵に斬りやがってチクショウ!

これで俺様は未来の俊足ランナーだぜ!ワハハハ、ハ…ッあ゛あ゛あ゛あ゛痛ェェェ、気持ちよすぎだぜクッソぉぉぉ!!」

 

岡はその怨嗟を右から左へ黙して流し、興味すら抱かない。

サイレンが近づく。

車両のドアが勢いよく開閉する音がし、何人もの警察官が慌てて駆け寄ってくるのを、岡はなんとも気怠げに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィラン連合、早くも3人逮捕!!ピンポンマンまたもお手柄!』

『お騒がせピンポンマン!!またもヴィランの足をぶった切る!!』

『逮捕されたヴィラン連合の2人、瀕死の重傷。ピンポンマンの過激対応は是か否か』

「またピンポンマンがヴィランを逮捕しました。いやぁ彼は本当に強いですね。

しかし、今回でピンポンマンがヴィランに深刻な傷害を負わせたのは、これで32件目です。

他にも、彼は正当防衛によるヴィラン殺害数が、なんと2位以下を桁一つ違いでぶっちぎりのNo.1です。

これは少々、ヒーローとしてのモラルというか…姿勢が問われる数字ではないでしょうか」

「確かに多い。多すぎる数字ですねぇ。しかしですね?裏を返せば、これだけ凶悪なヴィラン犯罪者が多いという事ですよ。

これは深刻な社会問題で、我が国だけの問題ではありません。

現に、ヒーローの本場アメリカでは年々、正当防衛によるヴィラン殺害件数は増加傾向にあります。

ピンポンマンの正当防衛数は、アメリカではまだまだ上位10名にギリギリ入るかの数字で―――」

 

青年が雑誌、新聞紙を握りつぶす。

喚き散らすテレビに優しく触れて、そっと五指で縁をなぞればピンポンマンの活躍を称賛と非難を混ぜて放送するテレビジョンはそのまま塵へと還っていった。

くっくっ、と青年は口の中で笑う。

 

「ピンポンマン…ね。そうだよなぁ…オールマイトだけじゃないんだ…ヒーローってのはさ。

他にも見るべきプロヒーローはいるってこったなァ…。

こいつだけにもう3人…トガヒミコ、スピナー、トゥワイス…許し難ぇ所業だ……。

だが、認めるよ…スピナーとトゥワイスがやられちまったのは俺のミスだ…お前は悪くねぇ、ピンポンマン。

一人捕まれば皆危ない…ンなことぁ分かってた筈が…ガキみてぇに悔しがってピンポンマンに吠え面かかそうって言うトゥワイス達を許しちまった…とんでもねぇミスだよなァ。

ここももう引っ越さなきゃいけねぇし…。

……あぁ、まいったな。これでもう…先生もいれて4人、監獄(タルタロス)にいるのかよ…返してもらわなきゃダメだ…タルタロスには宝がいっぱいある…やる事ぁ山積みだ」

 

ぶつぶつ呟いて静かに笑う青年。

尚も独り呟き続ける。

 

「どうしてだろうな。お前の容赦の無さ…嫌いじゃない…。

今のプロヒーローの誰にも無い…エンデヴァーにもねぇ、

この明らかに過剰で徹底的なヴィラン制圧…いや、〝殺意〟…好きだぜぇ…ピンポンマン…く、くくく」

 

廃墟の壁に張られた黒いタイトスーツ姿のピンポンマン…岡八郎の大判ポスター。

黒霧に言って調達させたプロヒーローグッズの一つだ。税込み7800円。

人気プロヒーローのグッズは安くはない。

その安くないポスターに描かれた男に、青年、死柄木弔は笑いかけて、そしてナイフを突き立てた。

これでもう20本目。

ピンポンマンの顔といい身体といい、ナイフで埋め尽くされそうな勢いだ。

 

「仲間の礼は…いつかするぜ、岡八郎。だが…今じゃない。

今はまだお前に勝てねぇらしい。お前は…オールマイトよりも弱い癖にオールマイトよりも厄介だ。

雑魚を守り、色んなバカげたもんを守るオールマイトと違ってお前には付け入る隙がない…。

もっと…俺は…俺達は、成長しなきゃ…ダメなんだよ…じゃなきゃお前と殺し合えねぇ…なァ、そうだよな…岡八郎」

 

騒がしい仲間が3人も減り、広くなってしまった空虚なアジトで死柄木弔は静かに笑っていた。

 

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