「女に気を付けなさい」
帝国陸軍の将校であれば、仮想敵国等のハニートラップに引っかかることの無いよう、そのような訓示を受ける。しかし、それは陸軍の防諜部門からの言葉であり、間違ってもその辺の怪しい占い師から掛けられるような言葉ではなかった。
"レルゲン殿は席次だけでなく女まで持っていくのか"
士官学校査察公務の帰り道、同期がそう揶揄ってきたが自分としては余り笑えない状況であった。
士官学校の査察ではとんでもない幼女――あれも生物学上は女だ――に3度目の遭遇をしてしまったのは確かだ。だからといって、裏通りの占い師が表通りを歩いている軍人の集団を追いかけてまで伝えることだろうか。
例えば、"あのとんでもない幼女と今後も付き合いが続く"というのであれば、確かに気を付けるべき厄災かもしれないが、士官だけで万単位の人間が存在する帝国陸軍で、これ以上関わりが続くということも無いだろう。
であれば、
更なる軍拡のため、帝国は魔導師に関して素質さえあれば性格性別年齢問わず徴兵するようになってしまった。その問題児も今までであれば海軍に押し付けることが出来ていたが、建艦競争離脱時の妥協でそういうわけにもいかなくなっている。従来の価値観では測ることのできない存在が陸軍に入り込んでしまっていてもおかしくはない。
官僚組織としては帝国陸軍の拡大を歓迎すべきところだが、要員の質の低下は憂慮すべき問題だろう。
共に歩く仲間も同じような思いを抱いていたようで、通りの先にあるバーに入ることを提案してきた。視線の先にあるのは陸軍将校のOBが経営する店で、庁舎内で話すほどでもないが、公の場で話すには機微な話題を取り扱うのに重宝している。
ドアボーイの案内で、1階の尉官用フロアに通される。
上階には佐官用や将官用のフロアがあり、値段も相応に上がるものの提供される酒類や店内の内装のグレードも上がる。その構成員の多数を貴族階級が占める帝国陸軍将校は、そういった社会的ステータスが大好きだ。
自分も、帝国の未来を背負って立つという理想以外に俗な気持ちがないとは言えない。もうすぐ同期に一歩先んじて佐官用フロアに案内される日が来ることを、少し楽しみにしている自分がいる。
案内されたテーブルに着いたところ、普段とフロアの雰囲気が異なることに気づく。
尉官用フロアはこんなに静かだっただろうか。佐官将官に比べまだ若く元気が有り余っている尉官共は、酒が入るとすぐ騒ぎがちだ。少なくとも、教官が怒鳴り散らした後の教室のような雰囲気になることはない。
そんな疑問は、わざわざフロアのマスターが席まで注文を取りに来ることで解決した。
「……大尉殿、海軍将校の相手をしていただけないでしょうか」
マスターの目線の先には、カウンターの一番奥の席に座る絶世の美女がいた。
アレもまた、気を付けるべき女性というのだろうか。
***
悪いことをしたな、と思う。
久々の休暇だが、とくにやることがないので、適当に帝都を観光しようと考えたのが間違いだった。
――帝都には数々の歴史的建造物が存在するが、砲爆撃で破壊されたり東西分割で観に行けなくなったりする前に見物してしまわなければもったいない。神造ボディとは言え、大戦を越えてさらに冷戦が終わるまで寿命が残っていることを期待しない方が良いだろう――
そう思っている間は素晴らしいアイディアだと自画自賛していたが、もう少し提督の注意に耳を傾けるべきだったと突っ込まれればぐうの音も出ない。
外を歩けばあっという間に群衆に囲まれ、店に入ろうものなら店内外からサインを求められる。情報化が進んでいない時代の有名税がこれほどまでに高価だとは思わなかった。
慌ててキィエール軍港に駆け戻り、職権を乱用して車を調達することでようやく駅まで出ることができた。さらに、駅員からは「迷惑料です」とのことで強制的に一等車に乗せられ、想定外の出費を強いられる。泣きっ面に蜂とはこのことか。
キィエールでの騒動を、遥かに規模の大きな帝都で繰り返すわけにはいかないので、帝都行きの特急車内で髪を括って帽子を被り、サングラスをかけて目元を隠して一般人に変装する。
"変な女だ"程度には目を向けられるものの、黒山の人だかりを作るようなことはなく、私の作戦勝ちといえるだろう。
ただし、屋内では帽子もサングラスも外さなければならない。
屋内観光は諦めるにしても、腹ごしらえだけはどこかの店内に入らざるを得ない。その辺の飲食店では変装を解いた瞬間、キィエールの二の舞だ。
しかし、そこは我らが大帝都。ご丁寧なことに軍人専用の店舗がある。
海軍軍人は帝都では少数派なので恐らく陸軍軍人用なのだと思われるが、看板には「軍人専用」と記載されているだけで陸海の区別はされていない。
幸いにして車を借用するため軍服を着てきたので入れそうな気がする。海兵魔導師の軍服は陸軍のそれと大きく異なるので、海軍という理由で弾かれるのであれば、ドアボーイがそう判断するだろう。
そうやって堂々と扉に向かったところ、ドアボーイは一瞬逡巡したものの"魔導中尉だ"と伝えると店内に案内してくれた。
「ありがとう」
そう変装を解いて微笑んだところ、ドアボーイはマスターに店の奥に連れていかれ、私は店内で一番人目に付かない奥のカウンター席に押し込まれることとなった。
***
公の場で話すことは躊躇われるが、庁舎で話すようなことでもない。
そういったグレーな相談に用いられてきた店にとって海軍軍人――それも女性の――というイレギュラーをどう扱うべきか、マスターを始めここに居る者は全員答えを持たないようであった。
たしかに店先には"海軍軍人お断り"とは記載していないものの、そこは暗にドアボーイが弾いていた。しかし、彼が新人であったこと、彼女が海兵魔導師という絶滅危惧種であること、なぜか変装していたこと、海兵魔導師の制服が最近一新されたこと等の要因が重なって、偶然店内に入れてしまったようだ。
あまり上品な手ではないが、相手が野郎であれば陸軍軍人で取り囲んで追い出すこともできようが、相手が女性だとそれも難しい。
だからといって、店内に居る者が全員警戒体制では、前述のような"場"を提供することができない。
そこで白羽の矢が立ったのが、尉官フロアで同率一位で階級が高くかつ少佐への昇進が内定している自分だった。
あの胡散臭い占い師の言葉もあり全く気が進まないが、これも上位者の義務というやつだろうか。
「隣、座らせてもらう」
マスターから"迷惑料"として受け取ったグラスを手に、彼女の横のカウンター席に座る。
「エーリカ・ブランデンベルガー、海軍魔導中尉を拝命しております」
なるほど、遠くから見ても目の覚める美人だったが、近くかつ正面で見ると言葉にするのすら困難だ。彼女の輝く瞳と激しく主張する胸元を往復しそうになる視線を強引にずらして無難な場所に向け、鋼の精神で差し障りのない自己紹介をする。
「エーリッヒ・フォン・レルゲン、陸軍大尉だ。貴官の募兵用活動写真は陸軍でも話題になっている」
陸海軍間の人材の取り合いという観点では、悪い意味で話題になっているのかもしれない。
海軍の募兵方法を知った陸軍は当初、「女に釣られて来る者など軟弱な連中ばかりだ」と笑っていたが、海軍の募兵所に殺到する志願者を見て、兵役適正者の大部分が自身の欲求に正直だという現実を突きつけられた。
陸軍も負けじと同様の広報戦略を打つべしという声も上がったものの、海軍の二番煎じは嫌だというプライドや、陸軍の主だった女性魔導師は本業的には頼りになるものの広報的には頼り難いという事情もあり、行動には移せていない。
先日まで「彼女を海軍に潜入させた」と大きな顔をしていた士官学校の教官も、今回ばかりは縮こまっているという。
「貴官が関わったという建艦競争からの離脱や海軍陸戦隊の陸軍との軍服共通化は、陸軍内でも評価が高い」
「恐縮です」
「しかし、広報用活動写真は今までとは毛色が違うようだが?」
なので、少し嫌味を言ってみる。
これくらいは迷惑料として彼女から徴収してもかまわないだろう。
「いいえ、全て目的を共有しております」
「その心は?」
「来るべき"大戦"において、帝国の敗北を避けるためです」
大戦? 帝国の敗北?
自分の背中に対して、聞き捨てならない単語の羅列を彼女に問い詰めるよう、フロアの視線が突き刺さるのが感じられる。
一方、発言の当事者は素知らぬ顔でサラミをつまみ、グラスを傾けていた。会話のボールは渡していたのだから、あとはどうぞと言わんばかりだ。こちらの立場を考えない暴投であることは咎めても許されるだろう。
「……貴官は次の戦争がどのような形で発生し、どのような結末を迎えると想定しているのか?」
自由人である彼女はこちらの詰問にすらどこ吹く風で、質問を重ねてきた。
彼女は本当に士官学校で教育を受けたのだろうか?
「ところで大尉殿。"動員"についてどのように考えておられますか?」
動員。
平時、陸軍の各師団は将校過多の状態に置かれており、国民を兵士として師団に充足することで実戦部隊としての能力を得る。逆に言えば、師団は動員が完了するまでその戦力を十分に発揮することが出来ない。
平時から比較的充足しているのは、西方軍や東方軍等に所属する師団の内、係争地周辺で準戦時体制を維持している部隊くらいだろう。
故に、四方に仮想敵国を抱える帝国は、内線戦略を完遂するためにもその高密度な鉄道網を利用した迅速な動員を可能としている。例え複数の仮想敵国が宣戦してきたとしても、迅速に動員が完了すれば仮想敵国間の動員速度の差を突いて各個撃破が可能だ。
「兵は神速を貴ぶ。動員速度が帝国の生命線だと考えている」
「ええ、動員が完了した国家は、動員が行われていない国家に対して圧倒的な優位を得ることが出来ます」
彼女の返答はただのオウム返しのようで、少しずれた視点であった。
――動員が行われていない国家――そんな平和ボケした国家を帝国が相手をする必要があるのだろうか。
と、そこまで考えたところで一つの解に辿り着く。
果たして動員の連鎖はどこかで止まるのだろうか。
帝国は複数の国家との係争地を抱えているが、常に砲火が絶えないのは低地地方だ。よって、次の戦争はフランソワとの戦争になる可能性が最も高いと言えよう。
仮に帝国とフランソワとの戦端が開かれた場合、両国は直ちに動員を行うことになるだろう。それを見た諸外国はどう思うだろうか。
果たして、動員が完了しつつある帝国を見て、帝国と国境を接する協商連合・連邦・ダキア・イルドアは動員せずにいられるのだろうか。また、それらの国が動員を完了したとして、その充足した部隊をただ遊ばせておくことが出来るのだろうか。
「隣国が動員を開始した時点で、その国は動員を余儀なくされます。そして、動員が完了した国家は、戦端を開かざるを得ません」
彼女は自分の思考が結論を出すのを待っていたかのように口を開いた。
「列強全てが参加する戦争――これが君の言う"大戦"か」
「ええ」
なるほど、対フランソワ大同盟以来の"大戦"だ。
帝国の内線戦略は仮想敵国間の動員速度差を突く各個撃破が根幹である。だが、それは必ずしも全仮想敵国を同時に相手取ることを想定していない。帝国の動員開始と時同じくして仮想敵国全てが動員を開始するのであれば、それは帝国にとって辛く厳しい状況に陥るだろう。
「だが、帝国が負けるとは限らないだろう」
「先の大戦ではフランソワは負けました」
確かにフランソワは敗北した。
直接的な原因は主に2つとされている。1つはフランソワ軍が1人の天才に依存していたこと。もう1つはルーシー侵攻が失敗し、大陸軍を失ったことだ。
果たして、彼女は帝国がどちらの原因で敗北すると考えているのだろうか。
仮想敵国が全て帝国に宣戦するのであれば、内線戦略を取る帝国がルーシーに遠く進攻する可能性は極めて低いだろう。
だからと言って、帝国が1人の天才に依存しているわけではない。なぜなら、帝国はそのフランソワの弱点を咎めた初めての国家だからだ。
「それはフランソワ軍が皇帝1人の才能に依存していたからだ。近代軍は1人の人間で掌握出来る規模を超えている。だから彼の皇帝の本隊さえ避けていれば勝てた。だが、帝国陸軍は違う。参謀本部という組織で軍隊を掌握している」
組織によることで天才は現れにくくなるかもしれないが、近代軍という巨大な軍隊を掌握することが出来る。全軍が均一的な能力を持つのであれば、フランソワ大陸軍の様に各個撃破されることはない。
「フランソワが負けたのは皇帝に依存していたのもそうですが、ルーシーに侵攻するという過ちを犯したためです。参謀本部が、そのような過ちを犯さないと言えますか?」
そちらだったか。
だが、ルーシー侵攻は政治的な問題だ。アルビオンに対する大陸封鎖令を守らなかったルーシーに懲罰を加えなければ、諸外国はルーシー同様大陸封鎖令を守ることは無くなり、アルビオンへ対抗することはできなかっただろう。
「それは、陸軍が政治に介入すべきと主張しているのか?」
「いいえ、大尉殿。政治と軍事を1人の皇帝が担っていた当時のフランソワと異なり、帝国は政治と軍事が分離しております。故に、政治的に軍事作戦を行う必要がある場合は、政治側は必ず軍事側にその勝算等を尋ねるはずです。そこで、判明している限り正しい情報を、他者の声に忖度することなく当初の目的を達成するために必要なことを伝えるべきだと主張しています」
「であれば問題ない。陸軍は政治的に中立だ」
だからこそ、共に大同盟を形成したダキアとも戦争することが出来たのだ。帝国の発展には必要な戦争だと政治が判断した。そこに陸軍の戦友意識が入る余地はない。
しかし、彼女はそうは思っていないようであった。
「ところで、対フランソワ戦争ではパリースィイに進軍されたようですが、なぜでしょうか」
確かに、対フランソワ戦争当時、敵野戦軍を撃破して勝敗がほぼ確定した後直ちに講和に入るべきと主張する宰相に対して、パリースィイ進撃を主張・実行したのは他ならぬ陸軍だ。
「だが、あれは結果的には必要であったことだ」
予定されていた講和案は低地地方の帝国への割譲が飲めないということでフランソワから破棄された。更に徹底抗戦を叫んでパリースィイ外周に塹壕陣地まで構築したのだから、戦争を終わらせるためにはパリースィイ進軍は不可欠であった。
「結果的には、です。
当時の諸邦が帝国として団結するための対外戦争であるのならば、あのような大勝利は不要でした。純軍事的には必要であったかも知れませんが、外交的影響を考えると寧ろ今日の国難を招いているとも言えます」
なるほど。対フランソワ戦争は激戦であったが故に、帝国の損害も大きかった。
当初の目的は共通の敵を得ることで諸邦を合邦し帝国を形成することだったが、大勝利の果実を求める世論や、従軍した兵士たちの声に押されて講和案に低地地方の割譲が加えられた。フランソワが飲むことのできない過剰な講和案がパリースィイ進軍を引き起こし、諸外国の警戒を招いたとするのも納得がいく。
「しかし、海軍はその愚を犯さないとでも?」
対フランソワ戦争での劇的な勝利は、協商連合を初め周辺諸国の警戒心を買ってしまったのは事実だ。しかし、今日の国難は陸軍のせいだけではない。
「犯します。ですが、過ちを正すこともできます。
例えば建艦競争は帝国の財政を傾け、連合王国を明確に敵に回した悪手です。しかし、
軍隊も官僚組織である以上、放っておけば組織拡大を図るのは自明の理だ。気に食わないことだが、海軍が金食い虫の軍艦を港に並べる行為も組織として健全な証だと言える。
国家という視点では間違っているそれを止めるためには、外部からの力が必要だ。
「君と同じように、私が海軍のスパイになれと?」
「何のことでしょう? 私は私の意志で海軍への配属を希望いたしましたが」
そんなことがあるのだろうか。
しかし、確かにあの教官は「彼女を海軍に潜入させた」と言っていたが、彼女の意志は聞いたことが無かった。寧ろ、彼女のように特異な能力を有する魔導師であれば、陸軍へ引き入れることが普通ではないのか。
であれば、彼女は士官学校の配属決定時に、教官に対して何を言ったのだろうか。
そして、なぜ彼女は海軍のために左遷の代償を払い、陸軍を巻き込んでまで、建艦競争から降ろさせたのだろうか。
いずれにせよ、正気の沙汰ではない。
帝国軍人として国家に殉ずる覚悟はある。しかし、それと同じくらい立身出世も重要なものだ。寧ろ、死後も評価という形で報いられるからこそ、殉じることが出来るのではないか。
誰にも評価されず、ただ後ろ指をさされるだけの施策を積極的に行う軍人など、今までの経験上出会ったことが無かった。
「君は、何だ。何を望んでいる」
士官学校で見た
彼女に感じた狂気に思わず身を引いたところ、その空隙を埋めるように彼女が身を乗り出した。
宝石の様な瞳が眼前に迫り焦点距離の内側に入った後、彼女は私だけに聞こえる声で囁く。
「レルゲン大尉殿。これは私個人のたっての願いです。どうか、その日が来ても過ちを犯さないよう、あるいは過ちを犯そうとしているのであれば、それを正していただきますよう」
反応できない私を他所に、彼女は空になった皿とグラスをカウンターの奥に押しやり、幾ばくかの帝国紙幣を置いて退店していった。
***
明らかに場違いな店に入って反省していたが、まさか陸軍大尉殿が口説きに来てくれるとは思わなかった。あの若さで大尉か、エリートコースに乗っているのは間違いない。唾を付けておくべきだっただろうか。
唯一惜しむらくは、話題が全く口説き文句っぽくなかったことだ。レディに対する扱いとは思えない。これだから仕事一筋の陸軍軍人は。その肩書が無かったらモテないだろう。
一方で、大尉殿から仕事の話を振ってきてくれたのはありがたかった。
いくら海軍が引き籠り戦法を取ったところで、港まで敵地上軍がなだれ込んできては意味が無い。WW2の様な国土のほとんどが占領されているような結末は避けるべきだろう。可能な限り、WW1の様な形で終結することが望ましい。
しかし、海軍軍人の私が陸戦に介入し辛いのも事実だ。
どうせ消耗で根こそぎ徴兵すると思われるので、海軍軍人でも手を挙げれば陸戦に参画することは可能だろうが、そもそも地獄の陸戦から逃れるために海軍軍人になったのに本末転倒である。
陸軍の中に、私の理解者が居るに越したことはないのだ。
そういった意味で、あのエリートコースに乗っているであろうレルゲン大尉殿は良い人材であった。帝国陸軍が見た目通り官僚的な組織であれば、彼の様な実務担当クラスが作成した案を上が承認することになるだろう。
その際、彼らが作成する案に下手なものが混じらないよう、釘をさせたのは大きい。
なにより、この世界の人間はWW1も知らないのにWW2に近い技術水準で戦争をおっぱじめることになるかもしれないのだ。下手な機動戦意識を持たれて攻勢限界まで突出するようなことがあれば、史実の様に返り討ちに遭いかねない。もっと酷いのは、史実以上に悲惨な敗北を被ることだ。
可能な限り、余力を残しつつ防衛戦に徹して貰いたい。
敵地上軍さえ国境沿いに留めておけるのであれば、軍港をはじめ内地には爆弾くらいしか降って来ないのだから。
更けてきた夜に紛れるように変装を整え、日中とは違った顔の帝都に繰り出す。
さぁ、この景色が無くなる前に堪能しなくては。
***
「女に気を付けろ、か。全くその通りだ」
彼女が退店した後、感想を聞くために寄ってきた仲間に対してそう吐いた。
「美人には棘があるってか?」
「棘どころではない。もっと恐ろしいものだ」
士官学校で頭蓋骨を切り裂こうとした幼女が"知っていてもやらない狂気"であるのならば、彼女は"そもそも知らない狂気"だ。
幼女の狂気が軍人としての純粋性に起因するのであれば、彼女の狂気は軍人にあるまじき怠慢に起因するのであろうか。いずれにせよ、関わりあいになりたくない人種であることは確かだ。
「らしくないな、最後のキスで魂まで抜かれたのか?」
「されていない」
心労すら感じる"業務"をこなした気分なのにもかかわらず、あくまで"役得"だと揶揄う同期をテーブル席に押し返す。
自分も未だ中身が残っているグラスを回収してカウンター席を立とうとしたが、マスターに呼び止められた。
「大尉殿――申し訳ないのですが、海軍中尉の支払額が足りておりません」
アイツはいったい何を飲んでいたんだ?
流石に半年以上空くとエタった感じがしますね(他人事)
あと、いい加減大戦に入りたいです...