帝国極東植民地、カロリーナ諸島ペラウ環礁。
エメラルドグリーンの大洋と、眩いばかりの白砂に、抜けるような青空。
「絶景だな、軍曹」
「大分風景が変わってしまいましたがね」
珊瑚礁で彩られた環礁に、点々と黒鉄色の人工物が浮かんでいる。
座礁させられたうえ喫水線まで重コンクリートで固められたそれらは、
「文明の足跡の無い大自然も悪くないが、それではアクセントに欠ける。鈍色の人工物は多少違和感を生むかもしれないが、100年も経てばそれはそれで味になるさ」
史跡やダイビングスポットとしては一定の魅力があるのではないだろうか。
もっとも、その日まで帝国がここを保持していればだが。
***
ティンダー要塞に到着した極東艦隊は、補給もほどほどにカロリーナ諸島に向けて出港した。
極東大陸から東方に突き出した半島に存在するティンダー要塞は、帝国が現地政府から
しかし、帝国の軍拡及び拡張政策により連合王国との外交関係が悪化すると、ティンダー要塞は根拠地として不十分であることが判明した。連合王国の極東根拠地及びその同盟国である秋津洲に近すぎるのだ。
本国から直接鉄道で極東に兵力を送り込めるルーシーや、十分な海軍力を保有する連合王国ならいざ知らず、そのどちらも有しない帝国が仮想敵国の目と鼻の先に極東の根拠地を構えることは無謀だと考えられた。
代わりの根拠地となる場所を探してはみたものの、植民地獲得競争に出遅れた帝国の手札にはティンダー要塞以上のものは見当たらない。
仕方なく妥協に妥協を重ねた結果が、カロリーナ諸島ペラウ環礁であった。
環礁は珊瑚の防波堤に囲われた天然の港のようなものである。帝国植民地の中部太平洋には、大艦隊を収容できるような巨大な環礁がいくつもあった。
その中でも連合王国の根拠地や秋津洲から適度に離れており、帝国植民地群の中央付近かつ極東大陸にも睨みを利かせることができる場所として、ペラウ環礁が選ばれた。
このように純軍事的には合格点であったが、問題点も多かった。
植民地として帝国がこの地を手に入れて以降、実施した施策は「帝国国旗を立てただけ」と揶揄される程、全く投資を行っていなかった。
港湾としての機能は最低限であり、漁港として使うならともかく、軍港として機能するには数年の歳月が必要だと見積もられた。
また、赤道直下のため気候は悪く、高温多湿かつ常夏の環境で行政組織を運用することは、欧州の気候に慣れた帝国人には酷であった。同じく赤道直下に巨大な極東根拠地を建設し運用している連合王国人に、混り気の無い称賛の声が上がったほどだ。
次善の策として、行政機構はティンダー要塞に残し、軍港機能のみペラウ環礁に移すこととなった。
ただの珊瑚礁に海軍要塞としての防衛力を早急に備えさせるため、旧式戦艦のリサイクルが考案された。
一から鉄筋コンクリートで造られた永久要塞ほどの防御力は持たないが、座礁させてコンクリートで固めるだけという工期の短さは魅力的であった。
また、ペラウ環礁には固有の軍港機能を持たせることはせず、新たに建造されるサービス艦隊がそれを担うこととなった。
建艦競争から降りた帝国であったが、国家の経済面や雇用面から直ちに造船業界を絞める訳にもいかず、戦艦より安上がりな船舶を発注してお茶を濁すこととした。シェーア提督の提案によって、遠隔地でも艦隊活動が可能となる浮きドック艦や工作艦が建造され、極東艦隊へ派遣されることとなった。
流石の帝国人でも、珊瑚礁の上に乾ドックを作る趣味は無かったのだ。
とはいえ、現段階ではペラウ環礁に軍港機能は無く、補給や修理のためにはティンダー要塞に寄港する必要があった。
***
水兵達は自分が乗ってきた戦艦をコンクリートで固め終わった後も、島の地層である強固な石灰岩を掘削して陣地を作っていた。
「真面目だな、帝国人は」
白砂の上にパラソルを立てて寛いでいる自分とは大違いだ。
あんな堅い地層を掘らなくて良いように、戦艦を持ってきたのではなかったのだろうか。
「不真面目なのは少尉くらいですよ。本当に帝国人なのですか?」
「失礼な。歴とした帝国人だとも」
見よこの白い肌を。炎天下のペラウに滞在していればシミになりそうじゃないか。
不敬なほど大きなため息を吐いた軍曹は、私にぐいと封筒を突き出した。
「仕事か? 今日のビーチバレーは終わったはずだが」
艦隊がペラウ環礁に到着した後、提督はペラウ環礁の要塞化工事における水兵達のモチベーションを上げるため、「その日最も評価の高かったチームには報酬を与える」と発表した。その報酬が、私(と軍曹)とのビーチバレーである。しかも、ビーチバレーに勝てば私に日焼け止めを塗る権利が与えられるとのこと。航海中での女性に対する気遣いはどこに行ったのだろうか。
寝耳に水であったため軍曹に確認したところ、「気を遣わせ過ぎて、逆に振り切れたのでしょうな」とにべもない。
いや、演算宝珠を失ったのは悪かった。
本当にあれほど無防備になるとは思っていなかったんだ。
航海中は常に軍曹のボディーガードが付く羽目になり、艦隊の伝書鳩は使用不能になった。提督の苛立ちは想像に難しくない。
さて、この提督の発案によって男子禁制の肌の禁が破られるかと思いきや、ビーチバレーは連戦連勝。私がスパイクするだけで奴らはボールから目を離す、いや別のボールに目が吸い寄せられている。チョロイ。
軍隊内で不純な行為が発生することなく水兵達のモチベーションが上がったため、最近は提督の機嫌も治ってきた。
ずっとボディーガードを務めさせられている軍曹はそうでもないようだが。
「
開封すると、それはティンダー要塞への召還命令であった。休暇は終わりということだろうか。
「ティンダー要塞へ来いとさ」
「巡洋艦エムデンが2日後にティンダー要塞へ発ちます。それに同乗させてもらいましょう」
ここからティンダー要塞へは約3500km。頑張れば飛べないこともないのではないだろうか。
残念ながら私は演算宝珠を欠いているが。
「軍曹は? 飛んでいくのか?」
「御冗談を」
ティンダー要塞に着いた私達を待っていたのは、本国から来た民間人であった。
「
「開発部のバッヘムと申します。帝国軍には演算宝珠用の工作機械等を納入しております」
その軍の関連企業の人間が何の用だろうか、と訝しんだところ、シェーア提督の署名入りの紹介状が手渡された。
皇国軍用の次期演算宝珠のコンペティションに参加するから、その実機試験の検証員を務めるようにとのことだ。
「それなら、連合王国の演算宝珠の輸入か型落ちのライセンス生産になるのではないだろうか」
一応コンペはやるが、同盟国の顔を立てるという出来レース。
コンペティションで最新の演算宝珠のライセンス権や技術移転等の条件の良いものを入れたいのだろうが、連合王国との同盟関係をもってしてようやく列強の末席にしがみついている秋津洲には夢のまた夢物語だ。
「恐らくは。しかし、全く可能性が無いわけではありません。弊社の調査によると、皇国軍は魔導師に長距離作戦能力を持たせたいと考えているようです。仕様に明確に記載されているわけではありませんが、稼働時間の項目には点数の上限が定められておりません。長ければ長いほど加点されるのであれば、それに特化した演算宝珠を作ってやろうと思ったのです」
ただ長く飛んでいるだけの魔導師にあまり価値は無いと思うのだが。
長く遠く飛べるというのは、魔導師という兵科の戦術又は戦略上の柔軟性を増やすだけであり、戦力として「その目的を達成できるか」という観点とは少し異なる。
結局のところ、兵力である以上は打撃力あるいは制圧力が無ければお話にならないのだ。
「戦闘能力に関する仕様は? どの程度作り込まれたのか?」
「は?」
は、じゃないが。
バッヘム技師がティンダー要塞に持ち込んだ演算宝珠は、その言に相違なく「長く遠く飛ぶこと」だけを考えて作られていた。
長距離・長時間の任務に耐えられるよう、全体的に保守的で堅牢な設計となっている。目新しい点としては、宝珠核を2基搭載していたことだろう。
それぞれ独立駆動する宝珠核は、万が一片方が壊れて片肺となっても帰還できる可能性を残すものであった。
「エレニウム工廠のモノ好きは"複核同調技術"を研究しているとのことですが、夢物語です。それに、複核同調では1つの宝珠核の破損が演算宝珠そのものの破損に繋がります。並列駆動こそが堅実に能力を増強しつつ、宝珠に冗長性を与える手段です」
いや、そんな1+1=2のように簡単に演算宝珠の能力が向上するのであれば、どの国もやっているのはではないか。誰もやっていないというのは、何らかの欠点があるのだ。
「宝珠核は術式を用いて魔力を事象に変換する機関だと聞いている。その原則は1宝珠核につき1術式。近年では技術の発展により、1つの宝珠核で複数の術式を展開できるようになったが、その逆は聞いたことがない。可能なのか」
できなければ、単に出来の悪い演算宝珠を2個握っているのと変わらない。
「一応、可能です」
バッヘム技師の歯切れは非常に悪かった。しかし、スペックを偽っているのではなく、科学的に正しい言葉と、営業的に分かりやすい言葉が衝突する、技術者にありがちな現象であった。
「"術式解析"という理論があります。従来ブラックボックスであった術式を解明し、より良い術式を創作しようという技術です」
術式は神が人類に授けた聖句の一種であり、単語やその構文がどのような意味を持つのか、まだ十分に解明できていない状態で使用している。それを読み解いて、神話や聖書等で今日に伝えられている術式だけではなく、必要な術式を自由に作ろうという試みだ。
いや、どっちが夢物語なのだろうか。
「もちろん、理論に過ぎない"術式解析"を兵器転用できるとは思っておりません。この理論の研究中に偶然発見された、"術式分割"技術が兵器転用できると考え、複核並列駆動型の演算宝珠を開発したのです」
ブラックボックスである術式を可逆的に分割、結合できる"術式分割"技術。
昨今発展著しい魔導技術だが、またこれで一段飛躍したのだという。
「話を伺っている限り良いこと尽くめだが、本当なのか。そうだとしても、その"術式分割"はどう行うのか」
「そこが、この技術が兵器転用されない所以でしょう。術式分割用の機構を搭載するため大型化すること、そしてなにより術式の分割速度が遅いことです。単純な光学術式ですら、通常の単核タイプの演算宝珠と比較して最小0.3秒の遅延が生じます」
欠陥品じゃん。
海兵魔導師も、接敵時は高速機動戦闘を行わなければならない。
Ping300msオーバーの状態でFPSができるものか。
シェーア提督には悪いが、コンペ以前の問題だと報告しておこう。
お客様がお帰りだ、と軍曹に目配せをしたところ、大人の対応が帰ってきた。
「とりあえず飛んでみては?」
もう少し上官を立ててくれないものだろうか。
これでは、私がただ我儘を言っているだけのようではないか。
ティンダー要塞の練兵場を借り、H&K社の演算宝珠を起動させることとなった。
バッヘム技師がやたらと大掛かりな梱包を解いたところ、その複核並列駆動型の演算宝珠が姿を見せた。
「大きいな。連合王国の宝珠程か?」
機動戦を重視する帝国魔導師は、懐中時計型の小型の演算宝珠を好んだ。
対して、大火力による統制射撃を教義に持つ連合王国や共和国は人が乗るような大型の演算宝珠を装備していた。
このH&K社製の演算宝珠はその中間程度で、とてもポケットに収まるものではないが、だからと言って車庫が必要なほどでもなかった。
「お伽話に出てくる魔法使いの箒をイメージしてデザインしております。長距離飛行においては術式で全身を支えるより、何かに腰かける方が楽でしょうから」
それに、術式分割機構を搭載しつつ、帝国流の機動戦がギリギリ可能なサイズとのことだ。
「箒に跨って巴戦など、まるでサーカスじゃないか」
「邪魔なことは弊社のテストパイロットも同意見でした。背中側のアタッチメントで宝珠を体に固定すれば、柄の部分を背中側に跳ね上げることができます。一応、既存の戦法も取れますよ」
"一応"、ね。
大きなデッドウエイトを背負うことになるのは間違いないのだ。
とはいえ、文句ばかり言っていると軍曹が怖い。
給料をもらっている以上、国家に奉公するとしよう。
演算宝珠の形状上地面に転がっていては乗るのも難しいので、演算宝珠を起動して浮遊術式を用い手元まで浮かせようとするが、ピクリとも動かない。
自身の魔力が使われている感覚はあるのだが。
「……故障か?」
思わずそう呟いたところ、演算宝珠が腰の高さまで浮き上がった。
「意外に思われるかもしれませんが、浮遊術式や飛行術式は難解な術式です。事象の発現には大きめのタイムラグがあることをご承知おきください」
万が一採用されれば、皇国兵はこれで戦うことになるのか。
いや、ご愁傷様としか言いようがないが。
足を揃えてお行儀よく演算宝珠の柄に腰掛け、テスト飛行の準備に入る。
残念ながらまだ股に棒を擦りつける趣味はないので、自転車の後席に乗る女学生にのみ許された座り方だ。
「それでは不安定ですよ、跨らないんですか?」
乙女に足を開け、と。
技術者の割になかなか積極的だな。
「余計なことを考えずに飛んでください」
……軍曹、なかなか察しが良くなったじゃないか。
機動戦用途としては絶望的な反応速度とは裏腹に、技師の言のとおり長距離巡行用途としては非常に優れた演算宝珠であった。
船旅の途中で溶融させた既存装備のそれとは異なり、長時間駆動による過熱等の異常は全く見られない。洋上でも演算宝珠のご機嫌を取るために余計な気を使わなくても良いのはプラス要素だ。
それに、演算宝珠自体の処理能力にも大幅な余裕があり、戦闘用の術式を割り込ませても問題なさそうであった。実際に戦闘できるかはさておき。
練兵場の上をぐるぐると周回していると、地上の軍曹から通信が入った。
「少尉、バッヘム技師から"もっと振り回しても良い"とのことです」
曰く、武人の蛮用に耐えうるよう設計した、と。
宝珠核自体の性能は帝国軍の正規採用品より幾分低いのだが、それは耐久性とのトレードオフのようだ。
そうか、では遠慮なく。とりあえず最高速度でどの程度飛べるかやってみようか。
演算宝珠に追加の術式を放り込むと、ワンテンポ遅れて少しずつ加速が始まる。
……いや、トップスピードに至るのも遅いな。
低空で一度運動エネルギーを失ってしまえばただのカモになりかねない。
その後も高高度性能の確認や意図的に片方の宝珠核を停止した片肺での試験を行い、地上へ帰還した。
「全体的に"重い"」
H&K社製演算宝珠の特性を要約するとこうだろう。術式分割機構の遅延で空中機動では加速も旋回もワンテンポ遅れるため、既存の演算宝珠を持った魔導師との機動戦は望むべくもない。
通常の演算宝珠を単発単座戦闘機だとすると、これは双発重戦闘機だ。
複核並列による冗長性や、大型化による堅牢な設計は長距離長時間の任務を可能とさせている。
だが、
「やはり、複核並列のコンセプトが悪かったのでしょうか」
散々文句を言った所為でしおらしくなってしまったバッヘム技師が、おずおずと聞いてくる。
いや、コンセプト自体は悪くないのだ。
P-38は米軍にとって無くてはならない機体だったし、海兵隊は重量増加を承知でコブラを双発にすることを要求した。
Bf110とてスペックは高く、「爆撃機を守りながら単発単座戦闘機と戦う」という絶望的に向いていない任務を任されなければ優秀な機体なのだ。
「機械的な欠点は2つだ。反応が遅いこと、宝珠核自体の性能が高くないこと」
後者については小さな問題だ。コンペ相手の連合王国も、皇国には最新型の演算宝珠を提案しないだろうから。
問題は前者だ。
「コンペティションの詳細が分からない以上何とも言えないが、相手との模擬戦があった場合は間違いなく勝てない」
この演算宝珠は対魔導師戦闘という一点に対して大きな欠陥を抱いている。それに、私自身がそれをカバーできる程戦闘能力に長けているわけでもない。
まぁ、ほどほどに頑張ってみるさ。
***
コンペティションは思いのほか上手くいっていた。
連合王国は自身が採用しているものと同じ最新型を売り込んできており、単純な性能では劣っているものの、H&K社は民間らしい柔軟な発想で演算宝珠を売り込んだ。
バッヘム技師が提案したティンダー要塞から秋津洲までの無着陸飛行といったパフォーマンスは、皇国軍の担当者の度肝を抜いた。
演算宝珠の柄の部分を跳ね上げ、四肢の自由を確保し機動戦も可能とする(実際にできるとは言ってない)機構も、格闘戦を重視する皇軍には受けていた。
H&K社の営業攻勢はさらに続き、大ロットでの割引や演算宝珠の技術移転を伴うライセンス生産も可能だと提案していた。
「大盤振る舞いだな」
ライセンス料だけでは食べていけないのでは、と考えた私に対してバッヘム技師は自信をもって返した。
「我々は本来、演算宝珠用の工作機械を売るメーカーです。皇国は近い将来自前で演算宝珠を作れるようになるでしょうが、その工作機械を作れるようになるまではさらに時間がかかります。ここで売り込んでおけばマザーマシンを握れるんで、安い投資ですよ」
そんなものなのだろうか。
聞けば、一番危惧しているのが連合王国製の演算宝珠をライセンス生産されることだとか。連合王国と帝国では単位系が異なり、皇国のデファクトスタンダードが連合王国側の単位系となってしまうと、将来ずっと商売が難しくなるということだ。
「インチ規格なんて、滅んでしまえば良いんです」
恐れていたことが起こってしまった。
技術移転がオマケで付いて来るH&K社の演算宝珠を買いたいが、政治的に連合王国の演算宝珠を買わなければならない皇国担当者は相当悩んでいたようだ。
また、皇国魔導師達のH&K社製演算宝珠に対する関心は高く、一応仕様も満たしているので、頭ごなしに連合王国製の演算宝珠を採用すると禍根が残りそうであった。
結果、皇国担当者は演算宝珠の模擬戦を提案した。
H&K社が負ければ皇国魔導師を納得させる材料となるし、連合王国が負ければ政治的な言い訳になる。
要は、担当者が責任を負いたくなかったのだ。
優柔不断な官僚ほど使えない奴はいない。
模擬戦なんてやらずに大人しく連合王国製の演算宝珠を採用していればよかったのに、余計なことを。
どうせ勝てないからと全く準備もしていなかった私も悪いのだが。
バッヘム技師には「勝てない」と何度も伝えたのだが、もう一押しで採用されるという状況では受けるしかなかった。
責任を部外者の私に回すなよ。
「軍曹、相手の魔導師の詳細は分かるか?」
「キャンフィールド中尉、連合王国海軍極東艦隊隷下の巡洋戦艦"クイーン・メリー"所属の海兵魔導師ですな。詳細は分かりませんが、少尉より格上であることは間違いありません」
そんなことは分かっている。
向こう側にいる壮年の偉丈夫が、飛行時間二桁以下のひよっこだとは思っていない。
「軍曹、こっそり君の演算宝珠を貸してくれんか? こいつでは勝てない」
「反則ですよ。バレないとでも? 大人しく撃墜されて来てください」
やはりダメか。
こういった公的な場での結果の影響は大きい。
如何に善戦しようとも、「帝国魔導師が連合王国魔導師に敗れた」という記録は残る。また、戦場とは異なり大勢の見物人がいるため、伝聞での広がりも早い。
「再就職に影響のない程度には努力しなければ」
十中八九、帝国は無くなるのだ。
帝国海軍は伝統の引き籠り芸を発揮するだろうから、私は生き残れるとしても、その後の再就職先が無ければ飢えてしまう。
履歴書に傷をつけないためにも、この模擬戦で変な戦績を残すわけにはいかなくなった。
「お嬢さん、よろしく頼むよ」
ブツブツと考え事をしていた私に、キャンフィールド中尉が手を差し出した。
決闘前の挨拶だろうか。握り返した手はふんわりと優しく包まれた。
クソ。紳士面する余裕があるということか。
「ええ、胸をお借りします」
貸すほどあるのは私の方だけどな。
誤字報告ありがとうございます。
毎話、とても助けられております。
何でなくならないんでしょうかね......やっぱり作者のスペック不足か。