かぐや様恋愛争奪戦   作:白黒パーカー

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早坂愛は探りたい

 

 

私立秀知院学園。

かつて貴族や士族を教育する機関として創立された由緒正しき名門校である。

貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ、将来は国を背負うであろう人材が多く就学している。

 

外面だけは富豪系の天野羽衣(あまのうい)も当然、そのお金持ち学校に通っている。

そんな彼はというと、現在、物凄く困惑していた。

 

「天野くん、付き合って欲しいんだけど〜」

「……へ?」

 

天野が在籍する2年A組の教室で告白された。

自身の席で片付けを終えた彼の目の前には早坂がいる。

彼女はギャルモードで近づくと体を(かが)めて上目遣いにキラキラした笑みを浮かべてくる。

高校生活の中で初めての経験。

 

(どう考えても()()()()しかしないんですけど)

 

内心、そんなことを考えてしまった天野は悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

どの学校にも図書室が設置してあるが、ここ秀知院学園にもそれはあった。

それなりの広さを持つ図書室は利用する生徒も多い。

基本的に図書室に来る生徒は借りたい本を探しているか、勉強しにくる生徒がほとんど。学校の中でも一番の静寂が出来上がっていた。

 

「天野くんマジありがと!助かったし!」

 

そして、早坂の甲高い声によってそれが一瞬で壊された。

 

それを聞いた図書室にいる他の生徒たちから鋭い視線が向けられ、テーブルに早坂と横並びに着く天野(あまの)はビクついてしまう。

 

「いや、早坂さん。図書室だからできたら静かに。周りの視線がまじで怖いから」

「りょーかい」

 

ウィンクしながら小声で頷く早坂の態度に、天野は複雑な表情を浮かべる。

そんな彼の様子がおかしかったのかクスクス笑う早坂。

しかし、その綺麗な青い瞳の奥はまったくもって笑っていなかった。

 

()()()()()()()()()

 

もちろんわざとである。

早坂、天野との会話で有利性を確保するため、わざと大きな声を出して、視線を自分たちに向けたのだ。

これにより天野は萎縮(いしゅく)の色を示し、早坂に会話の主導権が(かたむ)いた。

 

(かぐや様の命令ですから手は抜けませんけど、さっさと彼から情報をもらって終わらせたいですね)

 

かぐやからの命令。

それはかぐやと白銀の恋愛頭脳戦の邪魔にならないように阻止すること、また天野に関しての情報収集が主な命令内容だった。

前半に関してはこうやって図書館に引き止めることで達成。後は直接の会話で彼から情報を引き出すことだけだった。

 

主からの命令ゆえに本気で挑む。

しかし、対象の難易度は今までよりも簡単すぎるため、特に問題ないだろうと結論づける早坂。

 

「でも、俺なんかでよかったのか?小テストの赤点対策って言っても、俺教えるのあんまり上手くないぞ」

「いいよいいよ!私、あんまり勉強してないから頭良すぎる子に聞いてもわかんないし」

 

ギャルだけど無害そうなイメージを意識しながら、早坂は元気よく答える。天野に近づくために利用したものは、もうすぐ行われる数学の小テスト。

 

学校での彼女はかぐやとのつながりを見せないため、ギャルの演技をしている。

その演技はどこまでも徹底的でテストの点数も赤点ギリギリセーフのところで調整していた。

実際は四宮家仕込みの知識でランキングトップに食い込むほどだ。

 

今回は赤点回避という名目で標的に近づくことに成功。

そして、ここからが彼女の本気を発揮するタイミングでもある。

 

「…………それに、天野くんみたいに優しそうな人、初めてだったし」

 

そう言って、早坂は少しだけもたれかけるような姿勢で、隣に座る天野を上目遣いに見る。彼の肩にはさりげなく早坂の細く白い手が優しく置かれた。

 

(かぐや様だけではないですよ。これが使えるのは)

 

早坂、純真無垢(カマトト)である。

 

以前、かぐやが白銀に使った武器。それを今回は天野に仕掛けていた。

これは四宮家の一家相伝。しかし、かぐやの近侍としてそばにいる彼女も盗み見て習得していた。

 

しかも、今回は特別バージョン。

ギャルである彼女から予想できない、しおらしい姿を見せる、ギャップ理論を利用していた。

 

(正直やり過ぎな気もしますが、これも情報のため。さっさと吐いてくださいよ)

 

どこまでも計算された早坂勝利の道筋。

天野はどう見ても平凡だが、仮にも天野家社長のご子息。

これぐらいやらないと意味がないと判断したて実行した。

 

かぐやに好意を持っている色目を差し引いても、あの白銀すらも精神が揺らいでしまった技術。早坂は勝利を確信しながら天野の反応を待つ。

彼の反応は——、

 

「わかったわかった。とりあえず早坂がわかんないところを教えてくれよ」

「え……う、うん!まかして!」

(な、なんで普通に流すんですかっ⁉︎)

 

まさかのスルー。

早坂の演技と技術によって生まれた攻撃を天野は適当にあしらい、テーブルの上に置いてある自分の数学のノートをペラペラとめくり出したではないか。

 

ありえない出来事に混乱。仮面が剥がれないように注意しながらも、早坂は内心で憤慨していた。

 

(なぜですか!なぜ予想よりも彼の反応が薄いんですか。というか、なんで今のトキメキポイントで私に()()を感じるんですか!)

 

観察術で天野が照れているであろうこと、そしてなぜか恐怖を抱いていることが何となくわかる早坂。

 

自分の本気の武器があっさりと払われたことにふつふつと腹の中が煮えたぎる感覚に陥る。

彼女は天野の肩から手を離すと、テーブルの下でギリギリと自分のこぶしを握りしめた。

 

でも、それは仕方ないことだった。

 

(あー、さっきの仕草なに?ちょー可愛かったんですけど。でも、早坂のやつ、何の狙いがあってあんなことしたんだ?)

 

早坂は絶対に気づくことができないが、天野には原作知識がある。

そこで早坂の裏の顔、四宮かぐやの近侍ということはとっくに知っていた。

 

さっきの笑顔にはビックリした。あまりの可愛さに心臓もドキドキした。が、それだけである。

照れるよりも先に何か仕掛けがあるのではないか、という恐怖のほうが明らかに大きかったのだ。

 

天野にとって早坂の行動とは、〝あの早坂だから裏がある〟という一言で片付けられてしまう。

 

(ま、まぁ、いいでしょう。反応の薄さには困惑しましたが、しばらくは勉強会で安心させましょう。仕掛けるならその後でも十分です)

 

あらかたの分析を終えて、立て直した早坂。四宮ばりの思考速度で、すぐさま新たな計画を組み立てる。

 

さっきのハニートラップは失敗。

恐怖を抱く原因はわからないが、それも時間の問題。

しばらくはテスト勉強に集中させて、天野を安心させることに力を入れる。

情報収集はそれからでも遅くない。

 

早坂は演技を崩さず、悟られないように天野を横目に見て薄く微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「だいぶ出来てるみたいだし、ひとまず休憩するか」

「やった〜、休憩だー!」

 

天野(あまの)がそう提案すると、早坂はギャルらしい反応をしながら、テーブルにぐでーと倒れ込んだ。どこからどう見ても、疲れ果てたギャルにしか見えない。

 

あれからしばらく小テストの勉強をしていた。

やり方は先生から伝えられていたテスト範囲にそって、ギャル早坂ができないところを重点に問題に取り組むシンプルな方式である。

 

(やっぱり彼、天野家の息子にしては平凡ですね)

 

早坂、直接関わって確信に(いた)った。

天野羽衣(あまのうい)は平均的な能力しかもっていない。もしこれが、能ある鷹は爪を隠す状態なら彼女にもお手上げだが、彼の態度から見てもそれはないだろう。

 

彼の本質を見抜くのはそれほど苦労はなかった。

でも、

 

(上手くないと言ってたくせに、わかりやすい説明でしたね)

 

うつ伏せた状態のまま、ちらりと天野のことを盗み見る。

そこには休憩中なのに教科書とにらめっこする天野の姿があった。彼女はさきほどの彼との勉強を思い出す。

 

彼の成績はやはりそこまで高くない平均的なもの。しかし、勉強の教え方はそれなりに上手かった。というよりも教えることに手馴れていたのほうが正しいだろう。前から誰かに勉強を教えることがあったのだろうか。

 

時折、彼は問題の解き方でわからなかったのか手が止まることもあった。そのたびに彼は教科書に手を伸ばし、参考になるものを探しては、それを早坂に見せて丁寧に教えてくれた。

 

彼の感情はどうやら他の人よりもわかりやすいみたいだ。平凡というか単純というか。

 

なぜか私に対してまだ恐怖心が見えているが、その奥にある〝優しさ〟もはっきりと見えた。

総じて、底が浅い人間というのが早坂にとっての彼の印象だった。

 

(そういえば私、他人から優しさを向けられたことがあまりないですね)

 

天野の優しさに触れた早坂はふと、そんなことを考える。

彼女の人生の中で優しさを向けてくれる人がいないわけではない。大好きな彼女の母親、姉妹のように一緒に育ち支えてきた主のかぐやなど。

 

でも、それだけしかいない。早坂に優しさをくれるのは身内だけしかないのだ。

 

もしかしたらとっくに他人から優しさを向けられていたかもしれない。ただ今の早坂本人では気づけていない。彼女か自覚したものだと、今回の天野だけだった。

 

それもこれも天野のわかりやすいほどに底が浅い人間性のせいだろう。

 

(ですが、()()()()()()()()()()()()()。彼に好きな人がいるのか。それだけは確認しておかないと)

 

ぬるま湯のような優しさを振り払い、早坂は今回の目的を再認識する。

 

彼に対しての情報収集で一番大切なことは、天野がかぐやを狙っているのか。それだけだ。

もし天野がかぐやを好きでないのなら、わざわざ妨害する必要もない。いらない仕事として切り捨てることができる。

 

しかし、もし彼がかぐやのことを好きというのなら、早坂は全力をもって天野羽衣の妨害をしなければいけない。

 

「ねぇ、天野くん」

「どうした?」

 

早坂はうつ伏せたまま顔だけを天野に向けて、声をかける。彼も教科書から目を離して彼女を見る。

目と目が合った瞬間、

 

「天野くんってさ、好きな人とかいるの〜?」

 

それを確かめるためにも、早坂から攻撃を仕掛けることにした。

その質問に天野、体の動きが止まってしまう。

早坂、恋バナをすることで天野に先制攻撃を仕掛けることに成功。

 

(この人、やっぱりなんか仕掛けてきたよ⁉︎)

 

天野、内心でテンパる。

何かしてくるとは予想していたが、まさかここまでストレートに来るとは。

早坂を知っている彼は彼女の勢いの良さに面食らうが、なんとか思考する。

 

おそらくこれはかぐや関係の探りだろう。邪魔ものは排除するのが四宮家。恋路を邪魔しようとする彼は敵でしかない。排除する対象には入っているはずだ。

 

そこまでなら凡才の天野にもわかる。だが彼女の詳細な目的はまったくわからない。やっぱり原作知識があっても、わからないことばかり。

わざわざあの近侍が彼に接近してまで尋ねてくることは何なのか。

ここは適当に言い訳するべきと選択する。

 

「好きな人はいな……」

「好きな人はー?」

 

好きな人はいない。

その一言を言おうとしたが、ギャルらしい笑みを浮かべる彼女の仮面を見て、でかけた言葉が途中で止まる。

 

(これ嘘ついたらヤバいやつじゃない?)

 

正解である。

もし誤魔化しをしようものなら、早坂は警戒。敵認定していた。

それに天野は知っていたことだ。目の前にいるのは四宮と同じ教育を受けた天才ということを。

 

生徒会選挙選の時、かぐやは伊井野(いいの)ミコとの会話をする場面がある。

そこでなんとなくだが、かぐやが伊井野の心の中を見透かしていたシーンが登場した。

それがどれだけの精度かもわからない。

 

だが当然一緒に育てられた彼女にも嘘は見抜けるはずだ。

そうなると平凡な前世しかもたない彼の嘘では、当然、目の前の天才には通用しない。

 

でも本当のことを言えば、かぐやと白銀の仲を邪魔する存在として敵認定。どちらにせよアウトだ。

かぐや攻略を初めたときから予想していたことだが、その脅威が目の前まで来たかと思うと恐怖心が溢れてくる。

 

(どうすればいいんだよ。八方塞がりだよ、助けてよ、我が妹よ!)

 

あまりの怖さに前世の妹に助けを求める。それくらいに切羽詰まっていた天野。

すでに彼の頭はパンク寸前だった。思考は真っ白になる。

 

「もちろん好きな人くらいいるよ」

 

だから、天野は思い切って、いると宣言。

ただの考えなしである。

 

「……へぇ〜、やっぱり好きな人いるんだ!」

(切り返してきましたか)

 

早坂、その時の天野を観察したが嘘をついているようには見えない。

 

好きな人はいる。それは相手の知りたいという欲求を満たしつつ、誰とは言わない便利な言葉である。

嘘がつけないなら、真実を言わないそんな選択肢を直感で選んだのだ。

 

偶然の奇跡、薄皮一枚で助かった天野。

 

「もしかしてうちのクラスの子〜?」

「え、いや……」

「もう、秘密にするからヒントだけでも教えてよ!」

 

しかし、早坂にそんな手が通じるわけがなかった。

彼女のギャルらしい押しの強さを生かし、天野に考えさせる余裕も与えない。容赦ない攻め。

それによる動揺で彼が情報を零すことを狙っていた。

 

(ど、どうする?何を言えばいい!)

 

かぐやのことが好きだと言えばアウト。嘘をついてもアウト。

ここで求められるのは早坂がかぐやだと理解できないレベルのヒント。

 

天才たちの恋愛頭脳戦とは違い、彼の頭の中では混乱が渦巻いていた。まさにカオス。

どうすれば彼女に納得してもらえるのか。

 

そもそも言わなければいいじゃん、という答えはテンパっている天野の頭の中にはなかった。

2度目の人生なのに死にかけ気分で、走馬灯が走るような感覚。今まで見たものが通りすぎた。

 

(あ、そうだ頭脳内戦!)

 

走馬灯の中、見覚えのあるシーンを見て、天野は一つの答えを導く。

 

「どーなのよー!このこの!」

 

早坂はボディタッチも踏まえて、すでに最後の締めに入っていた。

内心、早く堕ちろよとムキになっている。

すると、天野の表情に変化があった。

 

それは今までの照れでも恐怖でもない。

どこかキリッとした顔つきになっていた。

 

「俺の好きな人のヒントだっけか?」

「うん、そーだよ!」

「俺が好きな人はな、たくさんの顔があってそれを使い分けてる人かな?」

 

彼が選択した一手は、先の未来で起きるであろう真実だった。

頭脳(内)戦。

 

それは四宮かぐやが相反する感情が入り交じり迷走する脳内イメージの具現化。

現在のかぐや、氷かぐや、アホかぐや、幼いかぐやにかぐやちゃん。

 

これらは多重人格ではなく防衛機能であるペルソナ。誰しもが持っている仮面だ。しかし、四宮の家柄のせいで別人格と勘違いしてしまうほどに強く分離、表面化していた。

 

これならまだ誰にでも当てはまるものであり、かつ早坂もギリギリ知らないであろう先の未来の話だ。

もし早坂が四宮のペルソナのことをガッツリ知っていたら終わりではあるし、そもそもアレは使いこなしているというよりは振り回されているのほうが正しいのだが。

 

どう見てもガバガバの一手だが、今の彼はすでに思考が回っていない。

再度言うが、ただの考えなしである。

 

「へ?」

 

だが早坂はそれどころではなかった。

天野の口から出た言葉に自身の体を強ばらせる。

 

(たくさんの顔があって使いこなしているって…………それ、私のことじゃないですか⁉︎)

 

勘違いである。

早坂、天野の言葉に動揺してしまった。しかし、彼女の反応も間違いではない。

確かにかぐやにはいくつもの顔がある。それゆえ天野の選択は間違いではない。

 

だが、彼は忘れていた。かぐや以上にたくさんの仮面を作り上げ、それを使いこなしている存在が目の前にいたことを。

 

早坂愛という人間は近侍以外の仕事をするため、様々な顔を利用している。

 

校内擬態早坂、対四宮家早坂、ハーサカ君。後々にはスミシー・A・ハーサカというのも出てくる。

自身の本当の顔なんてかぐや様や母しか知らないことなのに、目の前の男はそれに気づいている可能性が高いのだ。

 

今のヒントだと天野が好きなのはかぐやではなく早坂ということになる。

普段の早坂ならこれだけでこんな思考にたどり着くことはないだろう。

しかし、最弱と思っていた相手に渾身の武器を使うも失敗、身内以外から優しさを向けられた事実。

 

その積み重ねにより早坂の思考に淀みができていたのだ。

 

(まだ決めつけるには早すぎます。もう少し詳しく聞かないとわかりません)

 

ひび割れの仮面を両手で押さえつけるように耐えながら、早坂は質問を続ける。

そもそも早坂のこの演技がバレるはずがないし、天野にはそれに気づく能力もないはずだ。

 

「他に好きなところとかないの〜?」

「え、他のところ……」

 

彼女の困惑を知らず、再度の質問に苦悶する天野。

 

次に彼の頭に浮かんだのは文化祭の後、白銀と付き合ったあとのかぐやの様子。漫画を見ていた時も思ったが、かぐや様のあの構ってちゃんぷりは、なんというか……。

 

「……そうだな。特定の人に対してすごい甘えん坊なところとかかな?」

「なっ⁉︎」

 

その一撃に仮面がボロボロと崩れていく感覚。今度こそ早坂は心から驚きの声を上げてしまう。

彼女はいくつもの顔を持っている。

 

しかし、母親の前だけではどんな仮面も脱ぎ捨て、幼子のように甘えてしまう性格だ。素の早坂。

それは自他ともに認める重度さ。

そう、早坂愛はマザコンである。

 

特定の人に甘えるなら誰にでも当てはまるが、今の早坂は先入観で自分のことを言っているようにしか思えない。

 

(どうして、私のことを知っているんですか?演技が本当にバレてた?いや、でもそんな素振りは一度もなかったし)

 

不正解。

とにかく何か言わないといけないと考えていた天野の死にものぐるいの答えだ。

 

だが、早坂は気づけない。気づく余裕すらない。

再三、彼女の自信は天野によって無意識に折られていて、すでに2人とも正常な考えをもつことなんてできていなかった。

 

正しくカオス理論。

すれ違いによって生まれた問題である。

 

「普段は見せようともしてこないんだけど、時折見えるその顔が可愛くてね」

「うっ」

「もう少し素直になればいいんだけど、そのいじらしさも見ていて楽しいし」

「あぅ……」

「それと……」

「も、もういいから!よくわかったから!」

 

天野の無意識なカウンターは早坂のボディを容赦なくえぐる。

半分くらい剥がれ落ちたギャルの仮面で演技を続けながらも、すでに彼女は限界。

 

座っていた椅子から腰を上げて少しでも距離を離す。

 

「と、とりあえず好きなんだね〜、その人」

「お、おう。そうだな」

 

(もう、無理。考えられない)

 

正常な判断ができない早坂にはもう限界だった。

火が出るほどに熱く赤くなる顔を片手で押さえて、この時間が早く終わることを祈るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

勉強会があったその日の夜。

かぐやの部屋で二人だけの報告会が開かれていた。

 

「それで早坂。天野くんの情報は何か掴めたの?」

「はい、かぐや様」

 

ご令嬢らしいかぐやの広い部屋の中、かぐやは椅子に腰掛け、近侍の服を着た早坂の報告を待っていた。

 

(やはり彼は私に好意を抱いているのかしら)

 

もしそうなら、かぐやはお断りをするつもりだし、そもそもただの雑草に興味はない。

邪魔するつもりなら容赦しないが。

 

まぁ、それこそ情熱的に、そして天野家の秘密を全部バラしてくれるのならお茶ぐらいには付き合ってあげよう、と考えるかぐや。

 

早坂の入れてくれた紅茶を丁寧な所作で優雅に飲む。

そんなかぐやを無表情に見ながら、早坂は今日の結果を報告する。

 

「かぐや様。どうやら天野くんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいです」

「はい?」

 

無表情でとんでもないことを言う早坂はどこかもぬけの殻のようにふ抜けていて。

彼女のその言葉と普段見せない態度に、かぐやは思わずポカンと口を開けて、首を傾げるしかできなかった。

 

 

 

 

 


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