聖闘士星矢vs幽遊白書~Legend of Soldiers 作:シャンディ
SIDE幻海
氷河が敗れた直後、突如として炎の中から現れた男……彼もまた聖闘士なのだろう。
「試合はもう始まっている!」
「お前を通すわけにはいかん!」
「邪魔だ、雑魚どもが」
試合中なので警備をしていた妖怪二匹が男を連れ出そうとするも、男の体に触った途端に炎に包まれて跡形もなく消滅。
悲鳴をあげながら、消滅した警備の妖怪たちを見て、私は戸愚呂の事を思い出していた。
戸愚呂も圧力だけで弱い妖怪を消滅させたが、まさしくそれと同じ原理。
【ここに来て、乱入者です!】
圧倒的な威圧感、恐怖を一切感じていない瞳、体全身から放つ殺気……どれをとっても他の聖闘士たちとは一線を画している。
少なくとも覚悟が違う……他の聖闘士たちは目的があるにせよ、妖怪を殺す事に迷いがあった。
だがこの男は違う……会場全体を皆殺しにしかねない程、殺気を放っている。
こんな怖ろしい殺気と攻撃的なバトルオーラは初めてかもしれない。
「誰だ……貴様は?……」
「鳳凰座……フェニックス一輝」
「フェニックスだかなんだか知らんが、貴様も紫龍や氷河のようになりたいようだな」
聖闘士チームは残りが星矢一人、浦飯チームはまだ飛影と大将の幽助が戦える。
状況から見て、浦飯チームが有利だと思ったが、この一輝と言う男によって勝負は互角……いや……聖闘士チームが優勢になったかもしれない。
それ程、この一輝と言う男の出現は戦局を大きく揺るがすだろう……。
「連戦で疲れている紫龍と本調子ではない氷河を倒したくらいで浮かれるとはお里が知れるな」
「なんだと?……紫龍と氷河が万全の状態じゃなかったから、俺が勝てたような言い草だな」
「笑止!……あいつら程の奴がお前のような小物にむざむざと負けるはずあるまい」
だが実際にそうかも知れない……もし紫龍が廬山百龍覇を、氷河がオーロラエクスキューションを万全の状態で放っていたとしたらその威力は黒龍波の威力とはまったくの5分……紫龍と氷河が本来の力を出していたら……。
「飛影とか言ったか……あの世へ行く準備ができたのならとっととかかってこい」
【あ……あのぉ……ルールでは補欠は一名だけでして、紫龍選手がそれに該当するので……】
「ルールなど俺にとってはどうでもいい!認められんと言うのなら貴様を殺してでも飛影と戦うまで」
【わ、分かりました!……そ、それでは試合開始!】
試合のゴングが鳴り、睨み合う両者。
飛影なら気づいているはず……一輝がかなりの実力者であり、疲弊していた紫龍や氷河のようにはいかないことを……。
「俺を紫龍と氷河のようにするとか言ったな?」
「それがどうした?」
「口だけではなく、行動で証明して見せよ」
「言われなくとも……」
一瞬にして一輝の目の前に出現し、殴りかかる飛影だったが拳を右手でいとも簡単に受け止められる。
「なにぃ!?」
「その程度のスピードではこの俺を捉えようとは笑止!」
一輝の左ストレートパンチが飛影の腹部に炸裂し、リングをゴロゴロと転がる飛影。
「どんな奴かと思ったが、所詮は小物……俺が目を瞑ってでも貴様では俺に攻撃を当てることはできん」
一輝が目を閉じると、会場中が呆気に取られる。
【一輝選手、本当に目を瞑っています!】
暗黒武術会の前回優勝チームの一員で魔界三大妖怪の一人である躯に仕えるS級妖怪……今では名前を聞いただけで敵をビビらす飛影を目の前にして、人間である一輝が目を閉じて戦うなど妖怪たちにとっては信じられない光景だろう。
「調子に……乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りに身を任せ、さらにスピードを上げた飛影は瞬間移動のような速さで一輝の背後に現れるが、一輝はクルリと背後を向き、飛影の左頬を殴る。
フェニックスの一輝……怖ろしい奴だ……完全に飛影のスピードを見切っている。
万が一、飛影が勝てるとしたら黒龍を取り込んで妖力を高めるしかない。
だが紫龍の時に黒龍波を使い、そこでかなり妖力を消費している……成長した飛影と言えども、使えるのは2回程度だろう……。
飛影の性格からして自分が星矢も倒そうと考えてるに違いない……だから妖力を温存する為に黒龍波を打つことを躊躇っている事は想像に容易い。
「まさか……幽助以外で俺のスピードを見切れる奴がいたとはな……」
「かつての俺なら見切れていなかったかも知れん……しかし、お前以上の敵と俺は何度も戦って来た……今の俺にはお前のスピードは蠅が止まるくらいノロマにしか感じない」
「俺以上の敵だと?……笑わせるな!本当の地獄はここからだぞフェニックス!」
「地獄?……地獄を渡り歩いてきた俺に地獄を見せるとは笑止千万!地獄を見るのはお前の方だ飛影!……フェニックス!……幻魔拳!!」
なんだ……今の技は?……飛影が立ち上がったと思ったら急にいきなり崩れ落ちて、ブルブルと震えている。
いったい飛影になにが起こったと言うのだろうか……。
SIDE飛影
俺は暗闇の中に佇んでいた……助けて……助けて……俺に助けを求める声が聞こえる。
「こ……この声は……」
その声には聴き覚えがある……妹の雪菜の声だ。
雪菜が俺に助けを求めている……助けに行こうとするが、体が動かない。
「何故、動かん!?」
徐々に視界が明るくなっていく……目の前には雪菜が下級妖怪たちに襲われている。
だが十字架に身体を縛り付けられているようで、手も足も動かない。
「貴様ら、ただではおかんぞ!」
振り向いた妖怪たちはかつて俺が盗賊をしていた頃に殺してきた妖怪たちだった。
「飛影、自分がどんな状況に置かれているのか分かってるのか?」
妖怪たちの鋭い爪や牙が雪菜の体を切り刻んでいく……悲鳴をあげる雪菜……見ていられない。
「貴様らが憎いのは俺だろ!?どうして雪菜を襲う!?」
「お前に地獄を見せる為だよ……俺たちがお前に受けた地獄をな!」
「やめ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雪菜の体から血飛沫が飛ぶ……絶望……雪菜を守りきれなかった……。
「次は飛影、お前の番だ!」
そして妖怪の鋭い爪が俺の心臓を貫いた……。
【飛影選手、どうしたのでしょうか?……急に苦しみだしましたが……】
ここは……リングの上?……後ろを振り返ると雪菜は怪我をしている桑原を支えている……。
「まさか……俺は幻覚を見ていたと言うのか……」
「その通り……フェニックス幻魔拳は心の中に潜む恐怖を映し出し相手の肉体よりも精神を破壊する……なぁに、安心しろ、今のは単なる様子見程度」
「ふざけた幻覚を見せやがって……貴様には死が相応しい!!」
俺は雪菜が無惨な殺され方をする幻覚を見せられ、完全に頭に血が昇っていた。
一輝を倒すにはこれしかない……頭につけている包帯を外すと俺の額から第3の眼が出現する。
「炎殺!……黒龍波!!」
紫龍との戦いでも使用したように魔界の黒龍を召喚する技だ。
それを一輝は受け止める。
【一輝選手、なんと黒龍波を受け止めました!!】
「飛影……この程度のパワーでは俺を倒すことはできんぞ!」
一輝が押し返した黒龍波が俺に直撃する……俺はこれを待っていた。
黒龍波は敵に対して放つイメージが強いが、根本的には黒龍を召喚し、取り込むことで能力を爆発的に高める技である。
自らに放ち取り込み妖気を飛躍的に上昇できる代償に体力の消耗も激しく、使用後は消耗した妖力・体力を回復するための深い眠りが待っている。
本来は星矢を相手にした時に使おうと思っていたのだが、一輝を倒すには使うしかない。
妖気が……霊力が……気力が漲ってくる。
今の黒龍を喰った俺が負けるはずがない!。
「一輝、今までのようにはいかんぞ……」
「飛影……お前、黒龍の力を体内に取り込んだか」
おそらく一輝には見えているはず……俺の妖気と共に黒龍の姿が浮かび上がるのが……。
聖闘士チームは霊力のような力を持つ人間……おそらく纏っている鎧がその力にブーストをかけているのだろう。
だったら、その鎧を破壊すれば、防御力は生身の人間……こちらが有利に立てる。
狙うは……鎧だ!。
俺はさっきとは比較にならない程のスピードで一気に迫る。
「邪王炎殺煉獄焦!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
俺は一輝の全身に万遍なく、拳で滅多打ちにする……魔界の炎と黒龍の力で強化された力で一輝の着こんでいた鎧を粉々に破壊する。
「邪眼の力をナメるなよぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最後のパンチを鎧が壊れて、生身である一輝のみぞおちに放つと、一輝はリングの端に吹っ飛ぶ。
【一輝選手、ダウンです!それではカウントを取りたいと思います!】
さすがに黒龍の力を借りた俺の本気のパンチを受けて、起き上がれる人間……いや……生き物などいないはず。
【5!……6!……一輝選手、飛影選手の怒涛の攻撃を浴びてもなお立ち上がりました!】
「飛影、どこへ行く?……まだ俺は死んではいないぞ!」
立ち上がっただと!?……手加減なしの俺の技を喰らって立ち上がる奴など到底信じられない。
まさか一輝と言う男はその名の通り、不死鳥そのものだとでも言うのだろうか……。
いや……一輝だけではない……聖闘士はボロボロになりながらも立ち向かって来る……彼らを突き動かしているのはいったいなんなのだろうか。
「生きていたのか?……どちらにせよ、傷口が広がるだけだ」
「飛影、俺は全身を八つ裂きにされようと骨が砕かれようと戦うぞ!」
「鎧もなしでどうやって戦うつもりだ?」
「聖衣の事か……飛影、教えてやろう……不死鳥は死なん!この俺が小宇宙を燃やし続けている限り、何度でも蘇るのだ!」
一輝の周辺に炎の渦が巻き、一輝を包み込む……熱風が強烈で立っているのがやっとだ。
そして俺は感じた……その炎の渦の中で一輝の小宇宙とやらが回復していくのを……。
炎の渦が消え……その中から現れた一輝は壊したはずの聖衣が元通りに戻っている。
しかも一輝の小宇宙もさらに強さを増している……これは想定外だ。
まさしく不死鳥の二つ名に違わぬ、強さと聖衣……ここまで来て……黒龍波を使ってまで負けるわけにはいかない。
「貴様の聖衣が不死身だと言うのなら何度でも破壊してやる!……邪王!……炎殺煉獄焦!!」
一輝を目掛けて再び、炎殺煉獄焦を繰り出すが、俺の目の前から一輝の姿が煙のように消える。
「なにぃ!?」
「聖闘士に同じ技は二度は通じぬ!これは最早常識!」
躱された……黒龍の力でで強化されたスピードを躱すなんて事は到底信じられなかった。
負けた……背後に一輝の殺気を感じる……俺のスピードを持ってしても、もう避けきれない。
「その身で受けろ!星をも砕く鳳凰の羽ばたきを!……鳳翼……天翔ぉぉぉぉぉぉ!!」
振り向くと、一輝が伸ばした両腕から強烈な爆風が発生……その爆風はフェニックスの姿に形を変えて、俺を呑み込む。
全身に受けた事もない激痛が走る……これはまるで炎の拳……そして俺の黒龍波の効果が切れ、意識を失ったのだった。