武偵 古戸ヱリカの事件簿   作:三白めめ

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古戸ヱリカの事件簿。


不可能密室 事件編

 今日はとても疲れた。バスの中でそう思っていると、瞼が重くなっていく。朝からチャリジャックに遭い、放課後には衝撃的な推理を聞かされたのだ。それもしょうがないだろう。

 

 

 

 

 

 これは古い夢、俺が強襲科(アサルト)だった二学期の頃のことだった。

 

 

 

 

「閉じ込められてしまいましたね」

 

 ヱリカは嬉々として語る。コイツとの任務はいつもこれだ。警備任務は『腕が鈍る仕事』とバカにされているが、そう言ったやつはコイツと組んで任務をしてほしい。絶対に、それこそ()()が悪い方向に働いているみたいになにかしらの事件が起きて、働かざるを得なくなるから。

 今回は富豪、筑波麗香(つくばれいか)のパーティーの警備任務で山奥、湖の近くの豪邸に来たんだ。麗香さんは二十台の女性で、今回は新しく当主になって初めての誕生日パーティーらしい。俺でも名前は聞いたことのある建築家や音楽家が数人集まっていた。

 

 そうして来客とパーティーを過ごしていたら、いつの間にか館自体が密室になっていたんだ。

 扉は外から強い力で抑えられてるみたいに固く閉まっていて、他の窓もそうだ。無理矢理窓を破ろうとしても、それもできない。幸い食料はあるようだから、しばらくはここにいても問題はないだろうが……

 警備として他の部屋の様子を見てくると言って、俺達は部屋を出た。一旦全員が集められた大広間には、何人かがいなかったんだ。

 

「キンジさん、心の準備はしておいてくださいね」

 

「やめろ。縁起でもない」

 

 携帯電話が通じないからと一緒に捜索していたヱリカが話しかけてきた。いつものことだが、こういう時にヱリカは不謹慎だ。旅に行くと必ず死者が出る体質と言っていたが、物騒にもほどがある。

 それにしても、こうしてみると本当に不気味な館だと思う。至る所に用途の分からないオカルトな道具が飾られていて、魔女や幽霊でも出そうな雰囲気だ。

 一つずつ部屋を覗いていったとき、それは起きた。

 

「鍵、掛かってますね」

 

 ノックをしたり、呼びかけてみても応答がない。ロックピックを使って鍵を開けるが、今度はチェーンロックが掛けられている。ヱリカは紐だったりいくつかの方法でチェーンを外そうと試みているが、上手くいかないみたいだ。

 

「しょうがないです。キンジさん、チェーンカッターです。使ってください」

 

 ヱリカから差し出されたカッターで鎖を無理矢理切断する。扉を開けると、幽かにシャワーの音が聞こえてきた。

 

「麗香さん!すいません、急を要する事態がありまして」

 

 ここから声をかけてみるが、反応がない。ヱリカが部屋に入っていくので、任せることにした。女のシャワー中に部屋に入るなんてろくなことにならないと何度も経験したんだ。そうして待つこと数分。

 

「キンジさん、来てもらっていいですか」

 

 ヱリカから声がかかる。来てもらっていいですかって、シャワー中じゃなかったのか?そうして躊躇っていた俺だが、

 

「大丈夫です。いくらキンジさんでも死体には興奮しないでしょうし」

 

 ──死体?考えるより先にベッドルームの隣にあるバスルームへ急ぐ。濡れたカーペットを進んだ先、そこにあったのは、この館の現在の主、筑波麗香(つくばれいか)の死体だった。まだ出ているシャワーによってずぶ濡れの服を着た状態で、血が胸から流れている。胸には過度に装飾された杭が突き刺さっている。蘇生のしようもない、即死だ。

 

「死因は胸に刺さっている杭でしょうね。死亡推定時刻はこのシャワーのせいで不明。()()()()()()()()()()()のはシャワーのお湯が外に溢れたのでしょうね。このことから、殺されたのは随分前と推測できます。まあ、わざわざこんなことをする犯人ですから問題ないとは思いますが。キンジさん」

 

「ああ、分かってる」

 

 一度息を吐き、冷静になるよう努める。

 この館は密室だ。犯人がこの屋敷に隠れていた人物でない限り、必然的にパーティーの参加者が犯人になる。

 この館に来ている客の安全の確保と事情を説明するためにも、俺はもう一度大広間に戻った。

 

 

 思っていた通り、大広間はにわかに騒がしくなった。誰が怪しいだのと言った話が多かったが、その中の話の一つに俺は気を取られた。

 

「先代の仕業?」

 

 使用人の加藤さんが話してくれた内容はこうだ。

 

「そうです。前当主の宗次郎様は魔術に傾倒しておられており、この館を御作りになったのもその一環です。事実、遺言状にもこう書かれております」

 

『贄を捧げよ。さすれば我が魔法により、我は黄泉還るだろう』

 

「魔法……か」

 

 ふざけるなよ。そんなもん、どうしようもないじゃないか。凶器の杭だって、あの密室から魔法で刺したのだ。

 

「ならこいつは、()()()()()だとでもいうのかよ……」

 

 そのためだけに人間が殺されたのかと頭に血が上る。握りしめた拳からは、いつの間にか血が垂れていた。

 

「キンジさん」

 

 背後から声がかかる。

 

 

「こうなるとお互いが信じられないという流れになりまして、一度全員が部屋に戻ることになりました。私たちも戻りましょうか。それと、館を調べましたが、私たち以外に人の形跡はありませんでしたよ」

 

 つまり、犯人は客のだれかか、前当主の幽霊ってわけだ。

 

 

 部屋に戻った俺は、ヱリカにさっきの話をした。

 

「キンジさん。前提として、魔法は不可能を可能にはできません」

 

 キンジさんはこの手の話(ステルス)には疎いでしょうしとヱリカは続ける。

 

「簡単に言うと、死者を蘇らせることはできないです」

 

「そうなのか。そういえば、白雪もそんなことを言ってたな」

 

 ヱリカが言うには、こういう事件のために調べておいたらしい。これによって前当主の筑波宗次郎が殺したんじゃないかという疑問は、あっけなく崩れ去った。

 

「じゃあ、この館のオカルトな道具は何なんだ?」

 

「見ての通り装飾品ですよ。魔法があると思わせるための。単純に魔法を使ったなら、シャワーで死亡時刻を分からなくさせる必要もないですし。つまりこの事件は、人間によるトリックを使った殺人です」

 

 この事件もまた推理可能であると、ヱリカは淡々と答えを返していく。交代で館を見回りつつ、二人で謎を一つずつ解決していく内に夜が明けた。

 

 

 

「──死体が、無くなっている?」

 

 翌朝、俺たち全員の耳に飛び込んできたのはそんな衝撃的な知らせだった。死体がこの館のどこにもない。俺や客の全員で探し回ったが、確かに麗香の死体は見つからない。

 

「私たちは館を出歩く方がいないか見回っていましたから、廊下に出て歩いているのを見逃すはずがありません」

 

「俺もそうだ」

 

 間違いなく見落としはなかった。それに、部屋に一切の隠し扉は見当たらなかった。

 

「ええ。部屋に一切、隠し扉はありませんでした。

 

 ヱリカの手に、一瞬赤い刃が見えた気がした。

 何故か、ああそうなのだろうと納得する。絶対に隠し扉がないなどと言い切れないはずだ。それなのに、難儀な言い方だが、必ずありはしないと本能で理解したのだ。

それは全員が同じようで、やはり魔法を使った前当主の仕業だと声が上がる。だが、俺はそうではないと思っている。なにせ、ヱリカが、()()()()()()()()()()()のだ。昨日、あいつは言っていた。

 ──相手は私たちに魔法を認めさせようと必死です。クローズドサークルで密室殺人なんてする以上、第三者以外には犯行が不可能と全員に思わせなければなりませんからね。

 どうやら、ヱリカの推理は当たりのようだ。死体の消失。当然、ヱリカが動く。

 

「キンジさん、少しだけ、部屋に来てもらっていいですか?」

 

 

 俺達の部屋は、麗香が使っていたものと()()()()レイアウトだ。全ての部屋がこの部屋と同じ間取りだというのだから、筑波家というのはやっぱり相当な金持ちだったのだろう。

 

「この机、動かしてもらっていいですか」

 

 ヱリカが頼んできた。こいつってそんなに力がなかったかと不思議に思うが、なにか理由があるのだろう。力を入れて押してみるが──

 

「全然動かない……」

 

 両手で思いっきり押しているが、まったく動かない。

 

「この部屋以外の部屋の他の家具も同じです。動かないように固定されているんですよ」

 

「つまり、俺がやったのは最後の確認だったってことか。見たところ金具で固定されているみたいだが」

 

 俺達の部屋だけならともかく普段使う部屋までそうなのだから、必ず意味があるはずだ。

 

「それと、お前が尋ねておいてほしいと言っていたことだが、遺言状の内容は今回呼ばれた客の全員が知っていたらしい」

 

 そう伝えると、ヱリカは少し目をつぶって考え込んだ後、

 

「抜けましたよ、キンジさん。私の推理は完璧です」

 

 そう宣言した。




推理ものって難しいですね。
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