武偵 古戸ヱリカの事件簿   作:三白めめ

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忘却の深淵から帰りました。


もしくは簡単な推理

 

 探偵科には、ある種の言い伝えというか、伝統がある。それが、"探偵科で頼るならAランク"だ。その理由については、探偵科のSランクこと古戸ヱリカと事件を一つ経験すればわかるだろう。武偵高校では一番マトモな探偵科といえど、所属する人間がマトモかどうかは別だった。

 

「あー……アリアさんですかぁ……」

 

 そんなわけでまあ、知的強姦者を自称している私に話しかけてくる人はいない。実力差というより、近寄りたくないという気持ちの方が大きいのだろう。SSRには、別の理由で避けられているが。そんな中、切実な理由なく私に話しかけてくる数少ない人間の内の一人が、キンジさんだった。

 昼のちょっとした時間、ネットで知り合った友人にチャットを返しつつ、キンジさんの相談に少し考える。女嫌いなのに平然と話しかけてくるあたり、私を女として見ていないのだろうか。

 まあ、一晩中同じ部屋にいながらずっと隣の部屋の壁に聞き耳を立てていたりしている女には、ロマンスも興奮もあったものじゃないかと納得する。

 

 アリアについて記憶を探ってみるが、ロクな思い出がない。幸いなのが、探偵寄りのスタンスな私と現場に強襲する彼女が会うことは極めて少なかったということだろうか。以前、ちょっとした事情で滞在していたヨーロッパで何回か同じ事件を担当したが、なんというか──相性が悪かった。そして妹の方は、推理を得手とする探偵故に同じ事件になることそのものが無い。言ってしまえば、名探偵二人を同じ事件に宛がうよりも別々の事件二つを解決させた方が効率がいいのだろう。だから、妹の名前がメヌエットだということは知っているが、それ以外は全く知らない。まあ、推理する気もない相手のことはいいだろうと、キンジさんの聞いてきたことに答える。

 

「強いですよ。戦闘者としては格段に」

 

 武偵ではなく戦闘者と言ったのは、もちろんわざとだ。武装()()を名乗るなら、勘に理屈を伴わせてほしい。ワトソンというには犯人を当てる勘の良さを持っているし、ホームズというには推理が足りないと中途半端な性能をしていた。

 

「あと、私が"真実の魔女"という二つ名があるように、双剣双銃の二つ名がありましたか」

「あ、お前の二つ名ってそれだったか」

 

 知的強姦者とか変態とか色々あったからな……。そう言ったキンジさんの呟きをスルーして話を続ける。

 自慢じゃないが、高性能なボイスレコーダー並みの聴力を自負しているのだ。目の前の難聴系とは違う。

 

「というか、そういうことを積極的に聞きに来るなんて珍しいですね。てっきり状況に流されていたらいつの間にか動かざるを得なくなって、やれやれと言わんばかりに事件に乗り出すのかと」

 

 やれやれというか、キンジさんの体質(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)で情報を点と点を線に繋がるのだろう。まあ、私はあの状態のキンジさんが好きじゃないが。無自覚にそういう言動をしたせいで十七人が死ぬかもしれない事件の発端となった男を私は知っている。危うく関係ない私を巻き添えにして爆死する羽目になりそうだったのだ。

 

「……まあな」

 

 それはともかく、キンジさんがやる気を出しているのは以前の推理によるものだろう。大方、私以外の──理子さんあたりにでも同じようにアリアについての情報を頼んでいるはずだ。

 

 

 

 

 さて、考えを巡らせるのは現状について。普段なら並列思考程度は余裕にこなせるが、今の作業──チャットの返信はかなり頭を使っていた。正直に武偵をやっていると話すのは無警戒にすぎると偽の経歴を名乗っているが、おそらく相手もそうだろう。それも巧妙に隠していて、ふと漏らしたかのような日常の情報はバックストーリーに矛盾がなく構成されている。チャットの返信時刻やオンライン状態の時間から考えて、イギリス在住。()()()()()()()()()()()()らしいが、それを言い出してから辻褄を合わせているように感じる。おそらくそれ自体は咄嗟の嘘。ただ、私のような探偵にしかわからないくらいの違和感だったが。

 話していて楽しいのは本心であり、そのうえで互いに銃を突きつけ合っているような感覚。別のことをこなしながらでは、下手を打つ可能性があった。よって、心苦しいがチャットを中断する。

 

「……金があればできることが増える、というのも複雑な気分ですね」

 

 通話状態を保った、十数台の携帯電話に異音が無いかを確認する作業。おそらく徹夜になるだろうそれをこなしながら、並行して思考を巡らせる。

 犯人がキンジさんと同じクラスメイトと推測できる以上、今までのように理子さんも容疑者だ。

 

「こういうのも全部ひとりでやるのは、意外と久しぶりです」

 

 そういえば、イ・ウーという単語が出てきたので、関連がありそうな魔剣(デュランダル)について正体を推理しておこうと思う。

 現状、フランス圏ということは分かっている。デュランダルといえばローランやヘクトールといった騎士道物語の人物が思い浮かぶが、以前に見せた悪魔に眉を顰める態度からして、なにかしらの聖職者の子孫と考える方が妥当だろう。そして、そのうえで聖女と言われたことへの態度から、先祖は一度魔女狩りか魔女として認定されていると考える。

 ローランのデュランダルには、柄にいくつかの聖遺物が収められているという言い伝えがあったはずだ。右代宮家の書庫で目にした覚えがある。

 となれば、逆説として聖遺物が有名な聖人やエクソシストではないと推理できる。聖ジョージであればアスカロンというように、特定個人に結び付く物であればそれに執着するはずだ。そうでなければ縁のない剣の名前を通称にすることはないだろう。

 よって、物質的な逸話の無い、戦功で名を遺したと推測。そのうえで、彼女の訛りやデュランダル──シャルルマーニュ伝説の範囲であるフランス圏内なら──

 

「ジャンヌ・ダルクですかね」

 

 ……情報が足りてしまった。今は武偵殺しを追っている以上関係はそれほどないけれど。

 

 ──青の弾丸が、フリントロックの拳銃に装填された。

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