魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether-   作:聖@ひじりん

1 / 14
プロローグ

「ここまで来ておいて帰りたくなるのは……間違いなく、普通だろうな」

 

 なんて呟いて、目の前の大きな建物を見上げる。屋上に設置されているであろう巨大なパラボラアンテナが、その存在感を示していた。

 

「なんで、そんな選択肢が用意されていたんだろう。本当に」

 

 後悔しても無駄な事だとは分かっている。だけど、無駄だからと言って素直に納得できるほど、自分が出来た人間ではないと理解している。

 

 そもそもの原因は間違いなく学校側だ。常識的に考えて、この選択肢は絶対にありえない。

 

 そう、攻める事が出来るのなら攻めたい。ただ、一番大きな原因が自分自身にあると理解出来る程度には、自分という人間は賢いのだと思う。

 

 ……賢い人間は、授業中に寝ないか。興味無くて寝ていたら、いつの間にか決まっていただけの自業自得だ。

 

 後十歩。おおよその見当で、この建物に入る為の歩数。前に進めばこの数字は小さくなって、後ろに進めばこの数字は大きくなる。

 

 その当然の理を踏まえて、前に進んだなら俺は大人で。後ろに進んだなら、目の前の障害から逃げた子供なのだろう。

 

 また、障害になると分かっていて前に進んだなら、俺は愚かな人間で。後ろに進んだなら、賢い人間になるのだろう。

 

「…………はぁ」

 

 俺に対しての、ため息だった。

 

 進む方向はどうあれ、結果は二択の未来。高校に進学できるか、できないかのどちらかだ。 

 

 中学生にして、親元を離れさせられ遠く東京の海鳴市。両親の生まれ故郷にて一人暮らしをさせられている俺は、高校に進学できなかった等と戯言を抜かせる立場ではない。

 

 素手を武器とした、古武術を継承し続けている柊家。戦時は戦う事でお金を稼いできたが、現在は簡単な護衛術として教えたり、全く関係のない商売で生計を立てて、後の世に残す努力をしている。

 

 本拠点は北海道。現在の頭首、俺の父親と、その妻の母親は小料理屋を経営。先代の爺さんは婆さんと一緒に漁港近くの定食屋を経営している。両方とも、雑誌に乗るほどの有名店だ。

 

 で、本拠点が北海道なのに、生まれ故郷が海鳴市であるのには理由がある。

 

 本来の本拠点は海鳴市だったが、先代が変えた。変えた理由は至って簡単で、海鳴市には柊家とは別に、剣術を継承している家があるらしく、対抗する意味はないが顧客が減ってしまうのを恐れた……という、表向きの理由があり、実際には先代とその家の先代に当たる人が仲が悪かったからだと聞いた。

 

 本拠点を変えたのは、両親が生まれ育ち、結婚した後。大体30年くらい前の話だ。

 

 ……話はそれたが、つまりはそんなお家に生まれた俺は、幼い頃から武術や学問等を修めて、中学生に上がる時に自立出来る人間になる為に、する為に一人暮らしを強いられた。

 

 今は、一般的に考えると多額な仕送りによってかなり悠々自適な生活を送れているが、それも高校に入ってしまえば打ち切られる。

 

 家も、柊家の家ではなく、自分でアパートを借り支払いも自腹でこなす。その為にはアルバイトをして……と、つまりはまともに人生を送っている証明の為に高校生にならないといけない。

 

 だから、始めから俺に用意されてある選択肢なんか一つしかなく、進むしかないわけだ。

 

「……はぁ」

 

 何故か俺の通っている学校。私立天央中学校はエスカレーター式で、夏に高校に上がれるかどうかの一回目のテストがある。

 

 それが、今回の職場体験だ。

 

 用意されている期間は夏休み。宿題はあるのにかかわらず、職場体験をこなす必要がある。地域一体が協力してくれており、職種は様々で販売や調理、接客や清掃といったアルバイトの様な職場体験が待っている。

 

 もちろん職種によってそれぞれノルマがある。といっても、非常に簡単で今までこのテストで落ちた人間はいないレベル。

 

 そしてノルマを達成すると一個目のテストに合格でき、合格できなかったものは進学が怪しくなるわけだ。

 

 ならどうして、俺がこの建物の前で無駄だけどこんなに悩んでいるかと言われれば……。

 

「グランツ研究所……なんだよな」

 

 俺の職場体験先が、地元でも変わり物の集まる職場。ぶっちゃけ近寄りがたいとある意味評判のある場所だから。

 

 職場体験案内には、夏休みいっぱい泊まり込みで研究。その協力等……とりあえず、素人には手が出せない様な内容になる事が確定した、不安しかない案内だった。

 

 案内用紙を受け取る時、先生の目から──「達者でな」と感じ取れたのは気のせいではないはずだ。

 

 まあ、悪いのは俺なので仕方がない……って、何回目だろうこの悩み。

 

「……はぁ」

 

 またもや自身へのため息だった。

 

「こらこら。そこに立っている青年。それで三回目よ?」

 

「っ!?」

 

 突然、後ろから声を掛けられ少し驚いた。それと同時に、気配を感じ取れないほど考えてしまっていた自分にも少し驚いた。

 

「驚かせちゃってごめんね」

 

 身体全体で振り向いて、目に映ったのは美少女。恐らく声の主だろう。

 

 腰まである桃色の髪は全体的にふんわりとしていて、どこかのお嬢様だと言われても納得の出来る雰囲気を醸し出している。

 

 それなのに、舌をちょこっと出して、ちょっとおどけた謝り方だったが、その仕草が自然だと当然だと言わんばかりに彼女に似合っており、思わず見惚れてしまう。

 

 顔の作りがとても良くモデルだと言われても納得出来る。それに彼女の雰囲気が大人っぽく飲まれてしまうほど、美女と言える女性だった。

 

「いや、ぼっと突っ立ている俺が悪いんです」

 

 そこで初めて目を合わせ、彼女が俺の身長よりも低い事に気が付いた。

 

 雰囲気で大人の女性だと思ってしまったが、もしかして年下だろうか。

 

「ちなみに、私は中学二年生。貴方の一つ下の学年よ。柊 真紅(ひいらぎ しんく)先輩」

 

「え?」

 

 伝えていないはずの名前を呼ばれ、驚きで生返事になってしまったが、彼女の少しにやけた顔を見て冷静になれた。

 

 なるほど、彼女はここの関係者だったか……ただ、その顔は少し気に入らないな。

 

「笑顔は、こうやるんだぞ?」

 

 俺の反応を見て楽しんでいた彼女の顔の頬を、両手でつまんで左右にぐにっと引っ張った。

 

「わお。負けず嫌いだったのね~」

 

 そう言う彼女も、お返しとばかりに俺の頬を引っ張ってきた。

 

「負けず嫌いは認めるが、やられっぱなしが趣味じゃないだけだ」

 

「なるほど。似た者同士って所かしら」

 

 そこからお互い、何秒か顔をぐにぐにしあって、改めて目が合いお互いに手が止まった。

 

『ぷっ!』

 

 そして同時に吹き出した。

 

「ははっ、馬鹿みたいだな」

 

「ふふっ、本当ね……初対面で何してるんだかって話」

 

 その通り過ぎて言葉が出て来ず、笑いが止まらなかった。どうやら彼女も笑いを止めれない状態になっている。

 

 そして、少し経ってお互いに落ち着き、また目が合った所で俺は手を差し伸べた。

 

「柊真紅。もう情報は知ってると思うが、俺はこんな感じの人間だ。初対面で失礼かもしれないが、お前とは仲良くやれそうな気がする」

 

「失礼もなにも、レディに対してあるまじき行いをもうしちゃってるんですけど……まあ、いっか。私はキリエ・フローリアン。グランツ研究所、所長の娘でーす」

 

 俺の手を取り、してやったりという顔のキリエに対して、今度ばかりはやられてしまった。

 

 薄々関係者だと思っていたが、まさか娘だったとは。

 

 ただ、やっぱり思った事は……。

 

「キリエとは、人間相性が良さそうだ」

 

「告白?」

 

「どう捉えて貰っても構わないさ」

 

 自然と出た笑顔をキリエに向け、手を放して俺は研究所に足を進める。

 

「ふ~ん」

 

 キリエとは仲良くやれそうだ。この調子で、他の人とも仲良くやれると信じよう。

 

「柊真紅。職場体験に来ました!!」

 

 考えてみれば簡単な事で、こんな一つの出会いだけで人は心が軽くなる。

 

 それはもちろん、重くなる事もあるだろう……だが、何事も経験。考えるならポジティブにだな。

 

「いきなり元気ね~」

 

「キリエのお陰だ」

 

「……さっきから殺し文句ばっかですね、のSKBね」

 

「っ!?」

 

 そのキリエの言葉の方が、言葉の意味を深く考えて無かった、気付いてなかった俺を自覚させるという、ある意味殺し文句だった。

 

 そう言えば、告白って恋愛の意味だったか。てっきり心の中で思っていた事を口にする意味だと思っていた。

 

 しかし、最後に言った英単語? は、何なんだろうか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「──さん、起きて下さい。真紅さん」

 

「ん……」

 

 名前を呼ばれた気がして、顔に乗せていた雑誌を除けると、ユーリの顔が目の前にあった。

 

 ……って、近い!!

 

 お陰で、完全に目が覚めた。

 

「ぐっすり寝てましたね」

 

「ああ……懐かしい夢を見ていた気がする」

 

 そう言いながら、シングルベッドほどの大きさのベンチから身体を起こし、軽く柔軟をしてから立ち上がる。

 

 今日、俺を起こしに来てくれたこの少女はユーリ・エーベルヴァイン。

 

 腰まであり全体的にカールが掛った金髪。顔立ちはまだまだ少女の域を出ないが、誰が見ても可愛いと言うだろう。

 

 ユーリは良くお手伝いで研究所内を動いているので、基本的にパーカーにカーゴパンツと動きやすい服装を選んでいる。今日も実に動きやすそうだ。

 

「どんな夢ですか?」

 

「ここに初めて来た時の夢だな……もう二年も前になるのか」

 

 自分で言っておいて、改めてもう二年も経ったんだと思った。

 

 時間の経過は決して早かったわけじゃないだろう。それほどに、日々の密度は今まで生きてきた中で一番濃かったと思う。

 

 初日に変わり者の博士と熱血なキリエの姉貴と出会い、夏休みを共に過ごした。

 

 夏休みが終わって家に帰ると、何故か家が燃えていて、困り果てた上で両親に電話。どうにかしろの一言で終わり、そこで博士に助けを求め、一生の恩が出来た。

 

 そこから時間が経って、留学生の四人と知り合い、四月に俺は高校に入学。

 

 もちろん起こった事は、これだけじゃ済まないけど……一番、俺の中で大きいのはやっぱりブレイブデュエルの存在だ。

 

 今までゲームすらやった事なかった人間が、そのアイデアだけで面白いと感じ、はまり。知識も経験も、何も無かったのに必死になって研究を手伝って、ちょっとずつ形にしてきた。

 

 お陰で、パソコンすら使うのを躊躇っていた俺が、簡単なゲームであればプログラム出来るようになり、設計図があれば機械類は完璧に組み立てれる様になった。

 

 さらには、完全スパルタの教育により、数えきれないほど色々な事に詳しなったので、間違いなく人より知識の棚が豊富だ。

 

 同時に、俺にとって果たして未来で必要になるかは怪しいスキル、知識の数々を手に入れたが……視野が広くなった。その点については、素直に感謝できる事だろう。

 

「笑みが、自然ですね。良い夢だったんですね」

 

「……ああ。この二年間、嫌だった事がないくらいに楽しかったからな。もちろん、ユーリを含めた四人に会えたのもかなりのウェイトを占めてるよ」

 

「それなら良かったです」

 

 ぱあっと、ユーリの周りに花畑が見えた。相変わらず、そう錯覚してしまうほど、いい笑顔だ。同い年でも、これほどの癒しのオーラを纏っている子なんて見た事ないしな。

 

 しいていうなら、周りにひまわりが咲くような弾けた笑顔をする美少女、姉貴はいる。

 

「っと、用件はあれか?」

 

「あ、はい。皆、そろそろ準備が終わるはずです」

 

 ついに、この時が来たか。

 

「わざわざ呼びに来てもらって助かった。あのままだと、完全に寝過ごしてた」

 

 昨日は夜遅くまで作業してたし、仕方がないと言えばそうだが……どっちかというと、この花壇の雰囲気とまだ本格的ではない夏の温かさのせいだろう。

 

 キリエの作った、研究所自慢の庭園。俺が来た頃にはまだまだだったな。今のこの形になるまで、キリエにこき使われていたが今ではいい思い出だ。

 

 俺がここで寝てしまったのは、正直もう数えきれないほど。俺が居なくて連絡が付かない時は、大体この場所だと暗黙の了解ができている。

 

 その中で一番、起こしに来てくれるのはユーリだろう。常に周りに気を配って、それでいて全く疲れない様子は本当に心から相手の事を思える、ユーリの優しさだと思う。

 

 それとは大違いで、寝ている俺を叩き起こして花壇作りを手伝わす桃髪。KKDを掲げ、KKDの為に俺を叩き起こす赤髪。遊びたいが為に俺を叩き起こす水色髪。そんな三人もいるが……大抵、ここで寝ている時は用事がない為、断るに断れず付き合う事になる。

 

 いや、ある意味で俺を叩き起こす事により、時間という貴重な財産を形あるものに……そんな考え、半分もないか。

 

 ともあれ、そんな三人とは違い、ユーリは優しく。他の家族二人も俺を気遣ってそっとしておいてくれる。

 

 ただ、起きた時に猫に囲まれている場合と、俺の膝に頭を乗せて逆に寝ている場合があるのは少し困るのだが。

 

「ここ、気持ちいいですもんね。私もたまにうとうとしてしまいます」

 

「なら今度、ここで一緒に寝てみるか?」

 

「あ、いいですね。都合がいい時に是非。皆にも聞いてみましょう」

 

 何となくの提案で、イベント事が一つ増えた。家族みんなで日向ぼっこ……実に平和だ。

 

「さて、そろそろ向かおうか」

 

「はい……あ、そう言えば」

 

 何かを思い出したのだろう。ユーリは手を胸の前辺りで合わせながら、歩みを止めてこちらに向いた。

 

 俺もそれに合わせて立ち止まり、ユーリに向かい合う。

 

「どうかしたか?」

 

「ディアーチェが、マフィンを用意してくれてますよ。ただし、急がねば真紅の分はないと思え……って言ってました」

 

「なん……だと」

 

 …………いやいや、ユーリさん。その情報は、俺が起きた直ぐに伝えて欲しかった。

 

 何だかんだユーリと喋ってたし、ユーリが俺を起こしに向かった時から、かれこれ十分以上は経過していると思われる。

 

 そうなると、キングスの急げの指令に間に合わないか?

 

「ユーリ。急いでいいか?」

 

 すぐさま策を考え、行動に移す為にまずユーリに伺う。

 

「は、はい」

 

 許可が出たので、早速行動に出る事に

 

「それじゃ、ちょっと失礼するぞ」

 

「え? あ、なるほど」

 

 俺はユーリをお姫様抱っこした。

 

「よし、ちゃんと掴まっててくれよ!!」

 

「はいっ」

 

 伝えた通り、ユーリは俺のシャツをしっかりと掴んでくれた。

 

 俺の分が無くなるなんて、絶対に許さない。おおかた、レヴィにでも食わせる気だろう。

 

 ただ、キングスの事だ。ユーリの分はしっかりと残してあるはず。

 

 で、急がないと行けないのは俺であってユーリではない。ましてや、時々体調を崩しがちなユーリを走らせるなんて選択肢は絶対にありえない。そして、ユーリを置いて行くのもありえない。どうせユーリの事だ、優しい笑顔で──「大丈夫です」と言いかねない。

 

 そうなれば、俺のとれる行動は一つ。身軽なユーリを抱えながら目的地、シミュレータールームに向かう事。

 

「相変わらず早いですね」

 

「ユーリが軽い事なんて分かってるし、走るくらいなら全然問題ない」

 

 本当に軽いからな……ユーリ以外の人を抱えた事はないが、それでも軽いと分かってしまう位に軽い。決して、線自体は細すぎるわけじゃないはずだが、歳相応よりも確実に細いだろう。

 

「これで、二度目ですね」

 

「ああ。でも、ユーリを抱える事ぐらい、いつでもやってやるぞ?」

 

「ふふっ。そんな事したら、みんなに怒られます」

 

「怒られる?」

 

 一体、誰に怒られるんだ? みんなって言うからには家族の誰か複数だろうが、怒る人なんていないしな。

 

 あ、いや、キングスはレヴィによく怒って……お叱りだったか。

 

「多分ですけどね」

 

 なら、問題ないか。怒られるのはどうせ俺だろうし。

 

「はい、到着」

 

「ありがとうございます。あっと言うまでしたね」

 

「そんなに距離がないからな」

 

 恐らく、庭園からここまで歩いても3分掛るかどうかだろうな。ユーリを抱えていたとはいえ、1分ぐらいだった。

 

「すまない、少し遅れた」

 

 そしてユーリを抱えたまま、自動ドアなのでそのまま部屋に入る。

 

『っ!?』

 

 みんなからの視線がいつもと違い、どこか冷たい様な気がした。

 

「どうか……したか?」

 

 その視線が気になったので、ユーリを下しながら恐る恐る聞いてみる。

 

「どうもこうも無いわ!! 寝てた挙句、ユーリを抱え──」

 

「ユーリだけずるいぞ!! そんな遊びした事ないのに!!」

 

「遊びかどうかはともかく……なかなか愉快で楽しそうですね。私もして下さい」

 

 シミュレーターに入っているキングスが吼えたと思いきや、その言葉をそれよりも大きな声で遮ったレヴィが俺の前に来て喚き、どこからともなく、にゅっと現れたシュテルが静かに意見して来た。

 

 ……えーと、つまりなんだ。遊べという事か。

 

 言葉を遮られ、その矛先を沈めたキングスが俯いているのは、恐らくレヴィへの爆発を溜めているのだろう。

 

 一番奥、ブレイブデュエルをプレイする為の機械。シミュレータに入っているのが、ディアーチェ・キングス・クローディア。通称、王様。

 

 他三人の留学生の、お母さんポジションに自然と納まってしまう面倒見のいい少女。髪はそこまで長くなく、肩に掛る程度。暗い銀髪で先端だけ黒色になっており、前髪の一部をリボンで纏めている。

 

 俺の目の前でわーわー騒いでいるのが、レヴィ・ラッセル。

 

 元気溌剌をそのまま人にした様な、ちょっとお馬鹿な少女。髪をアップサイドで、青いリボンを使って結んでツインテールにしている。キングスと似て、全体は水色の髪だが先端が青色になっている。

 

 そんなレヴィの横でただクールに俺に視線を向けて来るのが、シュテル・スタークス。

 

 冷静に見えるが、実際は好奇心旺盛で行動力もある少女。髪の長さがキングスと同じぐらいで、二人とは違いシンプルに茶髪アクセサリー等のワンポイントも見当らない。

 

 この三人にユーリを含めて留学生四人組。ちょっとしたお家のお嬢様たちで、四人で幼馴染らしい。 

 

「薄々は思ってたけど……先輩ってば、ロリコン?」

 

『ロリコン?』

 

 二人に遅れて、フローリアン姉妹が近づいて来た。

 

 そして、キリエの開口一番の言葉に、俺と同じく意味が分からなかったんだろう。キリエの隣の姉貴と声が重なった。

 

 アミティエ・フローリアン。色々あって姉貴と呼んでいるが、俺と同い年の少女だ。

 

 本来腰まであるピンクに寄った赤の髪を三つ編みにし、白いカチューシャをしている。レヴィと同じく姉貴も元気溌溂で、それに振り回される事が何度かあった。

 

「あ、いや……知らないんだったらいっか。忘れて~」

 

「いいえ、真紅に言ったなら悪口、からかいの類のはず!! お姉ちゃんにその意味を教えるのです!!」

 

「ちょ、ここでお姉ちゃんが絡んで来るなんて──」

 

 そう、ちょうどこんな感じで。

 

 全く、相変わらず賑やかだな。レヴィはキングスに呼ばれて怒られているし、キリエは姉貴に責められている。シュテルとユーリは俺の横で、その様子を見て笑っていた。

 

 家が全焼した二年前は本当にどうしようかと悩んだが、結果的にこの暖かさに触れる事が出来たと考えたら……いい代償だったかも知れないな。本家には悪い事したが。

 

 原因はちょっとした偶然、歩きたばこの不始末。犯人は出頭しており、翌日には謝って貰えた。

 

 幸い貴重品の類は本拠点に置いてあって、殆ど俺の私物しかなかったから被害はそこまで大きくなかった。なんたら保険で被害分がお金で返って来たので、そう考えると代償とも言い難いか。

 

「真紅くん」

 

 俺の名前を呼ぶと共に、ぽんっと右肩に手を置かれ、そちらに首を向けた。

 

「来たんですね。どうしかしましたか、博士?」

 

 ユーリを連れて入った時に姿が見えなかったから、何か別の事をしていたんだろう。

 

「うん。楽しそうな雰囲気を感じて戻って来たよ。声を掛けたのは、真紅くんが楽しそうにしていたからかな」

 

「楽しそう……なるほど」

 

 意識してみると、口元が緩んでいた。

 

「自惚れるわけじゃあないけど、僕のブレイブデュエルがもたらしてくれた出会いなんだとしたら、僕にとってこれ以上の喜びはないからね」

 

 やっぱり博士は素晴らしい人だな。周りからは変わり者とは呼ばれるが、芯にあるのは自分も楽しめて、相手も楽しめる。そんな物を日々研究してるだけだ。

 

 しかも、それで生まれたのがブレイブデュエル。素晴らしいゲームを生み出したのが、素晴らしい人間だって事で大いに納得がいく。

 

「そうですね……これが、人の光になることを信じてますよ。な、ユーリ、シュテル」

 

『はい』

 

 東京の一部の地域限定だったこのブレイブデュエルが今は日本全土に広まった。

 

 まだまだ、今は弱い光かも知れない。だけどそれは、段々と段々と強くなって、いずれ世界も照らしてくれる。

 

 ブレイブデュエルが、これから俺に、みんなにどんな出会いを運ぶかはまだ分からない。だがきっと……グランツ研究所で出会えた人たちと同じぐらい、素晴らしい出会いが待っていると信じている。

 

 そう考えているのは、きっと俺だけじゃないだろう。

 

「って、そうであった!! 15時までに調整せんと行かんのだ!! 真紅、貴様も手伝え!!」

 

「当たり前だ!!」

 

 だから、今はただ……待ってくれている人たちの為に、俺たちの仕事を終わらそう。

 

 シュテル、ユーリが椅子に座りキーボードを叩き、その後ろで立ったまま俺とレヴィが違う作業をこなす。

 

 そして、数分も掛らず全準備が整った。

 

「最終シークエンス、準備完了しました」

 

「電源もビリビリオッケーだよ!!」

 

「ディアーチェ、始めて下さい」

 

「抜かるなよ?」

 

「ぬかせ、誰に言っておる」

 

 さあ、ここからがスタート地点だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。