魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether-   作:聖@ひじりん

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こちらもゆっくりと更新再開です。


episode9

 

 

 日曜日、夜。ディアーチェの部屋にて、家族会議が行われようとしていた。

 

「遅くなりましたっ!!」

 

「うむ。これで揃ったな」

 

 最後の参加者、アミタが到着し、部屋には六人。ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリ、アミタ、キリエと、時計回りに座っている。

 

「さて……何から話をしたら良いか、未だに決められん。いや、周りくどい聞き方を考えるのが面倒なだけかも知れぬ」

 

 言葉を途中で変更し、自分の意志を伝えたディアーチェは、改めて五人と向き合う。

 

「これでは、王として務まらぬな。率直に訊ねよう……この中で、真紅を慕っている者はおるか?」

 

 ディアーチェの言葉、雰囲気に、五人が息を呑む。部屋は静まり返った。互いに呼吸の音が聞こえるほどに。

 

「……それは、ライクではなく、ラブでよろしいですか? 王」

 

 沈黙を破ったのはシュテルだ。その眼にはいつもの冷静さが感じられず、ディアーチェは少し驚いた。

 

 むしろ、威圧されていると錯覚するほどに、強い炎をディアーチェに感じさせている。

 

「愚問だ。と、答えるのはいささか言葉が軽いか……シュテルの言うとおり、我は愛しているのかと訊ねている。もちろん、この話が我らにとって不可侵な領域だった事は理解していた。いや、不可侵にしてしまったのやもしれぬ」

 

 腕を組んで考えなおすと、その様な事態に持っていったのは自分だと、ディアーチェは理解した。

 

「やはり、今日は我らしくなれん。自分への思考も足りていない。だから、等身大で聞き直す…………皆、真紅がす、す、好きで間違いないか?」

 

 言葉に詰まったディアーチェの頬は赤く染まっていたが、視線は五人に向いている。

 

 そして、そのディアーチェの様子を見てか、今度は五人が微笑した。

 

「なっ!?」

 

「確かに、いい機会なのかも知れませんね。ディアーチェの言う通り、私は真紅が好きですよ。もっとも、想いは真っ直ぐに伝わりませんでしたが」

 

 ため息をついて、シュテルは告白した。

 

「であったな……」

 

 ディアーチェもため息をつき、レヴィに視線を向ける。

 

「僕の番? んーと、こういう話はあんまり得意じゃないんだけど……むむむ。うん、僕も好きだよ」

 

 レヴィは唸ってから告白し、そのバトンがユーリに回る。

 

「えーと、その……あぅ」

 

「ユーリは良い。誰がどう見ても、最初から丸分かりであるからな」

 

「い、いえ、言います。私も真紅さんが……その…………好き、です」

 

 顔を真っ赤に染めながら、ユーリも告白した。

 

「次は私ですね。もちろん好きですよ、家族としても、異性としても」

 

「へえ~……お姉ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて、何か不思議」

 

 意外、と言わなかったのはキリエにも思う所があったからだろう。

 

「わ、私だって女の子ですから。では、そういうキリエはどうなんですか?」

 

「あー、えーと……SSSよ」

 

 アミタからのパスに、キリエはグランツ略式で言葉を濁す。

 

『真紅、先輩、好き』

 

「ちょっ、ハモって解読するのやめてくれないかしらん」

 

 ただ、そんな物は家族には通用しなかった。

 

「一人、逃げようとするからだ……さて、好きな理由は言い出した我から言おう」

 

 これも王の勤め……と、割り切ってディアーチェは言葉を続ける。

 

「と、思ったが全員、理由は同じであるか……一番近しい男性であり、その性格に触れる機会が多い。そして、優しく、強く、暖かい真紅を自然と好きになってしまうのは、当然の理だと言い切れる。我は、だから真紅が好きだ」

 

 ディアーチェ。

 

「大体はディアーチェと同じですね。付け加えるとすれば、現金な話も含めて、彼に悪い所がなさすぎるのも理由でしょうか。私は、あんまり殿方への関心がない人間だと思っていましたが……全く、恋は病とは良く言ったものです。想い、気づけば、存外悪く無いと思う自分がそこにいました」

 

 シュテル。

 

「僕は、そうだなー……色恋沙汰はまだ早いとも思ったけど、どれだけ計算しても答えが出なかったから、好きな人は好きでいいんだって結論付けたよ。それに、男版王様って感じな所も好きかな。あと、イケメンで高スペックな所も」

 

 レヴィ。

 

「折角シュテルが濁したのに、突っ込んじゃ駄目ですよレヴィ……私は何度も助けて貰って、初めは恩返しをいっぱいしないと駄目な相手と思ってました。歳も離れていますし、私にはレヴィよりもっと早い話だとも考えてました。でも、駄目な物は駄目で、好きの気持ちは消せませんでした」

 

 ユーリ。

 

「初めはお姉ちゃんとして振る舞っていましたが、早い内からそれに逃げている自分に気が付きました。恥ずかしながら、逃げないと誓ったのは最近の事なんですけどね。素敵な恋に夢見るのは、私だって同じでしたし……戸惑いもありましたが、今なら素直に好きと伝えれるほどに好きですよ」

 

 アミタ。

 

「顔」

 

 キリエの言葉が照れ隠しと分かっていても、五人は座っていたクッションを、全力でキリエに投げつけた。

 

「茶化すでない。今回の発端は、お主にもあるのだぞ」

 

「……わかってるわ。だから一番恥ずかしいんじゃない。この中で最後に先輩が好きなんだって気付いて、思い返すと思い返しただけ皆の気持ちを理解したし。先輩ほどじゃないけど、私が鈍感だった事も恥かしいわ。そうよ、嫌いになる部分がない先輩が悪いはず。決してキリエさんじゃない」

 

「現実逃避しても、得られるものは羞恥だけだぞ」

 

「うん、知ってる。一通り味わって来たから……ベッドの中で」

 

 今日一日、キリエの姿が見えなかった理由らしい。

 

「おほん。さて、これで第一段階が終了した。そして、次の問題は……言わずもがな、理解しておろう」

 

 ディアーチェの言葉に、五人が頷いた。

 

「一般的に、モテる人間というのは、大多数に好かれるからモテると言われる。つまり、我らだけではないはずだ。さらに、アヤツの厄介な所は、誰にでも優しく手を差し伸べ、人間性を見るのも容易だ。タチの悪い事に、もし真紅がそれを演じていたとしても、あの容姿が全てを解決してしまう訳だ。そんな人間ではないと理解しているが、外の一般人からすれば関係ないであろう」

 

「厄介、の一言に尽きますね。恋の性質も、彼のあり方も」

 

 ディアーチェの言葉に、シュテルが言葉を付け加える。

 

「全くだ。本題に戻るが、心当たりはないか? 何人か、疑わしい人物は思いついているが、推測の域を越えぬからな。まずは、意見を取り入れたい」

 

 その問いかけに、真っ先に手を挙げたのは、キリエだった。

 

「プライベートだと、よく同じ学校の子たちに声を掛けられてるのを見るわ。私が一緒にいる時も何度もあったし、一対一じゃなくて、一対三でも見たわよん。流石に、個人名までは分からないし、全部がそうじゃないはず……それでも二桁はいってると思うけどね」

 

 少し呆れた様子で、キリエが答える。

 

「多分、高等部の方じゃないかなぁ。僕もよく見るけど、それよりも紹介して欲しいって言われる方が多いし。あ、中等部の方だよっ。全部、断っといた」

 

「私の所にも、たまに来ますね。レヴィの方が話しやすい分、そっちに流れていると思います……私も、全てお断りしましたが。本気なら、直接声を掛けるか、熱き想いが感じられるはずですから」

 

「ふむ。我が一度も相談を受けてないのは、先に二人に行って玉砕した結果か。アミタはどうだ?」

 

 一度深く頷いたディアーチェは、アミタに話を振った。

 

「真紅がこの前、私たちのお弁当を届けに来た時以降、相談はありました。私は一応、話は聞きましたが、真紅本人に悪いと思って紹介はしてませんね。それに……ライバルが増えるのは、決して良いことではありませんし」

 

「一目惚れはロマンがあるけど、お姉ちゃんの言う通りね。それに、先輩をちょっとでも紹介しちゃったら、本気になる娘が多そうだし~」

 

 六人は、お互いに目配せしてから、肩を落とす。

 

「でも真紅さん、格好良いですから」 

 

「さらっと褒め言葉を……ユーリ、成長しましたね」

 

 アミタがユーリの頭をそっと撫でた。

 

「い、今になって照れてきました」

 

「それでこそユーリだねっ」

 

 レヴィの言葉に、四人が文句なしに頷く。

 

「なんか、ちょっぴり酷いですっ!!」

 

「ふふっ……さて、少し和んだ所で、次はブレイブデュエル方面で良いか?」

 

「ええ。ここからが本当の厄介ですね。彼を身近に感じれる人物が多いですから」

 

「むしろ、本命は始めからこっちであるな。プライベート等の一目惚れはカウントしておらん。いや、したくないからな」

 

 心からのディアーチェの本音だ。

 

「王様の言う通りね。で、順番に進めるべきかしらん?」

 

「うむ。まず、T&Hはどうだ?」

 

「へいと!!」

 

 レヴィが即答した。

 

「むしろ、フェイトさんはどうなのでしょう。本気なのか、照れているのか。分かり辛いなと私は思いますが」

 

「アミタの意見に同意です。ただ、そこについては作戦があります」

 

 シュテルは眼鏡をくいっと上げる。

 

「もしかしてシュテるん、例のあの技を!?」

 

「ええ、そうです……秘技、直接訊ねる!!」

 

「ぐわー、やられたー」

 

 そして、レヴィとの見事な掛け合いで、場を和ませる事に成功した。

 

「ただの茶番ではないか!! って、ん? いや、話は理解できたな」

 

「という訳で、実行は私が行いましょう。で、さらに厄介なのが、姉の方では?」

 

「ちびひよこか……あやつにも、直接訊くのが早そうだが、さらっと答えそうであるな」

 

 アリシアと交友の多い四人に、何とも言えない空気が流れる。

 

「半々って所なのねー。他はどうなの?」

 

 話が少し止まったので、直ぐにキリエがそれを繋げた。

 

 心の奥底で、早く終わって欲しいと思っているからだろう。

 

「もうルーキーでもないですが、あの三人は分かりませんね。真紅との絡みも少なそうですし、少なくともまだではないでしょうか」

 

「ふむ、思ったより少なくて済みそうだな……プレシア店長はノーカンで異存はないか?」

 

『異存なし』

 

「いえ、待って下さい」

 

 五人の同意をシュテル一人が否定する。

 

「シュ、シュテるん!? まだ必殺技が……」

 

「娘はどうあれ、結婚の了承を得ているというのは、強みかと」

 

 レヴィのネタ振りをスルーして、シュテルは冷静に話を進めた。

 

「なるほど。強みというか、最早反則であるな」

 

「キリエとアミタは簡単に取れそうにしても、私たちの家は…………色々とアレですし」

 

 濁してしまう程、訳あり名家の生まれである事を、微妙に後悔した三人。

 

「そ、それについては一旦考えない方向で、どうでしょうか」

 

『異議なし』

 

 ユーリの提案に、マテリアルズの三人が同意する。

 

「私とお姉ちゃんが簡単って言われるのも、ちょっと不服なんですけど」

 

「でも、ほとんど許可は貰っている様なものですし」

 

「そう言われたら、キリエさん、反論できないわん」

 

 キリエの意義申したては、一瞬で論破された。

 

「まとまった所で、次は八神堂だ」

 

「スルーはちょっと困るんですけど」

 

「ならもっと、普通に喋るべきだ」

 

「それが出来れば苦労しないんだけどね」

 

「精進せい、真紅の為にも」

 

「王様、辛辣」

 

「と、脱線はこれまでだ。八神堂についてはどう思う? 皆の意見を聞かせてくれ」

 

 八神堂全体について訊ねたディアーチェには、多少の思惑があっての訊き方である。

 

「八神堂が一番分かりにくいですが……考えるなら、はやてとアインスでしょうか」

 

「小鴉っちは良く分からないけど、黒羽は弟みたいに思ってる気がするなー」

 

「それは思いました。主にアインスが、真紅さんと直接対面した時の行動が、ですけど」

 

「うーむ。何かあるのか、逆に何もないか……っち、ことごとく面倒な一家であるな」

 

 つまり、食わせ者がいるあの一家について、誰がと問う意味がなかったからだ。

 

「王。本音が飛び出ていますよ」

 

「おっと、オフレコで頼むぞ。結論付けると、どうしようもないって所であるな」

 

『異議なし』

 

 今度は文句なしに全員の意見が一致した。

 

「次は…………これまた面倒であるが、元システム担当の一家も考えるか」

 

「それは、流石に大丈夫だと思いますよ。初期の会合時に何度か会った程度ですし」

 

「お姉ちゃん、甘いわ。甘々よ」

 

「え?」

 

「あの先輩よ……私たちの知らない所で、仲良くなっている可能性の方が高いでしょ」

 

『……異議なし』

 

 今度も、全員の意見が一致する。

 

「結局、際限なしという訳か。ある意味、実のある話し合いには──」

 

「待って下さい」

 

 ディアーチェが結論付ける前に、シュテルの制止が入った。

 

「む?」

 

「わかばが、怪しいかと」

 

「あー、アヤツはほぼ確定であろう。このはの方はちと分からんが、アリかナシなら、アリだ」

 

 わかば自身の至り知らぬ所で、勝手に気持ちを決められるほど分かりやすいのも、研究所女子メンバーの常識である。

 

「やはり結論は、際限なし……ですね。全く、彼は厄介です。良い意味で」

 

「良い意味で、って所が惚れた弱みなのかしらん」

 

「うーん。私は、弱みというより、強みだと思っています。少なくとも、真紅さんを思う気持ちに、無駄なんて一つもありませんから」

 

 ユーリの強い言葉に、他の五人が驚いた。

 

「ユーリの言う通りだね」

 

「うむ」

 

「ナンバーワンは伊達じゃありませんね」

 

「O・D・Kです!!」

 

「お姉ちゃん、大、感動……ん、私もそう思うわ」

 

 これまた誰かの至り知らぬ所で、重要な家族会議が開幕し、閉幕する。

 

 内容はあくまで、現状の事実確認に過ぎなかっただろう。しかし、そこにこそ意味はあった。

 

 家族として。仲間として。ライバルとして……この会議が何をもたらすのか、未来は誰にも予想できない。

 

 されど、想いは強まり、一歩進む決意が出来た。

 

「せいぜい、苦労させてやろう。あの幸せ者に」

 

 少女たちの胸に、熱く、輝かしい光。それが、先の幸福につながっていると。

 

「そうだねっ」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「もちろんです」

 

「覚悟してなさいよ~」

 

 少なくとも、この六人だけは、そう信じて進んでいけるだろう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 平穏な日々は、なんて素晴らしいのだろう。

 

 学校から帰宅して、リビングにて宿題を終えてから、そう思った。

 

 ブレイブデュエルが好評稼働中で、学校生活も順調。俺の現在は、何一つとして問題なく平和だ。

 

 ……平和すぎて、何一つイベントも起こってないのだが。

 

「素晴らしくても、充実感はゼロ。そもそも、素晴らしくないな」

 

「真紅さんが、素でボケるなんて……明日は大雨になりそうです」

 

 ユーリが本気で驚いていたので、これ以上の醜態は直ちに止めよう。

 

「少し酷くないか、盟主様」

 

「だから、それで呼ぶのは──」

 

「ごめんごめん、ユーリ」

 

 ユーリが、恥かしがりながら抗議してこようとした所で、俺はユーリの頭に手を乗せ謝罪した。

 

「もう。真紅さんも酷いです」

 

 そう言って、ちょっと不貞腐れながらも、ユーリは笑顔で返してくれる。心に、ぐっと来る物があるな。

 

「そうだ。何故か最近、ユーリや家の皆全員、態度が少し変わった様な気がするんだが……俺の気のせいだろうか? もちろん、良い方向にだ。可愛くなったというか、愛らしい?」

 

 ユーリの笑顔で、気になっていた事を思い出し、そのままユーリに訪ねてみた。

 

「えっ!? べ、別になにもありませんよ。はい、これといって。平和な毎日で、心が豊かになっているからです」

 

 この慌て方……何かあったのはバレバレだが、聞き出す程でもないか。

 

 ユーリが必死に誤魔化す内容なら、深く詮索する意味はない。悪さをしているわけでもないだろうし。 

 

「そっか」

 

「でも、真紅さんも変わりましたよね? 元々優しいですが、雰囲気がより一層、優しく暖かな感じがします」

 

 も……いやいや、一度決めたなら、覆さないさ。

 

「心の成長が出来たんだろう。ちょっと前まで慌ただしい日常で、今は平和な日常。様々な出来事に、やっと整理が追いついたから……だな」

 

「なるほど。平和な日常は、やっぱり心を豊かにするんですね」

 

「ユーリの言う通りだ」

 

 しかし、何も起こらないのは、どう考えても問題だ。

 

 起こすように努力していなかったと言えばそれまでだが、行動しなくてもかなり起こっていたからな。

 

 慢心と言われても仕方がないか。

 

「なら今日は、自発的にイベントを探しに行くとしよう」

 

「んん? あ、お出かけですね」

 

「ああ。ちょっと、色々回ってくる」

 

 一度自室に戻ってから、俺は研究所を発った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 最近、何も無かったと言ったが、それは俺だけだ。

 

 ユーリは家にいるから除くとして、他の皆はそれぞれ忙しそうに動いていた。

 

 今日も家にいないし、きっとどこかで楽しんでいるのだろう。

 

「とりあえず、商店街に来てみたが……さて、どうしようか」

 

 商店街は本当に色々な店がある。時間を潰したり、何かを探すのは余裕で可能だ。

 

 流石に、街の活気や人の数には敵わない。ただ、その分の人の暖かさは商店街の圧勝と言っても構わないだろう。

 

「真紅さん」

 

「ん?」

 

 左肩をちょんと叩かれ、振り向くと──

 

「そこには、シュテルの親友であり俺の友達でもある、白斗わかばの姿があった。わかばは、背中まで伸ばしたゴールデンロッド色の髪で、後頭部中辺で髪を少し束ねている。また、少女の域を出ないにしろ、その容姿は整っており美少女と呼んでも一切の問題はない。きっと、わかばはクラスで──」

 

「ちょちょちょ、どうしたんですかっ、真紅さん!?」

 

「いや、ちょっとからかってみた。少しだけ、久し振りに会ったからさ」

 

 多分、一週間ぐらい顔を合わせていない。学校はある意味で一緒だが、そうそう下級生と触れ合う機会はない。

 

「それはそうですけど……良かった。ただ、からかってただけなんですね」

 

「ん? からかいはしたが、言葉に嘘はないから安心してくれ」

 

 ボケというのは、人を驚かせるのに最適だな。今度から、ボケの勉強もしておこう。

 

「うっ……真紅さんが別人の様になったと聞いていましたけど、まさかここまでなんて」

 

「別人って、俺は俺のままなんだが。で、誰情報だ」

 

 まあ、検討は付いているんだが。一応、裏を取っとかないとな。

 

「え? あぁー、誰からか忘れちゃいました」

 

 この反応なら……なるほど。

 

「キリエか」

 

「ぎくっ。いえ、多分違います」

 

 今日はなんだか、誤魔化される日だな。もちろん、深く追求はしないのだが。

 

「なら、気にしない事にしよう。それで、わかばは何故商店街に?」

 

「私は買い物です。ケーキ作りの為に」

 

「なるほどな」

 

 わかばのケーキか……美味しいからな。これは、食べに行くべきだろうか。

 

 キングスのケーキはそれなりに良く食べるが、わかばのケーキを食べる機会があまりない。

 

 あのスポンジの甘さは、わかばにしか出せない味だ。

 

「なら、買い物に付き合うよ。それで、良かったらケーキを食べに行っても構わないか?」

 

「あ、はい。構いませんよ。その代わり、出来の評価をお願いしますね……ただ、真紅さんの用事はないんですか?」

 

 そういえば、俺の目的を話してなかったか。いや、目的はないんだが。

 

「ただの散歩だからな。面白い事が起こらないか、と探索していただけだ」

 

「暇人ですね」

 

「暇人だ」

 

「なら、なおさらお付き合いお願いします」

 

「了解した。恋人になるという意味じゃないな?」

 

「……ふぇ!? あ、もちろん買い物ですよ!!」

 

 あんまりからかい過ぎると、キリエに怒られそうだな。

 

 わかばは、知り合いの中でフェイト並にからかい甲斐があるから、ついついやってしまうが。

 

「ああ、わかってる。それじゃ、まずはスーパーかな?」

 

 俺は、照れているわかばと一緒に、足を進めた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 色々とケーキを試食し、気がつけば太陽が落ちていた。

 

「ケーキ、ご馳走様でした」

 

「いえ、私も味見して貰って助かりました。また今度、研究所の方に、グレードアップさせて持って行きます」 

 

 あれ以上の出来を求めるとは、わかばは探究心が大きいな。流石、キングスが認めただけある。

 

「ああ、楽しみにしている。それじゃ、おやすみ」

 

「はい。おやすみなさい」

 

 わかばに別れを告げで、俺は帰路をつく。

 

 しかし、夕食まで三時間残っている。これはどこかで運動でもして、お腹のエネルギーを消費するべきだな。

 

「そうと決まれば……対戦相手を求めて、八神堂だな」

 

 早速、目的地を修正し、八神堂に向かう。

 

 その途中、コンビニにて適当にお土産を買っておき、万全の装備を整える。

 

 そして、八神堂に到着した。

 

「隙ありっ!!」

 

「甘いっ!!」

 

 商品の入ったレジ袋をそっと床に置き、死角からの斬撃を白刃取りにて受け止める。

 

「腕は落ちていない、か」

 

「現実での実戦こそ減りましたが、それ以上にブレイブデュエルで鍛えていますから。もちろん、個人鍛錬は怠っていませんし」

 

 そう、シグナムさんと目を合わせて伝え、未だに力が入っている竹刀を押し返す。

 

「ふっ、合格だ」

 

「むしろ、毎回これで腑抜けていないか試すの、そろそろ止めませんか?」

 

 服装の乱れを直し、袋を持ち直す。

 

「君の調子を図るのに、一番手っ取り早いからな。真紅」

 

「ですけど……いや、やっぱりいいです」

 

 そもそも、言っても聞き入れて貰えないだろう。プレシアさんもそのままだしな。

 

「賢明だな。今日は、地下に用事か?」

 

「ええ。夕食まで時間を潰そうと思いまして」

 

「そうか。じゃあ、いつもの所に立つといい」

 

 ここの高速エレベータ……初見はかなり驚いたが、今となっては慣れた物だ。

 

「あ、これを渡すの忘れていました。どうぞ、手土産です」

 

 バリアゲージが出てきた時に思い出し、身体を少し乗り出して床に置いておく。

 

「お菓子か……ヴィータが喜ぶな」

 

「大体、そのつもりで買ってきましたから。じゃ、お願いします」

 

「了解した。それでは、良き旅を」

 

 全然、良き旅じゃないけどな、これ。

 

 グランツ博士が開発した、高速エレベーター。正式名称は知らない。

 

 ただ、簡潔に説明するとすれば、ただ早い。かなり早い。

 

「ちょっと思考している間に……到着だもんな」 

 

 地下に到着し、エレベーターから降りる。

 

 この部屋の深さについて詳しくは知らないが、普通に深い所にあると理解出来る程度には深い。

 

 もちろん、これも博士が関わっているのだが、一体いつの間に準備していたのだろうか。

 

「お、やってるな」

 

 シミュレータールームに踏み込んだ直ぐ、大きな熱気を感じる。

 

 もう日も落ち、時計の針が八時を越えているというのに、流石はベルカホームだ。

 

『ラケーテンハンマァァァ!!』

 

 その熱気の主は切り札を使い、丁度、対戦相手を討ち取った。

 

『惜しかったけど、あたしの勝利だな』

 

 アイゼンを掲げながらの勝利宣言で、改めてルーム内に熱気と歓声が巻き起こる。

 

 俺は、ヴィータ側のシミュレーターに向かい、勝者の帰還を待つ。

 

「これで今日も連戦連勝……って、真紅さんじゃねーか」

 

 ヴィータの顔には、物凄く意外だと書いてあった。

 

「こんばんわだ。今日は食後の運動がてら、八神堂に遊びに来たよ」

 

 右手を挙げて挨拶をして、簡潔に用件を伝える。

 

「そっか。真紅さんが来るなんて珍しいから、ちょっとびっくりした。それに時間も遅いし」

 

「上には良くお邪魔するが、俺が下に来ると……こうなるしな」

 

 実力があるデュエリストは、顔と名が覚えられやすい。

 

 その結果、俺とヴィータは沢山の人に囲まれていた。もっとも、この集まりはヴィータの人気による物だろうが。

 

 俺の事を知っている外のデュエリストは、あまり多くない。稼働当日から、俺が参加したイベントを見ていた人が知っているぐらいだ。

 

 だから、この集まりは……ヴィータと親しげに会話している、男の人は一体誰なんだ。って所か。

 

「だな。で、ここに来たって事は、誰かとデュエルしに?」

 

「ああ。ヴィータの連戦連勝を止めようかなって」

 

 さっき良いことを聴いたから、不敵な笑みを浮かべながら、ヴィータに勝負を挑む。

 

「げっ、今日一番ピンチな展開じゃねえか……いやいや、今日こそ勝つ!!」

 

「そう来なくちゃ、な」

 

 改めて、キングスの様に不敵な笑みを浮かべて、俺は反対側に向かってから、シミュレーターに入る。

 

「ブレイブデュエルスタンバイ!!」

 

 ホルダーを胸の前で掲げ、その後、俺の意識はアリーナへとダイブした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ステージは雲海か……ダインスレイフ、マップの成形を頼む」

 

 試合が始まり、とりあえず兵法に従って地図の作成をお願いした。

 

 試合内容は一対一のスカイデュエルだ。体力が無くなるか、降参するかの至ってシンプルなルールである。

 

【了解したよっ。報酬はダーリンの愛で】

 

 しかし、このデバイス、いい加減まともにならないのだろうか。

 

「過度な報酬の要求は、せめて仕事が終わってから頼むんだな」

 

【ちぇ】

 

 もっとも、愛着がなければ、AIを早々にカスタマイズしているが……それを、伝える事は暫くないだろう。

 

「というか、このAIはユーリがカスタマイズしてるはずだよな」

 

【お母様?】

 

「ああ、ユーリだ」

 

 ユーリよ、一体このAIをどうしたかったんだ。今更ながら、小一時間、問いただしたい。

 

【可愛いよね】

 

「違いない。で、そろそろ出来たか」

 

 デバイスのAIと感性が一緒なのは微妙に不服だが、ユーリを可愛いと思うのは当然だろう。

 

【出来たけど、そこそこ広いって事だけしか分からなかったよ】

 

 なるほど、マップ生成に制限が掛っているステージなのか。

 

 そして、良く見ると俺の位置は、大体マップの中心地。

 

「それだけ分かれば十分だ」

 

 俺は一枚のスキルカードを読み込む。

 

 このステージのセオリーは、雲海に身を隠しながらサーチャー等を用意して、一方的に敵の居場所を見つけてから戦う……だろう。

 

 お互いが鬼である、かくれんぼ。趣旨は大体そんな所か。

 

【チャージ完了。クラスターブレイザー、行けるよっ】

 

 このステージで、俺の行える最善は単純明快だ。雲海全てを、バスター系スキルで薙ぎ払う。

 

「了解した」

 

 最も、完全に雲海を消滅させれるほど威力はないのだが……それでも。

 

 俺は右腕を真上に掲げて──

 

【クラスターブレイザー!!】

 

 一筋の太く、赤黒い魔力光が進み、空で……爆ぜた。

 

「それは、俺のセリフだと思うが……ま、いいか」

 

 空で拡散した魔力光は、花火が散る様に、雲海に降り始める。

 

 そして、自分にも当たる危険性があるので、プロテクションを発動してから、もう一つのスキルを読み込んだ。

 

【チャージスタート。5、4、3、雲海消滅、ターゲットロック、0】

 

「悪魔の門よ、契約に従い顕現せよ……デモンゲイト!!」

 

 キングスから頂いた、攻防に使える万能射撃スキル。本来の使い方は、相手の射撃を受け止めて、カウンターに使うのが理想。

 

「げっ、いきなりピンチじゃねぇか!! 行くぞ、アイゼン!! ラケーテン・ハンマァァァ」

 

 しかし、魔力を込めてやれば、門を破壊されない限り攻撃を続けてくれる砲台となる。

 

「つまり」

 

 俺はエアリアルジャンプを使って、門の射撃を迎撃しているヴィータの裏に回り込んだ。

 

「挟み撃ちを、1人で行える訳なんだ。もっとも、キングスが使う場合は援護砲台にしかならず、近接の俺が使う場合に得られる特典だがな」

 

「ちょ、まっ」

 

【一式・紅一閃だよっ】

 

 そして、ヴィータに反撃の余地を与えぬまま、容赦なくスキルを発動させた。

 

「そんな技名は付けてない」

 

 単純に敵に突っ込み、通り抜けるだけの技。ただし、このスキルを使った場合の速度は、最高速度のライトニングタイプに当てる事も可能だ。

 

「俺の家に伝わる、間を読み、間を制す。の基本技だが、ブレイブデュエルだと瞬間移動した様に見える速度になるんだ……ま、聞こえてないか」

 

 とりあえず、ヴィータに勝ったので、俺は右腕を突き上げ勝利を示した。

 

 もっとも、歓声はあまり聞こえて来ない訳なんだが。

 

 そろそろいい加減、認知度を上げて行こう。

 

 心に、そう誓った。




でも、終わったのよね、INNOCENT。

コンプエースが薄くなって悲しい。連載再開を切に希望する。
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