魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether- 作:聖@ひじりん
親睦カラオケ会が終わり、プレシアさんに渡す物を渡して帰宅した。
早速、キリエの部屋へ向かい、ドアを二回ノック。
「はーい、どうぞ~、先輩」
ノックの音で分かるとか、超人か、こいつ。
「良く分かったな」
「ノックする人間は限られてますし。で、何かあったの?」
確かにそれもそうか。
俺、姉貴、キングス……あれ、ユーリもシュテルもするだろうから、いっぱいいると思うが。
……やっぱり、凄い奴だ、キリエは。
「いや、今日……まあ、色々あったんだが、クリムゾンって歌手知っているよな?」
「え。あ、ああ、まあ。それがどうかしたのん?」
なぜ、言葉に詰まる。
「いや、いつもお勧めして貰っていて、ふとどんなアーティストか気になってな。調べるよりか、キリエに訊いた方が早いかなって」
「う、うん。確かにそうね~。ただ、ユーリの方が詳しいわよ。あの子、大大大ファンだから。というかプロ……だし」
はぐらかされているな、これ。
多分、キリエの口からは言い難いのだろう。
それをユーリに振るって事は、何かあるな絶対。
「分かった。訊いてみよう」
「いや、でも辞めといた方がいいかもしれないわ。プライバシー的な色々があるし」
もしかして、思ってたより大変な案件なのか、これ。
たかだか一人のアーティストだよな?
「それより、なんで今更?」
「うーん」
T&Hメンバーとカラオケしただけだし、そこを隠しても意味はないが……伝えて良いものか。
一応は親睦会な訳で、それこそプライバシー的な話もあるしな。
ただ、俺が急に興味を示した理由は必要か。
「知り合いとカラオケに行って、歌ったら似てるって言われたからだな」
「あ、あー……そりゃそうよね、だって本……だし」
「ん?」
また言葉を濁された。
やっぱり、訊かない方が良いのだろうか。
「しょうがないっちゃしょうがないけど、それなら……気になるわよね。分かった、ユーリに話は通しておくから、くれぐれも慎重にお願いするわ~。最悪、二度と会えなくなるし」
「まさか、そんなに重い話なのか」
「うん、多分。それか期を窺うってのもアリだけど」
ここまで来るとそうした方が良さそうだな。
ユーリが詳しいなら、いずれユーリから話は来るだろう。
「分かった。ユーリに話だけ通してくれ。好きなタイミングで話して欲しいって」
「ん、了解」
それから少し別の話題で盛り上がり、アーティストの件は自然と流れて行った。しかし、それが後に大事件を起こすなど、その時の俺は知る由も無かった。
◆ ◆ ◆
「チヴィットが完成した?」
「ああ。ブレイブデュエルの開発の息抜きにと、全力で完成させたよ!」
学校から帰宅し、久し振りに博士を見たので声を掛けると、まさかそんな開発をしていたなんて。
どうも最近、出くわさないと思っていたら。しかも、息抜きのレベルじゃないはずだ。
「それはおめでとうございます。ただ、身体には気を付けて下さい」
「あはは、性分だからね、こればっかりは。で、見に来るかい?」
「もちろんです」
チヴィット計画自体は話に聞いていたが、まさかもう完成しているなんて。
ブレイブデュエル内にて、AI-NPCとして使役? 協力? してくれる俺たちの分身。
それを、現実世界でも遊ばしてやりたいという、逆転の発想にて計画が進んでいた。
もちろん、一筋縄ではいかないので、まだ序盤も序盤の計画段階だったんだが。
流石は博士だ。
「さあ、これがお待ちかねのチヴィットたちだ!」
ドアが開くと、そこには七体のチヴィットが。
「ぷちロード、チヴィ、シュテゆ、め~ちゅ、モモキリ、あみたん、クーベルですね。ありがとうございます、博士。全部、凄い完成度。いや、仲間が出来ましたね」
「いいや、やりたくてやった事さ。それに、これで肩の荷が一つおりたというか……まあ、ショップ代表の子たちの分はまた頑張るけどね。まだまだやりがいがあるよ」
相変わらず、博士は忙しい人だ。自分でそうしているのだから、もっと凄い。
「では、その時は改めて手伝いますから、遠慮なく呼んで下さい。出来る事は多くありませんが」
「ありがとう、けど、大丈夫。ロボットの分野は僕の専攻だからね。真紅君がブレイブデュエル方面を頑張ってくれるお陰で、十分助かっているよ。それに、娘たちもほったらかしになりがちだし、その辺りもね」
「分かりました。では、そちらは全力で俺が導きます……で、そろそろ遊んで欲しいのか、お前たち」
身体のあちこちを、チヴィットたちに引っ張られていた。
「流石、人気者だね、真紅君は。僕にそんなアプローチはしてくれなかったんだけど……うん、若さが足りていないのかな」
「きっと、忙しいのを察してくれていたんですよ。で、暇な俺が来たんで、構って欲しいんでしょう」
この間も、永遠と攻撃が続いている。よし、七体を引き連れて散歩に参ろうか。
「という訳で、早速行ってきます。博士はちゃんと休んで下さいよ」
「もちろん、結構限界が来ているからね。行ってらっしゃい、チヴィットたちをよろしく頼むよ」
博士と別れ、七体を引き連れ、まずは部屋の外へ。
ただ、どこから回ろうか。
「うーん、皆に挨拶するか。お前たちのご主人と」
クーベルは俺のチヴィットなので大丈夫だが、他はまだ会っていないだろう。
そう思い、皆にメールを送る。
「じゃ、返信が来るまで研究所探索だ」
言葉は交わせないが、その喜びが伝わって来た。
物凄い勢いで、俺の周りを飛んでいるからだ。
とりあえず、花壇からだろうか。入り口っちゃ入り口だし。
花壇へと足を向け、注意事項を教えておく。
「花は、俺たちと同じ命だ。遊んでいて、傷つけたりしては行けないぞ。キリエが激オコだ」
もっとも、荒らすとも思えんが、遊ぶ場合の注意があってもいいだろう。
それに、ちゃんと注意が伝わったみたいで、一斉に花壇の上空から離脱している。
「ああ、それで良い。また、皆にも簡単な手伝いとかお願いするかも知れんし、同じ家族だと思ってくれ」
皆が首をぶんぶんと縦に振り、理解しめしてくれた。
うん、分かってはいたが、賢くはあるな。
「さて、次は……」
順々に説明しながら探索を続け、最後にリビングへと到着。
全員が揃ったみたいなので、楽しいパーティーの始まりだろう。
「お待たせだ。皆のご主人だぞ」
扉を開け、それぞれが、それぞれの元へ。
「うわぁ、本当に良く出来てるね。よろしくね、チビィ!」
「シュテゆ、でしたか。よろしくお願いします」
「お主も我と同じだというなら、共に覇道を目指すぞ。良いな」
「め~ちゅって名前に些か複雑な思いはありますけど……よろしくお願いします、め~ちゅ」
「あみたんって名前に多少複雑ですよ、私も。でも、よろしくお願いします!」
「モモキリなんて、どこから取ったのか……あ、実剣の事かしらん」
皆、思う事はあるようだか、嬉しい想いは変わらずだな。
「改めてよろしくな、クーベル。しっかりと皆を導いてくれよ」
リーダーはプチろーどだが、指揮官はクーベルだ。
そこは俺とキングスの関係と一緒なので、本当に頑張って欲しい。
そこから、チビットも食事は取れるので、ささやかなパーティーとなった。
味の好みが一緒なのだろう、バイキング形式で同じ物を皿によそっている。
本当、博士には感謝しないと。
◆ ◆ ◆
それから、ブレイブデュエルをメインに日々は忙しく過ぎて行き、気が付けば二週間が経っていた。
今日は、T&Hメンバーのチーム結成お祝い会の予定だ。
その為、俺は調達係として、シュテル、レヴィと共に商店街に出向いていた。
「ねーねー、細かいのじゃなくて、こっちのでっかい塊にしようよ」
レヴィがマツザガ牛を指差している。
「おっ、流石レヴィちゃん、お目が高いね~」
なるほど、マツザカか。
お祝いとしてはピッタリだな
「いけません。ディアーチェからお買い物表を預かっています。その品物の中から、安く良い物を手に入れるのが私たちの使命です」
「「ええ~」」
レヴィと店のおっちゃんが残念そうに声を上げる。
まあ、それも分からなくはないが、ここは盛大に行こう。
「いや、待ってくれシュテル。確かにそれもそうだが、お祝いがメイン、景気よくだ」
「しかし、軍資金を軽くオーバーしますよ?」
「それについては問題ない。こういう時の為に、追加軍資金がある」
いつも使っている黒の長財布とは別に、紫の長財布を取り出す。
「それは……」
「色々な奴らから、トレードで得たお金でな」
そう、キングス貯金だ。
「もしや、例の」
「ああ。こういう時にと思って、全部貯金しておいた」
キングスのお弁当の価値は日に日に上がり、今では競売に出されるレベルとなった。
ノリの良いクラスメイトで助かるが、盛り上がっている現場を下げる訳にも行かず、俺は傍観を続ける羽目に。
結果、毎日数千円単位でお金が貯まり続けていた。
もっとも、俺は飯に集中していたので、どのような結果になっているかは知らないが。
「出何処がある意味で最悪ではありますが、そうですね……いくら貯まっているんですか?」
「さぁ? 数えてみよう」
特に興味はなかったが、一体、どれぐらいあるのか。かなり千円札が多い。
実際、プライベートで開ける事が初めてなので、総合計は知らなった。
厚みと重み自体は分かっているものの、個人の何かに使おうとは全く考えなかったので、果たして。
「4万7千と、小銭が少々だな」
キングスのお弁当、凄いな。
「流石と言って良いのか、複雑な気持ちです」
「それだけ王様のお弁当が美味しいって事だね」
「ええ、それは大変良いのですが……いえ、今はあまり考えないでおきましょう」
「間違いない」
自重しろとだけ伝えておこう、クラスメイトに。
それでも終わらなければ、キングス弁当の競売は中止だな。
いや、でもそれでクラスの雰囲気が落ちるのもあれか…………難しい所だ。
競売専用に、キングスの一品だけ入れて貰うシステムにしておこうか。
「まあ、ここは素直に軍資金として使わせて貰いましょう。では、マツザカを500g」
「やった~」
「まいどありっ!」
「あ、僕はスペシャルコロッケ一つ」
「俺も一つ」
「あいよ」
レヴィの注文を聞き、俺も欲しくなったので購入。もちろん自腹だし、レヴィの分も払っておく。
商品を受け取った後、次の目的地へ足を進める。
「全く二人揃って。ご飯が食べられなくなっても知りませんよ」
「大丈夫だ、これくらい」
「そうそう、それに激うまなんだよっ。シュテルんも一口どうぞ」
レヴィがシュテルに向けて、コロッケを差し出す。
「ふむ……」
一回悩んでから、シュテルが出来立て熱々のコロッケを一口パクリ。
「これは美味しいですね」
どうやら、お気に召した様だ。
「なら、俺からもどうぞ。食べかけで悪いが」
「いえ……はい、頂きます」
また、悩んだ様だが、しっかりと俺のコロッケも食べてくれた。
そして目が輝く。やっぱり、美味しいのだろう。
「真紅が払ってくれると踏んで、スペシャルにして正解だったね」
「おい。まあ、良いんだが。どうせ払うつもりだったし」
「えへへ~、ごめんね」
それに大した値段でもない。
通常コロッケが80円で、スペシャルコロッケが150円だ。
塵も積もればとは言うが、それならそもそも日々節制生活だろう。
「では今度は私にも奢って下さい」
「もちろん構わないが、その時はキングスやユーリも連れてだな」
「ですね」
こういう甘さは、前面に発揮しても問題ないと思っている。
今更、奢る奢らないで、どうこうなる関係でもないし。
それに、それよりも大事なものを沢山貰っている俺としては、本当に安い出費だ。
「さて、次は魚屋さんで、ブイヤベース用の魚と貝です。デュエル終了に間に合わないと困りますので、今度は手早く行きましょう」
「了解 / ほーい」
返事をし、コロッケを食べ切ったので、目先の進路にあるごみ箱へ、包み紙を捨てに走る。
すると、こちらに歩いている八神堂の主とヴィータの姿が。
「おーい」
「あ、真さん」
「おっす」
「おーっす! 小鴉、ヴィータ!」
「こんにちわ」
二人も合流し、こらは世間話の流れになりそうだ。
早く買い物を済ませないとはいえ、それ位の時間の猶予はあるだろう。
「どうしたん、買い物? この組み合わせは商店街じゃあんまり見ぃへんけど」
「ええ」
「王様のお使い中だよ~。T&Hのチーム結成お祝いの!」
「嘘やんっ、そんなイベントが……」
近くの木下腰かけベンチに座り、話が続けられる。
「まあ、急な話ではあったからな」
俺がいて買い物袋を下には置けないので、俺は立ったまま。
レヴィも座って留まれるタイプではないので、身体を動かしている。
「言うてくれたら協力したのに~。私の王様の仲やのに」
「片思いだけどな~」
「なんや、ヴィータもいけずさんや」
相変わらず、ここも仲が良い。
家族なので当然にしろ、姉妹として最高の仲だろう。
「そーいえば、シュテルんはこっちで良かったの?」
今になって疑問に思ったのか、レヴィがシュテルに質問した。
「……あれから、研鑽を積んだナノハたちに、興味がないと言えば嘘になりますが。新たな強敵との出会いが彼女たちを、更なる高みへ、導くでしょう」
シュテルは目を瞑りながら、その景色をイメージしているのだろう。
「その先のデュエルを待つのも、一つの楽しみなのですよ」
そして、目を開いてシュテルが微笑む。
楽しみなのだろう、そうして自分に挑戦してくれるライバルが。
「もっともその間に、私は私の壁を越える為に研鑽するので、追いつかれる気はしませんが。真紅という高い壁を」
全員が、こちらをガン見した。
「いや、待て。そう高くもないだろう。この前、負けたし」
「ええ、一度です。私にとっては大きな一勝ではありましたが、ギリギリでの勝利はあまり勝利と呼べませんから」
確かに、それもそうではあるが。実際、その差は対してない。
精々、現実世界での実戦経験の差だ。
そんな俺も、対人経験はほぼ両親との戦いで培われた物だし、あまり意味はないだろう。
「それでも、勝利は勝利だろう。シュテルに追い付かれたと実感したぞ?」
「むしろ、追い越すつもりなので、期待して待っていて下さい」
本気の目だ。
これは、俺も本腰を入れないと、あっと言う間に抜かれてしまうな。
「そこまで凄いん? 真さんの本気の戦いって」
「そうでもないぞ、多分」
「んー、真紅はもっと自分に自信を持った方が良いよ。ボクなんて、接戦にすらなった事ないんだから」
「レヴィの言う通りです。ロケテスト一位の称号なんて、私からすれば真紅の物としか思えません。少なくとも、私より強いのですから」
そう言われると、こちらも返す言葉はないんだが。
自信か……そうだよな、シュテルたちにとっては、そんなのが上にいられる方が苦痛か。
「分かった。今すぐには難しいが、改善を試みよう」
最近、自分の強さと向き合ってなかったのかも知れない。
どちらかと言えば、強さより楽しさをメインに、ブレイブデュエルをしていた。
それも、実感なく頂点にいて、挑戦者の気持ちを忘れていたからだ。
「ほんまに、帝釈天みたいな存在やってんね、真さんは」
帝釈天か、なるほど。
「それ良いな。帝釈天であり続けよう」
修羅が挑む先は、天帝と呼ばれる存在であるべきだ。
最低限、そうであるべきと、心に誓おう。
「……って、あぁ!? 時間がヤバイ」
レヴィが叫び出し、俺も思わず時計を見る。
なるほど、確かにヤバイ。
これは、急いで色々と済ませないと、キングスのお怒りが来るな。
それは、はやてたちも一緒だったみたいで、慌てて別れて帰って行った。
俺たちも俺たちで急がないと行けなかったので、分担して買い物を済ませて行く。
結果、なんとか時間に間に合い。キングスからのお怒りはなしで済んだのだった。
◆ ◆ ◆
荷物を渡した後、俺は聖域に入れないので、プロトタイプシミュレータールームに。
ドアが開き、奥のモニター席には博士の姿が。
「お疲れ様です、博士」
ちらっとモニターを除くと、どうやらまだ戦闘中の様だった。
「うん、ありがとう。で、早速だけど、真紅君ならこの試合をどう見る?」
始まって中盤辺りか。
「結果ですか?」
「だね」
それなら……うん、まあ。
「T6Hエレメンツに、チームとしての力量がありませんので、もちろん姉貴たちが勝つでしょう。しかも、個人での能力もフェイト以外はまだまだ発展途上。何があっても、負ける道理はありません」
これくらいが、妥当か。
「やっぱりそうなりそうだね」
博士は、実際のプレイはそこまでしていないものの、腐っても開発者だ。
それに、データの情報量、知識量で言うと、家の誰よりもある。研究の一環ではあると思うが、やはり、ブレイブデュエルを一番に思っているのは博士に違いない。
「でも、ライバルになりそうな子たちがいる事は、トップにとってありがたい物ですよ」
孤独な一位に意味はないだろう。
ああして、意識が高い挑戦者がいれくれると、ダークマテリアルズの活躍も分かるってものだ。
「なるほどね。確かに、ライバルは良いものだね……」
博士が遠い目をしている。
恐らく、ジェイル・スカリエッティ博士の事だろう。
ブレイブデュエル計画段階。悪巧みの一員として、その名前があった。
会ったのは数回程度で、家族構成もちらっとしか知らないが、結果的に袂を分かってしまう。
それには、博士とジェイル博士に思想の違いあったとか何とか。
詳しい話は聞いていないが、元々は良きライバルなのだろう。
そう言えば、今は何をしているのやら。
印象はこれまた面白い人だったが、何が出来た人なのかは訊いてないし、そもそもあまり話したことはない。
娘さんの、一架さんの方が、しっかりしていたのは間違いないが。
「さて、そろそろ終盤か……ん?」
と、そのタイミングでキングスからメールが届く。
『集合』
……これは、お怒りメールだな。
多分、アレの事だろう。
「すいません博士。キングスに呼ばれたので行ってきます」
「そうかい、分かったよ」
足早にリビングに向かい、扉を開ける。
「そこに直れ」
既に、お怒りモードだった。
「いや待て、これには理由があってだな」
と言いつつ、一応は正座しておく。
「その姿勢は認めるが、我もそこまで鬼ではないわっ!!」
なんだ、良かった。
ただ、姿勢すら見せなかったら更に怒られたかも知れない。
起立し、キングスの前に立つ。
「で、なんだあの肉は。いや、むしろそこについては良いか。キングス貯金とはなんだ」
チラッとキングスの背後を見ると、レヴィとシュテルに顔を背けられた。
軽く話してしまったのだろう、アイツら。
ただ、安心した。その程度の問題なら、俺にだって切り札はある。
「キングスからの愛妻弁当によって得た、援助金みたいな物だ」
「愛妻っ!? いや、決してそこまでの想いは詰まっておらんぞ!? って、違う……いや、それか、キングス貯金は」
顔を真っ赤にしていたが、話は伝わった様で何より。
「ああ。キングスの弁当を泣くほど欲しがった連中が、競売を始めてな。その結果だ」
「も、もはやそこまでか……ううむ、逆に手を打たんといけないな。しかし、それは好きに使って良いと伝えただろう」
「だから、好きに使わせて貰ったぞ? 全額、キングスの為になる事にしか使わないからな」
これは、俺も逆に決めていた。真に報酬を得るのは、キングスであるべきだと。
そもそも、使って良いと言われて、素直に使うのも問題があっただけだが。
「う、ううむ」
キングスがたじろいだ。これは、そのまま押し切れそうだ。
「それにな、歳下の女の子にそもそも弁当を作って貰っている身になってくれ。その時点でありがとうなのに、お金まで頂いたら、まるで夫婦みたいだろう? 俺が情けなくて困るんだ。だから、キングスの為に使おうってな」
自分の想いを、しっかりと伝える。
「……っ。分かった良い、不問に致す。とりあえず、我はあやつらの様子を見に行く為、部屋の飾りつけは任せた。でわなっ!!」
何か、物凄い勢いでキングスが部屋から離脱した。
早口だったし、顔を背けられたし。
一応、伝わったみたいなので良しとしたいが、何かあったのだろうか。
「これだから真紅は……」
「だねぇ。さっ、準備を済ませちゃおう」
そして、何故かディスられた。
「いや待て。何かしたのか、俺?」
「いえ、何もしておりません。だから、なのですが」
何もしていないから?
「んん?」
疑問を声に出しても、答えは返ってこない。
恐らく、今の俺には解決出来ないらしいので、素直に会場の準備を手伝う事にした。
釈然としない思いはあったが、今は仕方がないだろう。
そう割り切って、黙々と作業を続ける事、10分。
部屋の準備はあらかた整い、後は料理の仕上げだけとなった。