魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether-   作:聖@ひじりん

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episode12

 

 

 親睦カラオケ会が終わり、プレシアさんに渡す物を渡して帰宅した。

 

 早速、キリエの部屋へ向かい、ドアを二回ノック。

 

「はーい、どうぞ~、先輩」

 

 ノックの音で分かるとか、超人か、こいつ。

 

「良く分かったな」

 

「ノックする人間は限られてますし。で、何かあったの?」

 

 確かにそれもそうか。

 

 俺、姉貴、キングス……あれ、ユーリもシュテルもするだろうから、いっぱいいると思うが。

 

 ……やっぱり、凄い奴だ、キリエは。

 

「いや、今日……まあ、色々あったんだが、クリムゾンって歌手知っているよな?」

 

「え。あ、ああ、まあ。それがどうかしたのん?」

 

 なぜ、言葉に詰まる。

 

「いや、いつもお勧めして貰っていて、ふとどんなアーティストか気になってな。調べるよりか、キリエに訊いた方が早いかなって」

 

「う、うん。確かにそうね~。ただ、ユーリの方が詳しいわよ。あの子、大大大ファンだから。というかプロ……だし」

 

 はぐらかされているな、これ。

 

 多分、キリエの口からは言い難いのだろう。

 

 それをユーリに振るって事は、何かあるな絶対。

 

「分かった。訊いてみよう」

 

「いや、でも辞めといた方がいいかもしれないわ。プライバシー的な色々があるし」

 

 もしかして、思ってたより大変な案件なのか、これ。

 

 たかだか一人のアーティストだよな?

 

「それより、なんで今更?」

 

「うーん」

 

 T&Hメンバーとカラオケしただけだし、そこを隠しても意味はないが……伝えて良いものか。

 

 一応は親睦会な訳で、それこそプライバシー的な話もあるしな。

 

 ただ、俺が急に興味を示した理由は必要か。

 

「知り合いとカラオケに行って、歌ったら似てるって言われたからだな」

 

「あ、あー……そりゃそうよね、だって本……だし」

 

「ん?」

 

 また言葉を濁された。

 

 やっぱり、訊かない方が良いのだろうか。

 

「しょうがないっちゃしょうがないけど、それなら……気になるわよね。分かった、ユーリに話は通しておくから、くれぐれも慎重にお願いするわ~。最悪、二度と会えなくなるし」

 

「まさか、そんなに重い話なのか」

 

「うん、多分。それか期を窺うってのもアリだけど」

 

 ここまで来るとそうした方が良さそうだな。

 

 ユーリが詳しいなら、いずれユーリから話は来るだろう。

 

「分かった。ユーリに話だけ通してくれ。好きなタイミングで話して欲しいって」

 

「ん、了解」

 

 それから少し別の話題で盛り上がり、アーティストの件は自然と流れて行った。しかし、それが後に大事件を起こすなど、その時の俺は知る由も無かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「チヴィットが完成した?」

 

「ああ。ブレイブデュエルの開発の息抜きにと、全力で完成させたよ!」

 

 学校から帰宅し、久し振りに博士を見たので声を掛けると、まさかそんな開発をしていたなんて。

 

 どうも最近、出くわさないと思っていたら。しかも、息抜きのレベルじゃないはずだ。

 

「それはおめでとうございます。ただ、身体には気を付けて下さい」

 

「あはは、性分だからね、こればっかりは。で、見に来るかい?」

 

「もちろんです」

 

 チヴィット計画自体は話に聞いていたが、まさかもう完成しているなんて。

 

 ブレイブデュエル内にて、AI-NPCとして使役? 協力? してくれる俺たちの分身。

 

 それを、現実世界でも遊ばしてやりたいという、逆転の発想にて計画が進んでいた。

 

 もちろん、一筋縄ではいかないので、まだ序盤も序盤の計画段階だったんだが。

 

 流石は博士だ。

 

「さあ、これがお待ちかねのチヴィットたちだ!」

 

 ドアが開くと、そこには七体のチヴィットが。

 

「ぷちロード、チヴィ、シュテゆ、め~ちゅ、モモキリ、あみたん、クーベルですね。ありがとうございます、博士。全部、凄い完成度。いや、仲間が出来ましたね」

 

「いいや、やりたくてやった事さ。それに、これで肩の荷が一つおりたというか……まあ、ショップ代表の子たちの分はまた頑張るけどね。まだまだやりがいがあるよ」

 

 相変わらず、博士は忙しい人だ。自分でそうしているのだから、もっと凄い。

 

「では、その時は改めて手伝いますから、遠慮なく呼んで下さい。出来る事は多くありませんが」

 

「ありがとう、けど、大丈夫。ロボットの分野は僕の専攻だからね。真紅君がブレイブデュエル方面を頑張ってくれるお陰で、十分助かっているよ。それに、娘たちもほったらかしになりがちだし、その辺りもね」

 

「分かりました。では、そちらは全力で俺が導きます……で、そろそろ遊んで欲しいのか、お前たち」

 

 身体のあちこちを、チヴィットたちに引っ張られていた。

 

「流石、人気者だね、真紅君は。僕にそんなアプローチはしてくれなかったんだけど……うん、若さが足りていないのかな」

 

「きっと、忙しいのを察してくれていたんですよ。で、暇な俺が来たんで、構って欲しいんでしょう」

 

 この間も、永遠と攻撃が続いている。よし、七体を引き連れて散歩に参ろうか。

 

「という訳で、早速行ってきます。博士はちゃんと休んで下さいよ」

 

「もちろん、結構限界が来ているからね。行ってらっしゃい、チヴィットたちをよろしく頼むよ」

 

 博士と別れ、七体を引き連れ、まずは部屋の外へ。

 

 ただ、どこから回ろうか。

 

「うーん、皆に挨拶するか。お前たちのご主人と」

 

 クーベルは俺のチヴィットなので大丈夫だが、他はまだ会っていないだろう。

 

 そう思い、皆にメールを送る。

 

「じゃ、返信が来るまで研究所探索だ」

 

 言葉は交わせないが、その喜びが伝わって来た。

 

 物凄い勢いで、俺の周りを飛んでいるからだ。

 

 とりあえず、花壇からだろうか。入り口っちゃ入り口だし。

 

 花壇へと足を向け、注意事項を教えておく。

 

「花は、俺たちと同じ命だ。遊んでいて、傷つけたりしては行けないぞ。キリエが激オコだ」

 

 もっとも、荒らすとも思えんが、遊ぶ場合の注意があってもいいだろう。

 

 それに、ちゃんと注意が伝わったみたいで、一斉に花壇の上空から離脱している。

 

「ああ、それで良い。また、皆にも簡単な手伝いとかお願いするかも知れんし、同じ家族だと思ってくれ」

 

 皆が首をぶんぶんと縦に振り、理解しめしてくれた。

 

 うん、分かってはいたが、賢くはあるな。

 

「さて、次は……」

 

 順々に説明しながら探索を続け、最後にリビングへと到着。

 

 全員が揃ったみたいなので、楽しいパーティーの始まりだろう。

 

「お待たせだ。皆のご主人だぞ」

 

 扉を開け、それぞれが、それぞれの元へ。

 

「うわぁ、本当に良く出来てるね。よろしくね、チビィ!」

 

「シュテゆ、でしたか。よろしくお願いします」

 

「お主も我と同じだというなら、共に覇道を目指すぞ。良いな」

 

「め~ちゅって名前に些か複雑な思いはありますけど……よろしくお願いします、め~ちゅ」

 

「あみたんって名前に多少複雑ですよ、私も。でも、よろしくお願いします!」

 

「モモキリなんて、どこから取ったのか……あ、実剣の事かしらん」

 

 皆、思う事はあるようだか、嬉しい想いは変わらずだな。

 

「改めてよろしくな、クーベル。しっかりと皆を導いてくれよ」

 

 リーダーはプチろーどだが、指揮官はクーベルだ。

 

 そこは俺とキングスの関係と一緒なので、本当に頑張って欲しい。

 

 そこから、チビットも食事は取れるので、ささやかなパーティーとなった。

 

 味の好みが一緒なのだろう、バイキング形式で同じ物を皿によそっている。

 

 本当、博士には感謝しないと。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 それから、ブレイブデュエルをメインに日々は忙しく過ぎて行き、気が付けば二週間が経っていた。

 

 今日は、T&Hメンバーのチーム結成お祝い会の予定だ。

 

 その為、俺は調達係として、シュテル、レヴィと共に商店街に出向いていた。

 

「ねーねー、細かいのじゃなくて、こっちのでっかい塊にしようよ」

 

 レヴィがマツザガ牛を指差している。

 

「おっ、流石レヴィちゃん、お目が高いね~」

 

 なるほど、マツザカか。

 

 お祝いとしてはピッタリだな

 

「いけません。ディアーチェからお買い物表を預かっています。その品物の中から、安く良い物を手に入れるのが私たちの使命です」

 

「「ええ~」」

 

 レヴィと店のおっちゃんが残念そうに声を上げる。

 

 まあ、それも分からなくはないが、ここは盛大に行こう。

 

「いや、待ってくれシュテル。確かにそれもそうだが、お祝いがメイン、景気よくだ」

 

「しかし、軍資金を軽くオーバーしますよ?」

 

「それについては問題ない。こういう時の為に、追加軍資金がある」

 

 いつも使っている黒の長財布とは別に、紫の長財布を取り出す。

 

「それは……」

 

「色々な奴らから、トレードで得たお金でな」

 

 そう、キングス貯金だ。

 

「もしや、例の」

 

「ああ。こういう時にと思って、全部貯金しておいた」

 

 キングスのお弁当の価値は日に日に上がり、今では競売に出されるレベルとなった。

 

 ノリの良いクラスメイトで助かるが、盛り上がっている現場を下げる訳にも行かず、俺は傍観を続ける羽目に。

 

 結果、毎日数千円単位でお金が貯まり続けていた。

 

 もっとも、俺は飯に集中していたので、どのような結果になっているかは知らないが。

 

「出何処がある意味で最悪ではありますが、そうですね……いくら貯まっているんですか?」

 

「さぁ? 数えてみよう」

 

 特に興味はなかったが、一体、どれぐらいあるのか。かなり千円札が多い。

  

 実際、プライベートで開ける事が初めてなので、総合計は知らなった。

 

 厚みと重み自体は分かっているものの、個人の何かに使おうとは全く考えなかったので、果たして。

 

「4万7千と、小銭が少々だな」

 

 キングスのお弁当、凄いな。

 

「流石と言って良いのか、複雑な気持ちです」

 

「それだけ王様のお弁当が美味しいって事だね」

 

「ええ、それは大変良いのですが……いえ、今はあまり考えないでおきましょう」

 

「間違いない」

 

 自重しろとだけ伝えておこう、クラスメイトに。

 

 それでも終わらなければ、キングス弁当の競売は中止だな。

 

 いや、でもそれでクラスの雰囲気が落ちるのもあれか…………難しい所だ。

 

 競売専用に、キングスの一品だけ入れて貰うシステムにしておこうか。

 

「まあ、ここは素直に軍資金として使わせて貰いましょう。では、マツザカを500g」

 

「やった~」

 

「まいどありっ!」

 

「あ、僕はスペシャルコロッケ一つ」

 

「俺も一つ」

 

「あいよ」

 

 レヴィの注文を聞き、俺も欲しくなったので購入。もちろん自腹だし、レヴィの分も払っておく。

 

 商品を受け取った後、次の目的地へ足を進める。

 

「全く二人揃って。ご飯が食べられなくなっても知りませんよ」 

 

「大丈夫だ、これくらい」

 

「そうそう、それに激うまなんだよっ。シュテルんも一口どうぞ」

 

 レヴィがシュテルに向けて、コロッケを差し出す。

 

「ふむ……」

 

 一回悩んでから、シュテルが出来立て熱々のコロッケを一口パクリ。

 

「これは美味しいですね」

 

 どうやら、お気に召した様だ。

 

「なら、俺からもどうぞ。食べかけで悪いが」

 

「いえ……はい、頂きます」

 

 また、悩んだ様だが、しっかりと俺のコロッケも食べてくれた。

 

 そして目が輝く。やっぱり、美味しいのだろう。

 

「真紅が払ってくれると踏んで、スペシャルにして正解だったね」

 

「おい。まあ、良いんだが。どうせ払うつもりだったし」

 

「えへへ~、ごめんね」

 

 それに大した値段でもない。

 

 通常コロッケが80円で、スペシャルコロッケが150円だ。

 

 塵も積もればとは言うが、それならそもそも日々節制生活だろう。

 

「では今度は私にも奢って下さい」

 

「もちろん構わないが、その時はキングスやユーリも連れてだな」

 

「ですね」

 

 こういう甘さは、前面に発揮しても問題ないと思っている。

 

 今更、奢る奢らないで、どうこうなる関係でもないし。

 

 それに、それよりも大事なものを沢山貰っている俺としては、本当に安い出費だ。

 

「さて、次は魚屋さんで、ブイヤベース用の魚と貝です。デュエル終了に間に合わないと困りますので、今度は手早く行きましょう」

 

「了解 / ほーい」

 

 返事をし、コロッケを食べ切ったので、目先の進路にあるごみ箱へ、包み紙を捨てに走る。

 

 すると、こちらに歩いている八神堂の主とヴィータの姿が。

 

「おーい」

 

「あ、真さん」

 

「おっす」

 

「おーっす! 小鴉、ヴィータ!」

 

「こんにちわ」

 

 二人も合流し、こらは世間話の流れになりそうだ。

 

 早く買い物を済ませないとはいえ、それ位の時間の猶予はあるだろう。

 

「どうしたん、買い物? この組み合わせは商店街じゃあんまり見ぃへんけど」

 

「ええ」

 

「王様のお使い中だよ~。T&Hのチーム結成お祝いの!」

 

「嘘やんっ、そんなイベントが……」

 

 近くの木下腰かけベンチに座り、話が続けられる。

 

「まあ、急な話ではあったからな」

 

 俺がいて買い物袋を下には置けないので、俺は立ったまま。

 

 レヴィも座って留まれるタイプではないので、身体を動かしている。

 

「言うてくれたら協力したのに~。私の王様の仲やのに」

 

「片思いだけどな~」

 

「なんや、ヴィータもいけずさんや」

 

 相変わらず、ここも仲が良い。

 

 家族なので当然にしろ、姉妹として最高の仲だろう。

 

「そーいえば、シュテルんはこっちで良かったの?」

 

 今になって疑問に思ったのか、レヴィがシュテルに質問した。

 

「……あれから、研鑽を積んだナノハたちに、興味がないと言えば嘘になりますが。新たな強敵との出会いが彼女たちを、更なる高みへ、導くでしょう」

 

 シュテルは目を瞑りながら、その景色をイメージしているのだろう。

 

「その先のデュエルを待つのも、一つの楽しみなのですよ」 

 

 そして、目を開いてシュテルが微笑む。

 

 楽しみなのだろう、そうして自分に挑戦してくれるライバルが。

 

「もっともその間に、私は私の壁を越える為に研鑽するので、追いつかれる気はしませんが。真紅という高い壁を」

 

 全員が、こちらをガン見した。

 

「いや、待て。そう高くもないだろう。この前、負けたし」

 

「ええ、一度です。私にとっては大きな一勝ではありましたが、ギリギリでの勝利はあまり勝利と呼べませんから」

 

 確かに、それもそうではあるが。実際、その差は対してない。

 

 精々、現実世界での実戦経験の差だ。

 

 そんな俺も、対人経験はほぼ両親との戦いで培われた物だし、あまり意味はないだろう。

 

「それでも、勝利は勝利だろう。シュテルに追い付かれたと実感したぞ?」

 

「むしろ、追い越すつもりなので、期待して待っていて下さい」

 

 本気の目だ。

 

 これは、俺も本腰を入れないと、あっと言う間に抜かれてしまうな。

 

「そこまで凄いん? 真さんの本気の戦いって」

 

「そうでもないぞ、多分」

 

「んー、真紅はもっと自分に自信を持った方が良いよ。ボクなんて、接戦にすらなった事ないんだから」

 

「レヴィの言う通りです。ロケテスト一位の称号なんて、私からすれば真紅の物としか思えません。少なくとも、私より強いのですから」

 

 そう言われると、こちらも返す言葉はないんだが。

 

 自信か……そうだよな、シュテルたちにとっては、そんなのが上にいられる方が苦痛か。

 

「分かった。今すぐには難しいが、改善を試みよう」

 

 最近、自分の強さと向き合ってなかったのかも知れない。

 

 どちらかと言えば、強さより楽しさをメインに、ブレイブデュエルをしていた。

 

 それも、実感なく頂点にいて、挑戦者の気持ちを忘れていたからだ。

 

「ほんまに、帝釈天みたいな存在やってんね、真さんは」

 

 帝釈天か、なるほど。

 

「それ良いな。帝釈天であり続けよう」

 

 修羅が挑む先は、天帝と呼ばれる存在であるべきだ。

 

 最低限、そうであるべきと、心に誓おう。

 

「……って、あぁ!? 時間がヤバイ」

 

 レヴィが叫び出し、俺も思わず時計を見る。

 

 なるほど、確かにヤバイ。

 

 これは、急いで色々と済ませないと、キングスのお怒りが来るな。

 

 それは、はやてたちも一緒だったみたいで、慌てて別れて帰って行った。

 

 俺たちも俺たちで急がないと行けなかったので、分担して買い物を済ませて行く。

 

 結果、なんとか時間に間に合い。キングスからのお怒りはなしで済んだのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 荷物を渡した後、俺は聖域に入れないので、プロトタイプシミュレータールームに。

 

 ドアが開き、奥のモニター席には博士の姿が。

 

「お疲れ様です、博士」

 

 ちらっとモニターを除くと、どうやらまだ戦闘中の様だった。

 

「うん、ありがとう。で、早速だけど、真紅君ならこの試合をどう見る?」

 

 始まって中盤辺りか。

 

「結果ですか?」

 

「だね」

 

 それなら……うん、まあ。

 

「T6Hエレメンツに、チームとしての力量がありませんので、もちろん姉貴たちが勝つでしょう。しかも、個人での能力もフェイト以外はまだまだ発展途上。何があっても、負ける道理はありません」

 

 これくらいが、妥当か。

 

「やっぱりそうなりそうだね」

 

 博士は、実際のプレイはそこまでしていないものの、腐っても開発者だ。

 

 それに、データの情報量、知識量で言うと、家の誰よりもある。研究の一環ではあると思うが、やはり、ブレイブデュエルを一番に思っているのは博士に違いない。

 

「でも、ライバルになりそうな子たちがいる事は、トップにとってありがたい物ですよ」

 

 孤独な一位に意味はないだろう。

 

 ああして、意識が高い挑戦者がいれくれると、ダークマテリアルズの活躍も分かるってものだ。

 

「なるほどね。確かに、ライバルは良いものだね……」

 

 博士が遠い目をしている。

 

 恐らく、ジェイル・スカリエッティ博士の事だろう。

 

 ブレイブデュエル計画段階。悪巧みの一員として、その名前があった。

 

 会ったのは数回程度で、家族構成もちらっとしか知らないが、結果的に袂を分かってしまう。

 

 それには、博士とジェイル博士に思想の違いあったとか何とか。

 

 詳しい話は聞いていないが、元々は良きライバルなのだろう。

 

 そう言えば、今は何をしているのやら。

 

 印象はこれまた面白い人だったが、何が出来た人なのかは訊いてないし、そもそもあまり話したことはない。

 

 娘さんの、一架さんの方が、しっかりしていたのは間違いないが。

 

「さて、そろそろ終盤か……ん?」

 

 と、そのタイミングでキングスからメールが届く。

 

『集合』

 

 ……これは、お怒りメールだな。

 

 多分、アレの事だろう。

 

「すいません博士。キングスに呼ばれたので行ってきます」

 

「そうかい、分かったよ」

 

 足早にリビングに向かい、扉を開ける。

 

「そこに直れ」

 

 既に、お怒りモードだった。

 

「いや待て、これには理由があってだな」

 

 と言いつつ、一応は正座しておく。

 

「その姿勢は認めるが、我もそこまで鬼ではないわっ!!」

 

 なんだ、良かった。

 

 ただ、姿勢すら見せなかったら更に怒られたかも知れない。

 

 起立し、キングスの前に立つ。

 

「で、なんだあの肉は。いや、むしろそこについては良いか。キングス貯金とはなんだ」

 

 チラッとキングスの背後を見ると、レヴィとシュテルに顔を背けられた。

 

 軽く話してしまったのだろう、アイツら。

 

 ただ、安心した。その程度の問題なら、俺にだって切り札はある。

 

「キングスからの愛妻弁当によって得た、援助金みたいな物だ」

 

「愛妻っ!? いや、決してそこまでの想いは詰まっておらんぞ!? って、違う……いや、それか、キングス貯金は」

 

 顔を真っ赤にしていたが、話は伝わった様で何より。

 

「ああ。キングスの弁当を泣くほど欲しがった連中が、競売を始めてな。その結果だ」

 

「も、もはやそこまでか……ううむ、逆に手を打たんといけないな。しかし、それは好きに使って良いと伝えただろう」

 

「だから、好きに使わせて貰ったぞ? 全額、キングスの為になる事にしか使わないからな」

 

 これは、俺も逆に決めていた。真に報酬を得るのは、キングスであるべきだと。

 

 そもそも、使って良いと言われて、素直に使うのも問題があっただけだが。

 

「う、ううむ」

 

 キングスがたじろいだ。これは、そのまま押し切れそうだ。

 

「それにな、歳下の女の子にそもそも弁当を作って貰っている身になってくれ。その時点でありがとうなのに、お金まで頂いたら、まるで夫婦みたいだろう? 俺が情けなくて困るんだ。だから、キングスの為に使おうってな」

 

 自分の想いを、しっかりと伝える。

 

「……っ。分かった良い、不問に致す。とりあえず、我はあやつらの様子を見に行く為、部屋の飾りつけは任せた。でわなっ!!」

 

 何か、物凄い勢いでキングスが部屋から離脱した。

 

 早口だったし、顔を背けられたし。

  

 一応、伝わったみたいなので良しとしたいが、何かあったのだろうか。

 

「これだから真紅は……」

 

「だねぇ。さっ、準備を済ませちゃおう」

 

 そして、何故かディスられた。

 

「いや待て。何かしたのか、俺?」

 

「いえ、何もしておりません。だから、なのですが」

 

 何もしていないから?

 

「んん?」

 

 疑問を声に出しても、答えは返ってこない。

 

 恐らく、今の俺には解決出来ないらしいので、素直に会場の準備を手伝う事にした。

 

 釈然としない思いはあったが、今は仕方がないだろう。

 

 そう割り切って、黙々と作業を続ける事、10分。

 

 部屋の準備はあらかた整い、後は料理の仕上げだけとなった。

 

 

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