魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether- 作:聖@ひじりん
「よし、これで最後であるな」
「お疲れ様、キングス」
「うむ」
先程の謎行動は本当に何だったのか……今の様子を見る限り、大丈夫そうだが。
「では、シュテルとレヴィよ。そろそろたどり着くであろうから、出迎えを」
『畏まりました / 了解!』
二人が部屋から出て行き、T&Hの皆を呼びに。
「そういえば、どんな試練を?」
ふと気になったので、キングスに問い掛ける。
「あ奴らに必要になるであろう動き。その猛者たちとの戦いを、な」
なるほど、ポジショニングとかの話か。
と、なると……。
チラッと、キリエと姉貴を見る。
「ん、そういう事になるであろう」
「了解した。その時は合わせよう」
頷いたと同時に扉が開き、T&Hの皆を引き連れたレヴィとシュテルが帰って来た。
「うむ、よくぞたどり着いた」
「ようこそ、いらっしゃいました~」
T&H組の反応は上々だ。
そりゃそうだろう。ささやか……とは言えないと思うが、この料理の数々。主にキングスだけで準備した訳だが、誰が見ても驚く。
「これ、ディアーチェちゃんがっ?」
「皆の手を借りてだがな。急だった故、あまり豪華な物は準備できなかったが許せ」
「そんなことないよっ! 凄く綺麗で、美味しそうでっ……ありがとう」
なのはちゃんが食い気味に否定してくれた。
まあ、研究所のパーティーはこの非じゃないので、確かにキングス基準では豪華ではないが……そりゃ、十分以上だ。
凝り性が進むと、終わりがないな。
「む……ならよい」
「楽しんで頂けたら、嬉しいです~」
うん、ユーリの方が嬉しそうだ。
「しっかし、本当に美味しそうよね」
アリサちゃんの呟きの横で、アリシアが唾を飲んでいる。
皆、限界だろう。
「料理も冷めちゃ可哀想だし、頂こうか? 博士、挨拶をお願いします」
「了解したっ。それでは皆、手を合わせまして」
ぱんっ。と、それぞれが手を合わせる。
『いただきます!!』
「いただきま~す」
博士、遅れてます。
和気藹々と夕食パーティーが始まった。
そんな中、俺は何となく少し離れた位置で皆を眺める。
博士が望んでいた、ブレイブデュエルがもたらしてくれた光景が、ここにあった。
夢は叶うもんだと、一人、喜びを噛み締めてしまっている俺がいる。
この想いは、誰かと共有する方が良いのかも知れないが、言わずとも皆は理解しているだろう。
「どうかしましたか、真紅?」
傍観している俺に気が付いたのか、シュテルが近づいて来てくれた。
「いや、楽しいなと……しみじみ」
「なるほど、日本の侘び寂びですか」
少し違うと思うが、まあ、そうか。
「そんな所だ」
「てっきり、誰も寄って来ないと寂しかったとか思って、私が来たのですが」
おっと、いらぬ気遣いをさせてしまった。
ただ、多少はあったかも知れない。T&Hメンツが食べさせ合いをしてるのを見て、ふと思う。
「なら、シュテルに感謝しないとな。はい、あーん」
食べやすいサイズに切られたマツザカ肉を箸で持ち上げ、シュテルの口元へ。
「えぇ、ふ、ふむ。これは役得ですね……頂きます」
「あぁっ、そこの二人! ずるいっ!」
レヴィの大声に少しビクッとしたが、何とか色々と落とさずに済んだ。
というか、なんでこういう時だけアイツは一番初めに気づくんだ、毎度毎回。
「はい、ボクにも」
そして、この催促だ。
「分かった分かった。肉で良いかって、肉しかないが。ほい」
味の好みの問題で、基本的に肉しか取ってない。
「あーん……うん、ありがとう!」
「で、並んでいるのは、全員これを所望か」
ユーリ、姉貴、キリエ、アリシアが並んでいた。
『もちろんです / もちろ~ん』
キリエ以外は純粋な気持ちだろうが、アイツはきっとからかいに来たな。
「まあ、いいけどな」
とりあえず、キリエを飛ばして、順番に一口づつあげる。
「嫌がらせかしらん?」
「絶対にからかいに来たと思って」
「そんなことは、まああるけど……なんなら、口──っ!?」
まるで光の速度が如く、姉貴に口を塞がれていた。
本当にキリエは油断も隙もない。
姉貴の行動が迅速だったお陰で、およそ皆には分かられずに済んだ。
「そ、そう言えば、いつもの場所じゃなかったわ……」
きっちりと反省はしたみたいなので、肉を差し出した。
「え?」
「ほら。また危ない事を言い始める前に餌付けしておく」
「ひっど。でも頂くわ……あーん」
しっかりとキリエの口に入ったので、箸を離す。
「美味しいだろう」
「うん。これって何のお肉? 王様の味付けはいつも通り美味しいけど、それだけじゃないって言うか」
「マツザカだ」
『マツザカっ!?』
知らなかった全員が驚いている。
そして、それぞれが美味しさに改めて納得がいったのか、じーっと肉のプレート見ていた。
「まあ、お祝いだからな。多少の奮発なら良いかなって」
元手はある意味でキングスなので、俺は得をしただけなんだが。
「ふ~ん。確かにアリだけど、先輩の自腹?」
「まさか。軍資金から出したからな……出所秘密の」
「……皆が喜んでくれるなら、それでも良いんじゃないかしら。後で追及するけど」
いらぬ事を喋ってしまったかもしれん。
「あ、そうだ。皆、今日のデュエルはどうだった?」
とりあえず、キリエから逃げる為に、エレメンツに近づいて話を振る。
「そうですねー、色々と経験が出来て、絶対に強くなれたと思いますっ……あ、そうだ」
なのはちゃんは、俺に一礼してから博士の元へ。
本当に、律儀な子だ。
「あの、グランツ博士」
「ん? なんだい」
食べる手を止めて、話を訊くモードになる博士。
「さっきの部屋、特訓に使ってくれてもいいってお話しなんですけど」
「ああ、もちろん構わないよ!」
そんな話をしていたのか。
なるほど、色々と合致した。
「えーと、その……」
「なんなら、そこの二人にコーチして貰えばいいのではないか?」
「それは名案だねっ!」
『えぇっ!?』
急にコーチの話を振られて、驚くキリエと姉貴。
「デュエルの相手ならともかく、わ、私たちが教えるだなんて……」
「そ、そーよぉ。それならもっと得意そうな人が。ほらっ、その横に」
やっぱり矛先を俺に向けて来たか。
「俺はあまりにもタイプが違うからな、それこそ、デュエルの相手は出来るが、ある意味で教えるのには向いてない。それなら、姉貴とキリエの方が、武器的にも基礎から教えれるから良いと思うぞ」
嘘は言っていない。
俺はガチガチの近接武器なので、ある程度では参考になるが、それ以外は逆効果だ。
武器のリーチと射撃の範囲も違うし、ポジションも全く別。
必然と反論が出来ないだろう。
……二人から物凄く視線を感じるが、話は終わりと、肉に手を伸ばしておく。
改めて、これからが楽しみになりそうだな。
◆ ◆ ◆
それから、エレメンツ五人からの本気の圧力と、マテリアルズの支援によって、二人は折れた。
元々、面倒見は良い姉貴とキリエなので、コーチする人物としてはベストだ。
マテリアルズになると、これまたポジションが確立され、チーム単位での動きも決まっている。
ここまでの練度に至れば、そもそもこちらから教える事はない訳だし。
「ふぅ」
自室にあるエンタークンと向き合うのをやめ、身体を伸ばす。
今日はなのはちゃんたちが泊っていくとの事で、まだまだ女子会の真っ最中だろう。
と思い、時計を見ると、時刻は既に12時を回っていた。
流石に、もう就寝しているか。
「なんだかんだ、健康的な人間ばっかりだしな」
風呂に行く道具を揃えて、部屋の外に。そして、風呂場に向かう。
風呂場は、留学生四人が来ると同時に改装がなされ、今は正に大浴場となっている。
研究所内の圧倒的女子率により、俺は一人で入るので無駄に広い。
一度だけ泳いでみたが、あまりに泳げるのでそれっきりだ。
使用中のプレートが無い事を確認し、脱衣所へ。
男の着替えは早いので、タオルだけ腰に巻いて浴場に……あれ、なんで電気が付いているんだ?
ドアを開けると、すぐ目の前に、見覚えのあるピンクの髪が見える。
あれは、確か、そう。キリエの髪色……。
「って、なんでキリエが!?」
タオルをしっかりと巻いたキリエがそこにいた。
「ぷっ、驚いてる驚いてる」
「驚くには驚くが、使用中のプレートなかったが……あれ、俺が間違えてないよな」
「うん、そうよ」
驚いていると、背後でカチリという、何かの締まる音が。
「おい、何をしている」
「まぁまぁ、一緒に入りましょう」
えーと、なんだこれ。何かのドッキリか。
いや、そうに違いない。
「さて……と」
そして気が付くと、一緒に浴槽に。いつの間にか、手を引かれて入れられたらしい。
まずい、思ったより心にダメージが。早く出よう。
「って、何で腕を組む!?」
思わず視線を左に逸らし、右腕を犠牲に身体だけは離す。
絶対に、ワザと胸の間に挟まる様に掴んでやがる。
「お返し的な? それに、話もあるって言ったでしょ、先輩」
「た、確かに聞いてはいたが、今じゃなくても良いだろ」
「今しかないのよん。あえて先輩に話をするなら」
すすっと近づいて来たので、とりあえず一回諦める。
多分、ある程度は真面目な話なんだろう。
「で、こっち向いてくれない?」
「向く訳ないだろう。頼むから、一回離してくれ」
出来る限り力を込めて離そうとして、色々考えた結果、微動だに出来なかった。
既に当たっている分はノーカウント? として、暴れた末にタオルがはだけたらヤバイからだ。
「ふふっ、先輩可愛い」
「マジで余裕がない。頼む」
「もう、仕方がないわね」
そう言って、右腕は解放されたが、右手は解放されなかった。
しっかりと、キリエの左手と繋がっている。
「はぁ……何が目的だ。話はなんだ」
抵抗は無駄になりそうなので、とりあえず目的と話を訊こう。
それが終われば、帰れるはずだ。
「うーんと、大切な話は特にないんだけど、色々と質問があるというか」
大切な話がないのに、ここまでしないだろう。
言い難い話なのか、それとも本気でただコレがしたかっただけか。
くそう、分かりにくい人間はこれだから。
「先輩ってば、モテるじゃない?」
……よりによってそっち系の話か。
「そうだな……それなりに恵まれていると思うが」
「まあ、私もモテる方ではあるけど、女子高だし……って、それはいいんだけど。彼女とか作らないのかしら?」
また、面倒な話を持ってきたな。
「えーと、キリエにはある程度だけ話をしたと思うが……柊家の伝統的な物を」
「うん。家訓とか色々よね?」
「そう、それだ。女子の肌見れば、責任取るべし。とか、本当、無駄に項目があってだな……」
多いので割愛して教えたのだが、それとは別に特殊な決まり事もある。
「家訓ではないのだが、ある意味ではそうとも言える一つが……特に言って無かったが、俺は許嫁としか結婚、出来ないんだ」
「へ? 許嫁?」
ああ、そういう反応になるよな。
◆ ◆ ◆
「そう、許嫁。あくまで、家のルールであって、正直な所は守らなくても良いんだが……守らないにしろ、理由もないってのは良くないと思ってな。だから、彼女を作るのは、そうなった時だろうな」
苦笑いをしながら、先輩が天井を見上げている。
「いやいや、待って。先輩って許嫁いたの?」
本当に苦笑いしていのは、こちらの方だ。
「ああ、それも特に言っていなかったが」
こ、この男。秘密主義だなと思ってはいたけど、まさかそこまで……。
エマージェンシー、デンジャー、アウト。E・D・Aじゃない。
一度、深呼吸して、状況を見極める。
女子会にて、恋バナで盛り上がって、その辺りから気になってしまい、私はここで先輩を待っていた。
その仮定で一応リサーチしてみようと試みて、結果、許嫁がいる……と。
「ん、どうした?」
えーと、私一人で解決できる話題じゃなくなってしまった。
しかし、私がある程度だけでも情報を仕入れないと、これは事件に発展するわよね。
「そ、その許嫁さんって、どんな子なの?」
「いや、会った事はないぞ」
会った事がない?
「許嫁よね?」
「許嫁ではあるが、その辺りはまだ決定していなくてな。大事な跡取りの嫁になる人間を、一つの家から決める訳にも行かないって事で、立候補制らしい」
な、なんて面倒な家なのよ。
今時じゃないとは思っていたけど、本当に意味が分からない。
「決まる時期はいつ?」
「さぁ? 早ければ、今年の夏休みぐらいじゃないか? どちらにしろ、家から連絡が入るし、長期休暇じゃないと会えないからな」
つまり、あと二ヶ月以内って事ね。
「それで決定しちゃうの?」
「いや、相手には申し訳ないが、基本的に断ると思う」
基本的、ねぇ。
「相手の女の子が、相当可愛かったりすれば?」
「現金な話になるが、そういう事もあり得るかも知れん。まあ、あり得ないだろうが」
そうよね、先輩はこういう人だ。
少なくとも、中身を見ずに判断はしない。
だからこそ、会ってしまうのが一番怖いはず。
無駄な優しさを発揮して、そのまま決定しちゃう可能性。そうなると、私に止める術がない。
で、あれば……私がしないといけない事は。
「ふーん。もう既に、一女性とこんな関係にあるのに?」
掴んでいた右手を、右腕へと移行する。先輩に対して効果があるので、多少の恥ずかしさを押し殺して。
「こ、こんな関係って言われても、俺は少なくとも望んでないぞ」
やはり照れる先輩。
これだけ見ると──「ああ、本当に好きなんだ、私」と改めて実感がある。
けど、今はもうそんな悠長な話では駄目。
いくら何でも、許嫁という反則カードは切らしては行けない。
なら、覚悟は足りていなくても、実力行使に移るべき……でも、それだけは先輩に止められるはず。
そういう所で、発揮できる優しさを持っている……いや、待って。そうなれば、逆にその可能性が。
「でも実際、許嫁がいたとして、この関係はどう説明するのよ」
抜け駆けという文字が頭に浮かんだので、違う責め方をしてみる。
こんなに頭を使うのは、本当に久々っていう位に、アイデアを止めちゃいけない。
絶対に、そんなものを成立させたりしないんだから。
「…………確かに、そうなんだが。あー、んー」
先輩は、急に歯切れが悪くなっている。
これは、自分でも思う事があるのか、葛藤しているのね、きっと。
なら、ガンガン詰め寄って、選択肢という道を無くしてしまえば。
「じゃあ、先──」
「キリエと、こういう関係であるのが、嫌じゃないんだ。むしろ、そこは好きと言っても良いな」
言葉の途中で、カウンターパンチを頂いてしまう。
なんて、冷静に分析は出来るけど、とりあえず顔を背けた。
間違いなく、私の顔が真っ赤になっているからだ。
もちろん、その好きの意味じゃないのだけれど、これは痛いわね。
「だから……」
「だから?」
「もし彼女がいてくれるなら……俺はキリエが良いなと、素直に思うが」
…………へ?
「え、えぇ、えーと?」
今、先輩はなんて言った?
「はぁ、そうだな、逃げていた代償か…………キリエ・フローリアンさん」
「は、はいっ!?」
真っ直ぐに向き合われ、名前をフルネームで呼ばれ、思わず正座してしまう。
大きく息を吸い、目を閉じる先輩。
その状態から少し時間が経ち、そして──
「可能であれば、俺の彼女のフリをして下さい」
「はい!!」
……ん? フリ?
「本当かっ、助かる」
思わず、返事をしてしまったけど、フリって事は、フリよね。
「元々、断る口実に協力して貰おうと思っていたんだが、本当に助かる」
「え、えぇ、いいわよん」
良くない。良くないわよ、私。
そ、そりゃ色々と勘違いしたけど、そうよね、この先輩がそんな人間じゃないわ。
鈍感的な何かを失っても、人間性は変わらず。
むしろ、ある意味で悪化していると言っても過言ではない。
なら、このお願いは最もであって、勘違いした私は……相当、恥ずかしい人間だった。
「そうと決まれば、心構えも大丈夫だな。で、キリエの話は終わりか?」
むぅ。なんか手玉にされている気分。少し。いや、かなりムカつく。
前向きに考えれば、一歩前進なんだけど。
ある意味で私と先輩の関係においては、後退したかも……よね。
「キリエ?」
ほんと、これからどーしましょ。
許嫁というカードに対しては、回答を得たんだけど、根本的な解決には至ってないし。
皆がいる手前、一人で進んでも意味がない。
日本は一夫多妻じゃないから、そこの問題もある。プラス、先輩の家がとても面倒。
前者はどうにでもなるとはいえ、果たして後者がどうなのか。
「……話がないなら、身体とか洗って出るぞ?」
実際に会った事がないから、正直、そこを考えるだけ今は無駄なのかしら。
けど、会ってみてその時点で対策を考える方が、無謀よね。
皆に知恵を借りるのは当然として……その先が一番重要。私たちが、どうしたいのか。先輩が、どうなるのか。
「あぁ、もう!! めんどくさい……って、あれ、先輩がいない」
考え事をしている内に、そそくさと出て行ったらしい。
私も、そろそろ上がりましょうか。
とりあえず、先輩の部屋に行って、後半戦ね。
◆ ◆ ◆
「焦ったが、キリエが固まってくれて助かったな」
結果、何事も無かったので、問題はない……はず。
しいて言えば、今だ胸の動悸が収まっていない所か。
部屋に戻り、ベッドに入って天井を見上げているが、収まる気配はない。
身体的には決して悪くはないのだが、心臓には悪そうだ。
にしても、どうしてキリエがあんな行動を取ったか分からない。
風呂場で待機して、それだけを聞きたかったのか。それとも、他の要件もあったのか。
まあ、また話す機会で、解決できるだろう。
目を瞑り、布団を頭まで被って、睡眠へと意識を持っていく。
「っ」
ガチャ──っと、ドアの開く音がして、布団を除ける。
「先輩」
そこには、またキリエがいた。
「な、なんだ。俺の就寝を邪魔しに来たのか?」
未だ胸の動悸は収まっていない。
今日はこれ以上、キリエと会わないと安心したとたん、これだ。
「そうとも言えるわね……じゃ、お邪魔します」
「おい」
キリエは、まるで自分のベッドの様に、何の躊躇いもなく寝転がって来た。
そして、布団を奪われる。
「床で寝ろと」
「ううん。一緒に寝ましょう」
「……何故」
「私がそうしたいの。それとも、一緒に寝る価値もないのかしら?」
そう問われると、難しい問題だ。
男女が同じベッド。それも一つのベッドで寝る事に関しては、特に問題はない。
それに、キリエたちと一緒に寝た事は何回もあるし。
ただ、それ以降の事態に発展する可能性がある。
これが、近しい歳……じゃなくてもアレだが、近しいなら既に問題だろう。
「はぁ……分かった。話の続きか?」
キリエに背を向けて、壁を向いて寝転がる。
わざわざ、今になってこんな手段を取るなら、大事な話があるのだろう。
むしろ、その話をする為に、風呂場で待っていたはずだ。
「そうとも言うけど、そうじゃないと言うか……」
あれ、違うのか。
「とりあえず、先輩と一緒に居たかっただけよ?」
そう言って、キリエは俺に近づいて来た。
また、動悸が一段階上がる。
本当に、今日のキリエは何がしたいんだ。
そうか、俺の事が、からかい足りないのか。
良い根性だ、全く。
「分かった、とりあえず寝よう」
多分、逃げても追いかけて来そうだ。
ここは、素直に諦めて、就寝してしまおう。
「うん、ありがと」
色々と気になるが、訊いても教えてはくれないだろうし、起きた後で話をすればいい。
何せ、考えるのが億劫になるほど、既に眠気は限界だ。
キリエも朝早く起きて、一日中行動していたし、言っている間に眠りに就く。
「おやすみ、キリエ」
「……」
もう既に、キリエは眠っていた。