魔法少女リリカルなのはINNOCENT-crimson the bellwether-   作:聖@ひじりん

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episode8

「それじゃ、今から俺が相手になるよ」

 

 フェイトから説明を受け、フェイトを休憩させる為に役を請け負った。

 

「「お願いします」」

 

 ショップが行っていたのは、"目指せ上位デュエリスト"という見出しで、中位デュエリストを対象としたイベントだ。

 

 対象者の目安は、あんまりランク付けするのは好きじゃないが、初めて一週間ぐらいのデュエリストを指す。

 

 同じ日数くらいの、なのはやアリサ、すずかの三人はもちろん例外で上位デュエリストだが、それでも上位の下。フェイトで上位の中なので、まだ人に指南は難しいのだろう。

 

 それができていれば、フェイトと一緒にイベントに協力できたはずだしな。

 

「それじゃ、まずは軽く一試合。反省会を行ったのち、二戦目に移る。順番待ちがあるから、全体の制限時間は三十分。短いけど、教えられる事は教えたいと思う。始める前に、質問はあるかな?」

 

 黒髪ロングの子と、赤髪セミロングの子にそれぞれ視線を向ける。

 

「あ、あの。クリムゾン・ザ・ベルウェザーさんですよね? なんて、お呼すれば?」

 

 緊張しているのか、赤髪の子が硬い動作で手を挙げた。

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったね。俺はクリムゾン・ザ・ベルウェザー、普通に真紅でいいよ。所属はグランツ研究所だけど、今日は友だちの協力に来た。改めてよろしく」

 

 簡単に自己紹介を行い、軽く頭を下げる。

 

「あ、私は聖祥大学付属中学校の城島奏です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「奏と同じ学年、クラスの三倉涼子って言います。よろしくお願いします」

 

 ということは、二人は皆の先輩に当たるのか……フェイトには教わりにくそうだな。フェイトもフェイトで同じ気がするが。

 

 ただ、T&Hがホームなら、ほとんど聖祥学校のはずだ。フェイトが何組に教えたか分からないけど、性格的にちょっと負担があったかも知れないし、後でフォローしておこう。

 

「フィールドはこのまま上空。ライフが無くなったら終了の、通常デュエルを行う。俺を倒すつもりで、全力で来てくれ」

 

「「はい!!」」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 五分後、一切の油断なく二人を落とした俺は、動きについて教える為に赤髪の城島さんに向いた。

 

「まずは城島さんからだ」

 

「は、はい」

 

 まず、選択肢を与えてみて、城島さんの性格を少しでも理解してあげないとな。

 

「良い所と、悪い所。どっちからがいいかな?」

 

「悪い所からで」

 

 先に悪い所って事は、落ち込んでからの気持ちのアップを図っている……か。なら、悪い所は簡潔に済ませよう。

 

「あ、そうだ。これは二人共に言えるけど、まずは経験不足。自分のアバターと武器の利点を把握できていない。この点は、段々と理解できるようになると思うから、今は気にしないで良いけど、少しは意識してくれ」

 

 これを教えておくだけで、自身の攻撃範囲を把握して動けるようになるからな。レヴィに至っては勘で理解……といっていいか分からないが、説明はできずともしっかりと把握はしているのがなんとも恐ろしい。

 

「それじゃ、悪い所から……フェンサータイプの前衛として思い切りが悪いから、攻撃へのテンポがかなり遅れている。これだと、チャンスを活かし難いから、まずは思い切って切り込んでみよう。次に良い所……反応速度、しっかりと相手の動きを見れている、の二点かな。つまり、チャンスを伺いながら、その反応速度を持ってして対応ができる。思い切りの悪さを治せば、直ぐに強くなったと実感できると思うよ」

 

 さっきは、その悩んでいる一瞬の隙を突いて落したからなあ……城島さんも、それを理解しているはずだし、この言葉で大丈夫だろう。

 

「わ、分かりました。とりあえず突っ込んでみます」

 

「それでよし。次は三倉さん」

 

 城島さんがぐっと両手を握りしめたのを見て、黒髪の三倉さんに身体を向ける。

 

「良い方からお願いします」

 

「三倉さんはライトニングタイプだけど、速度に頼りっきりじゃなくて、しっかりと危機管理できている。先ほどいった攻撃範囲の把握はもちろん、スキルを強くしていけば、自然と強くなるよ。悪い所は、逆に速度を活かしきれていない。つまり、速度を重視して動いてないから、ライトニングタイプの利点を少し弱めてしまっている。三倉さんは少しだけリスクを取って、速度で攻めてみるといい動きができると思う」

 

「凄いですね……やっばり、ダークマテリアルズの真の司令塔は伊達じゃないって事ですか?」

 

「うんうん。指摘が的確で、素直に驚くよね」

 

「んー、どうだろう。元々武術をやっていて、そこのアドバンテージがある位だからな」

 

 研究、ロケテ時代を経験していて、人よりも経験値が圧倒的に高いってのもあるが……これは秘密の話だしな。

 

 ただし、訊かれたら答えるんだが。

 

「「なるほど」」

 

 この二人、仲がいいな。いずれ、ペア大会とか行われるようになった時、いいライバルになりそうだ。

 

「さて、雑談はこれぐらいにして……反省点を踏まえてもう一戦やろうか」

 

「「はい!!」」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 それから、休憩から戻ったフェイトと交代したり、一緒に教えたりと色々している内に、閉店の音楽が流れ始めた。

 

「ああ、もうこんな時間か。今日はここまでだな」

 

 教える人がいなくなった為にフェイトと模擬戦をしていた腕を止めて、終了の意を伝える。

 

「う、うん。今日は……楽しかったけど、ちょっと疲れたかな」

 

 その言葉と共に、フェイトは大きく息を吐いている。長時間のブレイブデュエルは、フェイトと言え、流石に疲れたのだろう。

 

「お疲れ様。とりあえず、ブレイブデュエルを終了しよう」

 

「了解」

 

 モニターを操作し、手早くゲームを終了した俺は、まず自動販売機に走る。

 

 そして、スポーツドリンクペットを二本購入してから、フェイトと合流した。 

 

「はい」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

 疲れた後は、やっぱりスボーツドリンクに限る……訳でもないが、何となく身体に効いている気がする。

 

「おーい」

 

 一本を飲み干した所で、手を振りながら近づいてくるアリシアを発見した。

 

「お疲れ様っ、二人とも」

 

「ああ、アリシアもな」

 

「ありがとう、アリシア」

 

 そういえば、今日本来の目的はアリシアだったんだが……一度も姿が見えなかったのは、プレシアさんの陰謀だろうか。

 

「今日はずっとお客さんの相手をしてたから、ちょっと疲れたよ~。お兄さん、癒して」

 

 プレシアさんの陰謀ではなかったらしい。だた、普通に忙しかった様だ。

 

「癒やすってなんだよ……」

 

 アリシアの無茶ぶりに、ため息が出た。 

 

「ほら、こう。お兄さんのミラクルパワーで、心身の疲れを吹き飛ばすような?」

 

「ミラクルは奇跡の意味だから、その時点で無理だな。俺に奇跡を起こせる力は、多分無い」

 

 あったらいいなとは思うが、起こせるならそもそも奇跡とも言えないよな。

 

「そこをほら、なんとか」

 

 アリシアの笑顔に──「果たして、お主に出来るか?」と書いてある気がした。

 

 …………よし、やってやろう。

 

「なら、このままエスコートだ。お姫様」

 

「え? わわっ」

 

 素早くアリシアの背中とひかがみに手を回し、そのまま抱きかかえる。いわゆる、お姫様だっこの状態だ。

 

 ユーリ以外を抱えたのは初めてだったが、アリシアも見た目通りに軽い。いや、それ以上に軽いかも知れない。

 

「ちゃんと食べているのか? 軽すぎるぞ」

 

 少し心配になり、素直に指摘した。

 

「むむっ。私に対して軽すぎるは失礼だよ。しっかりと毎日三食、それにおやつも食べてるよ。どうしてか、私より食べてないフェイトの方が成長してるけど……」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

 珍しくフェイトが大きな声をあげ、顔は真っ赤に染まっており、若干涙目になっている。

 

 異性の前を問わず、フェイトの性格からして恥ずかしかったのだろう。

 

「成長しているのは悪い事じゃない。それに、アリシアが小さすぎるだけだ」

 

 ついつい姉妹で比較してしまうが、フェイトは特別、身長が高いわけじゃないからな。

 

「そうなんだよねぇ……大人になってもこの身長だったら、苦労しそうだし」

 

「まだ成長期があるだろうし、大丈夫だとは思うが?」

 

 もっとも、それでもフェイトの方が高くなりそうだ。

 

「そう信じたい心と、これならいっそ小さい方がいいなって思う心があるかな」

 

 アリシアは、中途半端な身長が嫌なのだろう。

 

「なるほど。複雑な乙女心か」

 

「そうとも言う」

 

「いや、言わないと思うんだけど……」

 

 フェイトの呟いたツッコミが、中々に的確だった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 それから、無事に二人を店長ズの元に送り届け、店を後にして俺は研究所に帰宅した。

 

「ただいまー」

 

 とはいえ、時刻は既に二十二時を越えて真夜中に近かったので、リビングには誰も居ない。

 

「返事がないのは、それなりに寂しく思うな」

 

 なんて呟いてみるが、そもそも今の時間で起きているのは、キリエと姉貴ぐらいだろう。

 

 中学生以下四人は、驚くほどに健康的だ。何かがない限り、ほぼ定時には寝ているんじゃないだろうか。

 

 博士は場合によって起きているが、昼夜逆転を何回も繰り返しているし、カウントしないでおく。

 

「あ……」

 

 ぎゅるると、割りと盛大な腹の虫が鳴り、ご飯を食べていない事に気がつく。

 

 何か食べて帰るつもりでキングスにメールしたのだが、思ったよりイベントデュエルが忙しく、熱中していたから完全に忘れていた。

 

 とりあえず、冷蔵庫を開けてみる。

 

「本当に、キングスは凄いな」

 

 しっかりと俺の晩御飯が用意されていた。

 

 俺はラップを剥がし、ハンバーグと野菜スープを取り出して、レンジで温める。

 

『どうせ食べておらぬと思い、用意しておいた。億が一、食べて帰って来たのなら捨てても構わぬ。後、そろそろホームで遊ばんと、シュテルが怒ると言っていたからな。明日は、我が槍の練磨に付き合ってやれ』

 

 晩御飯の上に乗っていた紙に書かれていた内容が、本当にキングスらしい。

 

「それじゃ、明日は新技の披露も兼ねて……キングスも一緒に巻き込んでやるか」

 

 シュテルが怒るのは恐ろしいが、キングスを除け者にするのも恐ろしいからな。

 

「さて、まずはしっかり栄養補給と睡眠だ」

 

 明日の予定を決めたタイミングで、レンジが温め終了の電子音を響かせた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 日曜日、六時に起床した俺は軽い運動で汗を流して、風呂に入ってからリビングに向かった。

 

「おはよう」

 

『おはようっ!! / おはようございますっ / おはようございます / うむ』

 

 まだ七時過ぎだというのに、キリエ以外がリビングに集合している。それも、テレビ前に全員集合だ。

 

 もっとも、それが研究所家族の日曜日な訳だが。

 

「今日は……宿敵との戦い、後編だったな」

 

 皆大好き、特撮の時間だ。

 

 四人が来てから姉貴と俺を巻き込んで特撮好きが流行り、その結果でリビングが改装され、ご飯を食べる席とテレビを見るソファがおける広さになった。

 

 ソファは特注で、六角形を半分にした様な形状になっている。

 

 この時間だけは席が決まっていて、左から、キングス、シュテル、ユーリ、姉貴、レヴィ、俺、キリエの順だ。

 

 真ん中の人選の理由は言わずもがなで、端の人選は至って簡単。

 

 朝食の準備などで、立つ回数の多いキングスが一番端。キリエは、一時間後ぐらいにやってくる為に一番端になる。

 

 俺とシュテルに至っては消去方だが、特撮への興味度が出ているのかも知れない。

 

「この前はいい所で終わりましたから。最初からクライマックスですね!!」

 

「ですっ!! どんな戦いが待っているか、凄く楽しみです」

 

「とある説によると、新必殺技が出るとかなんとか……ごくり」

 

「ますます、楽しみですね」

 

「わくわくしてきました」

 

 とまあ、三人の温度がこれな訳だ。

 

 俺も決して嫌いではないが、三人ほど好きじゃない。いや、熱くはない。

 

 シュテルもそんな感じだし、キングスに至っては生暖かい眼差しでキッチンからこの空間を見守っている。

 

 もっとも、始まるまで後一時間はあるのだが。

 

 さてと、俺は俺でやれる事をやっておくか。

 

 一旦部屋に戻って宿題を終わらせ、時間を確認してからキリエの部屋に向かう。

 

「まだ寝ているみたいだな」

 

 ドアを二回ノックしたが、反応なし。ドアノブに手を掛けて、部屋に入る。

 

「そろそろ、八時になるぞ。起きろ、キリエ」

 

 そして、ベッドに近づいてキリエを起こす。

 

 キリエは、朝が弱いわけではない。むしろ、早起きは得意な部類だろう。

 

 ただ、そんなキリエも日曜日だけは苦手らしい。なんでも、気分的に身体が眠たいのだとか。言っている意味は何となく理解できる。

 

「ん……もうそんな時間、なのね~」

 

「いつもより眠そうだな。夜更かしか?」

 

「うん。桃と電話を……でも、起きなきゃ」

 

 そう言ってキリエは上半身を起こし、大きく伸びをする。それに合わせて、俺はサッと目を逸らす。

 

「ガン見しても引かないわよ?」

 

「目の毒だからな」

 

「酷い」

 

 キリエほどスタイルが良いと、どうあがいたって胸が強調されてしまう。

 

 男として、強調された胸に視線が行くのは……当然でもないのだが、今の俺だと意識してしまうはずだ。

 

 だから、それを分かった上でやったキリエを信頼し、俺は直ぐに目を背けた訳で……本当に、正解で良かった。

 

「酷いのはキリエの方だろう。もう少し、淑女らしくしてくれ」

 

「別に、身体を伸ばすぐらい、淑女でもやってるわよ?」

 

 首を傾げながら、キリエは悪い笑みを浮かべている。

 

「そんなに、俺がおかしいか」

 

「うん、とっても」

 

 今度は笑いを隠す気もないらしい。ふふふ、と楽しそうに笑っていた。

 

「前までの先輩なら、開いている胸元のボタンを何食わぬ顔で締めてたでしょ」

 

 そう、だから余計に意識してしまうというのに……あの頃の俺を恨みたい。

 

「はあ……もし仮に、その勢いで手を出してしまったらどうする」

 

「手が出ちゃうの?」

 

 ベッドから出て、キリエはクローゼットに伸ばした手を止めて振り向いた。

 

「……出ないが」

 

「知ってる」

 

 笑顔でキリエは言い切って、クローゼットを開ける。

 

「む」

 

 全く、これだから女の子の笑顔というものは……。

 

「あららん? 着替えを手伝ってくれるのかしら」

 

「いや、直ぐに出るさ」

 

 ただ、やられっぱなしは悔しいか。

 

「キリエ」

 

 俺はドアを開けてから振り向き──

 

「寝顔、今日も可愛かったからな」

 

 そして、部屋から出た。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……ぅ」

 

 キリエは、真紅が出て行ったドアを見ながら、フリーズしていた。

 

 その顔は真っ赤に染まり、手に持っていた着替えは、もう床に落としている。

 

 笑顔が絵になる……一般的には女の子に使われる言葉。キリエはそう思っていたのだ。

 

 ただ、時として、男にもそれが当てはまると、今しがた理解させられた。

 

(ふ、不覚だったわ……)

 

 ドキドキしているのは、誰の物でもなく、キリエ自身の心だ。

 

 それが何を意味するのか、恋愛に対して興味のなかったキリエでも、理解していた──

 

「私、先輩が……ちょ、ちょっと待ちなさい。もう少し考えなおすのよ、キリエ」

 

 いや、理解してしまいそうになっていた。

 

「私と先輩は、色々な偶然から知り合った、言わば友達。家族だし」

 

 真紅がエルトリア女学院に来た一件の後、キリエがうんざりする程、その手の相談があった。

 

 その時に伝えた言葉を思い出し、キリエは落ち着こうと試みる。

 

「だから、先輩の事が、す……っ」

 

 しかし、言葉は出なかった。

 

 言葉を口に出した瞬間から、そうなってしまうと分かったからだ。

 

 だとしても、この現状を打破する術を、キリエは持っていない。

 

「落ち着くのよ、私。そう、先輩との出会いからを思い出せば…………」

 

 キリエは必死に頭を空っぽにして、真紅との思い出を振り返る。

 

 ただ、それは逆効果だった。

 

「いやいや、あり得ないから。私が先輩をスゥキィだなんて」

 

 認める事が出来ない訳じゃなく、今までの思い出が全て美化され、恋心からの行動だったと記憶し直すのが嫌だったのだ。

 

「嘘、でしょ? ……私」

 

 その問いかけに答えれる者は、この世に一人。キリエ除いて、誰もいやしない。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「今日はいつにもまして強いな……シュテルは」

 

 キングスからの指示通り、特撮タイムが終わってから、シュテルとのブレイブデュエルに身を投じていた。

 

 今はその初戦で、市街地フィールドにて一対一を行っている。

 

『隠れていても、戦況は揺らぎませんよ』

 

 フィールド全体にシュテルの声が響き、隠れている場所が見つかったと思い、少しだけ驚いたが、これはシュテルの作戦だと冷静に判断する。

 

 焦らして、出てきた所を撃つ……か。

 

 中々に的確な作戦だ。

 

 戦況は、俺の慢心により、圧倒的にこちらが不利になっていた。

 

 最後にシュテルと戦ってからしばらく経っており、実力の見極めを失敗。そして、案の定、痛手を貰ってしまい、俺のライフは半分を切っている。

 

「驚かすつもりが、驚かされた……色々と見直さないとな」 

 

 その事を頭の隅に追いやり、俺は全力で勝てるプランを考える。

 

『来ないというのなら、こちらから行かせて頂きます』

 

 シュテルの声が聞こえたと同時に、遠くで轟音が鳴った。

 

 恐らく、ビルが破壊されたのだろう。

 

 ただ、それも作戦の内のはずだ。

 

 シュテルの魔力量は、決して多い方ではない。だからこそ、どれだけ魔力消費を抑えるかを徹底的に考え、鍛えているのがシュテルのスタイル。

 

 そのシュテルが理由もなしに動くはずはない。そして、俺に考えが読まれている上で、動いた理由は……。

 

「考えろ。思考を止めるな。読んだ上で、もう一段階読んだ上で…………そうか!!」 

 

 俺は直ぐにビルから飛び出して、空に駆けながら、一つのスキルを読み込んだ。

 

「スキルロード!!」

 

【グラビティ・インフェルノッ!!】

 

 シュテルを目視した瞬間、そちらに大魔法を放つ。

 

 黒い球体と、紫炎の矢がぶつかり、その閃光を腕で軽減する。

 

「流石です」

 

 閃光が収まり、初めに捉えたのはシュテルの微笑みだった。

 

「ああ、一歩遅かったら、やられていた」

 

 シュテルの作戦の目的は、俺に考えさせ、あの場所で留まらせる事。最初から、シュテルは俺の位置に気がついていたんだ。

 

 その上で、俺を確実に落とす方法として、いきなり砲撃を撃ちこむのではなく、牽制として適当に一発を放った。

 

 そして、無駄と思える行動に対して、俺が思考を初めて足が止まると読んで、二度目のチャージを開始。

 

 もし俺が動かなければ、そのまま砲撃を撃ち込んで、のこのこ出てきた所を撃つ。急な砲撃に対して回避に専念し終えた所に、次の砲撃を合わせるだけでいい。

 

 ある意味で、俺の最初の予想が正解していた訳だ。

 

「折角、どびきりの作戦を用意したと思ったのですが」

 

「予想外は、俺のスキルだな?」

 

「ええ。まさか、砲撃を二回も迎撃する程、高威力だと思ってませんでした」

 

 そう、俺が落ちなかった理由はただそれだけ。

 

 シュテルの砲撃は、三段構えだった。

 

「一で足を止め、二で揺さぶり、三で落とす。かの剣豪をリスペクトした攻撃を、力技で対処されるとは……」

 

 俺のライフは半分以下。つまり、下手な攻撃でさえ落ちる可能性がある。

 

 もし仮に、シュテルが俺のスキルの威力を想定していれば、俺は今頃負けていた。

 

「シュテルと同じ技巧派の俺に、力技を使わせた時点で勝負には勝っているな」

 

「それなら私の勝ち……と言いたいですが、戦況はイーブンですね」

 

 シュテルがルシフェリオンを構え、俺に矛先を向け直す。

 

「ああ……」

 

 俺も、それに合わせて拳を向ける。

 

 動いたタイミングは、同時だった。

 

「ふっ!!」

 

「はっ!!」

 

 槍と右拳が正面からぶつかり、衝撃が生まれ、空気を揺らす。 

  

 その衝撃を身体が感じるより早く、次の一撃を繰り出し、音を重ねる。

 

 右でアッパー、身体を横に捻って、左踵で回し蹴り。

 

 空中を右足で蹴って、左足を軸にガードの上にもう一発。

 

 少し距離が開いた瞬間に空を蹴り、すかさず距離を詰めて左膝蹴り。

 

 今度は、ガードの上に右拳を合わせる。

 

「くっ」

 

 シュテルが連撃にたじろいだ間を逃さず、足を狩ってから背後に回り旋風脚。

 

 立て続けて旋風脚を繰り出して右足を受け止めさせ、左足で踵落とし。

 

 ルシフェリオンが宙に舞い、前蹴りで遠くに吹き飛ばす。

 

 俺の行動は読んでいたらしく、シュテルの足元から炎の翼が展開される。

 

「ちっ!!」

 

 シュテルの行動の方が……早い!!

 

「これだから……武闘派は嫌になりますっ!!」

 

 俺はガードスキルを読み込み、腕を交差してシュテルの右横蹴りを受け止める。

 

 強烈だが、来ると分かっていれば受け切れ──

 

「ですが……」

 

「なっ!?」

 

 連発可能なスキル!!

 

「星光」

 

 これは……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「裂」

 

 真紅のガード硬直を狙い、シュテルは左の蹴り上げで両腕でのガードを破る。

 

「蹴」

 

 そして、真紅の胸辺りを狙い、流れるように右の蹴り上げを繰り出し、身体を打ち上げた。

 

「拳」

 

 真紅の打ち上がった無防備な身体に、更に追い打ちを掛け、左で蹴り上げる。

 

「これで、フィナーレと参りましょう」

 

 シュテルは打ち上げた身体を追い越し、もう一度、大きく炎翼を展開。 

 

「燃え上がれ、私の魂」

 

 熱く、強き想いを込めて。

 

(……やっと、追いつきました)

 

 七十六戦、七十六敗。苦い負け越しの記憶。追いつきたい、その大きい背中。

 

 この手よ届け、届けと願い、ついに辿り着いた。

 

「眩く照らせ、我が炎」 

 

 シュテルの想いは……誰よりも熱情的で、何よりも猛烈的に──

 

『星光裂蹴拳・恋舞!!』

 

 心も届けと、解き放たれた。 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「負けた……か」

 

 空を見上げながら、俺は呟く。

 

 そして、光輝く太陽を背に俺を見下ろすシュテルに向かって、拳を突き上げた。

 

『私の、勝ちですね』

 

『ああ、気持ちいぐらいの敗北だ』

 

『良かった……これで、真紅と並んで歩けます』

 

「……っ」

 

 クサイ台詞だ。自分でもそう思う。でも、思いついてしまったからには、伝えよう。

 

『今の笑顔……太陽よりも輝いていて、綺麗だったぞ』

 

 すると、シュテルは目を丸くしてから、微笑み直し、俺の元へ降りてきた。

 

「恥ずかしながら、私の想いが届いた様ですね」

 

「ああ。勝ちたいって想いが、しっかりと伝わった」

 

 あれほどに熱い想いは、生まれて初めて感じたしな。

 

「……ふふっ、なるほど。アプローチが足りないみたいですね」

 

「ん? アプローチ?」

 

 試合運びの事だろうか。

 

「いえ、何でもありませんよ。これからは、追い越すつもりで挑みますから、また受け止めて下さい」

 

 シュテルが、拳を突き出してくる。

 

「良くは分からないが、いつでも受けて立つ」

 

 それに合わせて俺は、もう一度、拳を突き出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……ふむ。これは、家族会議を行う必要があるか」

 

 真紅とシュテルの勝負を、一部始終見ていたキングスは、家族の女子五人にメールを送信する。

 

「そろそろ、頃合いなのかも知れぬな」

 

 キングスの鋭い視線は、画面越しの真紅に向いていた。

 




こっちも、あっちも頑張って更新していこう。

いや、行ければいいな……うん。
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