亦野さんが麻雀弱いわけないだろ! 作:てーやー
逆に一番しんどいのは前書きです。後書きとは違って、書いているときに思ったことを書きにくいんですよね。
やられた。
和了りの宣言とともに倒された牌を見た瞬間、素直にそう感じた。
準決勝までのデータを見た時は美味しいカモだと思っていた。前半戦が終わった後も、親を流す上手さがあるもののカモには変わりがないと思っていた。
…けれどその考えが甘かったことを思い知らされた。
今までの愚直な戦い方からは考えられない序盤のブラフ。私と龍門渕が聴牌間近と分かるとすぐに字牌を捨てて止める察知能力と判断力。バラバラの配牌から流局までに和了る運命力。まるでプロを相手にしている様だった。
この一撃のためだけに弱者として振る舞っていたのか。そして私はその罠にまんまと引っかかったのか。悔しさよりも感心が出てしまう。
しかし、まだ疑念も残っている。残りの風牌の場所だ。まさか全ての風牌を操作できていたとは考えられない。
なら、山の残り枚数を見る限り東は鶴賀が持っていたのだろう。しかし、それが私か龍門渕の手に渡っていればどうするつもりだったのか。
と、ここで再び気付く。
つまり、恐らく、賭けだった?
…面白いわ。やっぱり麻雀はこうでなくっちゃ!こういう相手がいるから麻雀は止められないのよ!
名前は…誠子ね。覚えたわ。誠子が次にどんな手でくるのかと期待に胸を膨らませる。点数を度外視して楽しんでしまうのは私の悪い癖らしいが、これは仕方ない。
しかしそんな私の思いとは裏腹に、試合は淡々と進んでいく。誠子も先程のツモが無かったかの様に、喰いタンと特急券を一度ずつ上がって親を流す以外の動きを見せていない。本来なら攻め時なのだろう。
だがさっきの技を見たせいで、誠子の一挙手一投足に警戒しすぎて、安くて早い手が多く来たにも関わらず二回しか和了れなかった。しかも龍門渕の子にも一度振り込んでしまった。
そしてそのままオーラスになったところで、三度気付く。
もしかして、また嵌められた?
ようやく、東一局の攻めが私から冷静さを失わせるための罠だったことに気付くがもう遅い。すでに最後の親は蹴られてしまった。
私が和了れるのは多くとも後一回。場合によってはこれで私の夏が終わってしまう。そう自覚すると、この局がとたんに勿体無く思えてきた。
…なら、せめて最後は私らしく終わってやる。
ただ点数を取るためだけの打ち方ではつまらない。もしかしたら、これも誠子の作戦の内かもしれないが、監督には後でこっぴどく叱られるだろうが、関係ない。
配牌を見る。ドラが二枚の三向牌。おおよその最終型は決まった。
1巡目からドラを切る。
2、3巡目で有効牌をツモる。言い調子だ。
5巡目で、四萬を捨てれば両面待ちの聴牌。が、捨てるのはその横の赤五萬。
「リーチ!」
高め三色とドラを捨てての単騎待ち、それも二枚切れ。けど、これで良い。
宣言後、龍門渕と鶴賀が引いた現物をそのまま捨てる。
次いで、誠子は悔しそうな顔で牌を取ると、ノータイムで降りを選択する。
…最後は誠子から取りたかったがしょうがない。その顔が見れただけでも良しとしよう。
掴んだ牌を指で上に弾き飛ばして手牌を開く。そして、そのまま飛ばした牌をその横に叩き下ろした。
「ツモ!」
…これで私にできることは全部やった。
後は、頼んだわ。
先鋒戦終了
鶴賀学園 82000(-7900)
清澄高校 92200(+5100)
風越女子高校 121300(+5600)
龍門渕高校 104500(-2800)
※亦野が悔しそうな顔をしているのは、罪悪感で部屋に帰れないと考えているからです。
後は中堅と大将ですかね?県大会決勝では次鋒と副将の面子があまり変わらないので。