亦野さんが麻雀弱いわけないだろ! 作:てーやー
14翻役 上重漫は遅れて気がつく
「次の二回戦では、漫ちゃんに親番が来てもできるだけ速くオリた方がええと思います。」
試合前日のミーティング中、末原先輩が慣れた手つきでパソコンを弄りながらそう告げてきた。先輩を信じていない訳ではないが、いきなり親番にオリろとはどういう事か。
理由を知るために質問しようとしたが、それよりも先に主将が口を開く。
「永水がおるからか?」
「いえ、それもそうなんですけど、一番の原因は清澄の亦野です。」
そして、その質問に末原先輩は否定で返した。パソコンからはすでに手を離しており、スクリーンには亦野が映っている。
しかし亦野?今回の対戦相手の中でもとりわけ普通の選手やったはず。牌譜を見てもおかしいところはなかったが…
「この生き物がおる卓では、普段ごっつ点数を稼いでるやつが全然稼げてないんです。それが気になって調べてみたところ、けったいな現象が起こってる事が分かりまして。」
「なんや。もったいぶらんとはよ言えや。」
「今から言います。…こいつのいる卓では、誰も親番に和了れてない。つまり、半荘が絶対に八回で終わってるんです。」
先鋒戦開始
東場 宮守女子高校 小瀬川白望
南場 姫松高校 上重漫
西場 清澄高校 亦野誠子
北場 永水女子高校 神代小蒔
試合はちょうど東三局が始まった場面。今まで一度も和了できていないが、気を入れ直して不要牌を捨てていく。
七巡目になり、ようやく跳満が狙える完成形が見えてきた、とほくそ笑んだところで、
「リーチ」
親の清澄が牌を横に曲げた。
…なんで親やのにリーチしとんねん?!親やのに和了する気満々やんけ!?
言うてたこととちゃいますやんか、と心の中で末原先輩に文句を垂れるが、知らんがな、と一蹴された気がした。
こうなったらしゃーない。手牌はまだ一向聴やし、素直に降りる。
結局、東三局は神代に安手で流されて終了した。そしてそのまま、次の東四局に移ろうとすると、
「ご…ごめんなさい、少し寝てました。」
神代が突然、そんな事を抜かしてきた。
いや、さっきまで普通に打ってたやんか!?と声に出かけてなんとか抑え込んだ、瞬間、
「でも…本当に申し訳ないので、ここからは___
全力以上であたらせてもらいます」
呼吸が、止まった。
…なんや、これ。
あまりの凄みに、目が離せない。体が動かない。
今までのどんなプロよりも凄まじい、何かを体感した。
しばらくしてから隣を見れば、宮守の小瀬川も何かを察知したらしく、さっきよりも面倒くさそうな顔で神代を見ている。
…こんなんどうしろって言うんですか、末原先輩。
それからずっと神代を警戒しているが、特に何もしてこない。強いて言うなら、亦野のあからさまな手に振り込んでいたことくらいか。
そして南二局。前半戦最後の親番に、五巡目で聴牌。誰も立直をかけておらず、リーチをかければ満貫確定の両面待ち。
先輩はああ言ってたけど、こんなチャンスは滅多に来いひん。神代も動かへんし、できた以上は勝負する。
「リーチ!」
その宣言の後、下家の亦野が打牌をしたのだが、
えっ…?いきなりそんなキッツいとこ…?
河に出た牌は、普通に考えればリーチされた直後に捨てるものではない。
つまり、うちより速く聴牌してたんか?それも親相手に突っ込むほどの手を?河に捨ててある牌を見ても全然分からへんかった。
そして、亦野の捨牌を見て分かりやすく喜んだ神代がその筋となる牌を捨てて、
「…ロン。」
小瀬川に振り込んでいた。
うちが勝負した時にはすでに二人が聴牌してたんか。これは、先輩のアドバイス以前の問題やな。
そう反省しながら麻雀卓の中央に牌を入れていると、ふと気付く。
もしかして、今焼き鳥なんうちだけか?
先鋒前半戦終了
宮守女子高校 115300(+15300)
姫松高校 90900(-9100)
清澄高校 104200(+4200)
永水女子高校 89600(-10400)
関西のチームは反応が面白いので好きです。ただ、全員が関西弁だと、誰が誰と会話しているのかが分からなくなるので使いにくいです。
おかげで、主人公のチームが書き手に優しいチームだと理解できました。