亦野さんが麻雀弱いわけないだろ! 作:てーやー
県予選の決勝戦に、亦野先輩が休憩中に控室へ戻らなかったという理由で、私が先輩への助言係に選ばれた。
それ自体は嬉しかったし、そこから先輩に下の名前で呼ばれるようになったため有り難かったが、困っていることがある。
先輩に有意義なアドバイスができていない。
せっかく選ばれたのだから、ちゃんと役割をこなしたい。でも今のところ、先輩がすでに知っているであろうことしか助言できていない。
一回戦の時でも今回でも、私の発言内容に驚いてこそいたが、それはあくまで新しい情報にではなく、私がその発言をしたことへの反応だった。
そこから推測するに、先輩はアドバイスの内容を知りたい訳ではなく、私が成長できているかどうかを知るために聞いてくれているのだろう。新子さんにも同じことを確認していたから間違いない。
今の自分では役に立てないことを改めて自覚し、奥歯を噛みしめた。
試合は後半戦になったが、先鋒戦とは思えないほど静かに進んでいく。
そしてそのまま南場に入ってしまった。先輩が誰も連荘させないのは分かっていたが、それを考慮しても宮守の点数は多い。
もしかして宮守を一位にして二位上がりを目指しているのか?と考え始めたが、南一局の終了後、永水の人が神様を再び降ろしたのを見て考えを改めた。
永水を落とそうとするのは得策ではない。
次鋒以降が弱いならまだ希望はあった。でもさすがに、団体戦でベスト4に入るほどの高校が欠陥を抱えているはずがない。全員があれくらいの強さを持っていると考えるべきだ。
するとやはり、ここから準決勝に出るためには、永水を諦めて宮守と姫松を落とすことが絶対条件になるだろう。そのためには、亦野先輩がいる時に少しでも点数を下げてくれるとありがたかったのだが…
そこから南二局と南三局は永水が和了した。二回とも倍満以上をツモっているのにも関わらず、誰も止められない。
今回は永水の親の後に神降ろしをしたため連荘はないが、もしタイミングが違えば先輩でもただでは済まなかっただろう。
そして南四局。このまま終わるのかと諦めた所で、
突然、回し打ちをしていたはずの亦野先輩が危険牌を連続で切り出した。
「へっ?危なっ!?」
その唐突な行動に、隣の新子さんが驚きの声をあげてしまったがこれはしょうがない。
前半戦でのあからさまな捨て牌は、姫松をオリさせたり永水を削るためのものだったが、今回の目的はそうじゃない。
むしろこれは他の二人、特に姫松を助ける一手。なら、何でそんな事をしたのかと言えば、
「ロン!」
火がついた姫松をフォローして、逃げ場を失った宮守を狙い撃たせるため。
…先輩は凄いな。
あの場にいたのが私なら、自分が先に上位に上がっておいて後は逃げる作戦しか思い浮かばなかった。もしその作戦を採用していたら、永水に三連続和了をされて大きく凹まされていただろう。
しかし、先輩はその先行を防いでしまった。それも偶然のように見せかけ、本気を隠したままで。
やっぱり私はまだ力になれそうにない。
書いているうちに、咲さんの亦野へ向ける憧れがどんどん大きくなってしまいました。