亦野さんが麻雀弱いわけないだろ! 作:てーやー
不味い。
先鋒戦終了時の点数を見てから、勝手に焦燥に駆られている。
別に最下位だったのは構わない。先輩はただ、ここで一位になっても臨海が付いてくる事を考慮し、決勝戦まで強さを隠し通す方を選んだだけだろう。それに、収支こそいつもマイナスだが、ちゃんと私たちが捲れる範囲を考えてくれている。
問題なのは、去年のベスト4が
前の永水でも安定して勝てる自信がなかったから落としたのに、今回はそれよりも上。
そしてそのせいで、亦野先輩も最後の二局は本気を出させられていた。恐らく、あれ以上削られると私たちが巻き返せなくなると考えたのか。
…悔しいがその通りだろう。
画面の向こうで闘っている染谷先輩も難しそうだ。相性だと言われればそれまでだが、この調子だと区間最下位になると思われる。
「…咲?」
憧ちゃんも稼げるとは思えない。つまり、井上先輩と私がどうにかしなければいけない。
それは理解しているが、私も宮守の大将の能力解析が終わっていない。せっかく、二回戦の後に先輩に頼んで一緒に偵察をしてもらったのに、まだ確信には至れていない。
…これなら、姫松を連れていくべきだったか?
「咲!」
と、呼ばれていたらしい。急いで表情を繕い、憧ちゃんの方へ顔を向ける。ただでさえまずいこの状況で、彼女に更なる不安を与えるのは宜しくない。
「あっ、ごめんね。ちょっとぼーっとしてて。」
「…大丈夫?顔真っ青だけど。」
…流石に顔色までは誤魔化せなかったか。私はまだ、亦野先輩とは違ってそこまではできないみたいだ。
「…咲がそこまで不安になるってつまり、このままじゃ勝てないってことよね。」
言葉に詰まる。
答えられない。言える訳がない。この状況での最善策は、憧ちゃんに早く流してもらって私が稼ぐ事。私が、私が五万点くらいプラスにできなければ敗退はほぼ確実で___
「…しょうがない。アレを使うわ。」
…"アレ"?
「前回までは先輩たちに止められてたし、私も決勝までとっておきたかったから使わなかったけど、仕方ないか。」
先輩たちも知っていると。つまり、知らなかったのは私だけ?
「ほら、咲も誠子先輩も普段は強さを隠してるでしょ?それに思うところはあるけど、戦略としては有りかなーって。」
でもおかしい。亦野先輩や私は強さを隠してると言っても、それは能力があって初めて出来る技だ。つまり、
「憧ちゃんも能力持ちだったの?」
思わず疑問が口から出たが、彼女は笑って返してきた。
「違う違う。私のは…いや、やっぱり楽しみにしておいて。」
自分で質問しておいてなんだが、今その中身はどうでもいい。この状況で私が知りたいのはただ一つ。
「それを使ったとして…勝てるの?」
その瞬間、ここでそんな質問をすべきではなかったと後悔したが、彼女はニヤリと口角を上げて返答する。
「勝つわ」
という訳で、ここの憧ちゃんは原作とは異なる方向に成長しています。こういうのも原作改変の醍醐味だと思うんですよ。