Lyrical Foundation Hub 作:ryanzi
『反乱しよう』と君が言ったから今日は反乱記念日
ミッドチルダにも財団は拠点を有していた。
無論、管理局に発覚しないように。
Special Cleaner Production
ミッドチルダで急成長を遂げた清掃器具メーカー。
もちろん、財団のフロント企業だ。
「・・・なんで、財団に就職しちまったんだろ」
社員であるエージェント・ロインはどこにでもいるミッド人だ。
数年前まで彼は就活に苦しむ学生だった。
しかし、彼の書いた卒論が偶然にも財団の目に留まってしまった。
そのおかげで生活には困らないが、いつか来るその時に怯えるようになった。
『財団は常軌を逸した排他的組織だ』
ミッドでも、ヴァイゼンでも、スプールスだろうと、突如として管理外世界に現れた謎の組織に対する認識は変わらなかった。もちろん、彼らは隣に財団が既にいるとは気づいていないのだが。
「そこまで悪い奴らじゃないんだけどさ・・・」
極北仕様バイクを運転しながら、彼は呟いた。
この数年で、財団に対する彼のイメージはずいぶんと変わった。
財団の存在する管理外世界には、魔女裁判というものがあった。
その魔女裁判を主導したカトなんとかという組織と財団は、管理世界の市民たちからは同一視されているのだ。もちろんロインもそんな市民と同じだった。
だが、カトなんとかの魔女裁判と違って、財団の
確保、収容、保護
ロインはこの言葉を聞いても嫌悪感を覚えなくなった。むしろ、誇りに思うようになってしまった。
自分たちは正常性の最後の砦である。そう自覚するようになった。
もちろん、管理局も砦の一つだ。だが、彼らはあくまでも行政組織だ。財団ほどは早く動けないのがネックだ。それに『ロストロギア』以外のアノマリーには対処しにくい。
今回の彼の任務もまた、管理局がすぐには動けないような噂の対処だった。
『ミッド極北の雪に閉ざされた大地に巨大なビルが見えた。』
もちろん、該当地域は少数民族さえ住んでないような場所だ。
そんな根も葉もない噂に、管理局も人を割けないだろう。
そこで財団の出番だ。一般人にも管理局員にもバレないうちに対処するのがロインの仕事だ。
財団の耐寒装備は素晴らしいものだった。まるで寒さを感じないし、暑すぎない。
該当地域の近くに到着した。ロインは気を引き締めた。
「あら、ロイン君じゃない」
せっかく引き締めた気が緩んでしまった。
「・・・ギンガ姉さんかよ」
「あら、何か不満でも」
「不満も何もどうしてここに・・・」
ギンガ・ナカジマ、彼の近所の家に住んでいる姉みたいな幼馴染だ。
「この近くに次元マフィアの隠れ家があるとわかったから、それの制圧ね」
ギンガが西の方向を指差す。ロインが向かうのは東だった。
「よおボウズ、奇遇だな」
彼女の父親のゲンヤ・ナカジマもいるようだ。
つまり、この一帯には陸士部隊が展開されているということだ。
「それでロイン君はどうしてここに?」
「まさかマフィアの一員じゃあるめえな」
「まさか。俺は休暇を使って、ここに旅行しに来ただけですよ」
もちろん嘘である。
「ころちゅ・・・」
「お前の休暇を奪って、俺も死ぬ・・・」
管理局は誰もが憧れる職業だが、仕事はだいぶきつい。特に地上本部は。
財団はまだ福利厚生はしっかりとしている。
・・・それに、管理局よりも生存率はどういうわけか高い。
「それにしても、ロイン君がSpecial Cleaner Productionの社員になるなんてね・・・」
「まったくだ、神様が自殺でもしないかぎりありえないからな」
「ひどくありませんか」
気が緩んでしまうというアクシデントはあったが、ロインはそのままバイクを走らせた。
あれから陸士部隊に何度か遭遇したが、ゲンヤが手を回してくれたからか、トラブルはなかった。
吹雪はどんどん強くなる。まるでロインを邪魔するかのように。
「寒冷地ゴーグルがなかったら最悪だったな」
これでデマだったら本当に休暇を取ってやる、そう思いながらバイクを走らせる。
結局、彼が休暇を取ることはなくなった。”ビル”が見えたからだ。
「・・・マジかよ」
どうして管理局に見つからないのか不思議なほどの高さだった。
「さすがにマフィアにもこんなのを立てる力はなさそうだし・・・」
だとすれば、これはロストロギアかアノマリーのどちらかだ。
入口もガラス製なのに、中が確認できない。
何か不思議な力が働いている証拠だ。
「・・・入るとしますかね」
バイクを入口の横に止めて、中に入っていく。
中はベルカ貴族の屋敷に似た内装で、暖かった。
無機質なミッド的な見た目とは相反していた。
「金持ちの道楽?・・・にしては何かおかしいような」
「道楽ですよ、”元”金持ちの」
ロインはとっさに銃を向けた・・・つもりだった。
握っていたはずの銃はAtarimaeda社製のクラッカーだった。
目の前の細身の男の仕業だろう。
「おっと、このビルから出たら元に戻るので安心してください」
「・・・ずいぶんと悪趣味なことで」
「これでも以前はO5評議会員でしたからね、悪趣味になって当然ですよ」
「そうかそうか、O5か・・・えっ?」
「あなた財団職員でしょ。雰囲気で分かるんですよ」
O5評議会員を名乗った男はどこからかシャンパンを取り出す。
「まずは喉を潤しませんか?」
「おいおい、飲んだ瞬間、化け物になるとかないよな?」
「大丈夫ですよ。ここにあるのは全て正常ですよ」
酷い冗談にしか思えなかった。
「それはそれは大変でしたね~」
ロインはすっかり酔ってしまった。
「そうですよ~、気づけば航行船に爆弾が仕掛けられてたんですから。一瞬でわかりましたよ、あの女の仕業だって・・・」
前にいる男はO5の席に座っていた唯一のミッド人だったらしい。ちなみに番号は12だったという。
だが、ある日、ひとりの女性のクーデターによって謀殺されかけたらしい。
「爆弾はなんとかしましたが、このままではやばいから死んだふりを今もしてるんですよ」
「それで、こんな場所にビルを・・・。あれ、俺財団職員だけど大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、僕のことは変な能力を持った男として収容してもらえれば」
「まてよ、それだと・・・」
「どうせアノマリーの烙印を押されれば、権力を手に入れるのは二度と無理ですよ」
「ああ、だったらまた謀殺されることもないわけか」
「ええ、もうあの女は私を気にしないでしょう」
ふと、ロインは気づいてしまった。
「俺、けっこうクリアランス違反なことを聞いちゃったけど・・・」
「大丈夫ですよ、記憶処理でなにもかもおさらばですよ」
「ええ、あれ気がおかしくなりそうでさ・・・」
ロインは記憶処理を受けたことがないと自分では思ってる。だが、実は何度か記憶処理を受けているのではないかと考えることがあり、そのたびに気がおかしくなりそうになっていた。
「・・・たまに、考えるんですよ。自分の記憶は偽物なんじゃないかって」
「財団ではよくあることですよ~」
「でも、最近では人類のためと考えるようになっちゃったんですよね」
「堕ちるところまで、堕ちましたね~」
「あなたこそ、こんな狂った組織の首領をやってたんだし、おあいこですよ~」
「ええ、でもそれは人類を守るための狂気でしたからね~、これからはどうかわかりませんよ」
そう言って、男はテレビとリモコンを取り出し、どこかの会議室を映し出した。
〈・・・なんということだ、我々のすぐそばに財団が潜んでいたとは〉
〈まさかSpecial Cleaner Productionもフロント企業だったのか〉
〈それを、O5評議会最高位のO5-1がわざわざ我々に暴露するなんて〉
ロインは一瞬で凍り付いた。間違いなく、画面の向こうにいるのは管理局の高級メンバーだ。
「・・・あの女は厚かましくも1の位に着きました。そして、財団をこうして滅ぼそうとしているんです。もはや人類を守るための狂気は存在しません。自滅の狂気だけが残るんです」
「マジかよ・・・、俺、社会的にもうすぐ死ぬじゃん・・・」
「社会的?果たして管理局が『身体』を見逃してくれると?」
「・・・まあ、汚い組織だという噂は前からあるけどさ」
「どうしますか?このまま帰っても、いつかは破滅を迎えますよ」
「じゃあ、なんだ?ここで酒浸りの余生を送れっていうのか。悪くはないけど」
「いえ、僕もあの女にはムカついているので、反乱を起こそうと思います」
「反乱?財団に?」
「ええ、前の1が残してくれた文書をもとに思いついたんですがね」
男は厚い紙束を取り出し、ロインに渡す。
「へえ・・・カオス・インサージェンシーか」
「旧世界とやらの財団の一部が離反してできた組織のようです」
「きゅうせかい?」
「詳しいことは僕にもわかりません。今の財団が結成される前に、かつての1がいた世界だそうです」
「どこの次元世界だ?」
「次元世界ともまた違うそうなんですよ・・・僕もそれに関しては頭が痛くなるんです」
男はシャンパンをもう一瓶取り出して、なみなみと注ぐ。
「それで、俺たちもその名前を使うのか?」
「ええ、いい名前ですし」
「賛成」
二人はグラスを高々に掲げる。
「僕たちの反乱に」
「俺たちの反乱に」
この日、新生カオス・インサージェンシーが産声を上げた。
その産声が、狂気を打ち破る鉄槌になるのはそう遠くないだろう。