Lyrical Foundation Hub 作:ryanzi
「それでは会議を始めましょうか」
ロインは心の中ではとてつもなく緊張していた。
いつもの会議は(中央委員会が二人だけなので)気楽なものだが、今回は違う。
今回は伝説の管理局員が出席しているのだ。
「ああ、よろしく」
瀬宮徹。あのエースオブエースの高町なのはと同じ世界出身の管理局員。
あの雲の上のO5評議会でさえも敬意を払う人物だという噂もある。
そして、その噂は本当だと今日証明された。
「今日死んでも悔いはありません」
元O5-12のトゥエ(ロインが付けた愛称)がそんなことを口走ったからだ。
「おいおい、そんなこと言われても困るよ」
瀬宮も苦笑してしまっていた。
「まったく、瀬宮が困っているじゃないか・・・」
さて、もう一人伝説級の人物がこの会談に参加していた。
この人物は別の意味で伝説的なのだ。
・・・三人衆から嫌われているという点と、財団職員という点で。後者の方は知られていないが。
「さてと、これでカオス、財団、管理局の三頭会議が実現しましたね」
「さっきから気になってたけど、今日飲み会じゃなかったの?」
「俺もそう聞いたが」
「ええ、会談という名の飲み会ですよ」
「よし、今日は飲むぞ!」
「俺はサラミを要求する!」
あっという間にロインの中での二人に対するイメージは崩れていった。
「それにしても、お前生きてたのか~」
「俺も死んでるもんかと思ってたからな~」
ロインの中での二人は完全に死んだ!
「・・・まあ、いいか~」
ロインも酔っていたので問題はなかった。
「僕だってミッド人ですよ、テロ対策は身に染みてるんですから。そもそも2はどうして無事なんですか~」
トゥエがミッドに対する悪質な風評被害を口にする。
「ああ、そういえばアイツは生き残ったんだよな」
「秘書兼護衛の俺がいたからな!」
なんと神谷はO5-2(元13)の秘書らしい。ロインは初めてその事実を知った。
O5評議会は『雲と次元の上』と表現されるほどの存在だ。高クリアランスの職員でも内情を知るものは少ない。
まして、別次元世界の職員であるロインがどうして内情を知ることができようか。
ぶっちゃけ、管理世界市民からはフィクションの存在だと思われているレベルだ。
「これはやてがお守り代わりに渡してくれたんだ」
「可愛いキーホルダーですね~」
「まったく、相変わらず甘酸っぱい日常を送ってるんだな」
瀬宮はキーホルダーを自慢する。
タヌキ耳を生やした八神はやて、というデザインだった。
瀬宮は八神はやてと"そういう関係"であることでも有名だった。
「まあ、それはともかく、飲み会とはいえ会談なんだろ?本題はなんだよ~」
「うむ、俺も気になるな」
「ええ、そうしたいところなんですが・・・はやてさん、見てるんでしょ?」
「えっ」
『あちゃー、さすがに元O5議員ともなると騙せんもんやなあ』
キーホルダーから声が発せられる。
「・・・瀬宮」
「ちょっと待って、俺知らないんだけど」
『ごめんなあ、瀬宮くん。最近、ちょいっと出張が多いから不安になってしもうて』
「今回のを除けば本当に出張だってば!」
『知っとるよお、今回のを除けばの話だけど』
声がだんだん冷たくなってきていた。
『いやあ、楽しそうやなあ』
「「「・・・」」」
『今日もご飯用意していたんやけどなあ』
「ロイン君、逃げてくだ・・・もう逃げてますか。二人とも逃げますよ」
ロインの姿はこつぜんと消えていた。
「言われなくとも!」
「よし、それじゃあ生き残ろうか!」
ロインは結構、自己保身的な人間だ。そうでなければ反乱軍に参加などしていない。
そういうわけで、雪原の中をとっくに逃げていた。
「待てや、このクソボウズ!」
「待てと言われて、待つバカはいません!」
「お姉ちゃん怒らないから、止まってちょうだい」
「ギンガ姉さん、俺知ってるからね!それ怒るパターンだって!」
・・・背後から馴染みの声が聞こえる。
それと同時にビルの崩れる音が聞こえた。
さらには魔力弾が飛んでくる。
バイクが魔改造されていなかったら、捕まっていただろう。
「ロイン・クリストファー、止まりなさい!スバルが泣いているの知らないの!?」
「幼馴染を引き合いに出されても困りますよ!」
砲撃が飛んでくる。
「幼馴染以前に、人としてありえないよ・・・おはなししようか」
エースオブエースの砲撃が次々と飛んでくる。
魔改造バイクの性能と、ロインの操縦技術がなければ目も当てられないことになってただろう。
「さすがに姉さんをああしたのは許せないな」
「聖王教会にどれだけの被害が出たのかわかってるのですか?」
聖王教会の騎士たちがあちこちに見える。ミッド中が敵に回ったかのようだ。
このまま逃げても生きる場所があるだろうか?
だが、逃げなければ、もっと惨い死がすぐ待っているだけだ。
「待ってよ・・・ロイン・・・」
幼馴染の声が聞こえる。・・・どこか死んだ声だった。
「もうやめてよ、ロイン。ロインには反乱とか似合わないよ」
「そうはいっても、後ろの人たちが・・・!」
ちなみに、スバルはロインのバイクと並走している。
だから、スバルのどこか生気のない目をロインは見ることになった。
「だいじょうぶ、なんとか話をつけておくからさ・・・」
「ちょっと待って、大丈夫じゃなさそうだけど!」
「あのさ・・・ロインはちょっとおかしくなってただけなんだよ?」
今のお前に言われたくない、とロインは思った。
「財団に入っておかしくなっちゃったんだよ、正常とか人類を守るとか、ロインに一番似合わないじゃん」
「・・・」
「だからさ、戻ってきてよお・・・」
かつての上司(収容違反で死んだが)の言葉がロインの脳裏によぎる。
〈女の涙はアノマリー以上に厄介だ。使命を果たすのが苦しくなるからな〉
ロインはその言葉の意味をようやく理解した。
(止まってもいいや)
そんな考えが頭を支配しそうになる。だが・・・
「すまん、スバル!やっぱり使命とか捨てられねえ!」
バイクを加速する。
ロインは自己保身的な人間である前に、使命に燃える人間でもあった。
あくまで自己保身的な性格が邪魔しているだけだ。
反乱軍に参加したのも、財団を破壊しようとするO5-1を打倒するためだ。
「そういうわけで、またいつか!」
「待ってよおおお!」
「いやあ、なんとか逃げれるものなんですねえ」
「・・・はやての足舐めまわしながら土下座すれば許されるかな?」
「お前反省してないだろ?」
(色々な意味で)人外三人組は夜の都会の喧騒の真っ只中にいた。
「・・・ところで、ロインとかいうのは大丈夫なのかい?」
瀬宮が心配そうに尋ねる。
「ええ、彼は意外と運がいいので、大丈夫でしょう」
「・・・だったらいいけどさ」
ロインはようやく逃げ切ることができた。
彼はどことも知れない雪原をバイクで走っていた。
「どこなんだよ・・・ここはよ・・・」
「ところで、本題はなんだったんだ」
瀬宮のお気に入りの喫茶店に入った後、神谷が口を開いた。
「大したことではないんですよ、ちょっと暁美ほむらが何者なのか聞きたくて」
「えっ、ほむらさんは魔法少女まどなんとかという作品の世界から来たと聞いたけど」
瀬宮がさらっと重要なことを口にする。
「それですよ、僕が求めていた情報は。彼女の出自に関する情報はあまりにも少ないんですよ」
「まあ、俺もほむらと“無印”とかの時期は同級生だったが、あまり親交はなかったし・・・、まどマギのキャラだっていうのは知ってるけどな」
「そうなると瀬宮さんだけなんですよね、ほむらの情報持ってるの」
「大したことは聞いてないんだけどな、ただ昔の話を聞いただけで」
そういうと、瀬宮はほむらの昔話を始めた。
瀬宮は物乞い時代にほむらから何度か助けられたこともあり、自然と親交を深めていった。
その時にほむらから彼女の過去について聞かされることもあった。
彼女はまどマギとやらの世界で魔法少女をしていたらしい。ただ、この世界と違って、彼女の世界の魔法少女はなった瞬間に死が確定するようなものだったらしいが。
彼女は一人の少女のために戦っていたらしい。その少女が魔法少女にならないように。
それでも全ての努力は無駄になって、神に転生させられ、能力の一部を奪われてしまったらしい。
「・・・俺が聞いたのはそういった話だな」
「奪われた能力というのはどういうものだったんですか?」
「えっと、なんか一か月前に戻るとかっていう」
「そこだけはSCP-2004-6の英断だったか。あれ色々とめんどくさいことになるからな」
その時、喫茶店にまだ十代くらいの黄色人種系の男女数人が喫茶店のドアを吹っ飛ばして入ってきた。
「おや強盗ですか。相変わらずミッドは変わりませんね・・・二人ともどうしましたか?」
瀬宮と神谷の顔が蒼褪めていた。
「・・・おい、なんかヤバイ予感しかしないんだけどさ」
「あいつら転生者か?だが、あんなの見たことが・・・」
「・・・ああ、なんとなくわかりました」
トゥエもじっくり見てわかったのだが、彼らから明らかに異常な何かを感じることができた。
それは1や2が放つ力とはまた別次元のものだった。
「・・・そこのオジサンたち、手を上げて」
彼らの仲間の一人と思われる少女が剣を向ける。
「「「はーい」」」
三人は大人しく手を上げた。
「・・・」
少女はこちらをずっと睨んだままだ。
「おい神谷、
「ここ喫茶店だぞ。それに本当に効くのかわからん」
「肝心な時に役にたたないな」
「瀬宮、何の特典もないお前だけには言われたくないぞ」
「二人とも、不毛な争いと化していますよ」
少女がため息をつく。
「オジサンたち、〈転生者〉なの?」
「ああ、俺と神谷はそうだ。こいつはもともとこの世界の人間だけどな」
「ふーん、まあいいけどさ。どうせ
「おい、それはどういう・・・」
神谷が少女に問おうとしたが、少女は剣を神谷の喉元に突きつけた。
「おっと、質問は受け付けないよ」
「・・・」
「これは厄介ですねえ」
「そうだな」
「お前ら他人事だと思ってねえか?」
そうこうしている間に、喫茶店のマスターは身包み剥がされたようだ。
「「「見たくないものを見たなあ・・・」」」
三人は察した。次は自分たちの番だと。
「・・・神谷さん、魔力はあるんでしょ?テレポートで逃げれませんか」
「・・・詠唱した途端に斬られると思うぞ」
「まったく、二人とも。ここは最後の手段を使うべきじゃないか」
「「最後の手段?」」
瀬宮は深呼吸して、それから・・・
土下座した
これが何の力も持たない瀬宮が編み出した戦い方だった。
「ごめんなさい、どうか身包み剥ぐのだけはお許しください」
「てめえ・・・」
「見損ないましたよ・・・」
少女はそれを見て、ただ笑った。
「ふふふ、やっぱ転生者って弱いんだね」
そこにリーダーと思われる青年がやってきた。
「・・・これが転生者か。くだらないな、帰るぞ」
「はーい」
青年は少女と他の仲間たちを引き連れて去っていった。
瀬宮は起き上がって言った。
「くやしいのう、くやしいのう」
「おい、別作品になったぞ」
「私はミッド人なので意味がわかりません。それより、彼らは何だったんでしょうか、なぜか瀬宮さんが転生者だと知っているようでしたし」
「さあな。とりあえず上に確認してみる」
「ものすごく・・・くやしいです・・・」
「・・・それで、どこに行けばいいんですかね」
「黙ってて」
ロインは結局捕まってしまった。
・・・管理局ではない何者かに。
「そこを右に曲がって」
「・・・りょうかーい」
バイクの後部に座っているのはロインより一歳下と思われる少女だった。
・・・その少女に捕まってしまったのだ。