彼女が街にやってきた   作:なんじょ

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 なぜ、こんな事になっているのか、理解できない。

 休日の午後。家族連れや友人同士、恋人同士で楽しげに話しながら歩いていく人々。絵に描いたように和やかな日常の中、実体化して人間と同じようにシャツとパンツを纏ったアーチャーは、ひどく難しい顔をしていた。

(なぜ私が子守などしなければならないのだ)

 そう思いながら視線を向けた先には、

「えっと……まずはスーパーにいけばいいかな。その後にドラッグストアでトイレットペーパー買いだめ、と」

 桜が書いたメモをまじめな顔で読み返す少女――七海がいる。今、彼は彼女と二人で、買い出しに来ているのである。

(全く、理解できん。いやしたくないというべきか)

 アーチャーは音のないため息をついた。

 居候でもない彼がなぜ、衛宮家の買い出しにつき合わなければならないのかがまず理不尽だ。しかし、彼の元マスターは呼び出した元サーヴァントに命令したのである。

 曰く、時間がある時は七海につき合う事、と。

 

『凛。君はもう私のマスターではない。そのような命令に従う理由はないぞ』

 勿論、アーチャーは難色を示した。もしや敵かもしれない少女を懐に入れただけでも、凛への評価が下がっているというのに、この上面倒をみろとはどういう了見か。

 その反応は予想通りだったのか、凛はあっさり言い返してきた。

『それは分かってるわよ。でもあの子、何でか知らないけど、ずいぶんあんたに拘ってるみたいなんだもの。

 もしかしたらどこかで顔を合わせてて、それを無意識に思い出してるのかも』

 そして胡乱げなまなざしを向けてくる――にやにや笑いも追加して。

『まさかアーチャー、どっかであの子に手を出したとか?』

『面白い冗談だな。顔も何も全く見知らぬ相手に、どうやって手を出せというのだね』

『だってあの様子、尋常じゃないわよ? よっっっっぽど思い入れなきゃ、あんなに執着しないと思うけど』

『どう言われようと、知らないものは知らない。彼女と私は全くの赤の他人だ。そんな相手を世話するなど、冗談ではない。私はそこまで暇ではないぞ』

 後ろ暗いところもないので、アーチャーはきつめの口調で言い募り、背を向けようとした。これ以上とどまっていては、あの得体の知れない少女を押しつけられかねない。そう危惧した故にこの場を去ろうとしたのだが、

『何言ってるのよ。時間がある時はあの子につき合うって、あなたが約束したんでしょ? アーチャー』

 次の言葉に足を止めざるを得なかった。眉を上げて凛を見下ろす。

『何のことだ』

『あの子がそう言ってたのよ。アーチャーと会いたかったら私に言えばいい、ともね。……覚えてないの?』

 そんな約束、した覚えはない。今にもそう口に出そうとしたが、

 ジジッ

(――っ)

 不意に感電にも似た痛みに襲われ、顔が歪む。刹那の合間に視界が揺らぎ、

 ――もう一度、アーチャーに会いたかった。どうしても、話がしたかった。あなたの声を、姿を、この目で確かめたかった。

 切実な瞳で彼を見上げる、栗色の少女の姿と、

 ――私に話があるのなら、今日のように凛に言伝(ことづて)すればいい。時間があれば顔を出そう。

 それに戸惑いながら再会を約束する自分をかいま見た。

『……チャ……アーチャー? どうしたの?』

 はっと我に返った時、凛が訝しげに彼を見上げている。その姿に一瞬他の少女の幻が被さり、アーチャーは瞬きした。いや、と歯切れ悪く呻いて、顔に手を当てる。

(今のは……また、今でないどこかの光景か)

 冬木の街で繰り返される日常。アーチャーもまたその歯車の中に組み込まれ、おそらくは幾度も同じ日を過ごしている。

 普段はそれを意識する事はないが、時折今のように、偽りの日々の記憶が断片的に蘇る事があった。

『……何でもない。凛、彼女は私がその約束をしたと言っているのだな?』

 痛みの残滓に眉間のしわを刻んだまま、アーチャーは確認する。

 えぇ、と凛は頷いた。我が意を得たりとばかりに指を突きつけ、

『あんたと一緒にいれば七海の記憶が戻るかもしれないし、自分で言った約束は守りなさい、アーチャー。時間がある時だけでもいいから』

 命令口調で「お願い」してきたものだから、アーチャーはため息混じりに、

『……分かった。覚えはないが、善処しよう』

 しぶしぶながら受諾したのが、今朝の事。

 

 そして七海と買い物にいけとせっつかれて今、この有様である。

(……あまり関わりたくないのだが……)

 この少女になぜか苦手意識を持っているアーチャーだが、しかし私的感情を横に置いても、彼女について気になる事はあった。

「まずは野菜コーナーからだね、アーチャー」

 スーパーに入り、からからとショッピングカートを押す少女は、何が楽しいのか、喜色満面である。まるでアーチャーと一緒にいられるのが嬉しくてたまらない、と言いたげだ。

(本当に、全く覚えがないのだが……さて)

 困惑に眉を上げるアーチャーをよそに、七海はキャベツの棚の前へ移動すると、

「えーっとね、桜さんに教えてもらったんだけど、青々してるキャベツ選ぶといいんだって」

 どれがいいものなのか、手にとって見定め始める。両手にキャベツを持ち、こっちはしなびてる、これはよさそう、と真剣な面もちで選んでいく様はやや滑稽だが、その振る舞いはどこにでもいる少女と変わりない。

(あるいは、この繰り返しの中のどこかで、親密にでもなったのか)

 そんな事も考えたが、彼女がアーチャーに固執するほど親密になったのなら、彼にその記憶が一片もないのはやや不自然な気がする。

 もちろん、彼もおぼろげに思い出した光景があったから、本当にただ忘れているだけかもしれない。

 しかし彼の性格上、身元の知れない相手へそう簡単に心を許すはずがない――しかも四日間という短い期間でとなれば、やはり無理がある気がする。

「……これにするといい。この中で一番新鮮で身が詰まってるはずだ。次がこれ、その次がそっちだ」

 キャベツ一個でいつまでも終わらなさそうなので、アーチャーはこれと睨んだものをぽいぽいとカートに放り込んだ。七海はほんと? と言いながらそれらを手に持ってみて、

「ほんとだ、なんかしっかりしてるし、緑が綺麗。すごいねアーチャー、見ただけでどれが良いのか分かるんだ!?」

 目を丸くして、彼を尊敬の表情で見上げてきたものだから、アーチャーはつい視線を避けてしまった。

「駄目だ、そういう顔はよせ」

「え?」

「いや……、ごほん、これくらい造作もない事だよ。さぁ、手早くすませよう。まだあれこれと買うものがあるのだろう?」

 そういってアーチャーは通路の先へと歩を進めようとした。

 が、車輪の音も、足音もついてこない事に訝り、背後を振り返る。

 七海は一歩も動いていなかった。ぼんやり焦点の定まらないまなざしで彼を見つめ、アーチャー、と唇だけ動かす。

「……?」

 それまでとは全く違う、虚ろな表情に戸惑う。歩き戻ったアーチャーが、

「どうした。何をぼうっとしている」

 前屈みになって顔をのぞき込む。と、不意に七海が彼の腕を掴み、

「アーチャー、もう一回言って」

 生気の戻った、力強い瞳で彼を見据えて言った。

「な、何? 何をだ」

 思いがけず強い視線、そして強い力で握られ、アーチャーは思わずどもってしまった。だから、と七海が繰り返す。

「今言った事、もう一回繰り返して」

「……まだあれこれ買うものがあるのだろう?」

「それじゃない」

「手早く、すませよう」

「その一個前、最初の」

「――このくらい、造作もない」

 そのせりふを口にした瞬間の、少女の表情は鮮烈だった。

 瞳が大きく見開かれ、ついで細くなる。黒々とした瞳が潤みを帯びて周囲の光をはじき、白い頬は血の気が上って紅をはいたように紅潮する。

 小さな唇がわなないて、呟く――今にも泣き出しそうな、それでいてまるで恋い慕うように陶然とした表情で、すがるように、切実な声音で、アーチャー、と彼の名を紡ぐ。

「――っ!」

 どくん、と大きく鼓動が響く。体が熱くなるのを感じた瞬間、アーチャーは少女の腕を振り払っていた。

「あっ……」

 乱暴に離され、少女がたたらを踏む。前のめりになったのをとっさに助けようとして、しかし近づいてはいけないという警告で、体に制動がかかる。何かを恐れるようにアーチャーは一歩、二歩と後ろに下がっていた。

「あー、ちゃー?」

 その場に踏みとどまった少女が、何をされたのか分からない、と言いたげにぽかんと彼を見つめている。

 普段と同じその表情にほっとし、同時にやはりこの少女には何かあると確信する。アーチャーは姿勢を正すと、

「――こちらに来たまえ。話がある」

 人の行き交う通路から離れ、彼女と店の隅へ移動した。

 

「……アーチャーごめん、怒ってるの?」

 バックヤードにほど近い、段ボール箱が積み重なった空きスペースにやってきたところで、少女がおそるおそる問いかけてくる。アーチャーはカートを脇に寄せ、腕組みして彼女を見下ろした。

「そうではない。ただ、君にいくつか確認したいことがある」

「確認?」

 きょとんとする少女に強いて厳しいまなざしを向け、問いを口にする。

「君はどこかで私と出会った事があるのか?」

「ん……と」

 少し黙り、それから首を振る。

「……分からない」

 しかし真っ直ぐにアーチャーを見上げ、言う。

「でも、少しだけ思い出した気がする。私、きっと以前、アーチャーと一緒にいたんだと思う」

「ほう。それはどこで? 言っておくが、私には少しも覚えがないぞ」

「……うん。私も、はっきりとは分からないよ」

 少女は微笑んだ――どこか寂しげに。それは彼が、お前の事など知らないと断じた故だろうか。

「――ここ冬木で出会った、という事だろうか」

 胸にちくりと痛みが走ったような気がして、しかしそれを無視し、アーチャーはさらに話を進める。どうだろう、と疑問符を浮かべ、少女は首をひねった。

「私が君に再会を約束したというのは――」

「あ……、うん、それは冬木というか、士郎君の家でだと思う。約束、したよね?」

「……さて、どうだったか」

 用がなければ出来るだけ近づきたくない衛宮家にわざわざ出向いてまで、彼女と話をし、再会まで約束する――そんな自分はいまいち理解しがたかった。

 が、わずかでも記憶が残っていて、彼女もまたそれを覚えているのなら、きっと事実起きた事なのだろう。

「少なくとも『今の』私には覚えのない事だが――君もまた、この奇妙な事象を自覚しているという事か」

「……奇妙な事象?」

 少女はますます不思議そうな顔になる。この反応は、少なくとも彼女自身には覚えがないという事か。

 アーチャーは手短に冬木の異変について語った。同じ四日間が、少しずつ形を変えながら繰り返している――その事を実感しているのは、衛宮士郎とサーヴァント達、あとは勘の良いものが何人かだけだ、と。

「同じ日が繰り返す、なんて……そんな事、どうやって」

 半信半疑に問いかけてくる少女に、アーチャーは肩をすくめた。

「原因は不明だが、おそらくは聖杯が何か悪さをしているのだろうさ。これだけ大規模な魔術――奇跡といってもいいような現象を引き起こすものがあるとすれば、それ以外あるまい」

「……そう、だね。聖杯なら、きっとどんな事でも出来る。どんな願いだって叶えてくれる……」

 遠くを見るような眼差しで、少女は呟く。揺るぎのない確信をもって紡がれた独り言に、アーチャーは眉根を寄せた。

 今のは、聖杯に一度でも関心を持った者の言葉ではないか。

 聖杯ならどんな願いも叶える。きっと自分の願いも叶えてくれる――基本的に、聖杯戦争に参加する魔術師は、その奇跡を勝ち取る為に命を賭けるものだ。

「……君も、聖杯がほしいのか」

 ふと疑問が口をついて出た。え、と七海が顔を上げる。それを見下ろし、アーチャーは視線をさらに鋭くした。

「君は外来の魔術師らしい。聖杯戦争についての知識があり、私――サーヴァントに対しても強いこだわりを持っている。

 となれば、記憶をなくす以前の君はアーチャーを使役して、聖杯戦争に臨もうとしていた、と考えられるのではないかね」

「……!」

 これまでの僅かな手がかりを組み合わせて出た答え。それをぶつけてみると、少女は目をみはった。驚きに顔がこわばり、体が震え、

「私が……アーチャーを……」

 呆然と呟いた。

(これも演技ではなさそうだな)

 その反応を冷静に見つめながらアーチャーは続ける。

「もっとも、前回の聖杯戦争で私を召喚したのは遠坂凛であって、君ではない。

 聖杯戦争が同時期に発生し、同じ英霊が呼び出されるという事はあり得ないし、もし君が私を使役した記憶があるというのなら、それは思い違いか――あるいは、それもまた聖杯の悪ふざけかもしれんな」

 少女は口を閉ざし、視線を宙に漂わせている。人の話を聞いているのだろうか、とアーチャーは再び顔をのぞき込み、

「君、聞いているのか?」

 声をかけた。途端、

「……っ」

 見開いた黒い瞳から、いきなり涙がこぼれ落ちた。

「な」

 不意のことに硬直するアーチャーの前で、少女はぼろぼろぼろっ、と大粒の涙を流し、

「うっ……え、あっ……」

 しまいにはしゃっくりあげて、本格的に泣き始めてしまった。

「な、おい、ちょっと待て、なぜ泣く……!!」

 今の話の流れでどうして泣き出すのか。元々女の感情的な思考回路は苦手だが、この少女は特別に扱いにくくて困る、こんなのはどう対処すればいいのか。

 人目が少ないバックヤードで良かったと思いながら、アーチャーは細い肩に手を置き、

「泣くな……頼む、落ち着いてくれ。どうしたんだ、一体……」

 我ながら情けなく狼狽えた声で、涙を流す少女を宥めようとした時。

「おいおい、こんなところで痴話喧嘩はよしてくれよ。出るに出られねぇじゃねぇか」

 ばたん、と倉庫の扉が突然開き、肩に段ボールを担いだ店員が出てきた――すらりとした長身の、青い髪を伸ばした青年が。

「なっ……ら、ランサー!? 貴様、ここで何をしている!」

 思いがけない男の登場に仰天し慌てふためくアーチャーを珍しそうに眺め渡し、ランサーは肩をすくめる。

「見りゃわかんだろ、バイトだバイト」

「ば、バイト?」

「ら……ランサー、ひっく……ば、いとって、こないだ、と、ちが……」

 こちらも驚いて少し冷静さを取り戻したのか、少女がしゃっくりあげながらも、ランサーへ問いを投げかけた。

「こないだってのはあれか、コペンハーゲンか。あっちはまー色々あって辞めてな。今はここで日銭稼ぎだ。――それはともかくだ」

 段ボール箱を床に置き、つかつか歩み寄ってきたランサーは少女を自分の方へ向き直らせ、顎を持ち上げた。

「あ……」

「どうしたよ、嬢ちゃん。この馬鹿に何かひでぇこと言われたか」

「っ……、ち、が」

 眉を八の字にして否定しようとする少女。その頬に流れる涙を親指で拭い、可哀想になぁ、とランサーはアーチャーをちらっと見た。

「何だかしらねぇが、あいつに詰め寄られて怖かったんだろ? 全く、朴念仁はこれだからなぁ、女の扱いってもんがまるで分かっちゃいねぇ」

「私は詰め寄ってなどいない。貴様の勝手な思いこみで非難するのはやめろ」

 いつの間にか少女の肩に手を回している槍兵に苛つき、アーチャーのこめかみに青筋が浮かぶ。いきなり出てきて、なんだこのなれなれしさは。しかも彼女も、なぜ抵抗しないでおとなしくしているのか。

「確かに事情はさっぱりわかんねぇが、七海が泣いた原因はお前だってのは合ってんだろ?」

「む……」

 原因についてはこちらが聞きたいくらいだが、自分の言葉が彼女の心の傷に触れた可能性は否定出来ない。つい言葉に詰まると、

「なら、俺の非難も的外れじゃねぇわけだ」

 ランサーはしたり顔で頷いてみせた。と、

「ち……違うのランサー、全然違うっ」

 不意に少女が声を上げる。え? と目を丸くする男二人の視線を受けた七海は、ごしごし涙を拭いながら、

「これはあのっ、私が勝手に泣いてただけでっ……アーチャーは全然悪くないの! だから、アーチャーの事、悪く言わないで……」

 ランサーの服の裾を握りしめ、懸命に訴え始めた。

 泣いた名残で声を震わせ、頬を紅潮させ、潤んだ瞳でランサーを見上げる少女は、――自分をかばう言葉を口にしているのだがなぜか、ランサーに情を請うようにも見える。

「――っ」

「きゃっ!?」

 それを認識した途端、アーチャーはとっさに少女の手をつかみ、ぐいと引っ張った。

 失礼する、と荒れた声をランサーに投げつけ、カートを押し、もう片方の手で少女を引きずるようにしてその場から離脱した。ずんずん、と勢いに任せて歩きながら、

(何だこれは。私は何を苛ついている)

 頭の片隅で冷静な自分が心理状態を分析し始める。

 ランサーは天敵だ。顔を合わせれば険悪になるのはいつもの事だ。

 しかし先ほど、少女を引き寄せたランサーに抱いた感情は、常の苛立ちとは、全く違う何かで……

「あ、アーチャー、ちょっと、待って……速いよ……!」

「!」

 道行く人々をひきかねない勢いで歩いていたせいか、少女が音を上げたので、アーチャーはハッとして立ち止まった。

 しまった、彼女の事など何も考えずに引きずり回してしまった。

「あぁ、すまない……大丈夫か」

 手を離して振り返ると、少女は頷いて、それからごめんね、と小首を傾げる。

「? 何がだ」

 謝るのならむしろこちらの方だろう、乱暴に扱ってしまったのだから。疑問の表情を浮かべるこちらを見上げ、七海は眉を下げて、

「急に泣き出しちゃって、ごめんなさい。何だかよくわかんないけど、急に胸がきゅーって苦しくなって……でも、アーチャーのせいなんかじゃないよ。私が勝手に泣いてただけだから、気にしないでね」

 そんな事を言う。泣いた理由は本人にも理解出来ていないのか。

「いや……私は気にしていない。だが……もし泣くほど辛い事を思い出したのなら、誰かに相談すればいい。凜をはじめとして、君の周りにはお節介な連中が多いからな。何か力になってやれる事があるだろうから」

 語りながら、アーチャーは何気なく、さっきランサーが触れた彼女の頬に自分も手を当て、涙の跡をなぞった。手の下でびくりと震えが走り、少女の柔らかい肌に、さぁ、と血の気が上る。

(……だから、私は何をしているんだ? こんなランサーみたいな真似をして)

 それを見て、アーチャーはまたも我に返った。触れた温もりが、妙に気恥ずかしい。

「……ともかく。今日のところは早々に買い物を済ませよう。あの馬鹿がまたやってこないうちにな」

 ぱっと手を離し、人々が行き交う店内へと視線を戻す。カートを押して歩き始めると、少女はうん、と頷いてアーチャーの隣に並んだ。

(少し……近すぎじゃないか?)

 その距離が、店に入った時よりさらに近くなっている事に戸惑い、アーチャーは不自然なまでに七海から目をそらすしかなかった。

 駄目だ、やはりこの少女、何だか分からないがとても苦手だ……!!

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