北条加蓮の話をしようと思う。
そう、北条加蓮だ。
ネイルが趣味で、髪型を気分次第でコロコロ変える、ポテトが大好きな──少女である、北条加蓮の話。
負けず嫌いで、素直じゃなくて、一途で頑張り屋な──アイドルである、北条加蓮の話。
語り部である俺が言うのもなんだが、語る側の俺が言うのもなんだが、中々に数奇で奇跡的な道を歩いてきた、北条加蓮の話を。
奇跡なんて言葉は、本人は嫌がるかも知れないけれど。
北条加蓮の、これまでの話をしよう。
北条ってやつが、どんな風に北条になったのか。
成るべくして成ったのか。
アイドルになったのか。
そんなことを語っていこう。
語り尽くして、語り明かして、語り残して──大きな痕を残していこう。
遠くからでも、よく見えるように。
見逃すことがないように。
一言では語れない北条の人生の、一年間にスポットライトを当てて、彼女が中学三年生だった頃の話をしよう。
北条にとっては劇的で、喜劇的で──悲劇的だった、彼女が生まれ変わった一年間の話を。
語り部が俺であることに一抹の不安を抱いたかも知れないが、その不安は酷く正しいと俺自身も思うけど、話の全体像を把握しているのは、きっと俺しかいないから。
本当はもっと語るに相応しい人間がいるんだってことは分かっているけれど、なんなら北条自身に自分自身について語ってもらいたいところなのだけれど、山々なのだけれど。
今回だけは、俺が語ろう。
うん、前置きはこれくらいでいいだろうか。
まず最初に、場所について話したい。
物語の舞台、いつもの場所。
北条加蓮という、一人の女子について話すとき、または一人のアイドルについて語るとき、切っても切り離せない場所。
本人は普段から話題から切り離しているし、伝える必要がある時だって、話す相手を、語る相手をしっかり考えているけれど、だから彼女とあの場所の関係を知らない人間の方が、この世界には圧倒的に多いのだけれど。
でも。
それでも。
そうだとしても。
彼女にとって切り離せない、切り捨てられない場所がある。
俺が語る北条加蓮の物語は、あそこから始まる。
あの、409号室から。
北条加蓮の、そしてある意味では俺とあの人の物語が。
あの日のことは、昨日のことのように──までとはいかないが、よく覚えている。
北条もきっと、まぁ本人は忘れたいと思っているかも知れないが、覚えているに違いない。
俺と彼女が、初めて会った日。
俺が、北条加蓮に出会った日。
そこから話を始めるとしよう。