そういうとこだぞ北条!!   作:パンド

2 / 12
そういうとこだぞ──!!

 

 

「お、おじゃましまーす」

 

 ドアを開けると、部屋はとても静かだった。

 あまりに静かで、ドアの閉まる音すら場違いだと思えるくらいには。

 俺が部屋へ踏み入り、足音が鳴っても、なんの返事もない。無反応の無応答だ。

 呼ばれて来た身としては、少なからずリアクションがあるものだと思っていので、なんというか拍子抜けである。そこまで広い部屋でもなかったので、お目当てのもの──というか呼び人はすぐに見つかった。

 視線の先にはベッドがあって、白いシーツの敷かれたその上に、一人の人間が横たわっている。

 性別は女性。

 白過ぎる肌は蛍光灯に照らされ際立ち、明るい茶髪が肩口まで伸びていて、毛先には緩いウェーブ。

 目蓋はピッタリと閉じており、彼女が眠っていることは誰の目にも明らかだった。

 ……人のことを呼び出しといて、呑気に寝てくれちゃってまぁ。

 

「おーい、来たぞー」

「…………」

 

 とりあえず呼びかけてみた。

 ……返答なし。

 俺の声が届いた気配もなく、睫毛の一本も動きやしない。完全に熟睡してるなこれ……仕方ない。

 

「おいってば」

「…………」

 

 そう言って、ユサユサと軽く肩を揺すってみる。

 ……またもや返答なし。

 普通の人なら目を覚さないまでも、眉間にシワを寄せたり、喉を鳴らしたり、なにかしらの反応を見せてもおかしくないのに、全くの無反応であった。

 

「…………」

「…………」

 

 無言でもう一度肩を揺する。

 仰向けになっていた首が、コテっと横に倒れた。

 でもそれ以外は無応答で、無音だ。

 俺が黙ると、部屋には最初から誰もいなかったように、ただただ静かだった。

 聞こえるのは自分の呼吸音くらいで……あれ? おかしい、それはおかしいぞ。

 なにがおかしいって、聞こえる呼吸音が俺のだけだってとこだ。寝てる人間だって呼吸はする、むしろ意識がない分、無意識に規則正しく呼吸をするはずなのに、それらしき音がしない。

 これじゃあまるで。

 

 ──まるでこの部屋に、呼吸をする人間が俺しかいないみたいじゃないか。

 

 嫌な予感とともに、俺はそいつの胸元を見た。呼吸をしているのなら、肺の運動に合わせて、上下に動いているはずの胸元を。

 動いてない。

 ピクリともしない。

 時が止まってしまったように、その胸は沈黙している。

 

「……うそ、だろ。なぁ、しっかりしろって!!」

 

 慌てて肩に触れ、声をかけるがやっぱり反応してくれない。

 今になって見てみれば、穏やかな顔はこの世に未練のない風に見えなくもなくて。

 呼吸が荒くなる。

 呼吸をしていない彼女との帳尻を合わせるように、酸素を取り込もうと肺が必死になる。そんなことをしたって、なんの意味もないと分かっていても。

 でもなんで、こんな急に。

 おかしいだろ、どうして……いや、今は早く助けを呼ばないと。

 隠しきれない動揺を押し殺し、俺は助けを呼びに行こうとした。まだ間に合うかもしれない──違う、絶対に間に合わせる。

 そう決意して、俺は部屋を出ようとした。

 出ようとして、ベッドに向けていた左手を掴まれて思い切りつんのめった。

 急なブレーキに旅立とうとする上半身を、気合いでなんとか押さえ込む。

 ……は? どういうこと?

 振り向くと、鳶色の瞳と目があう。

 そして、瞳の持ち主は俺に向かってニカっと笑い、屈託のない笑顔で言い放った。

 

「いぇーい、ドッキリ大成功!!」

 

 ドッキリ、大成功。

 投げかけられた、その言葉の意味を咀嚼する。一回噛み締めるたびに、荒れていた呼吸が落ち着いていく。

 あぁ、そういうことか。

 俺は察した。

 つまり、こいつは死んだフリで俺に一杯食わせたわけだ。ご丁寧に呼吸を止めて、気づかれないように文字通り息を殺して。

 ははぁーん、そうかそうか。そうやって本気になって慌てた俺を見て、密かにほくそ笑んでいたわけだ。

 やってくれたなこのチクショウ。

 そして俺は、こんなしょうもないドッキリに付き合わされて怒り心頭の俺は、自由になっている右手で手刀の構えを取り。

 

「あっ、ちょ──」

 

 問答無用に、その能天気な脳天目がけて振り下ろした。

 いや本当、そういうとこだぞ──!!

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。