早朝 花咲川 弓道場
「I don't.....I dom't.....」
僕はひたすらに唱え続ける。それが中学生レベルであっても、周りから引かれようとも覚えなければならない。
シュッ....ドン
「.....風野く....先生、もう少し静かに射てもらえませんか?」
「氷川さん、ゴメン.....これはやらなきゃいけないんだ。」
「どうして雑念だらけなのに、矢はしっかりと中心を射ているんですか.....悩みがあるなら、付き合いますよ?」
氷川さんが心配そうに寄ってくる。しかし今ではない.....今はまだ氷川さんに頼るときではない。
「英語が出来ないんだけど.....でも、自分でなんとかするよ。これは氷川さんに頼る以前の問題だし。」
「そうですか、勉学に励むことはいい事ですよ。.....しかし、とりあえず稽古の中でブツブツいうのは辞めてもらえませんか?」
「えっ、ちょっ!!?」
振り向くと氷川さんがこっちに弓を構え、射ようとしていた。咄嗟に飛んできた矢を掴み、なんとか助かる。.......玩具の矢だった。
「氷川さん!!?ビビるからホントやめて!!」
「ごめんなさい、手が滑りました。」
「手が滑りました、じゃないよ!!!というか真顔で言わないで怖いから!!!あと人に向けない!」
「しかし先生、先生の一挙一動にはここに居る皆が気にします。それをご自覚なさった上で、ここにいてください。」
「はい、すみませんでした.....」
「はぁ.....手のかかる方です。」
そう言いながら氷川さんは微笑んでいた。入学した時よりもすごく表情が柔らかくなったなと改めて思う。
後輩(氷川先輩って、先生と絡むと可愛いよね。)
後輩(分かる!普段の凛とした感じとは違うよね。)
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昼休み
「.....ということがありました。私が言うのもなんですが、生真面目で融通が利かないんですよね。」
「風人くんも真面目ね.....今のって惚気かしら?」
「惚気.....いえ、私はそのような。」
「前々から気になっていたけれど、紗夜ちゃんって風人くんの事どう思ってるの?」
私は気になったことを言う。風人くんが1番関わっている女性が私なら、紗夜ちゃんはおそらく2番目にあたる。それに紗夜ちゃん自体も風人くんに対してはいい印象を抱いている.....どうなのかしら。
「好きですよ。」
「!!?」
躊躇う様子もなく、紗夜ちゃんはキッパリ言う。嘘、こんなに近くに恋敵がいたなんて.....
「へ、へぇ.....そうなのね。す、好きなのね.....」
「千聖ちゃん....お箸揺れてる.....」
花音に指摘され見てみると、本当に震えていた。これは武者震い.....それとも恐怖.....紗夜ちゃん、恐ろしい子。
「.......!!ま、待ってください!語弊です!好きというのは本当なんですが、ただ.....それは白鷺さんが向けている感情とは違うと思います。どちらかというと親愛というか.....弟がいたらこんな感じなのかなと、家族みたいな感じです。」
「家族....なるほど、そういった感じなのね。」
少し安心した。紗夜ちゃんが恋敵になったらとても手強いと思った.....だって私より接点多いし。それに風人くんの隣に立っても、ほとんど違和感を感じない。ある意味それが怖い。
「ただ.....風野くんが男女としてのお付き合いをしたいと言われたら.....やぶさかではない、とは思います。」
ギュルン
「ふぇぇ.....千聖ちゃん、すごく怖いよぉ.....」
紗夜ちゃん、それを人は好きというのよ。無自覚なのかしら。
「.....ふふっ、冗談ですよ。私は恋には疎いのでよく分かりません。ただ、揺るぎない人間性があればと思っているだけです。」
冗談には見えなかったわよあの時の表情.....紗夜ちゃん、いつの間に頬を赤らめるなんて技を手に入れたのかしら。
「心臓に悪い冗談ね.....ふぅ。」
「からかうような真似をしてすみません。白鷺さんにこれほど想われている風野くんは幸せ者ですね。」
.....すごく見透かされた気分はするけれど、何はともあれ紗夜ちゃんが恋敵にならないことが確定して、内心ホッとした。
「女優の事は、話したのですか?」
「まだよ。.....言えないわ。」
「誰よりも信頼しているのに、ですか?」
「信頼しているからこそよ。今の関係が全て欺瞞であって欲しくないの.....」
ちょっとやそっとの事で態度を変えるほど風人くんは心の狭い人じゃない。けれど、優しい風人くんだからこそ、私が女優と知ればどうなるのか分からなかった.....
「.....実るといいですね、その恋が。応援してますよ。」
「私も、応援してるよ千聖ちゃん.....」
「ありがとう。」
「話を戻しましょう。英語の件ですが、風野くんは自力でなんとかしようとしてましたし、私は風野くんから頼まれない限りは干渉しないようにはします。ですがお手伝いが必要であれば、いつでも呼んでください。」
紗夜ちゃんが話題を戻してくれた。あまり触れられたくない話題だって分かったのかしら。
「私も.....教えてもいいかなって思うな。千聖ちゃんに協力するよ!」
紗夜ちゃんは基本的には不干渉、花音は手伝ってくれると申し出てくれた。これなら風人くんも集中できる環境が出来そうね。
「2人ともありがとう。頼りになるわ。」
「気にしないでください。風野くんの赤点は何も今に始まった話ではありませんし.....私もそろそろどうにかしないとと考えてました。後輩が入ってきた以上、面子にも関わってくるでしょう。」
「確かに.....」
書道の授業では、達筆で、歴史にも詳しい知性溢れる雰囲気が出ているけれど、それと武道以外はてんでダメ.......ギャップ萌えしてしまうかも。
「それはそれで.....アリね。ギャップが可愛いわ。」
「ふぇぇ.....でも、赤点だったら宿泊研修に参加できないんだよね....?」
花音の一言で一気に現実に引き戻される。
「.....そうね。腑抜けていたらダメよね。2人ともありがとう。今からテスト範囲の総まとめと風人くんの為のオリジナルテキストの作成に入るわ。」
私は2人に礼を言い、教室に戻る。色々不安要素を吐いたからか、気持ちがすごく軽かった。友達がいるってやっぱり凄いことなのね.....
「あはは.....行っちゃったね。」
「あそこまで直球な白鷺さんを見るのは風野くんが関わっている時だけですね。楽しそうで何よりです。」
「うん.....けど、もどかしいよね。なんか、2人とも引き気味というか、控えめだから.....進展しない。」
「そうですね。当人達の問題ですから、関わるべきでは無いでしょうが.......さすがに両想いなのにここまで進展が無いといじらしいですね。松原さん。私たちで後押ししましょう。プランを組み立てましょう。」
「ふぇぇ.....紗夜ちゃんが恋愛コンサルタントになっちゃった.....」
短い。
パスパレ花嫁ってマジですか?まぁ千聖さんはお知らせ見る限り報酬らしいので一息つけました.....