攻めろ!!千聖さん!!   作:面心立方格子

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田村書店に新しいラノベは無いかなと探しに行ったら赤本コーナーで真剣に見てる学生の姿が。もうそろそろそういう時期なんだな.....と思いましたね。


心清らかなれば

「それで、上手くいきましたか?」

 

「多分....一応服は買ったし、着こなし方も若宮さんが絵にして渡してくれたから忘れても大丈夫なはず....」

 

「そうですか、安心しました。」

 

朝の稽古が始まる前の弓道場を綺麗にしながら氷川さんと雑談をする。僕は稽古がある日は基本的に朝早くして稽古場を綺麗にする習慣を付けているから早いのは当然なんだけど.....なぜ氷川さん、こんなに早いんだ。

 

「不思議ですね。普段はあんなに意識が他所に飛んでいたり、若干だらしない風野くんがこういう時は必ず早いんですよね。」

 

「慣れてるから。小さい頃から、こうやって朝に自分が稽古する場所を手入れするのは習慣のようなものだし、何より母からそう言われ続けてきたから。」

 

「出来れば普段の怠惰な生活の様を、お義母さまには治して欲しいものですね......毎回服装を整えさせられる私の気持ちにもなってください。」

 

「手を煩わせてごめんね....次からは白鷺さんに見てもらうよ。」

 

「....別に嫌という訳では無いんです。ただ、シャキッとして頂いた方が風野くんにはしっくり来ますし、そっちの方がかっこいいですよ。」

 

(出来れば風野くんのこういう一面は私たちだけが知ってる方がいいですし.....)

 

「そう...なのかな?ただなんと言うか....どうしても力が出ないんだよね。何も無い時は。毎日鍛錬は怠ってはいなんだけど、何でかそうじゃない時は体が全く言うことを聞いてくれなくてさ......」

 

「.....ちょっと待ってください。」

 

「え?」

 

今まで作業をしていた氷川さんが手を止め、こちらを見る。その目付き、正に鬼神の如き.......

 

「その理屈で行くと....風野くん、授業をちゃんと聞いていますか?」

 

「................」

 

弓道場を静けさが支配する。受けてはいる、受けてはいるが......何をやっていたかを思い出せない。氷川さんの冷たい視線が痛い。

 

「も、もちろん聞いてるよ.....姿勢もちゃんと正してるし、聞いてる聞いてる......」

 

「怪しいですね。本当に聞いてますか?言っておきますが、音声を聞き取ることを言ってるわけではありませんよ?内容を理解しているかという意味での『聞く』ですからね。」

 

氷川さんは、どうしていつも僕を窮地に追い込んでくるのだろうか.....白鷺さんとのやりとりでこういう場面は結構あるが、追い込み方が氷川さんの方が激しい。白鷺さんは、逃げ道をひとつずつ潰していく策士だが、氷川さんの場合は一気に追い込んで後に引けない状況を作り出す。

 

「どう、かなぁ.....」

 

「その様子だと、おそらく昨日の授業で何を教わったかと怪しいようですね。あなたは様々な事をこなせる器用さはお持ちなのですから、もう少しそれを勉強にも向けて欲しいです。」

 

氷川さんは、はぁとため息を付く。しかもこれでもかというほど大きめだった。

 

「うっ.....ま、まぁこの話はまた後でも出来るから....」

 

「それもそうですか.....では風野くん、いつも通り髪を整えてください。」

 

「うん、分かったよ。」

 

朝の稽古の時は朝から気を引きしめるために氷川さは髪を結ぶ。どういう訳かいつも間にか僕の仕事になってはいるけど.......

 

 

(え、紗夜先輩可愛すぎでしょ......何あの顔。めっちゃ嬉しそう)

 

(あれで付き合ってないとかおかしいっしょ.....)

 

(というか風野くんも風野くんっしょ。全然躊躇い無いのもやばいって。下心無さすぎでしょ。子供じゃん。)

 

(あ、分かる。なんかお母さんのお手伝いしようとしてる子供みたい。)

 

そしてその朝の準備の一連の光景を見ることが後輩たちの日課のようなものになっていた。

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昼休み 屋上

 

「......という訳で、白鷺さん。お手数ですが、出来れば1日の終わりに風野くんにその日に習った事を復習するよう促してください。」

 

「うーーん?それはいいのだけれど.....紗夜ちゃん、いくつか看過出来ないことがあったわよ。」

 

「そうですか?別にやましい事は何もしてはいませんが....」

 

紗夜ちゃんは、無自覚だった。大丈夫かしら、風紀委員なのに風人くんへの風紀メーターがちゃんと作動していない。

 

「まず、早朝に風人くんと2人きり.....?私なんか、場合によっては朝に顔を見られない日もあるのよ?風人くんも挨拶くらいしてくれてもいいのに......」

 

「ちょっと待ってください!決してやましい意図があって朝会ってる訳ではありません......風野くんが朝早くから清掃をして準備をしているのを知って感心したんです。ですから私も彼に見習って、きちんと行動しようと思ったんです。」

 

「なら部全体でやった方がいいんじゃないかしら?弓道場の清掃はどう見ても2人で出来るキャパじゃないと思うのだけれど。」

 

「確かにそれはそうなのですが.....私たちが自主的にやっている事をわざわざ他の皆さんに強制するのはいけませんし。何より.....」

 

「何より?」

 

「なんと言うべきか.....風野くんと準備をしている間は、不思議と心が晴れていくんです.......雑多な中練習するのとは違って、静けさと朝の涼しさがある中にいることが合うんです。それに風野くんの所作がどれ1つ取っても端正で......見ていて、心が自然と清らかになるんです。口を開けばいつもの風野くんになりますけど.......」

 

待って。想像以上にギルティだった。私は今、無自覚な惚気話を聞かされていたのかしら。確かに風人くんは、そのだらしない所を除けば本当に見ていて無心の境地に達しているのか、まるで別人のように見違える。実際私も家に言って稽古場を清掃している風人くんを見るとそういう気持ちになる。けど、私以外にもこの気持ちを持ってる子がいるなんて......それ、惚れてると一緒なのよ。やはり紗夜ちゃんは最大のライバル....

 

「それはそれとしてあのだらしなさはどうかと思います。あそこまで落差が出るのもどうかと思いますし、何より授業を理解して聞いていないのは大問題です。しかしどうしてあそこまでON/OFFの落差が激しいんでしょうか。風野くんは決して要領が悪いわけでもないですし......」

 

さっきまでの表情が和らいでいた紗夜ちゃんがいつもの毅然とした紗夜ちゃんに戻った。後輩の間で紗夜ちゃんが人気なのはこういう所もあるかもしれないわね.....

 

「要領、すごく悪いわよ。」

 

「そうなんですか?白鷺さんがそう言うならそうなんでしょうか.....」

 

「風野家で学ぶべき事や、武道や作法に関しては天才と言っていいほど吸収するの。でも何故かそれ以外が壊滅的なの。あ、あとおせち料理とか恵方巻きとかも作れたからそこは抜いておかないと.....」

 

「.....つまり、特定分野での才能は突出しているけれど、それ以外はてんでダメ、という所ですか。」

 

「そういうことよ。おそらくお兄さんの影響もあるだろうけど......今はあの人は風野家にはいないし、分家の香奈ちゃんはしっかりしているから本当に何でかしら.....」

 

謎が深まるばかり。普通真面目な性格ならどんな方向にだって手は抜かないし、器用な人なら最低限はこなす。

 

「とりあえず、この件は白鷺さんにお任せします。白鷺さんの方が私より風野くんの事を分かっているでしょうし。」

 

「ええ、任せて。でも女優で忙しい時もあるからその時は紗夜ちゃんにお願いするわ。」

 

「はい。家に来てもらって出来るまで返さないつもりでやります。」

 

家に異性をあげる事になんら危機感を抱いていない紗夜ちゃん.....確かに風人くんは他人の家で異性を襲うような獣ではないけれど......私なんて長い時間共に過ごしている筈なのに進展がひとつもない。朴念仁にも程がある。

 

「そ、それはどうかしら......日菜ちゃんもいるのだから、やめておいた方がいいと思うわ。意外かもしれないけれど、風人くんって私の家にあがったこと殆ど無いのよ。」

 

「そうなんですか?てっきりもう何度も経験があると思っていました....」

 

「年始におせちを渡しに玄関に来ることはあってもあがったことは無いわ。理由分かるかしら?」

 

「やはり女優であることを隠すためですか....?」

 

「それもあるけれど....別の理由よ。」

 

「別?」

 

 

「......風人くん、インターホンを使えないの。」

 

「え......」

 

「インターホンを使えないから、まず私たちに来たことを伝える方法が無いのよ。」

 

「ノ、ノックをすれば良いように思われますが.......」

 

「確かに門を叩けばいいのよ。ただ風人くん何故かそれをしないのよ。」

 

「少し抜けてませんか.....?ではどうやって。」

 

「鷹よ。」

 

「鷹?」

 

「私の部屋、上の階にあるのだけれど.....鷹を遣わせて2階にいる私に知らせるのよ。」

 

「えぇ.....」

 

さすがの紗夜ちゃんもドン引きしている。それはそう、私も最初にやられた時は魂が抜けるかと思ったわ......だって本を読んでいたら、いきなりデカい鷹が窓の前でこっちを見て飛んでいたの。

 

「......英語以前に、常識から教えた方が良いですね。」




どうせ大学編をやるなら、私服とモーションの種類増やして欲しいですね。
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