風野家
「風人くん......少しは成長したようね。」
「......何点?」
「13点。」
「あっ....」
テスト週間というのもあり、風人くんの家に泊まり込みでテスト勉強をしている。泊まり込みで。
「50点満点のテストだから、そこまで落ち込む事では無いわよ。前やった時は0点だったから大きな進歩よ。」
「だ、だよね。」
「とはいえ、まだまだ足りないわ。目標は30点。まずは6割を超えなければいけないわ。花咲川のテストの平均点は基本的に60点なの。赤点が平均点の2/3の数値だから、約40点。」
「な、なら40点でも.....」
「何を言っているのかしら?平均点が変わったらその分赤点も変わるの。というより....普段武道とかに向けてるやる気を向けなきゃダメよ。」
「うっ....それが、どういう訳か苦手な物に対しては極端に苦手なままで....」
それは私も知っている。風人くんが家業に対しては天才的な吸収力と、集中力を出す。だけど.....それ以外が本当にダメ。生活録を使ってもまともに日常生活をこなせない.....本当にどうなってるのかしら。
「....どうしてこうなるのかしら?」
「それが僕にも....おそらく、幼い頃から全く関わって来なかったからかな....」
「確かに驚くほど遮断されてたものね。....どうにかしてその壁を壊さないといけないわね。」
必ず壊さないといけない。元々風野家って、いわゆる空手道場や茶道教室も含めて.....そういった武道や華道とかで教える師範や先生を、協会と連携して育てることも仕事に入っている。時々海外遠征もしていて、今家に風人くんが1人なのはそれが理由。ということは英語なりなんなり.....外国語が出来ないことには話にならない。いずれ妻になる身として....これは解決しないといけない。
「テスト形式でしていてもダメね....実戦形式でいきましょう。」
「実戦?」
「紙の上で書いてそれを覚えても、体系化出来ていない場合、風人くんには合わないかもしれないの。だから今から実験として....実戦の中で入れ込む形で行くわ。」
「ちなみにどうやって...」
「しのごの言わないの。ついてきて。」
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弓道場
「あの、白鷺さん....何故弓道場に。」
「とりあえず、身近にあるものを英語で紹介してみて。後、今から私に物事を聞く時も全部英語でお願いね。」
「ちょ、ちょっと待ってそんないきなり....」
「いいからやりなさい。私がいつまでも甘々だと思ったら大間違いよ。」
「お、ok....(というか全然甘くないよね....)」
心を鬼にして風人くんに言い聞かせる。突然の難問に慌てふためく風人くんの顔も可愛いわね。.....新しい扉が開きそうだわ。そういう可愛い反応する方がいけないのよ。
「W、well.....」
「とりあえず、私に身の回りにあるものを説明してみて。それから、普段過ごしていることを英語で。難しかったら日本語を時々入れてもいいから。」
「ええと......あっ、これ!」
風人くんは矢を持ってきてこっちに見せてくる。何このフリスビー取ってくる子犬のような純真さ......
「What's this?」
中学一年生レベルであるがここから始めてみる。
「This is.....」
【悲報】風人くん、arrowが思いつかない。まぁこれは記憶の問題だからそこまで気にしなくていいわね。
「This is arrowね。まぁbe動詞は大丈夫みたいね。じゃあ...そうね。What are you going to do after this?」
この後の風人くんの予定は、道場の清掃、私と一緒に晩御飯の支度、仏間の供え物、......ざっとこんな感じかしら。さてどう英訳するのかしら.....
「.........」
黙り込む。そんなに難しい質問したかしら。
「えっと....風人くん、どうかしたのかしら?」
「.....道場が分からない、よそうって英語でどう言ったらいいんだろ?」
「あー.....そんなに難しく考えなくても良いわよ?普通に、I'm going to clean up the dojo. とか。I'm going to make supper.とかね。.....普段使ってる日本語と、英語の切り替えが難しいのと、おそらく頭の中でまだ意味のリンクみたいなのが出来てないのかしら。」
「そう、なのかな.....?何を言っているか分からないけど。」
「(ならまずはそこから.....)風人くん、しばらくはこれを続けましょう。おそらく初歩的な学習を始めるのは、頭の回路をちゃんと作ってからの方が風人くんはしっかりと学べるはずよ。」
そうして、風人くんの英語混ぜ合わせ生活が始まった。本当なら平均点くらいまでは勉強して欲しいという本音はあるけれど...急いては事を仕損ずる。出来れば6割、及第点として4割、を目標として勉強を開始した。
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考査前日 3-A教室
「..........」カリカリ
「集中していますね....白鷺さん、よくここまで。」
「風人くんの為だから、苦痛は無かったけれど....疲れたわ。」
「前までなら、数分でもう意識がどこかへ飛んでいましたからね。大きな進歩です。」
私と紗夜ちゃんの監視の下、放課後に最終確認のテストを行っている。数日間、ひたすら英語に触れさせた事もあっていつもより風人くんは集中して問題にあたっている。シャーペンも最近はちゃんと使えるようになってきている。......たまに筆みたいな持ち方をする癖は抜けてないけれど。
「......専門外の事は基本的に何も出来ない、という認識は改めるべきでしょうか。」
「いえ、まだ変える必要は無いわ。今回は私が半ば強制的に環境を整えたもの。まだ風人くんが自分の意思で、自発的に始めて終わらせられるようになるまでは時間がかかるでしょうし......」
「普段と違って、随分と厳しい評価を付けるのですね。」
「勿論、今回の成長は褒めるべきことではあるわよ。ただ風人くんは、ちゃんと成果が出てから褒めないと納得しないところがあるから......特に、テストみたいな目に見える結果が現れるような物は。」
「本当に詳しいのですね...驚きました。」
40分後
「終わったよ。」
「えっと.....47分22秒。試験時間が60分だから、時間配分は上出来ね。それと....解答欄は、かなり埋まってるみたいね。」
「では採点をしますので少しお待ちください。」
そして解答用紙を紗夜ちゃんが受け取り、慣れた手つきで採点を始める。〇が続くところもあれば、✓が続くところもある。記述問題は細かく印を付けつつ採点をする。紗夜ちゃん、すごいわね....
「おおー....あっ」
〇が付いたり✓が付いたりするのと同時に風人くんが小さな声を出す。特に自信があったであろう問題が間違いだと分かると、目に見えるくらい落ち込む。子供みたいで可愛い。紗夜ちゃんもそれが聞こえてくると少し微笑む。母性、感じてるのね(敵意)。
「終了しました.....風野くん、進歩はしていますね。」
「ちなみに、何点?」
「46点です。100点満点でこの点数なら、申し分ない成長でしょう。よく頑張りましたね。」
「はぁ....良かったぁ.....」
「これならなんとか赤点は逃れられそうね。それにしても....1週間近くでここまで変われるのは驚きよ。中学の時からこうしておいたら良かったかしら。」
「僕の頭もそろそろ限界.....」
「しかし、本当に謎ですね.....1週間という短い期間でここまで変われるというのに、この実社会への疎さはどこから......もしかしてずっと家の中に閉じ込められていたんですか?」
「いや、別にそういう訳じゃ.....」
「それはまた、火凛さんが帰ってきたら聞いておくわ。とりあえず風人くん、間違ったところを総括して明日を迎えるわよ。」
「うん。」
大学生編が実装するということは、共通テストとか2次試験のイベントもあるのかな?あったら生々しい.....