風野家
羽沢さんに和太鼓を教えるために家へ招待した。どうやらご友人にもバレたくないらしくここが1番安心して練習できる場所、らしい。当然白鷺さんもいる。僕はあんまり知らない異性と会話をするのは得意ではないのでいてもらった方が僕はありがたい。
「へぇ.....蘭ちゃんみたいな家なんですね!」
「蘭ちゃん....?」
「この前華道で交流したでしょ?あそこの美竹さんの家の娘さんが蘭ちゃんって名前なの。」
「あぁ、あの1部が赤い髪色をしていた.....」
「ところで、ここの扉だけ少し大きいですけど、大広間なんですか?」
「そこですか?そこは稽古場となっています。普段は腕が鈍らないように続けていますが .....」
「風野さんって剣術とかできたりするんですか!?」
「えっ.....」
何故か急に興味津々といった様子が現れ、少し驚いています....今日ここに来たのは和太鼓をやる為、ですよね?
「剣術とは少し違いますが.....殺陣、であればできます。」
「少し、お家を見学していっていいですか!?」
「ど、どうぞ.....」
羽沢さんの勢いに押され、許可を出す。それほど興味があるのだろうか.....
「ふふっ、つぐみちゃんも元気ね。」
「はい.....このように家自体に興味を持ってくださる方はほとんどいらっしゃらないので、少し驚いています。」
「この辺りじゃ、蘭ちゃんと風人くんの家くらいだからね。こういう和風建築の家は。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1時間後
「それでは、宜しくお願いします。」
「よ、宜しくお願いします!」
家の見学が終わった後、僕と羽沢さんは服を着替えて、用意した和太鼓の前に立つ。白鷺さんは横で座りながら見学をしている。少し楽しそうだ。
「ではまず基本からいきます。」
その後、僕は羽沢さんに持ち方や距離、基本的な叩き方などを教えていく。羽沢さんも飲み込みが速く真剣に打ち込む。
「.....白鷺さんもやりますか?ずっと見ているのも暇でしょう。」
「遠慮しておくわ風人くん。真剣な練習の邪魔にはなりたくないの。」
白鷺さんは遠慮し、僕は再び羽沢さんの方を向く。.....桴が重いのか、少し疲れた様子をしている。
「少し休憩しますか?ずっとやってばっかでは疲れますし。」
「い、いえ!まだ大丈夫です!せっかくの機会なので、もう少し練習させてください!」
.......もしかして、今日しかできないと考えているのだろうか。別にそんな事はないのだが.....
「焦る必要はありませんよ。何も今日だけというわけではありませんから。」
「.....え?そうなんですか?」
羽沢さんが少し驚いた顔でこちらを見ている。やはり今日限りだと考えていたのか.....
「また事前に声をかけて下されば、部屋は確保します。それにこういったことは日進月歩.....日々の積み重ねが大事なのです。もちろん羽沢さんのような真面目な方であれば練習はするでしょうが......本物で練習することに越したことはありません。」
「何から何まで親身にありがとうございます。」
「ただ僕も花咲川で書道を教えている身ですので.....ですので、これを渡しておきます。」
そう言って僕は2人を部屋に待たせ、物を取りに行く。
3分後
「こちらを使ってください。.....ただ、来られる際は事前にお伝えください。」
「これ.....鍵、ですか?」
「はい、合鍵です。」
「合鍵!?」
ゾッ.......僕がそう言った刹那、横から殺気が飛び出した。そしてその殺気を放った.....白鷺さんが僕の手を掴んでいた。
「風人くん、何をしているのかしら?」
僕を見る白鷺さんの目は.....驚くほど冷たかった。.......でも白鷺さんも、僕の家を持っているじゃないか.....
「そ、そうですよ!さすがに合鍵は受け取れません.....防犯上よろしくないですし。」
羽沢さんがアワアワしながら身振り手振りで説明をする。
「羽沢さんはその合鍵を悪用するのですか?」
「し、しませんけど!受け取れない物は受け取れません!!」
「そうですか....ですが困りましたね.....それでは僕が家にいる時にしか.....」
「そこで、私を頼ればいいのよ風人くん。」
そして先程の殺意が消え、得意げな顔で白鷺さんが鍵を回していた。先程の殺意はなんだったんだろう。
「それでは二度手間に.....」
「いいの風人くん。それくらいの事ならしてあげるわ。(仕事があるかもだけれど.....風人くんの家に寄るくらいなら大した時間も取らないし。)」
「いいんですか?千聖さんも、忙しいと思うんですが.....」
「別にそれくらい大した事では無いわ。それにずっとという訳でもないでしょ?」
その後、白鷺さんと羽沢さんが話し合って連絡の方法などを決めていた。白鷺さんは本当にこういう場面で頼りになる.....改めてそう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方 練習後
「今日はありがとうございました!!風野さんにも、改めてお礼をさせてください!!」
「いいのよつぐみちゃん。風人くんは優しいから。」
風人くんは和太鼓や桴などの片付けをしている為、私がつぐみちゃんを見送りしている。
「それにしても不安だわ.....風人くん、人が良すぎるから合鍵を渡す時に躊躇が無いもの。」
「あはは、そうですよね.....でも千聖さんは合鍵持ってますよね?」
「ええ、私の場合は風人くんを起こさなきゃいけないし.....何よりこれ、親公認の合鍵なの。」
少しアピールをしておく。もちろんつぐみちゃんがそういう子じゃないというのは知っているのだけれど.....
「凄いですね!.....でも、大丈夫なんですか?千聖さん、女優の仕事とかで行けないって事が.....」
つぐみちゃんに痛いところを突かれる。今日も途中ヒヤヒヤしたけれど、風人くんは私が女優である事を知らない.....
「つぐみちゃん.....私が女優してる事、風人くんには内緒にしてもらえるかしら?理由は聞かないで。」
これだけは、私の切なる願いだった。風人くんの事を信頼していない訳じゃない.....むしろ、愛している。けれども、もし風人くんが私の立場を知ったら.....優しい風人くんはきっと態度を変える。私にはそれが耐えられない。子供の頃から知る癒しの場所を.....私は失いたくない。
「.....分かりました。」
「ありがとう、つぐみちゃん。」
その後、途中まで見送りをしてつぐみちゃんと別れた。
風野家 居間
「それで白鷺さん.....何故に僕は正座をさせられているのでしょう?」
「反省するべき事があるからよ。」
私は風人くんを座らせ、お話をしている。もちろん案件は合鍵。
「風人くん.....どうして合鍵をそうやってホイホイ渡すのかしら?」
「別にそんなに貸してはいませんよ.....」
別に風人くんの優しさと良心を怒っているわけではない。けれども.....合鍵を持つというのは私の特権だもの。親公認の、特別なもの。わがままだけれど、そんな特別な物を簡単に他人に渡そうとする風人くんを、私は怒りたかった。
「それに防犯上危ないの。もちろん風人くんの家は広いから、侵入しようと思ったらどこからでも入れそうなのだけれど.....せめて最低限の注意はして。いい?」
「はい。」
素直に風人くんが頷く。子供みたい.....そんなところも可愛い。
「それと後.....こういう事は今後、しちゃダメよ。風人くんは少し乙女心を勉強して、察して欲しいわ。」
自分でもわがままだと分かっている。けれど言わずにはいられなかった。この場所は、私の家族と、私だけが知っている.....私がただの私でいられる場所。
「乙女心、ですか。」
風人くんは難しそうな顔をして考え始める。そこまで深く考える必要も無いのだけれど.......
「.....分かりました。勉強してみます。」
「ありがとう。それとごめんなさい.....随分とわがままを言ってしまったわ。」
その後は風人くんと一緒に料理をして、寝るところを見てから自宅に帰った。.....この時間は、あとどれほどあるのかしら。