雄二side
翔子と一緒に食べていた昼食もデザートまで食べ終え、ここには特に何の仕掛けもないのか、と安堵しかけたその時
『皆様、本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加頂き、誠にありがとうございます!』
会場に大きなアナウンスの声が響き渡った
『なんと、本日ですが、この会場に結婚を前提としてお付き合いを始めようとしている高校生のカップルがいらっしゃっているのです!』
飲んだ水が少しだけ鼻から逆流した
『そこで、当如月グループとしてはそんなお二人を応援する催しを企画させて頂ききました!題して、【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズ~!』
出入り口を封鎖する重々しい音が聞こえてくる。退路を断つとは、こんなことを考えたのは誰だ?藤原か?秀吉か?
『本企画の内容はいたってシンプル。こちらの出題するクイズに答えて頂き、見事五問正解したら弊社が提供する最高のウェディングプランを体験して頂けるというものです!もちろん、ご本人様の希望によってはそのまま入籍ということでも問題ありませんが』
大問題だバカ野郎
そもそも、年齢が足りないだろうが
『それでは、坂本雄二さん&翔子さん1前方のステージへとお進みください!』
ご丁寧にも司会が俺達の席を示してくれたおかげで、レストランにいる客が一斉にこちらへと目を向けた
「…ウェディング体験…頑張る…!」
翔子はかなり気合が入っている
これは俺も乗るしかなくなってきた。これはただの体験だと自分に言い聞かせ、渋々と壇上に上がる
スタッフの誘導の下、俺と翔子は回答者席へと案内された
壇上に上がって気づいたが、この空間に明久の姿がないな…藤原の奴、俺を嵌める為に明久の誘いを断って、さらに明久と十六夜はウェディング体験をさせないように誘導しているな!?
『それでは【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズを始めます!』
俺と翔子の間に大きなボタンが一つ設置されている。コレを押してから回答するというオーソドックスなシステムのようだ
そうだな…連続で正解したらプレゼントということは、連続で間違え続ければ失敗になるのだろう
こうなったら、意地でも間違え続けてやる!
『では、第一問!』
ボタンに手を伸ばす用意をし、出題を待つ
さて、どんな問題が来る…?
『坂本雄二さんと翔子さんの結婚記念日はいつでしょうかっ!』
…おかしい。問題の意味が分からない
---ピンポーン!
しまった!油断しているうちに翔子が勝手にボタンを!
だが、いくら翔子といえど、正解の存在しない問題は答えられないだろう---
「…毎日が記念日」
「やめてくれ翔子!恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ!」
『お見事!正解です!』
しかも正解!?
司会者を睨み付ける。すると、司会者は観客には見えない角度で、俺に向かって片眼を瞑ってきた
さては…出来レースかっ!そこまでして俺達にウェディング体験とやらをさせたいのか藤原!!
いいだろう。それならば---俺は意地でも間違えてみせよう!
『第二問!お二人の結婚式はどこで挙げられるのでしょうかっ?』
---ピンポーン!
素早くボタンを押し、マイクに口を寄せる。すでに問題自体がクイズではなく質問と化している気がするが問題ない。不正解を出すなんて造作もないこと!
『はいっ!答えをどうぞっ!』
「鯖の味噌煮!」
『正解ですっ!』
「何っ!?」
馬鹿な!場所を聞かれたのに鯖の味噌煮が正解なのか!?というかこの司会者、俺が答えた瞬間に正解といっただろう!
『お二人の挙式は登園にある如月グランドホテル・鳳凰の間、別名【鯖の味噌煮】で行われる予定です!』
「待ていっ!絶対にその別名はこの場で命名しただろ!強引にも程があるぞ!」
どれだけ俺達にウェディング体験をさせたいんだ!?その別名はもはやマイナスイメージだろうが!
『第三問!お二人の出会いはどこでしょうかっ?』
ダメだ、聞いてねぇ…!だが向こうのやり口はわかった。今度は確実に間違えた回答を---
---ピンポーン!
しまった!考えることに集中しすぎて翔子の方が先に!
『はい、回答をどうぞっ!』
「…小学校」
『正解です!お二人は小学校の頃からの長い付き合いで今日の結婚にまで至るという、なんとも仲睦まじい幼なじみなのです!』
くそっ、問題が出てから動き出すのは遅すぎるようだ。翔子の妨害が間に合わない、問題が言われる前だったら…!
『第四問参ります!』
---ピンポーン!
どんな問題が来るかはわからんが、【わかりません】と答えれば、100%間違いだろう!
「わかりま---」
『正解です!第四問の問題は【坂本雄二さんの前世は何か】という問題でしたが、その問題を先読みしてまで答えてくるとは、よほどウェディング体験がしたいのですね!
それでは、最終問題です!』
なんだその問題は!さっきまで質問だったくせに、いきなりわけのわからんフェイントをかましてきやがった!
もはや間違えることは無理だ。そう諦めそうになった時、
『ちょっとおかしくな~い?アタシらも結婚する予定なのに、どうしてそんなコーコーセーだけがトクベツ扱いなワケ~?』
不愉快な口調の救いの神が現れた
その場の全員が声の主を探る。すると、彼らは呼ばれてもないのにステージのすぐ近くにまで歩み寄ってきていた
『あの、お客様。イベントの最中ですので、どうか---』
『あぁっ!?グダグダとうるせーんだよ!オレたちゃオキャクサマだぞコルァ!』
茶髪で顔中にピアスをつけた男がスタッフを威嚇するように大声を出す。どこかで見た連中だと思ったら、入場口で似非野郎に絡んでいたチンピラどもか
『アタシらもウェディング体験ってヤツ、やってみたいんだけど~?』
『で、ですが---』
『ゴチャゴチャ抜かすなってんだコルァ!オレ達もクイズに参加してやるって言ってんだボケがっ!』
『うんうんっ!じゃあ、こうしよーよ!アタシらがあの二人に問題出すから、答えられたらあの二人の勝ち、間違えたらアタシ達の勝ちってコトで!』
『そ、そpんな---』
慌てるスタッフをよそにそのカップルはズカズカトと壇上に上がり、設置してあるマイクの一つをひったくる
だが、これはチャンスだ。アイツらの問題なら、あの司会者の問題よりも間違えることができる確率はあるだろう…
後は翔子の妨害さえしておけば---
「…ゆ、雄二?」
『じゃあ、問題だ』
チンピラがわざわざ巻き舌の聞き取りにくい発言で言う
さぁ、どんな問題だ?安心しろ、どんな問題でも間違えて---
『ヨーロッパの首都はどこだか答えろっ!』
………
言葉を失った。それどころか、会場中が静寂に包まれる
『オラ、答えろよ。わかんねぇのか?』
確かにわからないと言えばわからない。俺の記憶が正しければ、ヨーロッパは国というカテゴリーに一度も属していないのだから。その首都を答えろと言われても、答えるなんてできない
『…坂本雄二さん、翔子さん。おめでとうございます。【如月ハイランドウェディング体験】をプレゼントいたします』
『おい待てよ!こいつら答えられなかっただろ!?オレ達の勝ちだろうがコルァ!』
『マジありえなくない!?この司会者バカなんじゃないの!?』
バカップルがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる中、ステージに幕が下りてくる
まさかFクラスに換算してもぶっちぎりでバカな奴がいるなんて、世界は広いもんだな…
こうして、俺と翔子のウェディング体験が確定したのであった
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次回で雄二のターンが終わります!その次に明久で1~2話使って、如月ハイランド編は終了になります!