僕とテストと幻想郷   作:あんこ入りチョコ

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少し遅くなりました!

今回で如月ハイランド雄二編は終わります

そして、通産UA10000、お気に入り登録65人突破ありがとうございます!


体験と騒動と本当の気持ち

雄二side

 

 

『それでは、本日のメインイベント、ウエディング体験です!皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎え下さい!』

 

 

不本意にもウエディング体験の権利を手に入れてしまい、そのまま着替えさせられてウエディング体験が始まった

園内すべてに響き渡るのではないかと思える程の拍手が聞こえてくる。このうちのほとんどがここの関係者やFクラス関係者だろうが、周囲の熱気に圧されて一般入場客も拍手をしているようだ

 

「坂本雄二サン、お願いしマス」

 

舞台袖で似非野郎が耳打ちしてきた

最初は抵抗してやろうかとも考えるが、抵抗すれば似非野郎が何と言いだすかもわからないな

それに、ここまで来たんだ。ここで逃げたら翔子の悲しむ顔が容易に想像できる

 

…今、なんで俺は翔子の事なんて考えたんだ?

クソッ、わかんねぇ…

 

「さァ、どうゾ」

 

「あいよ」

 

似非野郎に言われ、トントンと小さな階段を昇る。そのままステージに上がると、その光景に一瞬眩暈がした

 

「おいおい…なんだよこのセット…体験どころじゃないだろ…」

 

数えきれないスポットライトにライブステージのような観客席。スモークの設備は疎かバルーンや花火の用意までしてあるように見える。向こうにある電飾なんていくらかかってるかも見当もつかん

 

 

『それでは新郎のプロフィール紹介を---』

 

 

ん?俺のプロフィール紹介か。まるで本物の結婚式だな。目的のシーン以外の部分もしっかりとしているようだ。俺のプロフィールなんて、どうせ藤原や秀吉にでも聞いたのだろう

 

 

『---省略します』

 

 

手ぇ抜きすぎだろ

それにしても、このアナウンスの声…なんだか聴いたことがあるな…上白沢先生か…?まさかな。あの人は一教師だからこんなことなんて…

いや、上白沢先生は義理とはいえ明久と藤原の親だったな。それだと、こんなことに手を貸していてもおかしくはない…か

 

 

『ま、紹介なんていらねぇよな』

 

『興味ナシ~』

 

『ここがオレ達の結婚式に使えるかどうかの問題だからな』

 

『だよね~』

 

 

最前列に座っている連中からそんな声が聞こえてくる

さっきのチンピラどもか。それにしても、最前列であんな大声とは…見た目通りのマナーの持ち主だな

 

 

『…ほかのお客様のご迷惑になりますので、大声での私語はご遠慮頂けるようお願い致します』

 

 

『コレ、アタシ達こと言ってんの~?』

 

『違ぇだろ。俺らはなんたってオキャクサマだぜ?』

 

『だよね~っ』

 

『ま、俺達の気分が良いか悪いかってのが問題だろ?な、これ重要じゃない?』

 

『ウンウン!リュータ、イイコト言うね!』

 

 

調子に乗って下卑た笑い声が一層響き渡る

主催側もイベントの邪魔になる原因は排除したいだろうに…これであいつらが下手に悪評を流すと宣伝にはならないから、あまり手を出せないのだろう

 

 

『それでは、いよいよ新婦のご登場です』

 

 

心なしか音量の上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気がすべて消えた。スモークが足元には立ち込め、いやおうなしに雰囲気が盛り上がる

いよいよ翔子のドレス姿のお披露目か

数時間前までは必死に抵抗していたはずの俺の気持ちが少しずつワクワクしているのがわかる

…そうか、結局俺は、なんだかんだいいながら逃げていただけだったのか?

 

そんなことを考えながら待っていると、目が暗がりに慣れるよりも早く、一条のスポットライトが点された

 

 

『本イベントの主役、霧島翔子さんです!』

 

アナウンスと同時に更に幾筋ものスポットライトが壇上の一点のみを照らし出す

。暗闇から一転して輝き出す壇上で、思わず眼を瞑ってしまう

そして、再び目を開けた時に飛び込んできた姿に---俺は一瞬、言葉を失った。あれは…誰だ?

 

 

『………綺麗』

 

 

静まり返った会場から溜息と共に漏れ出た、誰のものともわからない台詞。だが、その言葉は何にも阻まれることなく壇上の俺のところまで届いてきた

 

「…雄二…」

 

ヴェールの下に素顔を隠し、シルクの衣装に身を包む幼なじみが、どこか不安げにこちらを見上げてくる

 

「翔子、か…?」

 

「…うん」

 

頭の中が真っ白になり、言わずもがなな質問が口をついて出た。あまりの変わりように確認せずにはいられなかったのかもしれない

動揺する俺に、翔子は恥ずかし気に問いかける

 

「…どう…?私、お嫁さんに、見えるかな…?」

 

「---ああ、大丈夫だ。少なくとも、婿には見えない」

 

俺はつい、勢いでそう返してしまった

 

「…雄二…」

 

翔子は小さな声で俺の名を呼び、ブーケを抱えなおした

そして、その場で動きが止まる

 

「お、おい。翔子…?」

 

なんだ?様子がおかしい。俺の返事がマズかったか?

 

「…嬉しい…」

 

目の前で翔子が俯き、ブーケに顔を伏せる。そして、それ以上言葉を発することなく静かに震えだした

 

 

『ど、どうしたのでしょうか?花嫁が泣いているように見えますが…?』

 

 

仕事を思い出したかのようにアナウンスが入る

泣いている?

言われてみて初めて気が付く

俯いて、肩を震わせて---翔子は静かに泣いていた

 

「…ずっと、夢だったから…」

 

『夢、ですか?』

 

「…小さな頃からずっと…夢だった…。私と雄二、二人で結婚式を挙げることが…。私が雄二のお嫁さんになること…。私一人だけじゃ、絶対に叶わない、小さなころからの私の夢…」

 

口数の少ない証拠が懸命に紡ぐ言葉は、俺に形容し難い何かの感情を喚起した

幼いころのある出来事がきっかけで抱かれた、コイツの俺への思い。それは罪悪感と責任感からくる勘違いであるはずなのに---コイツはどうしてここまでの気持ちを抱けるのだろう

 

「…だから…本当にうれしい…。ほかの誰でもなく、雄二と一緒にこうしていられることが…」

 

そこまで言って、あとは言葉にすることができずに翔子はまた静かに泣いた

 

 

『どうやらうれし泣きのようですね。花嫁は相当に一途な方のようです。さて、花婿はこの告白にどう応えるのでしょうか』

 

 

どう応える?そんなの決まっている。どんな場所であろうと、俺はコイツの勘違いを正してやるだけだ

…そう思っていたはずなのに、俺は言葉に出すことができない。いや、体は俺の気持ちがわかっているのか、口がうまく動かせない

 

「翔子、俺は---」

 

 

『あーあ、つまんなーい!』

 

 

何かを言いかけたところで、観客席から大きな声が上がる。俺は慌てて口を噤んだ

 

 

『マジつまんないこのイベントぉ~。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』

 

『だよな~。お前らのことなんてどうでもいいっての』

 

 

どうやら俺の窮地を救ってくれたのは最前列に陣取る馬鹿二人組のようだ。会場が静まり返っていたおかげで、発言者が誰だかよくわかる

 

 

『ってか、お嫁さんが夢です、って。オマエいくつだよ?なに?キャラ作り?ここのスタッフの脚本?バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!』

 

『純愛ごっこでもやってんの?そんなもん観るために貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ~。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ』

 

『そっか!コレってコントじゃねぇ?あんなキモい夢、ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!』

 

『え~っ!?コレってコントなのぉ?だとしたら、超受けるんだけどぉ~!』

 

 

口々に文句を言い、翔子を指さして笑い始める二人組。すると

 

 

『んだとテメェらっ!もういっぺん言ってみやがれ!』

 

『待て妹紅!今のお前が暴れたらステージが台無しどころじゃなくなる!少し落ち着け!』

 

 

そんな放送が入り、舞台裏から誰かが暴れるような音が聞こえてきた。どこかで今のカップルの発言に腹を立てたヤツが暴走しているんだろう。それに、気のせいか会場の気温が一気に上がった気がする

どこで暴れているのかと、チンピラどものいる席から舞台裏の音がした方に一瞬視線を移す

そんな短い時間の間に

 

 

『は、花嫁さん?花嫁さんはどちらに行かれたのですかっ?』

 

 

翔子は壇上から姿を消していた

さっきまでたっていた場所に、花束とブーケを残して

 

「…はぁ、やれやれ」

 

なんとなくブーケを拾い上げる

それは羽根のように軽いはずなのに、涙で湿って少し重たくなっていた

 

 

『霧島さん?霧島翔子さーんっ!皆さん、花嫁を捜して下さい!』

 

 

スタッフがバタバタと駆け出す

ふむ。このイベントは中止のようだな。今頃、お偉いさんは真っ青になっているだろう

 

「さ、坂本雄二さん!霧島さんを一緒に捜して下さい!」

 

スタッフが一人、息を切らしてこちらにやってくる

 

「悪いが、パスだ。面倒だし、便所にも行きたいしな」

 

「え?ちょ、ちょっと、坂本さん…!」

 

俺はスタッフに背を向けて歩き出す

まったく、俺なんかに頼るなら最初から自分で捜したほうが早いだろうに

そのまま退場していく客に混ざって会場を出て行く。五分もしないうちに目的地が見えてきた。あまり遠くでなくて助かった

 

 

『いや、マジでさっきのウケたな!』

 

『うんうん!私…結婚が夢なんです…。どう?似てる?可愛い?』

 

『ああ、似てる!けど---キモいに決まってんだろ!』

 

『だよね~!』

 

 

さてさて。それじゃ、とっとと用を済ませるか

 

「なぁ、アンタら」

 

『ぁあ?ぁんだよ?』

 

二人組が真っ茶色な顔をこちらに向けてくる

 

 

『リュータ。コイツ、さっきのオトコじゃない?』

 

『みてぇだな。んで、その新郎サマがオレ達になんか用か、あァ!?』

 

 

男が一歩前に出て、威嚇するような仕草を見せた

 

「いや。大した用じゃないんだが---」

 

借りものの上着を脱ぎ、タイを緩める

 

「---ちょっとそこまでツラぁ貸せ」

 

 

数時間後

 

 

「よっ。随分と待たせてくれたな」

 

「…雄二」

 

如月ハイランドの中にあるグランドホテルの前で待つことしばし。翔子が玄関からトボトボと俯きがちに出てきた

 

「さて。それじゃ、帰るとすっか」

 

あの騒動の後、似非野郎から受け取っておいた翔子の鞄を担ぎ直し、駅に向かって歩き出す

 

「…」

 

翔子は何も言わず、静かに俺の少し後ろをついてくる

しばらく歩いた後、翔子が聞き取れるかギリギリの小さな声で呟いた

 

「…雄二」

 

「…なんだ?」

 

「…私の夢、変なの?」

 

例のバカップルの言葉のことを気にしているのだろう。翔子は足を止めて俯いていた

 

「まぁ、あまり一般的ではないかもしれないな」

 

俺は少し言葉を選んでからそう答えた

 

「…」

 

再び黙り込む翔子

 

「この際だから言っておく。お前のその気持ちは、過去の話に対する責任感を勘違いしたものだ---」

 

「…ゆう、じ…」

 

翔子は、息を呑む。俺に面と向かってこんなことを言われて、傷ついたのかもしれない

 

「---と、今までの俺なら言ってたかもしれない。今日、気づいたんだ」

 

「……雄二?」

 

俺の続けた言葉に、翔子が首を傾げる

 

「俺はそう思うことによって、お前から逃げようとしていたんだと…間違っていたのは俺で、実はお前の方が正しいのかもしれないと…時間はかかるかもしれないが、必ず答えを出す。これは逃げの言葉じゃなく、ちゃんとした俺の言葉だ。それに、俺はお前の夢を笑わない。お前の夢は、大きく胸を張れる、誰にも負けない立派なものだ」

 

会場で拾っておいた物を俯く翔子に被せてやる

 

「…これ…さっきの…ヴェール…」

 

花嫁衣裳の一つである薄布を手で押さえ、翔子は驚いたように顔を上げた

っと、もう一つ言わなきゃいけない言葉があるんだった

 

「それと、翔子。弁当、旨かった」

 

俺は軽くなった鞄を翔子に放った

 

「…あ…私のお弁当…。気づいて…くれたんだ…」

 

「さて。さっさと帰るぞ。遅くなると色々誤解されるからな」

 

「…雄二」

 

「特におふくろのやつは、いくら言っても---」

 

「雄二っ!」

 

ここ最近では記憶にない証拠の大声を聞いて、思わず立ち止まってしまう

 

「…なんだ?」

平静に、いつも通りの態度と声で言葉を返す

そして少しだけ振り返ると、紅い光の中、自らの手でヴェールを持ち上げ

 

 

「---私、やっぱり何も間違ってなかった」

 

 

満面の笑みを浮かべる幼なじみが、そこにいた

「」




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次回は如月ハイランド明久編をやって、如月ハイランド編完結です!
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