今日も一日が始まる。
阿呆としか言えない女どもがのさばり、狂っているとしか言えないこの世界が始まる。
そして、それ以上に価値の無い俺の一日が、始まる。
俺は今、高校一年生である。いや、そうらしいとしか言えないが。
もう学校に行かなくなって何ヵ月かが過ぎたのだろう。
出席日数は前半に確保したから進級は出来るだろうが、正直進級したからといって何となると言うのか。
あれだけ出来ていた勉強は今やっても今までとは比べ物にもならないだろう。
そもそも、やるという次元にすら到達出来なくなってしまっているのだ。
やることが出来ない。やる、というだけに全神経を投入して運が良かったら出来る。そんな次元に居る。
俺は世間一般で言うところの鬱という状態になったらしい。病んでる、とも言われた。
ただ、今まで付き合ってきた感情が表に出ただけなのにひどい言いぐさである。
まあ、表に出しては行けないことは理解していたし、それを鬱と診断されてから出しっぱなしにしている俺は確かに病んでいるといってもいいのだろう。
きっかけは、たぶん無い。ただ、今まで育まれてしまった感情をガス抜きしようとしたら、押さえきれなくなってしまっただけなのだろう。もうどうでもいいことだが。
今日も今日とて何もない一日を過ごす。
誰もいない家で、生きるだけの生活を。
両親はいる。深い愛情を注いでくれる。だからこそ、腐れ落ちそうになる。死体モドキの癖に、焦燥を感じる。
だから、俺は独りになりたいとワガママを言った。そして、それは叶えられた。
マンションを俺だけのために一室用意するという手段で。
叶えられて、しまった。
体は焼け焦げた。しかし何も出来ないままでいた。
永遠に続く今日がまた始まるのかと思ったとき、携帯が鳴った。
誰かと思えば学校に行ってたときよく話していた友人だった。
学校だけの付き合いでしかいられなかったが、それでも俺を心配してくれたいいやつだ。
「どうしてそうも心配してくれるんだ」
俺はあいつに言ったことがある。
そしたら、
「苦しんでる人を心配しないわけがない」
と、言った。
ああ、こういう人こそ、この世界で幸せを掴みとるのだろう。
例えそれが一般的な良識に基づいて言ったとしても、その一般的な物事をこの世界でこの俺に堂々と言うその姿に、焦がれた。
だからこそ、距離をとった。
もともとメールなどはせず学校で話していたのだ。
学校に行かなくなったら接点は自然となくなる。
あいつは電話で俺と接点をもち続けようとしたが、俺がそっとしておけ、お前のほうが心配だというと、
「そっか」
そう言って以来、あいつとは連絡をとっていない。
そんなあいつからの連絡だ。
緩慢な動作で携帯を取り、着信を押す。
久しぶりのあの声が静寂を震わす。
「いきなりだけど大変だ!」
「...なに」
「男子生徒全員に緊急招集がかかった!」
「...行かない」
なぜだろう、柄になく焦っている。
「今回ばかりは来い!というかお前知らないな!」
「...なぜ」
「男がISを動かしやがった!そのせいで男性対象の適性検査が始まる!行かなきゃあとでIS委員会のやつが対応するらしい!」
「...ま」
「マジだ!お前の場合後回しにするとヤバそうだからかけた!三時間後!」
「...おう」
「じゃあな!」
そういってあいつは電話を切った。相変わらず、おひとよしだ。
それにしても、ああ、ああ──
どうでもいい。巻き込まないでくれ。バカみたいな世界に。
だが、無力な俺は行くしかない。
死にかけの理性が総動員して、肉体を動かす。
そんな力がまだ残っていたのか、と自嘲しながら。
そして、久しぶりの学校についた。
そこで、俺は──
地獄に、落ちた。
ISを、動かした。
動かしてしまった。
狂った世界の中心に、落とされた。
錆び付いた脳が与えられた情報に軋みをあげた。
もう、永遠の今日には戻れない。
歓迎するべきであろうことに、ひどく涙を流しながら。
多くの驚愕と少しの敵意とあいつの憐憫の視線にさらされながら、俺は倒れた。
TIPS:主人公は「信頼できる語り手」ではない