堕落した人のIS生活   作:番号26

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前話で重大なミスを犯してしまいました。泥が切りかかってくる所の方向の描写を間違ってしまい、これでは話通りに進みません。
修正しましたので改定前を見てしまった方はもう一度目を通してください。
申し訳ありませんでした。
修正箇所
『俺から見ると左から~』
→『いや、逆さまになっているから左から~』


第12話

ラウラを助けた後。

 

俺は暗闇の中に立っていた。

いきなりすぎて何がなんだか分からない。もしここが病室だとしたら寝転がっているはずなのに、立っている。

どこか拘束されているわけでもなく、足元にしか感触がない。今まで自力で立っていたようにしか感じない。

 

摩訶不思議な現象に困惑していると、ふと前方から光が射し込んでくる。いきなり光が射すと目が潰れそうだが、その光は眩しいとすら思えなかった。

ただそこに存在していることを示しているだけなのだろうと、直感的に理解した。

 

このような状況下において情報源になるだろうと、光射す方向へ歩く。

たどり着いたその場所では一人でうずくまっている女が居た。ボーデウィッヒだ。

その目に精気は宿っておらず、ただ暗闇が広がるだけだった。

 

声をかける。反応無し。手をたたく。反応無し。手をかざす。反応無し。

何をしても身動ぎ一つしない。まるでこちらの存在が確認出来ていないみたいだ。

 

まあ、流石に触れば反応を返すだろう。

 

俺はボーデウィッヒの肩を叩いた。

瞬間、カチリ、と幻聴が聞こえた。深く深く繋がった。

 

 

 

 

暗闇だった周囲が急激に明るくなる。

そこにあったのは無数のモニター。どれも内容が違うが写しているのは全て一つの視点からのものだ。

 

あるモニターではガラスの水槽に入り水中にたゆたっている。

あるモニターではISを纏い誰かと戦っている。

あるモニターでは倒れている女性たちを見下している。

あるモニターでは改造手術を目に施している。

あるモニターではISを纏いながらも地を這いつくばっていて、相手に見下されている。

 

あるモニターでは。あるモニターでは。あるモニターでは。あるモニターでは。あるモニターでは。あるモニターでは。

 

360度広がるモニターは余すことなく頭の中に入ってくる。映像が進む度にその内容を理解する。

 

これは、ボーデウィッヒの記憶だ。今までの全てだ。

環境、行動、思考、感情。何もかもが俺の前にさらけ出されている。

ボーデウィッヒの人生を追体験しているようにも感じられてしまうほどの情報が入ってくる。

 

 

戦闘用試験管ベビー。圧倒。隔絶。高慢。ヴォーダン・オージェ。改造。不適合。転落。出来損ない。嘲笑。憤怒。劣等感。もがき。絶望。虚無。光。救い。信仰。崇拝。

 

 

IS学園に転入してくる少し前まで進もうとした瞬間。周囲が暗闇に戻る。

 

危なかった。本当に危なかった。

このまま全てを詰め込まれていたら精神が汚染されそうだった。というか少し影響が出ている。

 

「...おい」

 

ボーデウィッヒ。お前織斑先生のこと好きすぎるだろ。分かるけれども。というか実年齢若すぎないかな。もはや幼女じゃないか。通りで純粋で微笑ましいと感じる訳だよ。

そして織斑先生。あんた暮桜の操縦者だったのかよ。世界最強かよ。道理で織斑先生に似ているなーと思ったよ。あの泥。本人じゃねぇか。そんな人がなんで教師をやっているんだ。

 

「おい」

 

そういえばこんな現象が起こり得るとかどこかで知ったような。共振だったっけか。あれって精神世界で会話するだけでこんな量の記憶は流れて来ないし、そもそもIS適正がお互い高くないと出来ないような。俺の適正値って─

 

「おい!!」

 

「うおわぁぁぁぁ!?」

 

急に大声をかけられてビックリした。柄ではない大声をあげるぐらいには。

声のした方向に顔を向けると、ボーデウィッヒが立っていた。

まったく、と呆れた姿は表層だけは普段通りだが、中身は別物だ。

 

寂しさが大多数を占めている。そこに一握りの勇気。そして─

 

 

 

俺に対する、畏怖。

 

 

 

ああ、なるほどなるほど。そりゃあそうなるよな。

 

「覗いたな、ボーデウィッヒ?」

 

「...ああ」

 

「どこまで?」

 

「...断片的にしか見ていない」

 

俺があそこまで深く繋がってしまったんだ。俺がボーデウィッヒの記憶を見せられるのと同様に、ボーデウィッヒも俺の記憶を見せつけられたのだろう。

俺が読み取る範囲が異常なだけで、ボーデウィッヒは表層だけですんだようだ。

 

「...質問をしたい」

 

「どうしたよ」

 

ボーデウィッヒはそこで呼吸を整えた。

 

「あれでどれだけの痛みを負った?」

 

「数えきれない程」

 

「あれでどれだけの迫害を受けた?」

 

「それも数えきれない程」

 

「直そうとは思わないのか?」

 

「勿論思わない」

 

「省みることはしないのか?」

 

「しない」

 

「そのせいで崩壊したことを自覚しているのか?」

 

「耐えられなかった俺が悪い」

 

「そして崩壊してもなお私を助けるために動いた、と」

 

「それが俺だから」

 

「...貴様、狂っているな?」

 

「ああ」

 

ラウラは、悲痛な覚悟を決めている。今までのは正直ただの確認作業である。これから言われる言葉こそが、本命なのであろう。

 

 

 

 

 

「...私を助けたのは、ただの自己満足「そんなわけないだろ」...ッ」

 

 

即答してやった。俺の記憶を少しでも見ているのに、そんな勘違いするなよな。

 

「勘違いすんじゃねぇよ、ボーデウィッヒ。俺は、人が幸せな姿を見たいだけだ。純粋な心から沸き上がる笑顔が見たいだけだ。俺は、美しい人が美しいままでいてほしいだけだ。その感情を感じるだけでいい。勿論、見た目が良くても性格ブスな奴は存在を知覚したくない。悪意に満ちた感情なんてそれが幸せでも吐き気しかしない」

 

「反対に悲しみ。これはダメだ。自業自得ならどうでもいいが不条理に晒された悲しみは心にくる。どうにかして取り除きたくなる。例え俺がどうなってもそれは必要経費ってやつだ」

 

「長々と話したが結局のところ」

 

 

 

「魅力的なお前の為にやっただけってことだ」

 

 

 

 

ボーデウィッヒは一瞬だけだが固まった。

そこから、じんわりと感情が溢れ出す。

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

「そうかそうか!」

 

「お前は本当に狂っているな!」

 

「さっきそう言ったじゃねえか」

 

「そうだった!」

 

笑う。笑う。笑う。

そうだよ。俺はそういうのが欲しかったんだよ。

 

「これ程までに笑ったのはいつ以来だったろうか」

 

「そもそもそんなに笑ったことないだろ」

 

「それもそうだ...いや、なぜお前が知っている」

 

「お互い様ってことだよ」

 

「なるほど」

 

他愛もない話をする。

だが、楽しい時間は終わるのが早い。

 

「...む。もう時間切れか」

 

「時間切れってどういうことだよ」

 

「そろそろ私たちは目を覚ますようだ。なぜか分かった」

 

「ISが知らせてくれたのかね」

 

「そうなると、これが分からなかったお前はISに嫌われているんだな」

 

「うっせ。SE切れで動かないだけだろ。というかISに乗っ取られたお前にそれは言われたくはない」

 

「ハハハハ」

 

「笑って誤魔化すなよ」

 

なんか受け答えが成長している。今までの記憶のままだったら笑って誤魔化すなんてこと出来なかっただろうに。

ちょっと俺に影響されちまったのかね。

 

「んじゃ、また話そうな。ボーデウィッヒ。ろくに話せなくなっててもちゃんと会話は出来るはずだから」

 

「ボーデウィッヒではなくラウラと呼べ。というかろくに話せないって何があった」

 

「了解、ラウラね。崩壊したって言ってきたじゃないか。別に治った訳ではないんだな。それが。今の状態は限定的に壊れる前に戻っただけなんだよ。夢幻の類いみたいなものだ」

 

「...じゃあこの事は忘れてしまうのか?」

 

「そんな訳無いじゃないですかやだー。ちゃんと全部覚えているよ。そのせいで悶え苦しむことになるだろうけど安心してね」

 

「おい、それはまずいだろう」

 

「ハハハハ」

 

「笑って誤魔化すな」

 

体が足元から透けていく。

 

「おー。分かりやすく時間がきてるな」

 

「そうだな。...ああそうだ最後に言っておく」

 

「どうしたよ」

 

もう胸辺りまできているから早く話さないと終わっちまうぞ。

 

 

 

 

「帰ったら、覚えておけ!!」

 

 

満面の笑みを浮かべてラウラはそう言った。

 

いや、うん。卑怯だ。それは卑怯だろ。ラウラ。

これを計算抜きにやっていることはよく分かるから余計に質が悪い。

 

その笑みに見惚れつつ、俺の意識は暗くなった。




TIPS:この世界で主人公の好きなものはどれだけ残っているだろうか。嫌いなものはどれだけ蔓延っているのだろうか。
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