二次移行を果たした後。
順当に勝って旅館にISを担いで持っていった。
いや、うん。本当に順当としか言えない。
あのISの二次移行した際の特殊武装があの光翼だったのだが、曲がったり衝撃が強かったりしないので遠距離で放ってくる分にはタワーシールドで防げるから問題ない。
そのまま弾幕を放ち続けていたらまだよかったのだが、あのISがとった行動がまさかの撃墜された時と同じ近距離で相手を光翼に包み込んでの全方位攻撃だった。
そう、接近してきてしまったのだ。
計三種類全てが近接武器のこの機体に。
後はもう、防いで絡めて突き刺してで終わった。
パイルバンカーにやられた癖に接近してくるなよ。お陰で誰か来る前に終わったからこちらとしては願ったり叶ったりだけど、モヤモヤを感じる。
そんなことよりも大変なのが後処理だ。
独断専行したことでのお説教やら処分やらが本当に辛かった。
帰ったら修羅が仁王立ちで待っていた時は死を覚悟した。
少し前にも同じことを思った気がするが、もう一度。
織斑先生を怒らせてはいけない。
手を出しても出さなくても、その威圧感は健在だった。
長過ぎる反省文を四苦八苦して何とか書き上げた時には、既に外は暗くなっていた。
外には特別な理由がない限り人が居ない時間だ。だからこそ、外に出る。
月明かりを頼りに岩影を歩いていると、やはりと言うべきか、そこに人が居た。
今までに彼女から感じられたことのない、感じられるなど思いもしなかった感情を携えた篠ノ之束が、居た。
篠ノ之束は何も喋らない。
だから、此方から言葉をぶつける。
『何が終わりだ。ただ始まるだけではないか』
その言葉を聞いた途端、彼女は口角をあげた。
「本当に君は想定外だね」
その顔は喜悦に染まっていた。初めて向けられた、全ての視点からの感情が一致した視線だ。
「ああやって置いておいたのにそう言うのか」
二次移行の際にコアから感じ取った情報。その中に、『答え合わせ』のためのメッセージがあった。
「いやいやー。あれは気まぐれで入れただけだよ。本来だったら、君が折れた時にする予定だったのさ。被検体になる際の最後の手向けとしてだけど」
被検体...か。正直今の今までそうなってないことが不思議なんだよな。
「男性のIS操縦者なんていっくん以外想定してなかったからね。」
「いっくん...というと一人目か。奴の血に何かあるのか?」
「うん?その反応はまさか知ってないのかな?」
何がだろうか。
「...アハハハハ!まさかこの世界でそれすらも知らないなんて!いやー、これは笑うしかないよー!」
「話についていけないのだが」
「実はねー、君の言う一人目の名前は織斑一夏っていって、あの織斑千冬の兄弟なんだよー」
へえ。奴と織斑先生が兄弟か。
ん、兄弟?
「なんだと!?」
全く知らなかった。全然似ていなかったし。
ああそうか、ラウラが貴様があの方の弟など認めないって言っていたのって、そういうことだったのか。
「アハハハハ!これは本当に知らなかったなー!何で知らずにいられたのか気になっちゃうよー!」
「...名乗らなかったから、知る必要が無かっただけだ」
奴は、一度たりとも名乗ることをしなかった。初対面の時でさえだ。そのおかげか、名字すら知らなかった。
「それだけで入ってくる情報を全て無視できるものかよ!いやー、君おかしいね。本当に」
いやいや。確かにおかしいのは認めるが。
「お前にだけは言われたくない。正直者め」
人には、多くの自分がいる。家の中と社会の中、個人と役職。◯◯としての自分というものが組合わさって人はできている。勿論、その時々によってそれは変わるが、一度に出てくるのは多くても二つまでだ。
しかし、自分たち全てを矛盾無く正直で同時に表に出す彼女は紛れもなくおかしいと言えるだろう。
両立することのない感情が同時に存在している。それは、それぞれの自分が持っている好意や敵意や無関心等の感情が同時に表に出ているということだったのだ。
「...へぇ。きーくんは束さんをそう評するんだね」
きーくん、とはあだ名だろうか。さっきまで君呼ばわりだったのだが。
「まあな。ところで、何故急にあだ名を?」
「君を評価しているってことだよ」
なるほど、だったら感じたことが間違いという訳ではなかったみたいだ。
「それはそれは、恐縮だな」
「ふふーん。存分に縮こまるといいや」
「おい」
軽口を叩く。緊張が緩む。
...さて、もういいだろう。前座はおしまいだ。本題に入ろう。
「...じゃあ、そろそろ始めようか」
「うん、そうだね」
「「俺(君)のための答え合わせを」」
TIPS:本文で織斑一夏の名前が出たのは今回が初。