最後の最後に放り出された後。
寝たことで答えが見つかるようになるはずもなく。
答えを求めてある人を訪ねた。
「...なにか、知らないか」
「...」
「確かに、まだ知り合ってから少ししか経っていない。でも、なにか心当たりはないか」
「...」
「ヒントでもいい」
「...あのですね、何でそこで私を頼るんですか」
...やっぱ駄目か。
「当たり前ですよ!私が言っちゃったら只の事実でしかないじゃないですか!」
...だよな
「こういうのは考えた上で、自分が納得できるものを見つけるべきなのです!」
正直無茶言っているのは分かっている。
でも、お前しか頼れる人がいないんだよ。
打鉄。
「その言葉にはキュンときますが流されませんよ!第一何で私だけなんですか!」
他の人を煩わさせてはいけないから。
お前にはこういうことを話しても大丈夫だと。
「...どうしてそうなるんですかねー。なーんも変わってないじゃないですか」
変わってない。
何処から見てそう思ったのだろうか。
「前座の話ですよ」
世界が狂っているだけだというものか。
「そうだけどそうじゃないです。その少し前」
というと、人を助けたいという感情のくだりだろうか。
「覚えてるじゃないですか。それの通りにすればいいだけですよ」
...それがどう繋がる?
「あなたを!助けたいって人に!相談しろ!...ってことです。全く鈍いですね本当に」
そんな人はいな「いないなんて言わせませんよ?」...。
「それじゃ、とっととここから出ていってくださいね」
はい。
深く項垂れたまま返事をすると、体が薄くなっていく。
二次移行のときと同じようにして辺りが掠れていく。
全てがかき消え、気がつけば布団に横たわっていた。
まだ辺りは暗い。だが、あいつなら大丈夫だろう。
反省文をまだ寝ている織斑先生の部屋に置くと、自分の部屋から持ってきたしおりを手に目的地に向かう。
扉をノックすると、尋ね人が出てきた。
「どうした。こんな朝早くに」
ラウラ。軍人である彼女なら早起きするだろうという予想は見事に当たっていた。
「悩みごとがある。聞いてほしい」
我ながらぶっきらぼうで配慮の欠片もない言動だったが、それでも彼女は
「ああ、分かった」
と、何でもないことのように言った。
「...お前はバカか」
人が寝ている横で話をするわけにも行かず、外のベンチに座って話をすることになった。
そこで俺は篠ノ之束との問答を全てぶちまけた。支離滅裂で荒唐無稽な話ではあると思うが、それでもラウラは話を聞いてくれた。
「...ということがあった。俺は最後の質問の答えが導き出せない。なにかそれらしいものはないか」
そう締めくくったときに出てきた言葉がこれだ。
心がねじきれそうだ。
「まず、目的と手段を見失うな。救わない人を導き出したところで何になるのだ。重要なのはその先であるのであって、それをわざわざ区別する必要はないだろうに。そもそもその話は自分が自分だからでいいではないか」
だが、それでは本題が分からないではないか。
「重要なのは何故篠ノ之博士がその話題を出したか、という点だ。そもそもそこから始まったのだから、本題はそこからしかあり得ない」
助けになりたいからISに乗せた、と。
篠ノ之束はそう結論付けた。
そういうことではないのか?
「それは答えではないぞ。その行動の源が求めるべきものであり、答えだ」
行動の、源。
「そうだ。それは心だ。感情だ。その感情が理解するべきことなんだ。そして
──これは私が示すべきではない」
...さて、一体なにを言っているのだろうか。
お前以外の誰が示してくれるんだよ。
「居るではないか。お前を助けたいとずっと思っている人が。私を頼ってくれるのは嬉しいが、頼るならそっちが先だろうに」
いや。いやいやいや。
違うだろ。あの心優しいあの子に頼るのは。眩いあの子を曇らせるのは。
「何を言っているんだ。それを言ったらもう手遅れだろう」
...まさか
「ああ。お前を支えるために協力してくれないかって本音から言われたんだ。そのときに、な。一から十まで聞かせてもらったよ」
.........
「まあ、とにかく。
『ここまでやってもらっているのだから素直に頼れ』
...ということだ」
──わかったよ。
「ああ、では行ってこ...」
どうしたんだ?
「...もう点呼の時間だ」
...そうか、長話したな。
「...今日の日程は?」
......昨日の補填でIS訓練だ。
「...お前、二次移行したよな」
......ああ。
「それって」
.......そうだな。
「...私から夜会えるかどうか聞いておくよ」
...お願いします。
こんな大切な言付けすら他人に任せなければいけないという事実に目頭が熱くなったりもしたが、何とか押さえつけて部屋に戻った。
データ取りの件だが、一人目も何故か二次移行していたせいでとてつもなく面倒になった。
そりゃ実戦するほうが都合が良いとはいえ、何回も戦うのはきつい。
ほぼ全ての攻撃が一撃必殺とか本当にふざけている。
何だよかするだけでSEの三割持っていく爪とか。
最初の二三回は勝てたが後はボロボロだった。
繋がれたワイヤーを自由自在に操れるカイトシールド。受けた衝撃やエネルギーを吸収するタワーシールド。吸収したエネルギーと自前のSEを使って火力と射程を上げるパイルバンカー。全てタネが分かれば厄介というだけで終わる。
そもそもの機体性能が隔絶されていることもあり、当たり前に勝てなくなった。
その後も他の専用機持ちと戦ったり、実戦が終わってからも、二次移行にあたり回復するという現象に対してのバイタルチェックや生体情報を調べるためのサンプル提供などがあり、全てが終わったときには旅館の周囲は月明かりが支配していた。
幸いにも待ち合わせ時刻に遅れるほど遅くはないのでそのまま外に出る。
ベンチに座って待っていると、一人の女の子が此方に向かって歩いてくる。
携えている感情は相変わらず理解不能で、あのときの篠ノ之束と酷似していた。
「待った~?」
そう言いながら彼女はベンチに座る。
いつもの間延びした声だが、どこか固さを感じる。
それだけ真剣になってくれているのだろう。
「ついさっき来たところだ」
「ならよかった~。それで用件は~?」
「ああ、そうだな」
ふと、あのときのことが思い出される。
ラウラを救った後、自分の過去を押し付けたことを。
あのときは何も見えていなかった。失敗した。
だが、今回はそうはしないし、そうはならない。
そんな気がした。
「まずは、聞いてくれないか」
ラウラのときと同じように、全てをさらけ出した。
本音はただ微笑みを携えて聞いてくれた。
「そっか~」
話が終わったとき、本音はいつもの調子でうなずいた。
──それで、何をしてほしいの?
雰囲気が、空気が変わった。
目はしっかりと此方を見据え、口調は鋭くなった。
それでも感情はそのままで、むしろ大きくなっている。
その感情は、どうなっても変わらない。
「...何、とは」
言葉が詰まった。どうしたのだ。答えを知りたいだけだろうに。何故、言い淀んだ。即答しない。
「ただ聞いてほしかったのか。答えを導きだして欲しかったのか。それともそれ自体を否定してほしいのか。何をしてほしいのか。それを受けてどうなりたいのか。分からなければ、どうしようもないよ」
...何をされたいか。そして、最終的にどうなりたいか。
あのとき考えたのは、これを解いたときにどうなるのか。といったものだった。抱えている感情を解決できるか、という期待だった。
答えを出して、感情を知って、解決して。そして。そして、そして...
抱えている感情が解消し、力を得たとしても。
やることは変わらない。
なにも変わらない。
なにかになることはない。
それは今までと何が違う。
やってきたものの意味はどこにいく。
背筋が凍る。息が苦しくなる。力が抜ける。
崩れ落ちる体は咄嗟に手を掴んでくれた本音のお陰でベンチの上に乗った。
月が輝き、星がきらめいている空が広がる。後頭部には柔らかくて暖かいものが─
すぐさま身をよじり落下しようとするが、頭に手を乗せられる。
「大丈夫だよ」
たった一言。それだけで、全てを受け入れて貰えるようで。
何がそうさせるのかは分からない。だけど、そう確信した。
「分からない」
ぽつりと呟く。
「目の前の問題を解決して、解決して。そうやって生きていた」
「うん」
「いつしかそれは習慣となり、当たり前になり。その意味を失った。と思う。それすらも曖昧になった」
「うん」
「歪んだ行為は歪んだ感情を生み出す。だけどそれに圧迫され押し潰されても、何も思うことすら無くなってしまった」
「うん」
「その結果、何故好きなのか、何故嫌いなのかの根幹となる感情すらも分からない。エゴを押し付けるだけの人間になった」
「うん」
「それすらも分からずに、今本音の前にいる」
「そっか」
「なぁ。本音。
──助けてくれ。価値の無いまま生きるのではなく、幸せに生きたい」
今まで口に出したことのない助けを要求する。
そうだ。単純なことだ。
このままが嫌だからこそ、行動を起こした。今まで通りでしかないとしても、それを捨てることはしなかった。
そのままが嫌だったからこそ、篠ノ之束の問答に心を動かされた。
今が幸福ではないから、何も感じることのないから。
それが嫌だっただけだ。
「わかった~」
すっかり元に戻った本音は、俺の胸に手をあて、頭を撫でてきた。
それを受け入れる。
じんわりと優しい体温が体に染み込む。
人の体温を感じるのはいつ以来だろうか。
「まずはゆっくり休んで~。それから幸せを一緒に探していこ~」
体がポカポカする。眠気が全身を包んでくる。
ひたすらに安心する。
「それとね~」
薄くなっていく意識のなかで本音の声が響く。
「君は無価値なんかじゃないよ」
───。
ああ。そうか。
これが。そうか。
今までわからなかった答えを見つけた。
同時に幸せが溢れ出してくる。
ありがとう。IS。俺を乗せてくれて。
お陰で幸せに出会えました。
ありがとう。本音。俺と向き合ってくれて。
お陰で本当の幸せを理解できました。
俺は。確かに。愛されている。
TIPS:幸せに気付いていますか
自分の偉業に気付いていますか