堕落した人のIS生活   作:番号26

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第3話

 自己紹介の後。

 授業を受けずに寮に入った。

 特別措置でも何でもなく、当たり前のことがあったからだ。

 あの雰囲気のまま混ざって授業を受けるよりは良かったが、同時に勢いのままいけなかったことを残念に思う。

 

 教材がない。

 

 電子机をIS学園は利用しているといっても、紙媒体の教科書はあるらしい。

 脳の構造的に紙媒体の方が記憶しやすいから教科書は紙が主流なのだと聞いたことがある。

 だからなのか最先端とも言えるIS学園でも電子機器オンリーとはいかないみたいだ。

 

 この事実が発覚したらすぐさま担任に連れていかれた。

 先生たちに確認したら、帰ってきたのは次の事実。

 

 発送ミス。

 自分の分の教材が送られなかったらしい。

 今日の夜に届くことになっているのだとか。

 つまり授業は明日から。

 

 呆れた顔をした担任は寮に案内してくれた。

 バスルームつきのホテルのような一人部屋。

 荷物はもう運び込まれている。とのこと。

 早すぎる気がするのですが。

 まあ、服と生活用品しか無かったけれど。

 

 購買と食堂があり利用時間に制限あり。

 大浴場は入れないからバスルームを使え。

 困ったことがあれば報告してくれ。

 

 基本的なことを言い終えた担任は今日はゆっくり休んでおけ、と言って教室へと戻った。

 

 そういえば、腫れ物扱いせずに相談しろなんて言ってきた大人、初めてだったな。と、思った。

 どうにも、無いんだけれど。

 

 

 

 

 

 次の日。

 見慣れない天井を見て、永遠の毎日に思いをはせる。

 もう、安寧はない。焦燥もない。

 なにもない。この先を思う心すらも、このときは無かった。

 

 そのままぼうっとしていると、誰かが入ってきた。

 確か、えっと、ああ、そうだ。

 担任だった。たしか寮長もやっているのだとか。言っていた。ような。

 だから入ってこれたのか。

 

 担任曰く、今日ぐらいは顔を見せておけ。

 まあ、そうだ。ズルズルと引きずって行かなくなるよりか、あとで何日か行けなくなるとしても行って前例を作らなければならない。

 どうせ逃げられないのだから。

 

 制服を着てカバンを持って教室へ。

 担任が持ってきてくれた教材は全てカバンの中。

 別ければ忘れるだけだろうから。

 

 教室に行く途中も着いた後も、ひそひそ話が絶える事はない。

 耳が腐れ落ちそうになる。

 女の声は、自身の醜い感情をえぐりこむように伝えてくる。何処でもそれは変わらない。

 いや、もっと酷くなっているか。

 

 ISの参考書を開く。

 分厚すぎるそれを。

 そういえば前に渡されていたような気がする。

 そのせいだろうか。何故か知っているものばかりだ。

 いつこれを見たのだろう。鬱になる前に見たのだろうか。

 

 そんなわけ無いのに、何故か知っている。

 

 既知をなぞるほどの気力などありはせず、参考書を枕に休憩する。

 意識を、切断する。声が聞こえないように。

 

 一人目はまだ来ない。会いたくないけれど、いないよりはましだろう。

 

 

 結局、一人目は時間ギリギリに来た。

 初めて、しっかりと見ることができた。

 あれは主人公だ。皆の中心に立ち、動かしていく。希望で心が満たされている。

 やはりここは地獄だ。あれは積極的にこちらに関わってくるだろう。こちらの事を何も考えないで。ふざけるな。

 

 SHRが終わる。

 昨日緑色の髪の小さくて大きい人がいたが、あの人は副担任だったらしい。

 山田真耶という名前だそうだ。

 

 そんなことよりも大変なことがある。

 一人目がこちらに向かってくる。

 熱を帯びた視線を伴って。

 

 元気に、ためらいもなく、馴れ馴れしく、笑顔で、話しかけてくる。

 なに、男一人はさびしいだ。大変だろうけど一緒に頑張っていこうだ。

 貴様のせいで、俺はここに堕とされたというのに。

 

 ただ、頷くことしかできない。そうかとしか言うことしかできない。

 絞りきった言動に、一人目は不服そうな顔をしてもっと話そうと言うし、熱を向けているやつは俺への敵意を隠そうともしない。

 

 だから、嫌なのだ。致命的なほどにずれていて、仲良くなれるはずもなく。

 そのくせ、離れると勝手に周りと敵対していく。

 とんだ疫病神だ。

 

 チャイムが鳴る。

 授業開始の合図だ。

 一人目は席に戻っていった。

 何処でも変わらないチャイムの音は、関わりを断ち切ってくれる。意識を俺以外に向けさせる。

 

 救いの音色と、昔は思っていたんだった。

 その先もまた苦痛でしかないと感じるまでは。

 

 授業は、いつもと変わりがなかった。

 既に知っていることをなぞるだけの単調な作業だ。

 つまらない。無味乾燥としたものだ。

 副担任の教え方は素晴らしかったけれど、その口から未知の言葉が聞き出せないことには無意味と変わらなかった。

 

 クラスには軽やかな雰囲気が漂っている。授業内容を既に理解しているのだろう。軽口をたたく人もいた。

 そんな中で一人目だけがもがいていた。必死になっていた。

 基礎用語でつまずくな。一般的な用語の組み合わせでしかまだ無いのだぞ。

 

 授業が終わる。

 一人目が来て難しいなどとほざいている。

 適当な相槌を絞り出していると長い金髪の人が来た。

 こちらを見下しているありふれた目に、何も感じることはなかった。

 

 セシリア・オルコット。

 イギリスの貴族で、代表候補生らしい。

 完全にこちらを見下している。なのに、頭を下げればISに関して教えてくれるらしい。

 

 俺はどうでもいいが、基礎用語でつまずいて言葉通りの意味でしかない代表候補生の意味すら知らない(語感での判断すら出来ない)一人目には必要だろう。

 見下している癖に、優しさがちらついている。

 貴族特有の、ノブレスオブリーシュというものなのだろうか。

 

 それがどうしたという話ではあるが。

 関わり合いたくない性格には変わり無いのだから。

 

 一人目が馬鹿正直に断ってしまったため怒って自分の席に帰っていってしまった。

 一人目が無礼すぎる。立場など何も見えていない。ただ、自分がそうしたいからでしか行動していない。バカみたいに大きな後ろ楯が無くては考えられない行動だ。

 いや、何も考えていないだけか。

 

 不快な感情が降り積もって、体内をグチャグチャにかき回す。

 

 

 気づいたら時は過ぎ、一人目と貴族様が言い争っていた。黒板を見ると、学級委員長選出と書かれていた。

 それだけの事で何故こんなにも争えるのだろうか。関わりたくない人ほど無意味なところで争う。

 

 エスカレートした口論は、ついにはISで決闘する事態まで発展していった。ハンデ無しの真剣勝負。

 一人目が勝てば貴族様は非礼を詫び、貴族様が勝てば一人目は奴隷になるらしい。

 

 馬鹿げている。逆ならまだしも明らかに釣り合っていない。

 

 そして何故か俺も巻き込まれた。

 貴族に負けたら奴隷になるのも、ハンデが無いのも、一人目と変わらない条件で巻き込まれた。

 俺が学級委員長に推薦されたから、この戦いで委員長を決めることになったから無関係では無いでしょう、だそうだ。

 

 ああ、くそ。だから嫌なのだ。高慢に力をひけらかすやつも、言葉の重みを知らずに理想ばかり追うやつも。

 人の事など、考えやしない。




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