それでは本編をどうぞ!
カタコトカタコト揺られているのが止まりみほはゆっくりと目を開ける。10分くらいだろうか、随分久しぶりに熟睡したと感じた。あくびをしながら背伸びをし下の座席を見る。2人ともまだ寝てるようだった、起こすのが申し訳ないほど安らかな顔で眠ってるがこれから試合後の挨拶をしなきゃいけないので起こす。
「…沙織さん、沙織さん起きて」
「ん〜みぽりんもう学校〜?」
「ハハァ…これから挨拶するから降りるよ」
「分かった〜」
沙織はまだ寝足りないようでノロノロと座席を立つ沙織が降りたのを確認最難関である麻子を起こしにかかる
「麻子さん、ま〜こさん起きて!」
「…そど子あと5分ぐらい寝てもいいだろ…」
「麻子さんまで寝ぼけちゃって…」
「んぁ、西住さんか…眠たくてしょうがないんだが」
そう言いまた眠ろうとする。どうしたらいいものか分からず右往左往してると出てくるのが遅いので不思議に思った沙織が機内に入ってきた
「麻子ったらまだ寝てんの?」
「そうなの、やっぱり一度寝ると起きにくいのかな?」
「こう言う時は私に任せて…麻子、起きないとおばぁが来るよ!」
そう言うとビクッと反応して普段では信じられない速度で起き上がる
「おばぁ!?おばぁは何処だ!」
「ね、起きたでしょ?麻子はおばぁに弱いから名前出せばこうなるのよ
「沙織…騙したな」
「起きない麻子が悪いの、もうみんな並んじゃってるから早く出よう!」
慌ただしく機体から降りてみんなの元へと小走りで集合した
『一同、礼!』
「「「「「ありがとうございました!」」」」
挨拶を済ませ帰ろうとするとケイがみほに近づいてきた。
「貴方がキャプテン?」
「はい…そうです」
何事かと思い少し警戒してるといきなり抱きつかれた、予想外の事態に戸惑いながらアワアワしてると彼女は優しく肩を叩き口を開く
「エキサイティング!とても楽しい試合だったわ!こんなワクワクしたのは初めて!」
ダージリンに引き続き強豪校の隊長に認めてもらえたのがとても嬉しく照れ臭かったので思わず大声を出してお礼を言う。ふとみほは気になったことを思い出した、最後クラッシュバスターを倒したとき本隊が60m先に見えたのだがこれがどうも不思議で6輌しか見えなかったのだ、本隊と言うには余りに少なすぎる。ほんの些細なことだが喉に小骨が引っかかったように気になってしょうがない。そこでみほはケイに聞くことにした
「あのぉ…ケイさん。」
「どうしたの?」
「合流させたのが6輌だけなのはどうしてですか?」
「あぁあれね、うちのアリサ…副隊長が通信傍受やったのは知ってるわよね?」
「えぇ、私達はそれを利用させて頂きました」
「そうそう、通信傍受ってルール的には問題ないけどアンフェアじゃない?私はフェアプレイに則った試合をやりたかったのよ。でも起きちゃったことはしょうがない、それで罪滅ぼしと言うのかな…せめて試合のラストだけはフェアな試合をしたかったの」
彼女の答えにみほは驚いた、勝敗よりもフェアプレイを優先させるその心意気は勝利主義者が占める黒森峰時代では決して見ることができなかった。みほは一瞬お礼を言おうと思ったがケイは自分の信念に従って当たり前のことをしただけなのだ。お礼を言っては却って失礼になってしまう…そう思い口をつぐんだ。しかしどうしてもケイがここまでフェアプレイ精神を貫いたのかが分からない
「ケイさんはどうしてここまでフェアプレイ精神を重要視するんですか?」
「That's特車道!これは勝敗だけを決める戦争じゃなくて精神を鍛える武道なのよ!勝敗にこだわりすぎて道を踏み外したらレイバーが泣くでしょ?」
あぁ、あの時ケイさんみたいな人がいてこう言ってくれたらどれほど救われただろうか。思わず涙が出そうになる。そんな涙を隠すためだろうかみほは頭を下げてお礼を言う、大切なことを教えてくれたケイに対する心からのお礼だ。
顔を上げるとケイがニコニコして握手を求めてきた、しっかりとその手を握る、少しゴツゴツしてて特車道歴が長いことを伺わせるが何処となく温かみを感じた
「貴方達ならひょっとして決勝にいけるかもよ!」
「はい!頑張ります!」
ケイは自分の場所へと戻り仲間と合流する少し前こちらを振り返り大きく手を振った。こちらも負けじと大きく手を振る、実に清々しい風が吹いていた。
レイバーを積んだキャリアを指定の場所に移し終えて自動車部にバトンタッチして制服に着替えた頃には日は沈もうとしていた。遠くの道路にサンダースのキャリアが一列に並んで走ってるのが見えた、その中でもみほはクラッシュバスターが乗っけられたキャリアをじっと見つめる。ペイント弾まみれになったクラッシュバスターは夕日に溶け込みぼんやりとしてるが何処となく誇らしく見える。いつの日かまた戦いたい、そう思った。
見送り横を見ると沙織がこの後お祝いとして学園艦上にある店で特大パフェでも食べないかと誘ってくる。麻子はその提案に二つ返事で応じる、学園艦に戻ろうと歩こうとしたその時可愛らしい猫の鳴き声が聞こえた。どうやら麻子の携帯電話の着信音らしい
「…なんだこれ知らない番号だな」
不審に思いながらも電話に出る、気になって麻子の方をじっと見ていると見る見る顔が青ざめて手がガタガタ震えてるのが見えた。震えた手で電話を切るとそのままポトリと携帯電話を落としてしまう
「ちょっと何があったの麻子!?」
「何でもない…」
「そんなガタガタ震えて何でもない訳ないじゃない!どうしちゃったのよ!」
「おばぁが…おばぁが倒れて病院に…!」
「…っ!それで大丈夫なの!?」
「今は大丈夫らしいが…」
「病院に行こう!」
「とは言っても沙織さんどうするのですか?」
「えぇっとそれは…」
「学園艦の進路を変えると言うのはどうでしょうか五十鈴殿?」
「今変えても大洗に着くのは朝になるよ優花里さん」
あーだこーだと議論するも手段は見つからない不安に押しつぶされそうでたまらない麻子は震えが止まらない、するとおもむろに靴を脱ぎ靴下を脱ぎ始めたのだ
「泳いでいく…!行かなきゃならないんだ!」
「待ってください冷泉さん!人間の力じゃ無理です!」
「他に方法がないんだ、こうしてる間にもおばぁは…!」
確かに麻子の言う通り方法はない、だが麻子の体力で泳ぐなど自殺行為だ。普段の麻子ならそんなことは絶対しないだろうが考えもしないだろうが身内の危険と言う条件が論理的な思考を邪魔していた。とにかく行かせてはならない4人がかりで止めようとすると後ろから声をかけられた
「私達のヘリを使って」
声の主はみほの姉、まほである。予期せぬ再開に戸惑うも今はそんな場合じゃない。ヘリならば学園艦で向かうよりはずっと早く大洗に着ける、この危機を打破できる唯一の手段だ。だがまほの進言に隣にいつエリカが異を唱える
「隊長、この子たちは特車道を舐め腐ってる子達ですよ!そんな子達を助ける義理は…!」
「エリカ、義理など関係ない、目の前の状況を見ろ。困ってる人がいたら助ける…それは人として大切なことだ。私達は血も涙もない戦闘マシーンじゃないんだぞ」
「…分かりました」
渋々納得したエリカはヘリのエンジンを回しプロペラが大きな音を立てて回転し辺り一面に風をなびかせる
「…宜しく頼む」
そう言い麻子はお辞儀をしてからヘリへ入る。そこに沙織が駆け寄り沙織もヘリに入ることにした、友人の身内が危ないからと言うのが大きな理由だが今この状況で麻子とエリカを2人きりにするのはお互いの精神衛生上良くないと思ったからだ、何せ2人は例の一件で因縁がある。そんな相手と密室空間で2人きりになるのはお互いにとって好ましくないだろう。
扉が閉じられふわりとヘリが離陸し海へと進む、みほ達は祈りながら見送るのであった。
ヘリが見えなくなるとまほがこちらの方を向きみほの元へと近く
「…みほ」
「お姉ちゃん…」
「初陣にしてはよく頑張ったな」
「…!」
驚いた、まさかお姉ちゃんが褒めてくれるとは。別に今まで褒められなかったと言う訳じゃないがお姉ちゃんはあの一件で逃げた自分のことを快く思ったいないと思い込んでいたからだ、特車喫茶で会った時に緊張したのもこれが原因だ。今度こそ怒られるそう思った矢先にこれだ、拍子抜けしたが少し安心する
「それじゃ、私はエリカが戻るまでどこかで時間を潰すことにする」
「お姉ちゃんっ!」
まだ少ししか話せてないのに別れるのは悲しい、やっと会話できたんだ、ようやく立ち向かえるチャンスが来たんだ。
____ちょっと待って!
そう言って止めたいのに声が出ない、言いたいのに喉に蓋が出来たようにいきなり喋れなくなる。散々「立ち向かう、逃げない」と言ってこれか、自分自身の不甲斐なさに涙が出そうになる。だがその涙さえ出ない極度の緊張はみほをここまで追い込む、先程の会話で少しだけ安心したとは言え心の奥深くにある恐怖はそれを簡単に消してしまう。理性で恐怖を克服するのは困難なのだ。
別れの挨拶もできない合間にまほは去っていってしまった。思わず膝をつき悔しくて悔しくてみほは自分自身を責める。
自分の覚悟と言うのは生半可なものだったのか…?
そう思わずには居られなかった、その後華達に心配されながらも学園艦へ帰り当初の目的であるパフェを食べたがそのパフェはしょっぱかった
生徒会室
各方面の挨拶、試合後ジャイアントキリングに興味を持った地方紙やケーブルテレビの取材を受けたりギャラについての交渉などをしてたら学園艦に着く頃にはすっかり夕方になってしまった。とは言えこれで終わりと言うわけではなく生徒会としての本来の仕事をこなさなくてはならない、その仕事も先ほど終わり3人はひと段落していた
「しかし会長は凄いな、あんな守銭奴な記者たちからギャラを払うように約束させるなんて…」
「杏昔からそう言う交渉とか得意だったもんね、まぁギャラと言ってもほんの数千円だと思うけど」
「1円を笑うものは1円に泣くって言うよ〜」
そう言いながら杏が3人分のお茶を用意してやって来た
「会長!お茶ぐらい私が!」
「い〜のい〜の、たまには私だってお茶煎れたいんだからさ、それに河嶋に任せるととんでもないことになりそうだし」
そう言うと桃は顔を真っ赤にして反論するが2人はそれを笑いながら見ていた
「しかし勝てちゃいましたね、強豪校に私達みたいな初心者が勝てちゃうなんて」
「勝たなきゃ駄目なんだ、勝たなきゃ我が校は…!」
「かーしま勝ったんだからそんな暗い話しないの、これも西住ちゃんの賜物だねぇ。西住ちゃんがいなけりゃここまで団結することはなかっただろうし、レイバーの操縦も上手くはならなかったしね。やっぱ西住ちゃんには私にはないカリスマがあるわ」
「そんな、会長にも余りあるほどのカリスマがあります!」
「んにゃ、私が持ってるのはあくまで『生徒会長』としてのカリスマであって『特車道隊長』としてのカリスマは0に等しいんだよ。西住ちゃんとじゃキャリアが全然違う…あぁ変な空気になっちゃったね、ゴメンゴメン。小山、テレビでもつけて〜」
テレビがつけられ画面にニュース映像が流れる、どうやら今日の全国大会についての特集をしてるようだ。
画面にトーナメント表が映され明後日の試合についての説明をしている
「明後日は黒森峰とプラウダが試合ですね、どうなることやら」
「そりゃかーしま、両方とも勝つに決まってんじゃん。黒森峰が戦う知波単学園はうちらよりも古いレイバー使ってるから勝てるわけないし、プラウダの相手、ボンプル学園は練度が低いからなぁ。ウチらいずれこの両方と手合わせすることになるんだよ、いやそうならなきゃいけないんだ」
「…会長、私達は本当に勝てるのでしょうか?」
「弱気になってどうすんの、1歩だけど前に進めたんだ。ここまで来たらもう後戻りは出来ないんだよ」
その時、卓上にある電話が鳴った。柚子が出て一言言ったあと受話器を杏の方に渡した
「誰からかな…?はいお電話変わりました」
『ヤッホー!アンジー!』
『ケイか!今日はどうもね』
『こっちこそ今日の試合はありがとう!高校最後のいい思い出になったわ!』
『それはそれは、うちの西住ちゃんがだいぶ楽しませてくれたみたいだねぇ
…さて電話したのはそういう要件じゃあないだろ?』
『えぇ、そうね』
『んじゃちょっと待ってくれ』
そう言い杏は保留ボタンを押す
「かーしま、小山、悪いんだけどいつも言ってる店でカツカレーテイクアウトしてくんないかな?お金は後で払うからさ」
「会長、今ですか!?」
「うん、唐突に食べたくなったの」
突然の提案に不審がり食い下がる桃だったが察した柚子が無理矢理桃を引っ張っていった。
「それじゃあ、会長行ってきますね」
「うん、なるべくゆっくりでいいよ〜」
2人が出ていき扉が閉まるのを確認した後保留ボタンを押した
『お待たせ、これで私達2人きりだ』
『ん、そうねぇ…色々言いたいことはあるんだけど取り敢えず「お帰り」と言っておこうかな。』
『_______元特車道中学生選抜チームメンバー角谷杏』
『ハハァ、「ただいま」ケイ』
『貴方が私と同じ選抜メンバーになって中学生1年生の全国大会の後いきなりやめちゃってもう5年が経つのね、もう二度と会えないと思ってた…!ねぇあの時何があったのよ』
『汚れたものを見ちゃったんだよ…中学生の頃の純粋な私にはそれが耐えられなかった』
『汚れたもの…?それは何?』
『ケイは知らない方がいいさ、特車道が好きでいたいなら尚更聞かない方がいい』
『何よそれ、私はもうちょっとやそっとのことで落ち込むそんな子供じゃないのよ!』
『いや、ケイのことを子供だと言うつもりはないさ。ただお前さんは特車道に対しての感情が強すぎるんだ、言うならば特車道に恋をしてる…って感じかな?』
『だからその話を聞くのは私の精神状態を悪くすると?』
『そうだ、ケイはケイのままでいて欲しいんだ。世の中には知らない方が幸せなことだってあるんだよ。
…しかるべき時が来たら話すさ』
『そんな理論は大嫌いよ!そんなの死んでるようなものじゃない!今話して、話してよ!』
激しい剣幕に杏は押され覚悟を決める
『……そんなに聞きたいか、どうなっても知らないぞ』
杏は深呼吸しゆっくりと話した、話終えた後受話器からすすり泣く声が聞こえる
『だから言ったんだ、ケイ大丈夫か?』
しかしケイは答えることはなかった、すすり泣く声が止むまで杏はじっと待つ。10分後ようやく落ち着いたのかケイがしゃっくりを混じらせながら話す
『杏…そんなのってあんまりじゃないのよ』
『あぁ、私が辞めたのも納得がいくだろ?それでケイ、明後日休日だから会えないかな?サンダースの学園艦は今千葉県の銚子港にいるんだろ?私がそこに出向くからちょっとお茶でも飲みながらゆっくり話そうや、そこでどうして私がそんな特車道に復帰したか話したいと思うんだ』
『うん…分かった…』
『それじゃ』
受話器を元に戻し、杏はゆっくり椅子に座り深くため息をつく。ため息の後深い後悔の念が浮かぶ。自分のした事は正しかったのだろうか、悲しませてまで真実を喋ららなくてはいけなかったのだろうか。だがそれは本当に彼女のためになったのだろうか。杏は自問自答するが答えは見つからない
ふと外を見ると雨が降っていた、まるで杏とケイの心を表してるかのようだった。梅雨明けしたばかりなのに降った雨は日が昇るまで続いたと言う。
一回戦を制し次の試合まで少し余裕がある大洗、みほ達はおばぁのお見舞いに行くことした。帰ってきてそうそう「次のアンツィオ戦に備えて宝探ししましょ」と言う杏の一声で再びレイバー捜索が始まる。こうして迷宮とも呼ばれる学園艦内部を捜索することになったのだが通信が途絶え一人、また一人と通信が途絶える。「サメ」と言うワードを残して…
次回
「次はアンツィオ戦と迷宮船内です!」ターゲットロック、オン!