私は景気付けとして寝そべりみほを買う事にしました。
それでは本編どうぞ!
パフェを食べ終わって皆と別れ家に帰るとみほは流れるようにベッドに倒れ込む、肉体的、心理的疲労が限界に来たのだ。お姉ちゃんに言おうと思っても言えなかった、自分の覚悟が半端なものでは無いかと思ってしまった。何故あの時「待ってくれ」と言う単純なワードが出てこない、何故あの時1歩も動けなかった追いかけようとしなかったのか。その事がとても悔しく涙が出てくる。その場で泣けなかった分の涙と一緒に大量に出る、シーツが濡れようがお構いなしだ。今はとにかく自分の中にある感情を表に出したい、何も考えるこが出来ない。考える事が嫌だ、その内泣き疲れてそのまま寝てしまった。
寝落ちする瞬間みほは「明日の8時に病院で集合」と言うのを思い出し目覚し時計に手を伸ばす。こんな状況でも約束は忘れないのが西住みほと言う人間なのだ。
…その日彼女は夢を見た。いつもの悪夢のように川に飛び込む夢なのだが今日は違う、いざ飛び込もうとすると飛べないのだ。自分の足を見ると鍵付きの鉄の鎖で縛られているのが見える、頭上を見るとお姉ちゃんが鍵を持っていた、彼女は「それを渡してくれ」と頼もうとするが喉にも鎖が絡まってて声が出せない、その内手にも鎖が縛られる。何も出来ず川の流れを見るしか出来なかった。そこで彼女の意識は覚醒する。
起きたのは午前5時、ガバッと起き浅い呼吸を繰り返す。額だけじゃない背中にも汗がびっしょり付いてるのを感じる、今日の悪夢はいつもの悪夢とは違う。怖さの度合いが段違いだ、体が恐怖で震える。
“あれは夢だ、現実じゃない”そう心に言い聞かす。そう思うとだいぶ落ち着いてきた、汗をタオルで拭い今度は喉が乾いてるのを覚えた。水を飲もうとベッドから起き上がる、台所に行き水を飲むとようやく落ち着いた。
あの夢は何だったんだ…半端な覚悟をした自分への罰だとでも言うのか。考えてもキリがない、再びため息をついたところで自分の格好に気づく。制服のまま寝たせいでシワクチャだ、今日が休日で良かったとホッとする。集合時間までまだ余裕がある。昨日風呂にも入ってないからシャワーでも浴びてそれでゆっくりと朝食でも取るとしよう。
朝食を食べ終えて着替えた頃にはそろそろ家を出る時刻になっていた。財布などを入れたバッグを持ち彼女は家から出る、今日は鍵を閉め忘れなかった。
電車で小一時間揺れると病院へ着いた。大きく綺麗な花束が見える、おそらく華が選んだものだろう。それを目印にして集合した。病院へ入るとツンと消毒液の匂いがする、病室は沙織にメールで教えて貰ったからその通りに向かい5分も掛からずドアの前まで来た。
「ここですね」
「冷静殿のお婆さま元気にしてると良いんですが…」
いざノックして入ろうとすると部屋の中から大声が聞こえた
『いつまでも私の心配してんじゃないよ!いつまでも病人扱いするな!さっさと学校にお行き!遅刻なんかしたら許さないからね!』
『おばぁ大声出すとまた倒れるぞ』
『そんなもんじゃ倒れないよ!』
はて、この中には病人が居るはずなのでは?そう思わざるを得ないほど大きな声だった。
「………お取り込み中みたいなので帰ります」
「いえ、ここまで来たら突撃です!」
「五十鈴殿って前から思ってたんですけど結構肝が座ってますね…」
「カチコミって奴です!」
「任侠映画じゃないんだよ華さん…」
みほのツッコミを無視して華はノックして堂々と入った。病室にはベットに寝ている老婆と麻子と沙織が居た
みほ達に気づいた沙織が軽く手を振る
「お、華たちじゃん。入って入って〜」
華に続いてみほ達が入ると老婆がギロリとこちらを見る
「なんだい、この子達は?」
「特車道一緒にやってる友達」
「友達ぃ?特車道のぉ?あんたいつの間にそんなのをねぇ」
信じがたいことだが先程大声を出した主がこの老婆、つまり「おばぁ」なのである。正体に少し驚くも
「西住みほです」
「五十鈴華です」
「秋山優花里です」
と3人は軽く自己紹介をする。
「私達全国大会で1回戦勝ったんだよ〜」
「1回戦勝ったくらいで威張るんじゃないよ!それで、特車さん達が何の用だい?」
「試合が終わった後病院から連絡が来て…みんなおばぁを心配しに来たんだよ」
「何言ってんだい、あの子らあんたの友達なんだろ?あんたを心配しに来たに決まってるじゃないの!」
「…分かってるよ」
「じゃあちゃんとお礼いいな!」
「っ…わざわざ来てくれてありがとう」と麻子は少し顔を赤らめてボソリと言った。
「もっとハッキリ言いな!」
「…ありがとう」
「さっきと変わらん!」
「だから、それ以上大声出したらまた倒れるぞ」
「そんなやわな体じゃないよ!明日にゃここを出るからね!」
「いや、無理だから」
ギャースカギャースカと麻子が言い争ってる間に華と沙織は花を生ける花瓶を借りにナースセンターへと向かった。
2人が出るとおばぁはみほの方を向いた
「あんた達もこんな所で油売ってないでレイバーに油刺したらどうだい」
…レイバーは電気ですと言おうとみほは思ったがとてもそんなことは言えなかった。
「あんたも帰んな、どーせ皆さんの足を引っ張ってだろうけどさ」
その言い方にほんの少しだけカチンと来た、肉親同士のやり取りとは言え自分の友達が馬鹿にされた様な気がしたからだ。
「そんなことないです!麻子さ…冷泉さんはいつも試合の時冷静で状況判断が素早くて助かってます!」
「そうそう、冷泉殿はレイバーの操縦が得意で拘束技や柔道の技とかも出来るんですよ!」
「ふん、レイバーの操縦ができた所で飯は食えんだろ」
3人は黙りこくってしまった、丁度その時沙織達が帰ってきて花をいけた花瓶を棚の上に置いた。コトンと重い音が部屋に響く
「…じゃあおばぁまた来るから」
そう言うと麻子はトボトボと歩いて出ていく、慌てて華達が追いかけてみほもそれに続こうとする。だがそれはおばぁの声によって止められる
「みほ…とか言ったね」
「はい」
「あんな愛想のない憎たらしい子でも私の大切な孫なんだ。これからもこんな孫ですがどうか宜しくお願いします」
突然の丁寧語にみほは驚いた、だがみほは静かに頷く。
病室から出る時見えたのは暴君みたいな老婆ではなく一人の優しいおばあちゃんだった。
電車を乗り継ぎ学園艦への連絡船に乗れたのはもう夜だった。船内で麻子は沙織に膝枕してもらいすやすや寝ている
「麻子さんのおばあちゃん元気そうで良かったね」
「元気ありまくりって感じだったですけどね…でもこれで冷泉殿が単位というワードで青ざめるか分かった気がします」
「麻子ね、早く卒業しておばぁの隣に居たあげたいんだ。勉強を頑張ってるのもそのためなの」
「麻子さんはとてもお婆様思いなんですね」
「うん、だってたった一人の肉親だもん」
「…え?ご両親は?」
「麻子が小さい時事故でね…」
辛気臭い空気になってしまい慌てた沙織が別の話をした。30分くらい話をしてたが一人、また一人と寝てしまう。みほは外の空気が吸いたくなりそっと甲板へと出る。
…知らなかった、麻子さんにあんな過去があるだなんて。思えば皆んな苦労してるんだ、麻子さんは両親を失い華さんは自分の道を探す為勘当を、優花里さんはずっと友達が居なかった、沙織さんは…あんな明るいんだけどきっと両親を失った麻子さんを励ますのに苦労したんだと思う。恥ずかしいことに私は自分が一番苦労しているんだと思い込んでる所があった、でも現実は違う。皆んなが皆んな何かしらの苦労を抱えてるんだ、苦労しない人間なんて居ないんだ。皆んなはそれに立ち向かい乗り越えた乗り越えた人も居る、私は…私は立ち向かおうとしていた。でもあの時私は逃げてしまった、私はやっぱり逃げることしか出来ないのだろうか。逃げないとそう自分自身と約束したのに。
ふともたれかかった手すりから顔を上げる、夜の海は暗い。何も見えない正に「一寸先は闇」だ、みほにはこれが自分自身の過去、未来を暗喩してるように感じられた。思考の堂々巡りに思わずため息をつく
「み〜ぽりん」
声をかけられハッとして後ろを振り向く。目の前には飲み物を買った沙織が居た。
「沙織さん」
「喉渇いたでしょ?はいこれ」
沙織は缶ジュースをみほに渡した。
「黄昏てたけど何か考えごとしてたの?」
「うん、ちょっとね…」
「麻子のこと?」
「そうだね、私麻子さんの過去について何も知らなかったから…」
「麻子のお母さんさおばぁちゃんに似ててさしょっちゅう病院みたいに喧嘩してたんだ。それで事故が起きた朝もいつも通り喧嘩して麻子が謝らないでそのまま学校に行って帰ってたら…」
「…」
「麻子はね、謝れなかったのを凄く後悔してるんだ。親子との最後の会話が喧嘩だなんてそんなバカらしい事はないだろって。どうして自分は『ごめんなさい』とたった6文字が言えなかったんだってずっと呟いてた」
みほは沙織の言葉にギョッとした、まるで今の自分自身を見てるように思えたからだ。連絡船はもう学園艦へと着こうとしていた。
家に帰ったみほは風呂に入った後すぐ寝ることにした。ベットの上で蹲り彼女は1年前の事を思い出す
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一年前、決勝戦で敗れた後彼女は自身の母親に呼び出された。だだっ広い和室にはみほとまほと母親しかいない、厳かな雰囲気の中みほは何が起こるのか気が気でなかった。心臓の鼓動が耳に聞こえて来る、スッと母親が息を吸う音がした。いよいよ始まるのだ
「貴方も西住流の名を継ぐ者なのよ、西住流はどんなことがあっても前へ進む流派、強きこと勝つことを尊ぶのが伝統」
「でも…あの時はそんな状況じゃ…」
その時ドンと机が叩く音がしてビクッと震える
「……犠牲なくして勝利など有り得ません、あの時飛び込んだのは西住流の流派に反することなのです」
それは違う、そんなの絶対におかしい。あの濁流の中飛び込まなきゃ今頃大惨事になってた筈なんだ。なのにそれを「流派に反する」だなんて…そう言おうと思ったが彼女は言えなかった。母親に逆らうと言う恐怖心もあったがなによりも命よりも流派と言うちっぽけなプライドに固執する母親に、特車道が信じられなくなったのだ。この時心の中の何かが崩れる音がしたのをみほはハッキリと覚えてる
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改めて思い出すと嫌な思い出だ、だけど今日の出来事と照らし合わせると思う所がある。麻子さんは言わなかった結果後悔する事になった、私はあの時「それは違う」と言ってれば何かが変わったんだろうか。また「待ってくれ」と昨日言えたら何が起こったのだろうか、このまま言わないと麻子さんみたいに“後悔”する事になるのだろうか。私にはその後悔が想像出来ない、だけど分からなくてもそんな事は避けたい。ならばやはり立ち向かうしかない。しかし私にはそんな覚悟はない…
仮に今ここで再び覚悟を決めたとしてもし昨日のようになった場合また同じ事になるのではないか、私はそれが怖い。
結論など出るはずがなくみほは考えることをやめて眠りにつく、その日は夢を見る事は無かった。
さて、今回はここで終わり!次回からレイバー捜索をしようと思います!ん?展開が遅い?だ〜いじょうぶ次回はサクサク展開するから!
それじゃありがとうございました!